第2話モルとの生活

モルは、実家が飼い始めて直ぐに首輪を付けた。

田舎は、いりネコと言って知らない野良猫が人家に住み着くと縁起が良いとされてきた。

一匹、二匹ではない。数匹のネコが人家を渡り歩くのである。

エサがないと判断した野良猫達は放浪する。そして、人懐っこい猫は保護猫として育てる。だから、首輪が無いと他人に保護されてしまう。

首輪をした猫はエサはもらえるが、外に出される。

他人が飼っている猫なのだから。


モルはメスだったので、避妊手術をした。混合ワクチンも打ち、夜は晩酌をする父のそばに来てはちょこんと座り、ツマミのマグロの刺し身を待っていた。

そして、夜はゲージに入れて、電気カーペットを敷き寝ていた。

冬のある晩、寒いので父はモルを自分の布団の中に誘い寝た。

寝室のドアを少し開いて。

猫は夜行性なので、外に出る事ができるようにだ。

モルは夜中、トイレに行くと外には出ず、また、父の枕元に近付き気付いた父は布団の中にモルを入れた。

猫の鳴き声、匂いでわかるのだろうか?ネズミの運動会がピタリと止んだ。

ある晩、モルは夜、父の元を離れた。


翌朝、父が起床するとベッドの真下に、ネズミの大腿部が落ちていた。

動物の大腿部は1番美味しい部位。

モルは父にお礼のつもりだろう。一番美味しい大腿部を置いていたのだ。

それは、母がティッシュペーパーで包み捨てた。

朝、ふらりと現れたモル頭を父は撫でて、

「モル、ありがとう。父ちゃんがもらったからね」

と、言った。その辺りから、父は毎晩モルをベッドに連れて行き、一緒に朝まで寝た。

モルは、農家の敵であるネズミをしょっちゅう獲らえていた。

そして、モルは新しい習慣を始めたのである。

父が農作業から帰ってくる時は、玄関先でお出迎えするためにジッと座って待っている。

どこに居ようが、軽トラの音がすると玄関先に現れるのだ。

父が、モルの頭を撫でながら、ただいまモルと言うと無言で上がりかまちに座る父の膝の上に乗る。

それは、父が農作業や外出する時は必ず行われる習慣となった。

母も可愛がっていたが、どうやらモルは父の方が好きなようだった。

何故かは分からない。

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