佳桜高校のかぐや姫⑦
「な、何?」
「ん? いや、可愛いなって思って」
「っ⁉」
「可愛くて、綺麗だ。……美来、そのドレスすげぇ似合ってる」
「あ、その……幹人くんも、そのタキシード似合ってるよ? これって仮装の衣装?」
あまりの甘さに逃げ出したい気分になって、でも出来ないから話を逸らすように聞いてみる。
「ああ、吸血鬼の衣装。八神さん、なんの用で呼び出したのかと思ったらこれ着ろっつーんだよ。せっかく用意したのにもったいねぇからって」
マントやキバも用意してあったけれど、流石にいらないだろうとそれはつけてこなかったんだそうだ。
「フル装備の幹人くんも見てみたかったけれど……タキシード姿だけでもカッコイイから見られて良かった」
「そうか? まあ、俺も美来の姿見たら着て良かったって思ったけどな」
「私の?」
キョトンとして聞き返すと、また甘い笑みが向けられた。
横抱きにされた状態でステージの上に上がると、丁度ライトが当たって幹人くんの顔が逆光になる。
幹人くんのふわふわの猫っ毛が光を透かして優しく甘い笑顔を縁取った。
「……美来の衣装、ウェディングドレスみてぇだからさ。……タキシード着てれば、隣に立つのにふさわしいだろ?」
「それって……」
つまり、新郎と新婦みたいだってこと?
幹人くんの言葉に自分でも考えてみて、確かにそう見えるかもと思った。
思ったと同時に、カァッと顔に熱が集中する。
赤くなった顔を見られたくなくて、私は幹人くんの首にまわしている腕に力を込めて顔を隠すようにギュッとした。
今の私たち、それこそ本当に結婚式の衣装を着ているみたいじゃない!
幹人くんはマントとキバをしてなくて、私も天使の羽はつけていない。
元が何の仮装なのか分からない状態だから、本当に新郎新婦にしか見えないかもしれない。
それを思うと、心臓がうるさいくらい鳴り響いた。
「美来?」
当然、どうしたのかというように声を掛けられる。
でも照れてるから見ないで、なんて言うことも出来なくて……。
「美来……耳、真っ赤なんだけど?」
「っ! 指摘しないでよぉ……」
言わなくてもバレていたことにまた恥ずかしくなる。
潤んだ目で見上げると、変わらないと思っていた幹人くんの頬が赤く染まった。
そして、切なそうに目を細められる。
「美来……」
奏が歌う曲がBGMのように流れていて、丁度今は少し落ち着いた雰囲気のラブソング。
図らずとも甘い雰囲気が流れた。
「悪ぃ……今、メチャクチャお前にキスしてぇ」
「っ……それって……」
口に? なんて、聞かなくても分かる。
前は、色々とヤバくなりそうだから出来ないと言われた唇へのキス。
それを今はむしろしたいと言ってくれる。
「や、でも人前は嫌だよな? 大丈夫、我慢すっから」
でも、私を思って我慢するという幹人くん。
そんな彼に、私は大胆にも「……いいよ?」と口にした。
「美来?」
人前は流石に恥ずかしすぎる。……って、いつもなら言っていたと思う。
でも、今は色んなことがあって気分が高揚していて……。
それに今を逃したら、また照れて出来なくなっちゃうんじゃないかっていう不安もあって……。
何より、何度も望まない形で奪われた唇を……大好きな人に貰って欲しかった。
本当のファーストキスを……幹人くんに貰って欲しかった。
だから……。
「キス、してもいいよ?」
「っ、美来……?」
自分から言うのは恥ずかしかったけれど、でも我慢なんてして欲しくなかったから……。
「その……私も幹人くんと、キスしたいから……」
だから、私の望みも口にした。
「美来……」
甘い吐息と共に名前を呼ばれて……。
熱っぽい眼差しが私を見下ろして……。
甘い旋律を奏でるBGMが、後押しをしているようで……。
幹人くんの顔が近づいて来るのと比例して瞼を閉じる。
見えなくても彼の吐息を感じてまた鼓動が早まった。
触れ合う寸前、幹人くんの唇が動く。
「一生、大事にする……」
私にだけ聞こえる囁き。
次いで触れた唇は柔らかくて……。
寸前の囁きの言葉に胸がいっぱいになって……。
心の奥底から、幸せがあふれ出した。
一生大事にするなんて……それこそ結婚式の誓いみたい。
でも、そう言ってくれる幹人くんを私も大事にしたいって思う。
初めてのキスをした私たちは、ゆっくり離れるとはにかみ合う。
するとどこからか「結婚式みたい……」なんて呟きが聞こえてきて、体育館中が湧いた。
ビックリしたけれど、「おめでとう!」なんて祝いの言葉まで聞こえてきて、その後の体育館はまるで披露宴会場の雰囲気になる。
奏の視線が何とも言えないものになっていたけれど……。
どうなることかと思っていたハロウィンパーティーは、そんな一風変わった盛り上がりを見せて終わりを告げた。
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