第5話 コンプレックスが強くしてくれる

ここでいいの。

実力のない私は、この優しい場所で安寧の毎日に身を浸して。

それで、あの日の私は納得するの。

「京大生だから大丈夫だよね」って言われて焦っていた私を、慰めることができるの。


答えは明白でした。

私は、自分の肩書きに恥じない人間になりたいのです。

気がつけば、学生時代にアルバイトとして働いてた会社に舞い戻っていました。

実力のない私を、強くしてくれそうだと、感じたからです。

入社してから間もない頃の自分にも、そこでの仕事は頭を使うことが多くて。

一日の終わりには疲れ切ってぐっすりと眠れるようになりました。

足りないことばかりで、できないことばかりで、先輩たちの話についていくだけで必死でした。けれどしんどさの中にあるやりがいは、何ものにも変えがたいことでした。


今はまた、家庭の事情で別の仕事に就いていますが、その会社での経験が、今の私をつくっています。

結婚して、子供が産まれ、ライターの仕事や本業に追われながら、趣味でこうして文章を書いている時、私は自分の肩書きを超えて、いえ、肩書きなんて関係のない、ただの自分になれている気がします。

子供の頃、ただ好きでピアノを弾いたり絵を描いたりしている時、私は自分の肩書きのことなんか何ひとつ考えていなかったはずなんです。

ただ好きなことに夢中になっていた自分が、いちばん本当の自分だということに、ようやく気づきました。

これからも泣いたり笑ったりしながら、肩書きのこと考えなくても自分らしくいられる私に、なりたいです。



私は、自分の学歴がコンプレックスです。

気を悪くする人がいたら、申し訳ないと思っています。


けれど、コンプレックスが自分を強くしてくれることもあるのでしょう。


周りの期待に押され、嵐のような日々の中で、生き残ることができるように。

昨日の自分を、追い越しましょう。


【終わり】

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高学歴コンプレックス 葉方萌生 @moeri_185515

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