それって本当に代償ですか?

砂漠の使徒

きっと代償だ

「ここは……」


 目覚めると、薄暗い部屋にいた。

 古びた蛍光灯が弱弱しく辺りを照らしている。

 広さは学校の教室くらいの、広いとも狭いとも言い難い部屋。

 そこに、自分含めて数人の男女がいた。

 他の人はまだ寝ている。


「ん?」


 起き上がるときに感じた違和感。

 首を触ると、そこには金属の首輪がついていた。

 こんなものを付けた覚えはない。

 ダサいし。


「あれ?」


 部屋の出口らしきところまで来た。

 重厚な扉に手をかけるが、びくともしない。

 鍵がかかっているようだ。


「あー、これって……」


 目が暗闇に慣れてくる。

 すると、部屋のいたるところに飛び散っている血痕が目についた。

 たしかに、言われてみれば血なまぐさい。


「うん、やっぱそうだな」


 極めつけは天井付近にあるモニター。

 まだ電源は入っていないが、もうしばらくしてみんなが起きるとしゃべりだすだろう。

 もしかすると、見せしめに一人殺すかも。


「仕方ない」


 男は全てを諦めたかのように、ポケットから古びたマッチを取り出した。

 タバコでも吸うかのように見える仕草だが、男の口にはなにも咥えられていない。

 では、なぜマッチを?


「よっと」


 シュッと気持ちのいい音を出し、火が灯る。

 その火はなんときれいな青色だった。

 そして、不思議なことにもくもくと煙が噴き出してきた。


「お前の願いをなんでも叶えてやる」


 やがて煙は悪魔の形になった。

 より具体的に言うならば、青紫色の肌にコウモリの羽、ヤギの角を備えた性格の悪い顔の化物だ。

 そいつは意地悪な笑みを浮かべている。


「おー、本物だ」


 対して、男のリアクションは薄い。

 普通もっと驚いたりするものだろ?

 まるで最初からわかっていたかのようではないか。


「さあ、早く願いを言え」


 悪魔は急かす。

 なぜかって?

 まあ、皆さんのご想像のとおり、悪魔はあれが欲しいからです。


「あー、願いの前にさ、確認なんだけどさ」


「なんだ?」


 いまだ願いを言わない男に、やや面倒くさそうに答える悪魔。

 それにしても、なにを確認することがあるのか。


「俺が願いを叶えたら、三日後にお前に魂を取られるんだろ?」


「ほう、知っていたか。うむ、その通りだな」


 やや驚きながらも、頷く悪魔。


「そっかそっか」


「どうだ、怖いか? もはや我を呼び出した時点で貴様の死は決まったものよ」


「いや、助かったなーって」


「は?」


 男の口から飛び出した発言に、悪魔は耳を疑った。

 助かった?

 どういうことだ?


「ああ、あれだな。自分に生命保険をかけて、死後にそれを両親に託すみたいな親孝行をするから助かったと……」


「あー、それもありだな! うん、それにしようかな。でもね、助かったのはそれじゃないよ」


「どういうことだ?」


 いよいよ悪魔も威厳ある態度を崩し、本格的に悩み始める。


「だって俺、三日後に死ぬんだろ?」


「ああ。なにをしても逃れられん」


「じゃあ、たとえば、その前に俺が寿命で……」


「ありえん。我には寿命が見えるのだ。そんな死にかけとは契約せんぞ」


「なるほどー。そんじゃあ、俺が自殺したら?」


「させん。契約履行日である三日後までは、なんとしても生きてもらう。なんなら我が救う」


 男の質問攻めに焦らされて、悪魔の口調もだんだん砕けてくる。


「つまり、事故で死ぬこともない?」


「ああ。安心しろ」


 と言ってから、悪魔は我ながら安心しろとは妙なことを言ったなと思う。

 一方、男は本当に安心したようで穏やかな顔になった。


「では、早く願いを言え」


 ようやく念願の願いが聞ける。

 これにて悪魔は魂を得られるわけだ。


「あ、願いね! じゃあ、一億円がほしい! 俺の口座に入れといて!」


「本当にそれでいいのか」


 男がやけに軽い調子で願うので、悪魔は聞き返す。


「うん、オッケー!」


「……三日後に貴様は死ぬのだぞ? もっと恐怖して悩んだり……」


 むしろ悪魔が男の心配をしだしたが、それを遮って男が叫ぶ。


「いやだって、もう始まるんだよ! 帰って!」


「始まる? 我との契約はもう始まって……」


 悪魔が困惑したのも束の間。

 部屋のモニターの電源が付く。

 そこに映し出されたのは、恐ろしい仮面を被った人間だ。


「ようこそ皆さん。これからあなた達には、命を賭けたデスゲームを行ってもらいます」

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それって本当に代償ですか? 砂漠の使徒 @461kuma

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