未来の選択肢
結紀
未来の選択肢
今日は何もかも上手く行かない月曜日だった。
自分の運の悪さを呪いながら、夜の街を酒に酔いながらふらふらと一人歩く。
道の真ん中に落ちていた缶をコツンと蹴飛ばす。
カラカラと勢い良く転がっていった先にある看板がふと目についた。
看板には「あなたの未来占います」「タロットカード」と書かれていた。
何が占いだ馬鹿馬鹿しい。と悪態をつきながらその場を通り過ぎようとした時。
一匹の黒猫が看板の先へ続く階段をトットット、と降りていった。
黒猫が降りていった階段の先が、何故か妙に気になった。
手に持っていたビール缶をぐい、と飲み干し、よたよたと黒猫を追いかける事にした。
「あら、いらっしゃい」
そう言ったのは、如何にも占い師というようなフードを被った姿の女だった。年齢は30そこそこだろうか?
にゃあん、と先程の黒猫が女の元へすりすりと擦り寄っていく。
「この子が、あなたを連れて来たようですね」
はぁ……。怪しげな雰囲気にやはり帰ろうかと悩んだその時――。
「今日は、何か上手く行かない事でもありましたか?」
と、女はいつの間にかテーブルに広げていたタロットカードの並びを見て言った。
うっ……。と一瞬息が詰まった。そんな……でもそんなのは、当てずっぽうで幾らでも言える。
そのまま女は、カードを見て言葉を続ける。
「仕事ですか?」
「あなたがミスをした事で、取引先に謝りに行く事になった……」
なっ……。
「私は、カードを読んだだけです」
そう言って女は、口元に微笑を浮かべた。
次の日――。
俺は再び占い師の元へと来ていた。
「未来を見る事は出来るか?」
「あくまで、幾つかある可能性の内の一つとしての未来なら……」
それから俺は、毎日の様に占い師の元へと通いつめた。
未来をカードで見てもらい、その通りに行動する事で成功を手にし、或いは危機的状況を回避していった。
そうして、仕事でも昇進し、役員の立場まで上り詰めた頃。
いつものようにカードを引いてもらう。
占い師はこう言った。
「全てを失う時が来るでしょう。それはもう、間もなく……」
そんな……!それを回避するにはどうしたらいい!?
占い師はスッと俺を指差し、こう言った。
「あなた自身で決める事も必要なのです」
「カードが見せるのは、あくまで幾つもある内の可能性の一つ。それらに振り回されては、なりません……」
ふざけるな!もういい!と椅子を蹴飛ばし、俺は外へと飛び出した。
それからというもの――。
また、以前の様なミスが増えた。そして、ある日重大なミスを犯した俺は、役員としての立場も危うくなった。
なんで……なんで、こんな事にっ……!
そうだ……あいつのせいだ。
あいつが、未来の危機を回避する方法を教えないから……!
そう思い立った俺は、占い師の元へと駆け出し、その建物へ火をつけた。
ははは!ざまあみろ!こうなったのは、お前のせいだ!
狂ったように叫ぶ俺を、警官が取り押さえる。
宵闇に煌々と火の柱が立ち上っていた。
「言ったはずです。カードが示すのは、あくまで可能性の一つ。決めるのはあなただと」
女の腕に抱かれた黒猫がにゃあん、と一つ鳴いた。
未来の選択肢 結紀 @on_yuuki00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます