猫と夕日

羽弦トリス

第1話新しい家族

僕の実家は、九州のど田舎。

周囲は山と田んぼしかない。近所のコンビニまで、車で15分も掛かってしまう。

両親は動物を飼うことがとても好きで、チワワとパピヨンのミックス犬のオスを自宅で飼っていた。

その犬の名前は、マシュ。

マシュは父が農作業に出かける際にはいつも、スズキの軽トラに乗り連れて行くととても喜び、軽トラを運転する父親の腕に頭を乗せて、開いた窓からの風を楽しんでいた。

リードを付けて、田んぼの日陰で父の作業風景を見て、10時、12時、3時の休憩は父から犬用のおやつタイムを喜んだ。

9歳を過ぎた辺りからマシュの体調が悪くなる。

呼吸が荒くなったのだ。

母が動物病院に連れて行くと、獣医師から心臓が悪いと伝えられた。

そして、もう、長くは無いだろうから運動はさせてはいけません。とも、言われた。

母は父にその言われた話しをすると、日中はゲージの中で過ごすようにした。

父が農作業服に着替えると、ワンワン吠えてまるで、僕も連れて行ってくれ!と叫んでいるようだったと、後日父が話していた。

そして、マシュとのお別れの日が来た。

朝、両親が起床すると、眠るようにマシュは冷たくなっていた。


両親は悲しみ、ペット専用の火葬場にマシュを運び、荼毘に付した。

仏壇に、マシュの写真と遺骨が置かれた。

しばらく、実家は暗かった。

僕が電話したら、もう動物は飼わない!と父は言っていた。

もう、これで病死した犬は知っているだけで、四匹目だ。


ある日、新聞を読んでいた父が「保護猫」と言う言葉を初めて知った。

実家は農家だ。

猫の気配がするだけで、ネズミはいなくなる。猫がいない時代は、屋根裏をネズミが走り回り、マシュが吠えて帰郷した際、うるさくて眠れない夜もあった。

両親は、今度は健康面に気を遣うと覚悟して、保護猫とやらを考え直し、最近よく見かける野良猫が数匹いたが、一匹の猫に目を付けた。

雑種で、いわゆるキジトラ模様のメス猫が一番懐いたらしく、その猫を飼うことにした。

人懐っこい猫であった。

それから、この猫の名前を考えた。悩みに悩んだ両親は、父が相撲好きだったので、モンゴル語で「猫」と言う意味の「モル」という名前をつけた。

猫に、「猫」と、言っているようなものだが父は満足気であった。

その晩は、エサは何を食べるか分からなかったので、市販の猫のガリガリとマグロの刺し身を与えると、真っ先に刺し身を食べた。

この日の晩はゲージの中に入れてモルを寝かせた。

これが、モルとの出会いであり、新しい家族の登場だ。

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