ラムネと飴玉

熨斗目アオギ

ラムネと飴玉

 公園に、子供がいる。小学生ぐらいの。


「そんなことは当たり前だろ」とどこからかツッコミの声が聞こえてきそうだが、問題なのはそこではない。時間帯だ。


 現在時刻、午後十一時。学生の私は塾の授業が長引いてしまい、普段より帰る時間が遅くなってしまった。いつもなら明かりがついている民家も、もう寝る時間なのだろう、暖かい光がカーテンの隙間から漏れていない。 

 私を照らしているのは月光と街灯だけだ。

 人っ子一人いない帰り道、近道をしようと公園前の道を走っていて、今に至る。


 ブランコに座っているその子供は泣いているのか、俯きながら肩を小刻みに揺らしている。このまま帰るという選択肢もあったが罪悪感にさいなまれた。

 私は意を決してその子供に近づき話しかけた。

「ねぇ君、どうしたの?お家は?」

 目線を合わせようとその子の前にしゃがむ。先程は暗がりでよく見えなかったが、どうやら着物を着ているようだ。不思議に思ったが、最近は多様性に満ちた世界だ。誰が何を着てもおかしくない。

 子供は上目遣いで私と目線を合わせてくれた。そして震えた声で話し出す。


 「おねえちゃん、お菓子、ちょうだい」

 思いもよらない言葉に私は目を見開いてしまった。最近の子は衣食住の「食」を取るのか。

 いや、今はこんなふざけた思考を止めよう。まずはこの子の要望に応えなければ。

「ええと、お菓子。お菓子ね……、これなんかどうかな?」

 私は制服のポケットからお菓子のラムネの袋を取り出した。持ち歩きに便利でなおかつ美味しい。私のお気に入りのお菓子だ。


「それなに?」

「これはラムネっていうお菓子だよ。……君、食べたことないの?」

「うん、ないよ。はじめてみた!」

 何!こんなに美味しいものを知らないだと!?驚愕の事実に体が硬直してしまった。できることならこの子にラムネの美味しさを味わってほしい。

 私は持っていたラムネを差し出した。

「それじゃあ、これは君にあげるよ」 

「いいの……?」

「もちろん!美味しいから食べてみて!」

 その子はラムネを一つ取り出し口にいれる。瞬間、満面の笑みが広がった。

「おいしい……。ありがとう、おねえちゃん!」

 子供の笑顔は良いものだ。ついこっちまで頬がゆるんでしまう。


「それじゃあ、お返しあげるね。手出して!」

 そしてどこからともなく紙袋を出し、私の手に乗せた。何やら小さいものがいくつも入っており、なかなかの重さだと紙一枚越しでもわかる。

「ありがとう……?」

 紙袋を通学バックにしまった。その時。


「それじゃあまたね!」

 眼の前で両手を叩かれ、辺りが白く光った。思わず目を閉じてしまう。

「え、ま、待って!!」

 しかし次に目を開けたとき、私は公園ではなく自宅の前にいた。

 さっきのは何だったのだろうか。玄関に入り自室で考える。

 ふと通学バックが目に入り、先程の紙袋が何だったのか気になってしまった。中身を確認してみると、そこにはビニールに包まれた大量の飴玉が入っていた。味の種類も豊富そうだ。

 なんだか得した気分になり、つい笑ってしまった。一番上にある水色の飴玉を取り口に入れる。……ラムネ味だ。


 なんとなく、またあの子に会いたいと思ってしまった。今度は沢山お菓子を持っていこう。

 空いた窓からは満ちた満月が覗いていた。

 

 

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ラムネと飴玉 熨斗目アオギ @noshime-aogi

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