第42話 クズ、名探偵と対峙する

 おっさんが入ったのは俺たちが出てきたばかりの〝サルド〟のポータル。

 そのすぐ右に〝フォルスラ〟〝セブルス〟と書かれた看板とポータルがあり、サルドの左には〝セルンド〟そのまた左に〝ファスン〟の看板とポータルがある。


『ふぁすん……』


 アンジェが一番左のポータルの名に反応しているけど、まずは俺の疑問をグリガネンにぶつけよう。


『他のポータルに飛び込むと、また1階層からスタートなのか?』


『そう、ですね。でも同じポータルから5階層に戻ることは可能です。僕らはサルドのマシュール王国から来ましたので、5階層とマシュール、そして他の国の1階層までなら行くことができます。あ、他国に入るには入国審査があったはず』


『人間はそうだろうけど、俺は魔物だから1階層ランダムポップとかいうクソ仕様が発動するんじゃね……? 初見ころりんはやめてくれ』


『えと……たしか魔物ギルドで魔核コアを登録しておけば、次からは自由に行き来できるってコンさんが説明してました』


 横からアンジェが入ってきた。そういえば、アンジェと炎の誓いの連中は話したことなかったな。いや紹介する必要がないからいいんだけど。


『魔物ギルドに行くまで行動制限される、いっそ俺だけのポータルとかあればなあ。そもそもダンジョン街って、普通の人間も出入りしてるのか? 奴隷とか餌としてなら見かけたけど……』


 冒険者の格好でのし歩いている人間はいなかったよな。

 というかダンジョン街の魔物たちがのこのこやってきた人間たちを放置はしないだろ。あまり目立つとあの変態に俺が戻ってきたことが感づかれてしまう。


『っ! シェイド様、僕らは……ほら、えと、今の魔空の魔素でも辛いので、このまま5階層を進むとなると……ごめんなさい、死んじゃいますよ』

『ずっと魔空とかキ……き、汚いあたしなんかをずっと入れるのは悪いっていうか、着替えたいっていうか、マシュールに帰りたいっていうかぁ』


 俺とグリガネンの会話でアンジェが反応して、今度はアンジェと話していたらグリガネンたちが割り込んできた。うん、面倒だな。


『俺もお前らをダンジョン街に連れて行こうとは思ってないぞ』


 グリガネンたちに使役されたていで、地上まで引率してもらうことが俺の狙いだし。俺一人だとランダムポップの心配やら、地上にあるポータルに登録してないから行けないーとか、制限されそうだからな。


『ありがとうございます! ……良かった』

『ということで、早く登録しに行かんかい』

『はいっ!』


 分体でグリガネンたちの尻を叩きながらポータル部屋から追い出すと、通路の先にある扉が開いていて、カウンターが見えた。


「急ぐぞっ!」

「「「おうっ!」」」


 カウンターで手続きをした冒険者たちが、早歩きでこちらに向かってくる。顔つきも身に着けた装備も歴戦の強者つわものに見えるけど、あまり怖いとは思えないな。

 ほとんどの冒険者たちが〝炎の誓い〟を一瞥したあとに、次々とポータルに入っていくなか、一人が集団から外れて話しかけてきた。


「やあ君たち、少しだけいいかな? 僕はC級冒険者のカイルだ。これから救援に行こうと思ってるんだけど4階層の様子を聞きたくてね。ああ、もちろん情報料は出すよ」


 グリガネンの上位互換と言えそうな七三分けのイケメンクールメガネが、首から下げている冒険者証を見せた後、今度は袋から銀貨を3枚取り出してグリガネンの前に出した。


『……情報料の相場としては高めです。必要な情報を急いでもらうときは多めに出すのが暗黙の了解だそうです』


 アンジェは、魔影から得たこの町の記憶を早速駆使している。

 ちなみに銅貨1枚が100円ぐらいの価値で、10枚集めると銀貨1枚と交換できるつまり3,000円相当の情報……って、俺の場合は勝手に持っていくし、この世界と前世のレートに興味はない。


「ええっと僕たち先を急いでいて……」

「新人だから知らないだろうけど、銀貨3枚は破格だよ。ここまでたどり着けた若手へのご祝儀と思ってくれてもいい。どうだろう、僕の質問に答えてくれないか」


 さすがグリガネンの上位互換の男。

 グリガネンに断る隙を与えない。


「カイル、俺たちは先に行くぞ。ソロで慎重なのはいいけど、新人たちも疲れてるだろ。早く休ませてやれよ」


 いつもの光景なのか、カイルを軽くなだめてからポータルに向かう冒険者たち。グリガネンがもたつくせいで、俺たちとカイルだけになっちゃった。


「聞いた通り、僕は少しだけ慎重なんだ。――それで僕が聞きたいのは難易度Bの赤の女王を倒したのは誰か、そして君たちは3階層からきたみたいだし、何らかの予兆や気づいたことがなかったか、あとは森の様子なんかも教えてほしいかな」


 矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。断る隙を与えないどころか、グリガネンの手には既に銀貨3枚が。


『赤の女王を倒したのはちょうマリオで、何らかの予兆はまったく心当たりがないな』


 地形がいくつか変わったところはあったが俺は知らない。何も知らないことにする。

 敵陣ど真ん中で魔影の強さアピールとか怖いわ! まずはダンジョン街でランク上げてからだ。


「いや……そもそもシェイド様が巣穴に水を入れたのが」


 グリガネンが小声で何か言ってるけど聞こえないことにする。


「え、なんだい?」


「いえなんでもありません。……赤の女王を誰が倒したかはわかりません。予兆も戦闘が既に始まっていたのでなんとも……。それと、森の様子もので教えるほどの情報はありません」


「そうか、そうだよね。誰が倒したかは後でわかるか……」


 カイルが顎に手を当てて考え込んでいる。


「おいグリガネン! 早く行こうぜ、D級の登録したらさっさと休みてえよ!」

「あたし……もう少しカイル様とお話したいかも」


 エンヤは逆モヒカンを上下に揺らしながらグリガネンを急かすが、プリンはカイルの綺麗な顔を見て、瞳がハートマークだ。


「そうだな。すみませんがカイルさん、僕らもうそろそろ――」


「ちょっと待ってくれ。もう一つだけ聞きたい。君たちはここまで辿り着いたんだ?」


 カイルがわずかに眉を寄せ、静かに視線を深める。


「どうって……え、えと、そのぉ……徒歩、で? そういうことじゃないですよね、あはは」


 グリガネンのメガネの奥でチャプチャプと水しぶきが跳ねている。言い訳下手くそか!


「……どうやら君たちは森を通っていないようだね。4階層の荒野は赤の女王の支配領域だ、もしも足を踏み入れれば彼女への敵対行動となる。マシュール支部の講習では教えていないのかな? そんなことはないよね、だって僕もマシュール王国出身だから」


 ヤバい、なんか腕組みをしながら俺たちをカウンターには行かせないように右へ左へゆっくり動く。まるで名探偵が真犯人を追い詰めているような……。


「いや僕だって止めたんですよ。だけどシェイド様が――ハッ!」


 グリガネン、語るに落ちる。

 口元を押さえてもポロリした言葉は戻らない。

 というか俺の名前を出すなよ!


――――――――――――――――――――――

あとがき


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2025年1月10日 07:07

あやしい影に転生しましたァ!? 〜最弱無能の影になったクズは勝手気ままに最強を貪る〜 yatacrow @chorichoristar

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