第4話 重い肩書き


就職活動のグループディスカッションでは、他大学の人に自己紹介するのがたまらなく嫌でした。大学名を告げた後の、あのなんとも言えない気まずい空気。「すごいですね」という言葉が、重荷になります。

そこからの議論は、自分が進めなくてはならないという無言のプレッシャーもありました。「京大生に任せたら安心」という同じグループの人の視線が刺すように感じられました。

自意識過剰、と言えばそうなのかもしれません。

実際他人はそこまで気にしていないことでしょう。

それは分かっていました。

しかし、一度言ってしまった「私は京大生です」という言葉が、ずっと鉛のようにお腹の中にずしりと居座ってどいてくれません。


ごめんなさい。

京大の中にも、超優秀組と普通の人間がいるんです。

私は、名ばかりの「京大生」なんです。

肩書きだけなんです。

つまらない人間なんです。



顔に書いておくことができたなら、そうしたかもしれません。

世間からすれば、その人の実力がどうであれ、「一流大学の学生」として、期待込めた目を向けられました。

期待。

皆の期待は、私には重すぎるのです。

自尊心が劣等感に、変わっていました。

と同時に、なんとかして、周りからの期待に添えるようにしなければ、という焦りが生まれました。

大学三回生の時にある企業でインターンに参加し、社会人になるための予習だと思いながら、仕事をしました。簡単な仕事を担う傍ら、自ら創出した仕事もありました。



書類選考や一次面接で何度も落ち、失敗に終わった就職活動。

吐くほど自分が嫌いだと思いながら、なんとか内定をいただいた会社で働き出した社会人一年目。大きな会社ではありましたが行きたかった業界ではなく、与えられた仕事をしながら、「ここで、いいの」と自問自答する毎日でした。

そこでの日々は、荒波がなく、人間関係でも付かず離れずの距離を保てるような会社でした。泣きたいほど苦しいと思った仕事はなく、かと言って泣きたいほど嬉しいと思う瞬間もありませんでした。

淡々と、やるべきことをする毎日でした。

同じ大学を出た友人たちが、第一志望だった会社で活き活きと働いているのが、SNSの投稿で分かりました。

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