幽闇を灯す春を待つ

花野井あす

幽闇を灯す春を待つ

ここは何処いずこであろうか

わたし何処いずこ歩行あるいてあるのだろうか


周囲は薄めた墨で塗籠られてある


わたしの足許も手の伸ばした先も

何ひとつ映されない


わたし輪郭かたちは定まらず

もやと混ざり合う

 

時おり彼方かなたより伸ばされる不明瞭ぼんやりとした燈火がわたしを呼ぶ

 

だが届かれることはない

 

その霊光れいこう余映よえいすら遺さず

だいだいほむらえんと化し失せている



何時とは無しにわたしも溶けて消えて

何者にもなれぬやもしれぬ


元来もとよりわたしなど無いのやもしれぬ


わたしは何者も惑わさぬ些事さじですらなく


この薄墨と連なる無なのやもしれぬ

まっさらな虚ろなのやもしれぬ


けれど


何時しかあけぼの寂光じゃっこうが差し

墨染のくうをなぞりかたどることもあるやもしれぬ


その時、わたしはどのような輪郭かたちを有してあるだろうか


それだけがわたしの一縷の望み


故にわたしは細路を手繰り歩行あるくのだ


わたしという様相かたちを知るその日まで

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幽闇を灯す春を待つ 花野井あす @asu_hana

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