放課後の落書き

村田天

放課後の落書き



 七月某日。今日は俺が日直の日だ。

 下校前に机を整頓したり、窓の鍵を全て閉める。それから黒板を綺麗にして日付を明日のものに書き換えて、最後に報告に行く。それくらいの簡単な仕事。


 授業終わりに友達とバカ話をして、自分の教室に戻った。もう誰もいなかった。さて日直の仕事をして帰ろう。

 黒板消しを手に取って黒板を見ると、端っこのほうにチョークで小さな文字があるのに気づく。


『好きです』


 そう、書かれていた。


 思わず顔を近づけてまじまじと見たけれど、落書きに深い意味はないだろう。そう思って消した。


 我が校の日直は一日につき担当はひとり。そして生徒会と運動部所属の生徒は免除されている。よって日直はおよそ一ヶ月で一周する。

 九月某日に、また俺の番がやってきた。

 夏休みを挟んでいたのもあり、俺は前回の些末事などすっかり忘れていて、鼻歌混じりに黒板消しを手に取って、黒板を見上げる。


『好きです』


 また、書いてあった。今度は前回より中央に近い場所、字は少し大きくなっていた。

『で』の字の濁点がやたらと離れている書き癖で、前回と同じ人物が書いたものと思われる。


 俺はその落書きの前で腕組みをして数秒考え込んでから、やはり黒板消しで消した。

 もしかしてこれ、毎日書いてる人がいたりするんだろうか。少し気になったけど、すぐ忘れた。


 次の日の放課後、俺はいつもと同じ友人とダラダラしゃべっていた。

 そろそろ帰ろうと、鞄を取りに教室に戻る。

 机はまだ乱れているので日直の作業はまだ行われていない。ふと、例の落書きのことを思い出して黒板に目をやった。今日もアレはあるだろうか。


 もしかして……そう思って見たそこには。


 うんこの絵が描いてあった。


 巻いてある形状の、可愛いキャラクター化されたそれには顔が描かれていた。吹き出しが付いていてそこには「お腹が減ったのです〜!」と文字が書かれている。排泄物が空腹を訴えるだいぶ倒錯した状況設定と言える。この「で」の字は先日の「好きです」さんとは違う。まごうことなき、しょうもない落書きだった。


 脱力してため息を吐いて、教室を出た。

 あの落書きは毎日とか、そんなではなく、たまたまだったのだ。そこに謎も意味もない。


 十月某日。日直。

 放課後、俺は便所に行き、教室に戻ったときに黒板を見た。


 ぎょっとした。


『好きです』


 また、書いてある。

 妙に濁点の離れた書き癖の文字。

 前回より、さらに大きく成長している。


 もしかしてこれは俺に見せるためのメッセージなのでは、という疑いが浮かぶ。遠回しな告白とか……。


 そう思ってじっとそれを見つめた。

 しかし、どんなに見つめてもただの四文字。

 宛名もなければ差出人もないそれを自分宛の何かと見るには情報が少なすぎた。


 黒板消しを持った手を伸ばしてそれを消そうとした時、扉の開く音がした。


「お、秋島あきしままだいたの」


 声のしたほうを見る。扉から顔だけひょっこり覗かせたのは隣の席の春山はるやま水穂みずほだ。春山は一見するとキツめの美人だが、実際は堅さも近寄りがたさもまったくない、気さくなやつだ。まだ残っていたのか。思いがけずにびっくりしてドキッとした。


「あ、秋島、今日、日直?」

「そうだよ。今、謎の落書きを消そうとしてたとこ」

「どうかしたの?」

「これ」


 春山が黒板を見てそこにある「好きです」を読み上げた。恥ずかしげもなく発声されて、なぜだかこちらが恥ずかしくなり、すがめた横目で顔を見た。


「これ、先月俺が日直の時にも書いてあったんだよな」

「おっ、それは告白だね」


 春山が顎に指をつけて言い切った。


「それ、俺もさっきちょっとだけ思ったんだが、差出人も宛名もないのに……やっぱないな。だいたい好きなら口で言えばいいだろ」

「うーん……そうだなぁ。それはほら、きみが恋愛に興味なさそうだから、様子を見てるんだよ」

「……なさそうか?」

「まぁ、私から見ても……なさそうだ。……あるのかね?」

「なくはない……」


 俺がどちらかといえば硬派にみられるように振る舞っているのはムッツリだからだ。モテないからそういうものにことさら張り切ってるように見られたくない。なぜか気恥ずかしい気持ちがあって、そこについて春山にあまり突っ込まれたくなかったので、口ごもって濁した。


「んー、ほら、だいたいさぁ、告白って簡単に、言えばいいってもんじゃないでしょう。たとえばさー……安易に言って関係が壊れたらとか、普通は色々気にするもん」

「春山はそういうの気にするタイプなのか?」

「いや、私じゃなくて、その人が……ていうか一般論」


 やけに心理をわかったように熱弁する春山を見て、ちょっと思う。


 春山だったりして。


 いや……これは俺がそう思いたいだけかもしれない。というか、確実にそうだろう……。

 黙って春山を見上げるが平然とした顔で「ん?」と見返されてしまう。とても犯人の表情には見えず、軽く落胆した。





 授業中、ふと思いついて隣の席の春山の手元のノートを覗き込む。


「な、なにかね」


 小声で怪訝そうに返されるが、気にせずさらに顔をノートに近づける。


「ちょっとノートを見せてくれ」

「えっ、なんでよ」

「頼む」

「え、ちょ、なんだなんだ」

「ちょっと見るだけだから!」


 ノートを奪い取り、書かれた文字に目を滑らす。

 『で』の字はどこだ。急いで『で』の字を探す。


 で、で、で……あった!


 春山の書く『で』は、やや濁点が離れているような気がした。

 けれど、すぐ近くにもうひとつ、そうでもないような『で』を発見してしまう。よくわからない。


 春山にノートを返した。


「も、もういいの?」

「うん。ありがとう」

「ふふ……なにか変わったことあった?」

「特には……ねえな」


 そもそもチョークで黒板に書かれた四文字なんてそこまで鮮明に記憶に残っていない。すごく遠くはない気がするけど、同じものだと断定できるほどではない。壁に書くのと紙に書くのでは体勢から筆跡も少し変わりそうだ。

 似ていてほしいので、似てると思うだけかもしれない。すぐに消さずにスマホで撮っておけばよかった。

 これはもうわからない。そこそこ似ていたという結論にしておこう。


 春山の弁説を思い出す。


「安易に言って関係が壊れたらとか、普通は色々気にするもん」


 これは、告白しようとした相手が顔見知りだという前提に立った物言いだ。もしかしたら一方的に知っていて、話したこともない相手かもしれないのに。


 春山は、なぜ犯人と俺がそんな状態であると知っているのか。


 それは彼女が犯人だからにほかならない。


 そう思ったあとですぐに打ち消した。

 春山はたとえばの話をしていただけだ。本人も告白しない理由の一般論だと言っていた。


 俺はすでに黒板に誰が文字を書いたのだとか、その理由だとかに関心はなくて、ひとつの結論を求めていることに気づいた。それを正解にするための要素だけを探していて、真実だとかは、わりとどうでもよかった。


 これは、考えても意味がないことだ。犯人探しですらない。相手が自分を好きならいいのにという願望を右に左にこねくりまわしているだけだ。無意味。非常に無駄。アホくさい。


 そこに気づいたとき、俺がやるべきはもっと別のことで、黒板の落書きの犯人探しではなかったかもしれない。


 俺がすべきことは───。


 ここに来て俺は自分自身の発言を振り返った。


「だいたい、好きなら口で言えばいいだろ」


 その通りだ。

 しかし……そんなの言えるか! と思う。

 安易に告白して、関係が壊れたらどうするんだ。同じクラスの隣の席。気まずいにもほどがある。


 そうこうしているうちに時が経ち、犯人はわからずじまいだったし、告白だってもちろんしていない。何ひとつ変わらない状態で新しい月が来た。


 十一月中旬の放課後。

 最近はいつも放課後遊んでいた友達に彼女ができて、早々と帰宅する日々を送っていた。今日もそうしようと思ったが、クラスメイトの持っていた漫画を読んでいたらつい夢中になっていて、少しだけ遅くなった。

 読み終わって顔を上げてぼんやりと黒板を見ると、日直のところに『春山』の名前があった。


 黒板の前に行ってチョークを手に取った。


 シュ、シュ、カッ、カッ、カ。


『好きだ』


 大急ぎで三文字書いた。

 そして息を吐いてしみじみその文字を見たら、急にウガーと叫び出したいような気持ちになって、走って教室を出た。


 あれを書いたのが誰なのかはわからないけれど、なんでこんなことするんだろうと思っていたし、なんなら少し不気味でもあった。


 しかし、やってみるとたまらない愉悦があった。

 できもしない告白をスレスレのところで楽しんでいるような気もしたし、告白はできないまま膨れ上がった気持ちのガス抜きみたいな感覚もあって、やる側に回ってみると気持ちがわかってしまった。

 これは背徳だとか、エロスと似た憂さ晴らしだ。

 ぜひまたやりたい。今度はもう少し大きな字で。


 だからそのとき、あれを書いたやつはやっぱり俺のことが好きなのかもしれないと思った。

 

 翌日、春山の様子を窺うが、特に変化はなかった。黒板に落書きがあったくらいでは気にも留めないかもしれない。でも、以前俺の日直の時に話したのだから、似たことがあったよだとか言ってもいいのに。言わなくてもいいけど。


 そんなことを思いながらトロトロとノートをとっていると春山が話しかけてきた。


「ねぇ、秋島」

「うん?」

「ちょっとノート貸して」

「…………あぁ」


 もしかしたら純粋に中に書いてあるものが見たかっただけで、深い意味はないのかもしれない。

 でも、春山が少し前の俺と同じ行動をしたのでソワソワした。

 どことなく後ろめたい気持ちでそちらを見ないようにしていたが、春山が眺めている間中心臓がバコバコうるさかった。


 春山がノートから顔を上げて「……あれ?」と言った。


「そういや秋島、こないだ私のノート見てたけど……何見てたの?」


 ぎくりとした。なんで今そんなことを聞くんだ。なんだっていいじゃないか。


「いや、あー、なんていうか……春山ってどんなふうにノートとってるのかなと思ってな」

「結構綺麗でしょ」

「そ、そうか?」


「で」の字を探していたのでそこらへんはまったく覚えていない。




 それから何日か経って、また俺が日直の日が来た。俺は犯人が書く時間を作るためにわざわざ席を外した。軽く緊張しながら教室に戻る。


『好きです』


 やっぱり書いてあった。今までで最大級にでかい。今日もあったことに謎の安心感を覚えるが、消すのが大変じゃねえか、とも思う。


 今度はスマホでパシャリと記念写真を撮ってから消した。





 年が明けて一月。春山が日直の日。

 俺は放課後に、隠密の動きをして黒板の前にいた。ずっと話しながら残ってた生徒が数人いたので今日は無理かと思ったけれど、なんとか書くことができた。

 今度は少し大きめに。デカデカと主張するように書いた。


 書いたら反応が見たくなるのが人間というもの。


 俺は無駄に階段を上り、図書室に入って本の背表紙を眺めたあとに再び教室に舞い戻った。


 教室には春山がいて、まさに黒板を消そうとしていた。声をあげて侵入する。


「あれ、春山、今日、日直なのか?」

「あ、秋島、これ見てー」


 当然だがそこには俺が書いた『好きだ』の三文字が書いてある。


「あ、今日も誰かが書いたんだな。誰なんだろな」


 自分で書いたのにしらじらしいことこの上ない。


「秋島の時と、字が違くない? これ、男子の字に見える……」

「そうかなぁ」

「そうだよ……」

「じゃあ春山のこと好きなやつが書いたんじゃないか?」

「それなら差出人の名前くらいつけるでしょ」

「そんなの書いたらみんなに見られるだろ」

「それもそうか。じゃあ宛名」

「うーん、そうだな。宛名はあってもいいかもな」


 春山が話しながら日直の作業を終えたので、そのまま一緒に教室を出た。


「そういえば前話した……」

「ん?」

「俺が恋愛に興味なさそうって……なんでそう思ったんだ?」


 春山は一瞬きょとんとした顔で俺を見たが、そのあと目を逸らし前方を見て答える。


「まず、男子数人でしてるような女子に関する話に、まったく乗らないでしょ」

「あぁ……」


 俺はその辺に軽く参加できるキャラじゃない。むっつりスケベだからだ。


「文化祭で鈴木先輩の着てたバニーもジロジロ見たりしてなかったし」

「まぁ、そうだな」


 むっつりスケベだからな。ジロジロは見れなかった。チラチラは見た。気づかれてなくてよかった。


「もっと言うと女子にアピールされてても気づかない」

「は? なんだそれどういうことだいつの話だ誰の話だ。身に覚えがない。詳しく聞かせてくれ」


 びっくりして矢継ぎ早に聞くと目を細めた春山に睨まれる。


「ほー……意外と興味あるんだね」

「いや、なんで俺がそんな目で見られるんだ」

「へぇー」

「春山……さっきの話は?」

「あー……えーとね、たぶん、み……」

「うんうん、み?」


 春山はしばらく口を開けていたが、ぱっとこちらを向く。


「……教えなーい」

「えっ」

「神に誓って教えないことにした」

「間違ってもそこは神に誓うところじゃないだろ」


 その表情はこれ以上いくら聞いても無駄なことを十分すぎるくらいに示唆していた。諦めて脳内を探るが、何も思い当たらなかった。なんだよ「み」





 同一月。俺が日直の日がやってきた。

 俺は授業が終わるとすぐにベランダに出て、しゃがみこんだ。五分ほどしてからカーテンの隙間から中をこっそりと見る。


 中ではまだ残っている女子が四人ほどで何か話して爆笑したりしていたけれど、やがて出ていって静かになった。


 本当に、来るだろうか。

 誰もいなくなった教室の扉が開いた。それから女子生徒がひとり入ってくる。


 心臓がばくんと跳ねた。


 彼女は黒板の前まで行って、チョークを手に取った。周りを見回してキョロキョロしてから文字を書き出したのが見える。


 あ、何か書いてる。間違いない。俺は立ち上がって窓をガラガラと開けた。


「動くな! 犯人はお前だ!」


 中に向かってそう叫ぶ。女子生徒の背中がビクッと揺れた。


 バツの悪そうな顔で振り返ってこちらを見た女子は───同じクラスの三杉みすぎだった。


 頭の中で思い描いていた春山の姿が一瞬で消え去った。俺は急に現実に立たされた感覚になり、呆然とその姿を見つめた。


「……あの、私……前から……」


 そこから先は聞いたけど覚えていない。


 俺は頭が働かないまま、表層では丁寧な断りと謝罪を入れて、気がついた時三杉の姿はそこになかった。





「秋島、なにぼーっとしてんの?」


 翌日の放課後、誰もいなくなった教室の自分の席でうつ伏していると、隣から声をかけられてそちらを向く。春山だった。


「なんというか……長い白昼夢を見ていたみたいな気持ちだ」


 不思議そうに首を傾げる春山の顔をまっすぐに見る。


 以前と変わらないはずの春山の顔。けれど、長い白昼夢を超えた俺には、少しだけ違って見えた。

 カーテンをふわりと揺らす小さな風が頭にあたり、夕方の影が動く。


 俺は驚くほどすがすがしい気持ちになっていた。


「俺、春山が好きだ」

「………………へ?」


 春山の表情が固まった。その間にもカーテンがゆらり、と揺れる。


「き、急になんだ? どうした?」

「あー、なんだか馬鹿馬鹿しくなってな」

「馬鹿馬鹿しくなって告白したの? それなんか失礼じゃない?」

「いや、なんというか……どっちにしても、こうするのが一番早かったんだよなと思って」


 ひとり納得している俺に春山はどことなく不満そうな顔をしている。俺は席を立った。


「じゃあな」

「あ、ちょっと……!」

「どうかしたのか?」

「いやいやいや、突然告っといてそれはないでしょ……言い逃げする気? その……なんか私に聞くことないの?」

「……………………あ、そうか」


 聞けと言ったくせに、春山は俺の質問に先んじて口を開いた。


「返事は……前に書いた」

「えっ、黒板? ……あれは違うだろ」

「黒板は私じゃないけど……歴史のノート」

「ノート? 歴史のノートは家だよ」

「帰って見て」


 俺は「お疲れ」と言って超速で教室を出た。


 帰宅後、引き出しを開け、焦った気持ちで中身をぼんぼんと取り出した。

 教材とノートの散乱した部屋の中、目的のノートを発見してページをパラパラめくる。

 春山にノートを見せた日、どんな授業だったかが思い出せない。仕方ないので適当に開いて確認していく。

 端っこに小さく文字が載ってるページがあった。こんな部分には俺は文字を書かない。


 そこには小さく『好き』と書いてあった。





 翌日、俺はそのノートを持っていった。

 春山に「放課後話がある」と言って授業が終わるまで待ち、満を辞して声をかける。


「春山、これか? これのことか?」


 一応確認して「ごめんなさい」だとか「嫌い」「うんこ」などの文言がないかも確認したが、これと断定していいか確認したかった。


「も、持ってきたの? 今日歴史ないのに」

「なぁ、これか?」

「う……うん、それ」

「…………お、おお」

「な、なにその態度……!」

「いや、恥ずかしくてな……」

「あんたの百倍私のが恥ずいよ! うわー!」


「なんでこんなことしたんだ?」と春山に聞けば、唇を震わせて「スリルが……たまらなくて……やりました」と自供した。わかる。わかるぞ。春山。


「でも、こんなコソコソされても気づかないし、誰が書いたかだってわからなくなるだろ」

「い、言えるくらいなら書かないし」

「もう俺言ったんだから口頭で大丈夫だよ。どうぞ」

「なにそれ! ……あー、もう……好きだよ! 好き!」


 嬉しい……。喜びに心が震える。


「あ、そういえば……ついでに言っておくと、前、春山が日直の日、黒板に書いてあったやつ」

「え、あれ? あれがどうかしたの?」

「あれ、俺だ」


 春山は口をあんぐり開けたあと、こちらをキッと睨んでくる。


「えっ、自分だってコソコソわからないように書いてたんじゃん! そんなんじゃ、わかるわけないよ!」

「なっ……もう言えるからな! 隣の席になったときからずっと好きだったし、入学式の日に見てすでに可愛いと思ってたんだよ!」


 言ってやった感満載で春山を見ると俯いて静かになっていたが、やがて、真っ赤な顔を上げた。


「……ほんとに?」

「……あ、あぁ」


 ……可愛いなー。

 とりあえず、一緒に教室を出た。

 ほとんどの生徒が帰って静かになった廊下を二人で歩く。


 ぼうっとしたまま昇降口の前まで来て気づく。


「あ、俺、ノート机の上に忘れてきた」

「えっ、あのノート? 気分的にやだな……取りにいこう!」


 二人で教室に取って返す。教室には誰もいなかった。黒板には本日の日直、上田の名前が書かれている。


 そして中央に───



 小さく『好きです』と書かれていた。



「なぁ、あれ」


『で』の字は濁点が離れていないし、明らかに三杉とは違う筆跡だった。


「うん」

「誰だろうな」


 たぶんきっと、何かがどこかで連鎖した。




《おしまい》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

放課後の落書き 村田天 @murataten

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ