17.最後の戦い。仲間と共に。

『さあ、これで全てが終わるの。幸福か、それとも絶望か。未来は神のみぞ知るのよ』



「そういうことだ。精々生き残れるように逃げ回るんだな」


相手が挑発してくる。が効かない。


「その程度で俺らが引っかかると思ったか?」


膠着が続くが、少女の一声で状況は変わった。


「むむぅ〜ただ膠着してるのを見るだけって退屈……そうだ!今から1分だけ時間をあげる。それまでに戦いが始まらなかったら両方殺すよ」


(さらっとえげつないことを言うな、あの子)


只者ではないことくらい最初に会ったときから感じ取っていたが、今回の声で確定した。


(かなりサイコパスだな。見た目と精神年齢が合っていないから、体が小さいだけの大人?)


「あの奥の女の子、人間じゃない気がするんだよな」


「どういうこと?」


「うまく言えねぇけど人間の気配じゃねえんだよもっとこう、神々しい存在」


その緋夏汰ひなたの勘が当たっていると分かったのに時間はかからなかった。


「んっ!?ぐぅぅ…!」


全身に痛みが走る。どうやら緋夏汰と咲蘭さくらも同じ状況らしい。


以外だったのは、教主も同じように悶えていたことだ。てっきり教主の仕業だと思っていた。


(もしかして、あの女の子のせいか)


少女が右手を振り下ろすと同時にまた痛みが走った。これで確信できた。


(外傷はないから内側からの痛み。緋夏汰の言う通りあの子人間じゃなかった)


「30秒経過〜あと半分だよ?」


呑気な声色だが、していることは傷害である。


「(小声で)ヴィオリエッタ様、もう少しお待ち下さい…あと5秒だけ…」


向こうもこちらも痛みに耐えつつ立ち上がる。


 


 教主が目の前に迫って来ていると気づいたのはその後すぐだった。


「ぐっっ…!」


なんとか受け身をとって耐える。相手が狙っていたのは必死になって立ち上がった後の僅かな隙。


(想定と違う。こいつ、かなりの武術の達人だ……)


私達は写真から教主は武術経験はないと判断した。だがそれは誤りだった。実際、政府軍3人に対して1人で同等の実力である。


「たああ!」


「いけっ!」


緋夏汰と咲蘭が同時に攻撃を仕掛けるが、避けられた。


「ふんっっ!」


攻撃を避けられて体勢を崩した咲蘭を狙って蹴り上げようとしている。


「させるかっ!」


手に持っていた拳銃リボルバーを相手の足に向けて撃つ。本当はライフルのほうが狙いやすく強いが、持っていたライフルは先程の攻撃で弾き飛ばされてしまった。弾も尽きており、あっても使えなかっただろう。


「くっっ、忌々しい小娘が!」


流石に銃弾は回避できていなかった。なんとか咲蘭は体勢を立て直したが次の攻撃を出せるだろうか。


「まずはお前からだ!脱走者め…!」


敵の標的が私になった。こちらに向けてどこに隠してあったのか古そうな機関銃で撃ってくる。


「当たるもんですか…!」


連射されているが台の回転が遅いせいで私のスピードに追いついていない。もう使えないと思ったのか、機関銃の射撃は終わった。


「まだまだだ!"黄金の機界"の底力、見せてくれるわ!」


教主が腕に装備されているパネルを操作する。すると、上の方から機械音がした。


「斉射!」


声と共にパネルが押される。はっと上を見ると、信じられない数の銃口があった。その銃口がこちらを向く。


「……!!」


命の危険を本能的に察知した3人は各々が別の方向へ跳んだ。そして、私達が今までいた場所に銃弾の雨が降り注いだ。


(危ない…!あと0.5秒くらい遅れてたら蜂の巣だった)


銃弾の雨はそれで終わりかと思われた。


「追え」


教主の命令とともに一箇所に集まっていた銃弾が3人それぞれの場所に向かってくる。


「追尾弾かよ!めんどくせえ!」


私たちが逃げ回っている間にも教主は腕のパネルで状況を確認し、1人安全なところで休息をとっている。


「なるほど、私たちを消耗させて自分は回復するって腹積もりね。なら私も休憩させてもらおうかしら」


咲蘭が単身で教主の方へと走る。その姿は不意に消えた。いや、消えたという表現は違う。彼女は上空に舞い上がっていた。


「喰らいなさい!」


その言葉と共に咲蘭が飛び蹴りを教主にお見舞いする。


(ナイス!咲蘭。あとはここに銃弾を撃ち込めば…)


勝てる。そう思っていた。だがすぐに期待は裏切られることになる。


「その程度で私の虚を突けると思ったか?」


教主がそう呟いた。彼女はくるりと身を翻すと、咲蘭の飛び蹴りを華麗に避けた。


「あまり攻撃ばかり考えていると、すぐに隙ができるぞ」


そういって、着地を失敗した咲蘭を蹴り飛ばした。


「けほっ…!」


肺にダメージが入り咳き込む咲蘭に対して、次々と技をかけていく教主。


「准尉もこんなものか。よくこれで私に勝てると思ったな?無能な部下を見て、私を見くびったんだな」


あまりの衝撃にベルトのバックルが壊れている。咲蘭も限界を迎えていた。蹴られるたびに血を吐いている。それでもなんとか相手に攻撃を入れようとして立つ。


「やめて咲蘭っっ!教主!あんたの敵はこっちだよ!お前が言ったんだろ!まず私からだってな!」


教主を挑発するが、こちらを振り向きもしない。そのままつかつかと咲蘭のほうに歩み寄る。その右手には携帯ナイフが握られていた。


「これはお前ら政府軍が無用だと売り払ったナイフだよ。まさか味方の武器が自分を刺し貫くなんて思わなかっただろう?」


倒れ込んで動けない咲蘭の耳元で囁く。まるで悪魔の囁きのようだ。


「さよならだ。大丈夫さ。お仲間もすぐに連れて行ってあげるよ」


「咲蘭ぁぁっっ!」


私の叫びも届かず、振り下ろされたナイフはまっ直ぐに咲蘭に突き立った。


大きなとともに。


「!?」


教主がこちらを振り向く。その視線は私ではなく緋夏汰に注がれていた。また、彼女が手に持っているナイフは咲蘭の胸ではなく、右腕の二の腕あたりに刺さっている。命にかかわる部分ではない。


「貴様か。私の右腕を撃ったのは」


重い殺気を纏った声で緋夏汰を問い質す。


声を張り上げて緋夏汰が答える。



『ああそうだよ!誰も友達が黙って殺られるとこなんて見たくねえだろ!お前なんかに大事な親友を殺されたらたまったもんじゃねえしなあ!』

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廃れた世界のリボルバー 恋若スミレ @sumiresann

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