第39話 クズ、世間の魔影の認識をワカラセられる

 さあ、マリオもやる気だぜ! ……って、女王の様子がおかしい。

 ゆっくりとマリオを見た後、触角だけ大樹の方に向ける。


「ふぅ……余計な時間稼ぎをせずともいいぞえ。見逃してやるぞよ、はよう去ね」


 あれ? なんで俺が逃げる算段を立ててる感じの返しなんだ?

 これからマリオでボコってやろうってときに?

 ……まさか魔影を見下しすぎた結果、人間たちと戦争に発展してる今がお見えでない?


 違うな、この女王が怒気を発したのは人間たちを呼び込んだときだけ。あとは煩わしいから兵隊たちに早くなんとかしろと苛立つだけだった。


 羽虫が目の前をちらつくから潰したい、そんな程度で俺のことは見ているようで見てない感じか? 嘘でしょ!?


 ずっと俺だけが一人相撲わっしょいしてただけ……はあ?


「おい、ちょっと確認だけどさ。人間たちは多少は脅威がある、俺は取るに足らない存在だけど話す魔影は珍しいから気まぐれで相手をしていた。で、そんな存在が余計な事して人間たちを刺激した、だからもうどっかに行けと?」


 女王の触角がくるりと回るが、それ以上の反応はない。冒険者たちの様子が気になる感じ。


「おい! お前の敵は目の前の俺だろ。お前の兵隊をどれだけ潰したと思ってるんだよ、なんでこれだけやっても余裕なんだよ! まさか俺がマリオを囮に逃げる算段を立てているけど、そんなことしなくても気にしないから逃げてどうぞ、とでも言いたいのか!?」


 女王が鷹揚に頷き、赤銅の顎を開く。


「ほほっの子らをどれだけ? さての、それこそ気にしたことなぞない。その程度のことでの敵……ほほほっ。隊長格にすら届かぬ矮小な存在よ、奢りがすぎるぞえ』


 ゆっくり頭を左右に振り、


『それに人の子に、まして理性すら失った哀れな者とたちで勝負になるわけがない。そのくだらん操り人形共々、の前からさっさと消えるぞえ。――それより地上は何をしておる」


 俺との会話を打ち切って、地上に意識を向ける。


 ……そんだけ複眼あるなら1個ぐらい俺を気にしろよ!


「おいおいおい、こんなに魔影ってアウトオブ眼中なのかよ。誰か複眼の数だけスカウター用意してくれよ。私の魔素力は53万以上ですよ?」


 魔影の認識がひどすぎる。

 誰からも敵とすら認識されない、つまり〝無敵〟かよ。

 逆の意味にカンストしてるやん、これからも底辺生物として扱われる未来が見えたわ。


「まださえずるか、ではこれを与えるゆえ消えてみせよ――」


 ――キィリィィィィィィィ


 アリの癖にモスキート音!?

 女王の体に刻まれた稲妻模様が青白く明滅して……、やっば!!


チョウマリオ、魔空にイン! んで分体の俺ちゃんも【影移動】――」


 チュンッ! せ、赤壁にでかい穴が……兵隊ごとやっちゃう傲慢レーザー、いや強酸線?

 魔物にとって眷属は消耗品。まあそこは激しく同意するが『我の子よー』とか言ってて犠牲にするのはどうかと思うの。


「えっぐい攻撃。まあノーダメージだけども」


 魔空から影糸で編んだマントを持たせた超マリオを出す。


「……の子らよ、わきまえぬ愚者共に恐怖と痛み、そして死を下賜するぞえ」


 ――キィリィィィ

 ――キィリィィィィィ

 ――キィリィィィィィィィ


 おっと地上のアリたちが顎を開いてチュイチュイと。

 俺にやってた強酸シャワーも舐めプ? んで地上の奴らには本気モードか、へぇ……そう、か。


「決めたっ! 俺と魔影は別物、だからいくら魔影を馬鹿にされてもどーーーーーでも良かったんだよ。だけど、だけどさぁ、魔影が弱いとか無能の認識だと毎回ファーストコンタクトが不快になりそうなんだよなぁ!」


 行く先々で馬鹿にされ、ざまぁかましてく? ふざけんな!!


「お楽しみ箱? それともゴミ箱? 最弱無能の魔獣未満、そんな俺の種族――なあ、アゲていこうぜ。俺が馬鹿にされないに魔影の認識を変えてやるよぉ!!」


 ――……カチ?


 いや全然響いてない!? 女王、地上に気を取られてて、先頭のアリだけが首を傾げただけ!?

 俺的見せ場な感じでやったのに恥ずぃ!!


 くそ、俺のメンタルをとことん抉りやがって! ここまでコケにされたのはいつぶりだ? 俺がお前らを笑っても、お前らが俺を笑うのは許せん。


「……じゃあ好きにするわ」


 そんじゃ気を取り直して。


「いきなり【脳汁分泌】×10べぇだあぁぁ!!!!!」


「ッッッッ! ……――Kyahooooo!!!!!」


 チュンッ! チュンチュンチュン! 王の間では女王の代わりに俺の相手……いや駆除のためのアリたちだけが本気レーザーを吐く。


 対して俺は、


「えっと〝横B〟ではじく?」


 いやコントローラーのイメージがないとマリオの技が出せないのよ。


 視界を埋める光の線を、チョウマリオが黒いマントをひらりと返す。


「そのゴミみたいな下賜かしは、つけてお返しぃ!」


 マントを突き破る勢いで強酸線が魔空に入り、ひるがえった裏側から弾かれたように元の場所に。

 熱い鍋に冷水ぶっかけたような音が響き、アリたちが溶けていく。

 アリたちの周囲の壁や地面まで抉られたような空間ができた。


 ……強酸シャワーがライスシャワーのような優しさに見える威力。

 いや結果はどっちにしても優しくねえわ。


 ――キシャー……と弱った音、体躯の4分の1を失いふらつく近衛アリAを発見。

 もう少し超マリオの操作に慣れるために練習台になってもらおうか。


「Poh!!」


 超マリオが俺の意思を組んで敬礼する。


 ――キシャ……!


 マリオが滑り込むように近衛アリAに近づき、赤の頭部を抱える……は無理だから、アッパーで跳ね上げ、同時にマリオもジャンプ! からの回転パンチ!! 近衛アリAは壁にぶっ刺さってノックアウトだ。


の近衛を……いったい何が? 人の子の動きを超えておるぞえ」

『うぉおおおおお! すげえ、俺もマリオみたいに動け――ふがっ!?』

『バカエンヤ黙るんだ! あんな動き無理やりさせたら死ぬぞ』


 女王が驚き、エンヤは口をグリガネンに塞がれてもまだ何か言っている。

 そう、そーゆーリアクションが見たかったのよ。……少しすっきり。


「見たかっ! これが魔影の力だっ!!」


 ドドーン! 影人形シャドーの顔を作ってドヤの表情!!


『ぎゃわんっ!!』

『わあ、こっちのシェイドも顔が作れるんですね』


 そうだよアンジェ、魔影は何でもありだ。

 いや、顔が出来た感想じゃなくてマリオの使った俺の力に反応してほしかったのだが……アンジェだし仕方ないか。


『あ、リアクション間違えたヨルはあとで説教な』

『ギャンエ!?』


 不思議と『なんで!?』に聞こえたけども。


「なぜだ、人間ごときがの近衛を粉砕するとは……!」


 説明するためにマリオの声帯を借りるか。


「説明しよう! チョウマリオは脳汁ドバドバで脳のリミッターを解除しているから、人の稼働限界を簡単に超えることができるのだ! なお、この状態のときの本人は、痛みを感じないどころかむしろ気持ちいいとさえ思っているはずだ」 


 マリオのMはドМエムのМだ! 脳汁が落ち着いたときは知らん。


『シェイド様、痛みを感じないだけでマリオの体は……』


 グリガネン、それ以上はいけない。


「……貴様、さっき偉そうにに向かって部下を盾にしてなんとも思わぬのかと言っておったぞえ」


 そういえばそう!


「バカめ! チョウマリオは部下じゃない、ただの道具だ! お前のほうは部下とか子だろ、一緒にするなよ卑怯者が!!」


『同じ人としては、マリオに同情してしまう……』

『俺、あいつにもっと優しくしてやれば良かったな』

『キ……かわいそう』


『は? お前ら、裏切ったマリオに同情するとかお人好しか? つーか……お前らを操ってもいいんだけど? 脳汁キメとくか?』


 魔空内の3人に影糸を這わせて視界にちらつかせてみる。

 旅の中で芽生えた友情……いやコイツらもマリオをこき使ってたよな。


『もうマリオはずっとキモいって思ってたぁ! ね、エンヤ?』

『お、おう! そうだ、役立たずが俺たちを裏切るから……えっと大変な目に遭うんだよ! えと頑張れ』


 なんでそんなに絞り出すように言うのか。


『ざっざまぁみろ、マリオ! ……なんかすまない』


 グリガネンが何かに負けたかのように謝罪の言葉を口にした。

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