第40話 クズ、盛大にやらかす


 ――キチキチキチ!

 ――カチッカチッ!!

 ――キチチ!

 ――カチカチ!


 レッドアントたちが強酸レーザーの準備に入る。


『おっと! その技はもう見たぞ! チョウマリオ、スライディングで中に滑り込め!』


「OkeyDokey!!」


 勢いよくチョウマリオがレッドアントたちの腹の下に滑り込み、そのまま奥へ奥へと連続スライド。


 目の前には近衛が3体とその奥に腹が異常に肥大化している大きなアリ――赤の女王がいる、捉えたぞ。


「穴蔵の鈍色、顔真っ赤の女王に、うちのチョウマリオが拝謁しまぁす! ぜろ、虫けら! ファイアーボール連打ァ!!」


 超マリオが起き上がってすぐに正拳突きをワンツー! に合わせて、炎のゴムボールをイメージしたミニ分体ボールを飛ばす。壁や天井に当たったボールが角度を変えて近衛アリたちやその後ろの女王の体に着弾したところを魔空に入れる。


「ッ! ――キイィイイイイイイ!!」


 いくつか着弾し、女王の体に穴が開く。

 甲高い女王の声で、チョウマリオの耳から血が流れるが、


「yahoooッ!!!!!」


 ご機嫌チョウマリオのテンションは上がる一方だ。


「おのれっ! このような……こんなふざけた奴らにが――」


 悔し気に何か言ってるけど、俺はそろそろポータル近くの冒険者たちを食いたいのでカットさせてもらう。

 さあ、チョウマリオ! 確殺コンボだ、その拳に魔空を宿してジャンピングパンチィ!


「グフゥ!?」


 顎先を削ってやったぜ。


「まだまだぁ!」


「グッ――がぁあ゛! が……こんなことで……ぐぼぉぉ!!!?」


 腹を蹴り上げ、空に打ち上げろ!


 地上までの土は全部魔空に入れた! どこまでも蹴り続けて天空まで駆け上れ!!


 ――ヴゥゥンンン!


 近衛アリたちが翅を広げ、離陸準備を始めたが、


「今は俺のターンだろ? ――魔空斬・横並びにズバァ!」


 ……マリオを操作しながら、かっこいい名前を思いつく余裕はないのよ! 翅を失って地を這うアリは魔空にイン。


「ごぉ……ええぃ、なぜ離れぬ。皆の者、を守るぞぇ、はここぞえぇ! キリキリキリキリ――」


 おっとこっちに気を取られて、マリオの攻撃がただの打撃になってたか。上の近接、下の範囲攻撃とマジで忙しい!


 ちなみにチョウマリオが空まで女王と一緒に駆け上がる仕組みを解説すると、単に女王とマリオを影糸でつないでいるだけという。

 蹴った反動で女王が上空へ、ゴムのような影糸の特性によりマリオが一瞬遅れて上がってキック。その反動で距離があく、また距離が詰まったらパンチやキック……ヨーヨーみたいだな。


 マリオとの距離が空いたところで、女王がお口を開けて強酸レーザー充電中……出させるわけないのよ。こういうときは影糸を強く――引くっ!


「Higaaa……ゲフ」


 マリオの頭がぐんっと後ろに倒れ、逆の字を描きながら女王の元へ。

 この勢いを利用してラストアタックといきますかっ!


「So long Queen of Red!!!! Meteooooo!!」


 さらばだ赤の女王、メテオォ! ってなんで俺が訳してるんだよ。


「ゴォおぉォ……ぶくグブク」


 腕の関節はさておきグルグルとチョウマリオの右腕が高速回転し、その拳に炎が……いや魔空が宿る。勢いよくぶん回したパンチを女王の頭におもいっくそ当てれば――顔の右半分を削り、ストッパーを失った強酸が泡を立てて空に散る。

 そのまま泳ぐようにマリオが女王の体躯を削り、赤い甲殻が剝がれ飛ぶ。


「おぉノレ、シェいドぉおォオ゛オ゛ォォォ――」


 空に舞う女王の複眼には、大樹の根元に浮かぶ文字が映る。


 ――AME OVR 終わりだ、あばよ。


『けいむ、おうう゛ぁ? えいごで〝来た〟で、るうまにあごで〝卵巣〟……卵巣が来た!?』


 え、ちょっと違うぞ! 〝魔影の記憶〟に俺の前世の国の言葉がいっぱいあってスゲェとかの前に、待って! え、綴り間違えた? やだ、ちょっとやり直さない!?


「I did the best!! phooooow!!!!!」


 止められなかった……マリオの回転キックで女王の内部が完全に爆散。

 空に咲いた大輪の赤。飛び散った強酸がちらちらと火花のように落ちていく。


 女王の巣周辺のレッドアントたちに降りかかった酸は当然のように我の子らを溶かす。道連れ乙。


 花火か……よし!


「ふっ、汚い――」

『なんとも汚い花火のようですね! シェイド様……うわ、何を――』


 それ俺の感想だぞ! 罰としてメガネ没収。


『シェイド、マリオさんが落ち……』


 ああっ! グリガネンに気を取られたせいで、チョウマリオをうまく着地させられなかったよ!

 よく考えたらそのまま魔空に回収してやればよかったな。


「Help!! ……イタイヨ」


「お役目ご苦労! しばらく休め!!」


 車に轢かれたカエルマリオがめり込んだ地面ごと魔空。


『ん? マリオの手に何か……これ赤の女王のコアか? ホームに回収させてもらう」


 あの自分でも理解できない回転速度のなかで、女王の体内から魔核コアを奪ったのか……? うーん、手癖の悪さは天下一品。


『ヒギィィイイ!! 死ぬ、死んじゃう……』


 あ、脳汁効果が切れたっぽい。


『これ、このままだと死ぬな、どうしよ』


 ちょっとやりすぎた。いや吸収して魔素にしてもいいんだけど、まだ使い道ありそうだし。


『あのっ! シェイド、私がやってもいいですか』


 アンジェがまさかの介錯人として立候補だと! 反射で思わず影人形シャドーがのけ反ってしまっただろ。


『魔物でもないアンジェが人をころりんしたいと? 結構けどいいのか?』


 特に初めてのころりんは俺も吐いた記憶がある……いや、そのあとの打ち上げで飲みすぎて吐いたんだっけ? じゃあ、あのとき残っていたのはアルコール? あれ、どっちだっけ――


『違いますぅ! 治療できそうだからやってみたいって意味ですぅ!!』


 半泣きで叫ぶアンジェ。やはり慌てるとポンコツが顔を出すな。


『治療……できるのか? じゃあ頼む』


『はい! 私、〝魔影の記憶・聖力の使い方〟と〝魔影の記憶・大人の医療知識〟を読んだので』


 大人の医療知識って性教育も含んでそうだが。

 アンジェがマリオの側で二冊の本を開き、両手を患部にかざすと、白い光がマリオの体を修復していっているように見える。

 聖力という不思議パワーと前世の現代医療知識でイメージ強化ってところか。アンジェは立派なヒーラーになれるな。


『ガウ』


『ぐぅぅ……獣臭い』


 マリオの額に前脚で押さえているけど、ヨルは手伝っているつもりなのか? マリオすごく嫌そうだけど。


「……なあ、さっきのって」

「ああ……クイーンだろ。あんな大きな体のレッドアントなんていない」

「じゃ、じゃあさ……そのクイーンを蹴り上げて、空から叩き落した奴はなんだよ?」


 チョウマリオ、最前線の冒険者たちにはばっちり見られてたな。

 目撃者は全員魔空に落としておこう。


「おい、レッドアントが暴走しはじめたぞ! 喋ってないで……って、あいつらどこだっ!?」


 ゲストルームの中にいる人間たちと合流しています。


 司令塔を失ったレッドアントたちが巣穴を捨てて地上へ。そして近くの人間たちにきばを向ける。

 人間たちもクイーンを誰がやったかを考える前に、アリの大群を相手どるのに必死だ。


『よし、ボーナスステージだな』


 巣穴の中を探索し、まだ中にいるレッドアントたちは魔空送りだ。


『すっげえ! これだけ素材があれば結構な金になるぞ!』

『メガネメガネ……』

『うぅ~……虫の死骸だらけでキモいぃ』


 炎の誓いの元気担当だけがはしゃいでいて、残りは自由だな。


 さて、巣穴中にどんどん影糸を展開するぞ。

 蟻の子どもや卵も多いな……まとめてゲストルームに捨てておけば、本能が魔素にしてくれるだろ。


『……そしてお宝がない。人間の溶けかけた骨と痛んだ装備だけ』


 カラスだったら光り物とかありそうだけど、アリか……。


『……仕方ない。気分変えて弱そうな奴からマンハントして5階層に上がるか』


『ふうふぅ……あ、暴れないで!』


 アンジェは暴れるマリオの治療に大苦戦。少し手伝ってやるか【脳汁分泌】――


『た、タスケて……イだ゛ぁい゛――yahooo!?』


『シェイド、ありがとう!』


 うむ、かまわんよ。


 それじゃ、シン・ボーナスステージ! やっちゃいますっ!!


 てことで本日のリザルト。

 冒険者たちのそこそこの装備、金、経験値そして――


【盾術+3】【ダンス+1】【鞭術+3】【大剣術+2】【魔力操作+3】【魔力感知】【聖力操作+2】【回復魔法】【空腹耐性】【腹の音調整】【火魔法】【魔力付与】【水魔法】【花冠作成】【隠蔽】【医術+2】【格闘+1】【木工】【手芸】【隠れ鼻掃除】【体臭消し】【見切り】【歌唱】【蛮勇】【威圧】――

 

 ……有用なスキルと俺には使えないスキル、そして謎のスキルがいくつか。

 魔素と魔力と聖力と似た名前が多いけど、この辺の違いはアンジェに聞くとして、


【隠れ鼻掃除】……人混みのなかでも誰にも気づかれずに鼻をほじることができる。

【腹の音調整】……静かな場面で鳴りがちなお腹の音を小さくできる。


 シャイかっ!?


 とりあえず草原地帯に生えていたシロツメクサで【花冠作成】を試して、アンジェの頭の上にのせてやったら幸せそうな顔をしていたのでトータル良しとしよう。


――――――――――――――――――――――

あとがき


拙作をお読みいただき、ありがとうございます!


「続きが気になるー」と思ったら、作品のフォロー、レビュー (★評価)、応援やコメントをよろしくお願いします!


てことで、第1章的な区切りがつき、拙作のストックがつき、今年も間もなく終わりを迎えて、来年は餅つき……は? ということで、皆さま良いお年を。


第2章は、いよいよ5階層に広がりシェイドの行動範囲もさらに広がる……予定です。


皆さんのリアクションが作者のモチベーションに直結してます。


あと、第2章ちょっと待っててくだせえ。

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