クズは天下にそむこうとも、天下がクズにそむくことはゆるさん
第41話 クズ、5階層へ行く
この物語を世界中のクズどもに。
また自分がクズだった頃を忘れがちな大人たちに。
どうも、クズの王子様シェイドです。
何の因果か、この世界の最弱無能、知性の欠片もない魔獣未満の生物に転生した俺。腹のなかには白髪に
……はぁ?
『ん? ……シェイド?』
『ワフ?』
色々あって捕獲した人間たちや魔獣や魔物を吸収したり、見逃したり、奴隷にしたりと忙しい毎日です。
あ、そうそう、色々あって4階層のアリと人間たちが戦争をおっぱじめたんで、火事場泥棒ごちそうさまでした。
『……って色々ありすぎだろがいぃ!』
『ええっ!?』
『キャフン!?』
誰だよ、俺を転生させたの? 知らないよ、この先も色々と何かあっても俺は悪くないからな!
『急にいったい……』
『アンジェ、その場で垂直飛び連続スタート!』
『えっあ、はい? やっ――』
アンジェが素直にその場でジャンプ。
……こいつ、成長しているな。揺れる、重い、体であらわして――
『ってやかましいわっ! お前のお母さんはウッシですかぁ!?』
『バタバタ飛んでごめんなさいぃっ!? あと、
謝罪と反抗の表情を見せたアンジェの成長。
魔力が体内から漏れ出ていく〝魔力
そんなアンジェの今の姿は、とても健康的でしなやかな体型だ。引き締まった腕や足、自然な丸みをおびた頬、存在感が増していく胸部装甲。
大量のレッドアントを倒した経験値と、超強化された俺の魔素、魔力の源がアンジェの栄養になったのかもしれない。
『すっかり大きくなって……』
『シェイドの情緒指数が下落を始めましたっ!?』
アンジェが両手を頬に当てて目を見開く。体が健康になってきたからか、出会ったときよりも表現が豊かになってきた。
奴隷コーデになったプリンのお古を、俺が【裁縫】【服飾加工】【採寸】などのスキルを駆使して仕立て上げたローブもいい感じに似合っている。
淡いラベンダー色で優しげな光沢があり、膝下まで伸びる裾は緩やかなラインを描いて、アンジェの動きに合わせて波のように揺れる。
半袖の袖口には細やかな銀糸で編まれた花模様の刺繍があしらわれ、アンジェの細く白い肌にジャストフィットしている。
なお、俺の発想では到底仕立てることはできないが、スキルの力が勝手にやってくれている、とてもヤバないことだ。
『アンジェもよく頑張った! この調子でこれからも俺の役に立てよ』
『はいっ! 私、もっともっと頑張りますっ! ヨルちゃんも手伝ってね!』
『アオンッ!』
影狼の子――ヨルがアンジェの呼びかけに元気よく応える。ヨルもレベルアップしているのか少し大きくなったような? でも、影が薄いから元のサイズがわからない。
『えーシェイド様ー、シェイド様ー。そろそろ行きます』
放送席ー、放送席ーみたいな念話を出してくるなよ。
俺の奴隷になった新米冒険者パーティ〝炎の誓い〟のリーダー、グリガネンがメガネに指をつけて念話をしてきた。こいつの本体はメガネ説をいつか立証したい。
4階層の赤の女王を破った俺たちは、司令塔を失い暴走を始めたレッドアントと冒険者たちの戦いのどさくさで、警備の薄くなった5階層行きポータルを抜けようとしている。とはいえ、いきなり魔空からグリガネンたちを出すと怪しまれるから、少し離れた場所から歩かせている状況だ。
「うっ、外で見るとやっべぇな……」
「臭っ!」
アリの強酸で溶けた物から発する酸っぱい臭いに、血と汗の臭いが混ざったものが炎の誓いの鼻に届く。逆モヒカンという個性的な髪型のエンヤと、奴隷コーデが似合うプリンがあまりの臭いに咄嗟に鼻をおさえた。
「くっ……エンヤ、プリン、僕たちもアリと戦ってきたんだ。この戦場の臭いや光景には慣れていないとおかしい。怪しまれないようにしよう」
ただでさえ、新人冒険者が護衛や引率を雇わずにこの階層にいるのは不自然で目立つ。
ポータル周辺にいた冒険者たちは医療班と怪我人、あとは炎の誓いよりは強そうなD級ばかりだ。
まあ、怪しまれても……、
「なんだお前ら、どうやってここまで来た……ンダァァアアアア」
1名様、魔空ご招待。
「え、逃げてここまで来た? 魔獣や魔物に襲われずにか……? それにしてはずいぶん荷物も少ないし、装備も整っていないようだわぁぁ――」
お話し中、失礼。
目撃者を消すという意味でも魔空させてもらった。ゴチっす。
『近衛アリを数匹と兵隊アリをポータルの近くに移動させておけば、この辺りの冒険者がいなくなっても違和感ないだろ』
「ええ……そう、ですね」
「ずいぶんすっきりした場所になったけどなっ!」
……少し魔空に入れすぎたか。適当に回収した物を散らかしておこう。
「ゴブッ!?」
一般ゴブが紛れてた、けどいいや。
「グリガネン、エンヤ。早く行こう、そしてお家に帰ろう」
「あっ……僕が先に」
奴隷コーデを少しでも早く着替えたいのか、プリンがポータル――泉のような形の円に飛び込む。リーダーのグリガネンは少し残念そうだ。
5階層に到着。
薄暗い部屋に充満している魔素……5階層全体が濃いのか、この部屋が濃いのか。
『とりあえず魔影を招集……』
「ひっ!?」
プリンが小さな悲鳴を上げる。
『……は、プリンの影から出てからやろう』
「ほっ……」
わかりやすい安堵の表情! ……いやいいけどね、大量の魔影がプリンの足元目がけて集まるのは目立つだろうし。天井の暗がりに本体を移動しておくか。
上から俯瞰すると、石壁がぐるりと円を描いているような部屋だな。中心部には俺たちが出てきたポータルと他にも4つ、さらに入口辺りに冒険者が数名いる。
「なんだお前らっ!」
「新人が逃げてきたのか?」
「状況を説明しろ!」
複数の冒険者や騎士っぽい恰好の奴らが、炎の誓いを取り囲む。
みんな険しい顔すぎてグリガネンがビビってる。
「ぼっ僕たちはE級パーティ炎の誓いです! えっと……荒野に大量のレッドアントが現れて戦闘が発生しました。僕たちはポータルを守れと言われて……そしたら突然ポータルの近くにレッドアントの上位種が現れて……。先輩たちが僕たちを逃がしてくれました。あ、それと……赤の女王は死にました。と、とにかく応援をお願いします、まだ皆さん戦っています!」
説明がたどたどしくて下手くそすぎるが、逆に混乱している感が出て演技っぽさがない。
1割程度の嘘を9割の真実に混ぜると信憑性が上がる不思議。
「そうか報告感謝する! 聞いたかお前らっ! 準備ができた奴らからポータルに入れ!」
「おう! 坊ちゃんたち、そこをどいてくれ!」
「よく頑張った! あとは俺たちに任せてくれ!」
増援部隊が続々とグリガネンたちの肩や背中を叩き、走ってポータルに飛び込んでいく。
おっさん冒険者の一人が立ち止まってグリガネンに、
「そうだった。ここは冒険者ギルド、ファスン5階層支部だ。そこの通路を進めばカウンターがある。そこで冒険者証を出せばD級へのランクアップとポータルの登録ができるぞ。登録しておけば、サルドのマシュール支部にも戻れるからな」
「あ、ありがとうございます。よし、それじゃ僕らも行こうか」
RPGの町の入口に立つキャラみたいな説明をしてポータルに入っていった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
拙作をお読みいただき、ありがとうございます!
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