第四部 エピローグ
エピローグ①
ハロウィンパーティーの余韻も落ち着き、諸々の処理が終わった頃の放課後。
私は生徒会室で稲垣さんがどうなったのか話を聞いていた。
「孝紀は自主的に退学届けを出しに来たよ」
稲垣さんの家が所有している企業は最終的に八神家の企業の傘下に入ることで話がまとまったんだそうだ。
八神家と如月家の所有する企業の業務提携は、稲垣さんの兄の邪魔も手伝って中々進まなかったらしい。
元々乗り気だったのは提案してきた八神家側の方ばかりで、如月家側は少し渋ってたというのもあるとか。
だから二年以上経っても成立していなかったらしい。
そんなわけで、業務提携自体を取りやめて同系統の研究を進めていた稲垣家の企業を傘下に入れることになったとか。
稲垣さんとその兄のしでかしたことを内密にする代わりに、というのもあったみたい。
「あと、君を敵視していた鈴木香梨奈という女子生徒も自主退学したね」
「そう、なんですか?」
「ああ。先生の話では気落ちしつつもどこかスッキリしたように見えたらしいけれど」
ハロウィンパーティーの日から全く見ないなと思っていたら退学していたなんて……。
会いたいわけじゃないけれど、最後に見た彼女の様子を思い出すと少しだけ心配になる。
でも先生の話を信じるなら、彼女は彼女なりに自分で折り合いをつけたのかもしれないって思った。
「ハロウィンパーティーの方も何とか無事に終わって良かったよ。周辺からは騒がしいとクレームが来てしまったけれどね」
困り笑顔で言う坂本先輩に、私は苦笑いするしかない。
その騒がしさは主に私と奏のコンサート状態になった体育館での出来事が原因だから。
文化祭でもないのに騒がしすぎる。何かあったんじゃないかという周辺住民の通報により、警察が来てしまうくらいに。
稲垣さんの思惑とは違うけれど、ある意味警察沙汰になってしまった。
でもまあ、大事にはならなかったし、これなら大団円ってところかな?
そんな風に納得していると、今まで普通に話していた坂本先輩が黒い笑みを浮かべて「それよりも」と話題を変えた。
「今校内はハロウィンパーティーのときの話で持ち切りだよね? 何だっけ? まるで結婚式の様だったとか?」
「ふぇ⁉」
突然あのときのことを持ち出され、一気に顔が赤くなる。
あのときは気分が高揚していたから平気だったけれど、後になって指摘されるとやっぱり恥ずかしかった。
友人三人には、そんなキスシーンあったなら見たかったのに! と文句を言われてしまったっけ。
祝いたいからって理由だったけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
『本番の結婚式には絶対呼んでね!』
なんて言われてフリーズしてしまうくらい。
本番って、するかどうか分からないよね⁉
いや、プロポーズみたいなことは言われたけれど……。
「俺たちが色々後始末をしている間に、君は彼氏といちゃついてたんだ……?」
「いちゃ⁉ いや、そんなつもりは……」
坂本先輩は追い詰めるようにゆっくり私に近づいて来る。
……あれ? これってマズイ?
今は私と坂本先輩しかここにはいない。
いくら何でも私が嫌がることはしないだろうけれど、際どいことはしそうだ。
「うらやましいな……俺も君とキス出来るような関係になりたいよ」
「え? いや、それは流石に……」
私には幹人くんがいるんだから無理だって分かってるよね⁉
じりじりと距離を詰めてくる坂本先輩に、私は座ったままだけれど思わず身を引いた。
そんな私を見て、彼はフッと笑う。
「ごめん、ちょっと意地悪だったかな? まあでも、そうなりたいっていうのは本音だよ」
「……」
どう答えるべきか分からなくて微妙な顔で黙った。
応えられないとハッキリと告げた方がいいのかとも思うけれど、諦めないってもう言われてるしなぁ……。
「悔しいけれど、今はラブラブな時期だろうから邪魔はしないよ。倦怠期に入ったら狙い撃ちするから覚悟しといてね?」
「はい⁉」
別れるようなことがあったらまたアプローチしてくるのかと思っていたら、まさかの付き合っているときでもアプローチする宣言をされる。
いくら倦怠期が来たとしても、それはどうなの⁉
「あのですね、坂本先輩。流石にそれは――」
コンコン
いくらなんでも彼氏がいるうちからアプローチはやめて欲しいと、そこはハッキリ断ろうとしたときだった。
ノックの音の後に「失礼します」と高志くんが入ってくる。
「千隼様、先生から差し入れを頂きまして――ああ、星宮さんもいたのか。君も食べていくか?」
なにやらお菓子が入っているらしい紙袋を持ち上げて聞かれる。
私は仕方ない、と軽く息を吐いて「ううん、遠慮しとく」と断った。
坂本先輩には後でちゃんと言っておこう。
……聞いてくれるかは分からないけれど。
「話が終わったら一緒に帰ろうって幹人くんと約束してるの」
待ってるかもしれないからもう行くね、と椅子から立ち上がった。
「……いや、まだ大丈夫じゃないか? 久保のことは放っておいて食べていくと良い」
「え? いや、待たせちゃうし」
「いいから。……良く分からないが、美来さんが久保と仲良くしているのを見ると物凄く気分が悪いんだ」
「……何で?」
私たちが付き合っていることは高志くんだって分かっているはずだ。
なのに気分が悪いって……そんなに幹人くんのことが嫌いなのかな?
そこまでとは思ってなかったんだけど……。
うーんと唸って困っていると、坂本先輩は何とも言えない眼差しを高志くんに向けて笑う。
「本当、高志はいつ自分の気持ちに気づくのかな?」
呆れたようなため息と共に言われて、高志くんは「は?」と首を傾げていた。
なんか良く分からないけれど、もう行っていいかな?
「とにかく私はもう帰りますね」
また引き止められないうちにと、断りを入れて早々と生徒会室から出た。
「は? 待つんだ!」
なのに高志くんは諦めてなかったのか追いかけてくる。
「そうだね、僕ももう少し美来さんと話したいな」
しかも何故か坂本先輩まで追いかけて来た。
「は? ちょっ、なんで追いかけてくるんですか⁉」
「星宮さんが逃げるからだ!」
「ま、そういうことだね」
「ええー……?」
困り果てたけれど、二人につき合っていたら本当に幹人くんを待たせてしまう。
ここは本気で撒かせてもらおう。
「私は幹人くんの所に行くんです!」
ハッキリそう宣言すると、私は全速力で走り出した。
「なっ⁉ 待つんだ!」
高志くんの言葉も無視して、角を曲がり階段を下りる。
姿が見えなくなったところで隠れてやり過ごそうと思っていたら、階段下の所で丁度幹人くんと会った。
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