第38話 クズ、女王に論破される
――だれかー! たすけてくれー! アリにかこまれてるんだー!!
おっと荒野で誰かが叫んでいるぞ。
「むぐぅ!? 『おーチンピラーよ、うごけないとはなさけなーい。いまからたすけにいくーぞー』……う、足が勝手に――」
「おい、やめろ! そっちに行くな!! 荒野の奴らまで襲ってくるぞッ!」
おお、仲間想いのチンピラ2号が、ベテランの制止の声も聞かずにチンピラ1号の元へと走っていく。
「くそっ! これからの奴らを死なすわけにはいかん。俺もいくぞ!」
「冒険者は自己責任だろうが! ……だけど、ほっとけるかよぉ」
「危険な荒野、みんなで入ればコワクナイヨー」
おお、何人か釣れた。あ、3番目のセリフは俺ね。
「やめ、俺は行きたくねぇのに! 体が……勝手に――アチッ、アヅッ!」
チンピラ2号はよほど慌てているのか、
――カチッ!
お、近くにいたアリが反応したぞ。
自分の家に火炎生食パンを捨てられたんだ、怒っていいぞ。
――カチッ!
――キチキチッ!
――キシャー!!
さあ、戦火はついに荒野にまで広がりました。
チンピラ1号が【野次】【大声】【振り回し】【盾術+1】で、チンピラ2号は【ガヤ】【格闘】【生食パン
俺が操ってスキルが生えて、それを俺が回収する。謎のマッチポンプ感はさておき、火炎生食パン投げはチンピラ2号に代わって継続する。
さあ、アリは草原に、
……ここまでくれば、俺の介入なしでも止まらないな。
「……なぜじゃ、なぜ
赤の女王も異変に気付いたか。
「何をしたぞぇー? って、説明めんどい。気になるなら魔素感知や眷属から送られる情報ばかりに頼らないで、自分の目で見てきたら。穴蔵の女王様……ププッ!」
上の立つ者が安全地帯に引きこもってちゃ、勝てる戦も勝てないよ。――俺は別として。
巣穴を攻撃されて怒り狂うアリたちは、目の前の冒険者たちに襲いかかってクイーンの指示も聞こえていない。あ、もちろん隊長格は魔空でバラバラにしてるから陣頭指揮者は不在ね。
「さあ! チェックメイトは済んだ。あとは何しようかなーっと」
アンジェたちのレベリングは終わった。
グリガネンたちの素材は確保した。
5階層にはいつでも行けるし、冒険者たちの
「くっ! 待つぞえ。そなた、シェイドと言ったの。なぜ、なぜ
え、急に被害者気取りかよ。なんでってそりゃあ…………あれ、なんで俺はアリの巣で戦ってるんだっけ……? アリ対冒険者が見たかったわけじゃないな。
「なんで? ……えっとノリ? じゃなくて、そうだ! お前が俺を
あれだ!
「……それはそなたが
それはそう。
「そもそもそなたは、
……それもそう。
えーと……人間に置き換えると、人ん
おまけにお隣さんとの戦争のきっかけ作りまでやってる俺って……まさか悪者?
「……えーと、い、色々とあったがお前が俺を見下した、雑魚って言った、最弱の無能って言った! そうだ、俺は見下されるのが一番嫌いで、馬鹿にされるのがムカついたんだよ。あ、あと虫は苦手!」
最短距離を行けない感じもムカつく! 偉そう! うん、俺は悪くないんじゃないかな。
『理由が後付けすぎるし、清々しいほど身勝手で理不尽ですね』
『……逆にカッケーっす』
『…………』
エンヤはいいとして、冷静に失礼な説明をしたグリガネンと白い目を向けたプリンはあとで折檻だな。
アリん子の巣に水を流すは必定。
虫けらに侮られたら腹は立つのも必定。
「俺、人間じゃねえし? 魔物だから自由だろ? うん、完璧理論武装」
「……
魔物業界の決まりとか知らんわ。
まだ女王がなんか言ってるけど気にせず会話を切り上げる。
「あー、俺は生まれたばかりでルールなんて知らねえ。女王様のお相手も飽きたんで……チェンジさせてもらうわ」
決してこれ以上ツッコまれたくないからではないぞ。
「なんぞえ……?」
チェンジの意味がわからなかったようだ。
『交代……次は、わ、私かな。怖いけどシェイドが言うなら、クイーンさんのお相手? 頑張ります!』
『僕は無理です、助けてください!』
『む、むりぃ』
『シェイドの兄貴、冗談っすよね? 俺らはまだ魔素耐性すらついてないっす』
女王とほぼ同時に、アンジェとグリガネンたちが口々に思いを
というかアンジェ、お相手って女王とお話するって意味じゃないぞ。
その小脇に抱えた〝魔影の記憶・異性の口説き方〟を置きなさい。
「このまま安全圏からの超遠距離攻撃だとお前らを駆除できない。そもそもこういう狭いところで大勢対一みたいな近接ハラハラバトルとか嫌いなのよ。ということで――おいでませ我が
「Kyahoooooouuuu!!!!! ……ket――」
ゲストルーム個室で実っけ……特訓をしていたマリオが元気よく影から飛び出る。
楽しそうでなによりだ。
『まさかっ! 生きてたのか……』
『シェイドの兄貴、そんな奴まで生かして……いや、それ生きてんすか?』
『なにあれキモッ』
「Here we goooooo!!!!! tas……」
荷物持ちだったマリオ。
〝炎の誓い〟を気持ちよく裏切って逃げた先で、俺が捕まえたマリオ。
彼は恍惚とした表情を浮かべながら、両手を大きく広げ、アリの巣中に響くほどの雄叫びを上げた。
「紹介しよう、彼の名は
ちなみにマリオの身体にまとわりつく黒のオーラは、分体の俺だ。
『超、マリオさん。叫んだあとに何か言ってます?』
そうだよ、
ちなみに、赤い長袖Tシャツとブルーのオーバーオールは俺からのプレゼントだ。
顔は流石に変わらずのあどけない少年……少し白目を剥いていたり、口の周りが涎だらけなのはご愛敬。
アンジェが何かを聞き取ろうとして耳に軽く手を沿えてるけど、俺はマリオの
「なんと……なんと
「生きてるし、惨くないし! むしろコレで幸せ指数は高いからっ!」
俺の名誉のために説明すると、マリオ君には快楽系とイケナイ系の夜用スキルを惜しみなく注いでキモティーモードにしているから、何をされても脳内はドーパミンどばどばで幸せなのだ。多分。
3階層の道中、ゴッフの魔の手からマリオを救った俺は、ゲストルーム個室でもてなすことにしたのだ――はい、ちょっち回想。
――いやーありがとな、
――い、いやだ……やめっ――A hee ahee!! heehaaaa!!!!!
――社長さん、好きねー! そんなに気に入ったんなら……ヨーオ【脳汁分泌】【脳汁分泌】! マヒトツ【脳汁分泌】【脳汁分泌】イオウテサーン【脳汁分泌】【脳汁分泌】【脳汁分泌】!!
――……うぅががガガぁぁアアァ……Hattee! hattee!! hatteeee……Pooooohooooo!!!!!
――あ、やべ! やりすぎたかも……? はい、回想現場からは以上です。
こうしてマリオは生まれ変わった。
「荷物持ちだった最弱マリオはもういない。そう、彼こそがマリオを超えたマリオ! あらゆる痛みを快楽へと変える近接戦士――
ドドーンっ! 体中に巻き付けた影糸で超マリオの右手を高く突き上げながら軽くジャンプ。
そのまま横回転からの着地、両手を広げて周囲に手を振る。
「だいぶ操れるようになってきたし、こっからは大乱闘リアルスマッシュだ。さあ、
「Mamma miaaa……!! ……タスケテ」
『やっぱり小さい声で助けてって言ってるぅ!?』
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