砂漠とたぷんたぷんの同窓会

丸焦ししゃも

砂漠とたぷんたぷんの同窓会

 定番のクリスマスソングが町中に響き渡る。


 子供のときからずっと聞いているあの曲だ。


 いつまで経っても君は来ないし、恋人はずっとサンタクロースだ。


「はぁ」


 昔を思い出し、ふと息を吐いてみる。

 白い息が出るのを期待したのだが、ただ顔の前を生暖かい空気が通過しただけだった。


「ここらへんは変わったなぁ」


 今、歩いている駅前は昔と随分変わってしまっていた。


 よく行っていた駄菓子屋は跡形もなく消え去り、代わりに燦燦と輝くコンビニがその場所に立っている。


 黒ずんでいて汚いイメージがあった駅舎は、今やシックで綺麗な外観になっている。


「ここらへんかな」


 その駅前にある新しいホテルに、今年四十歳になったばかりの俺は到着した。


 ――今日は中学の同窓会があるからだ。

 


 




 二十代のときの同窓会は安い居酒屋だった。


 だが今日は昔とは違い、少しホテルだ。


「しばらく会ってなかったもんなぁ……」


 そのホテルのロビーに足を踏み入れた俺は少しばかり緊張していた。


 薄くなる頭頂部と同じように、旧友との付き合いは次第に薄くなっていった。


 出世して財布に余裕ができるようになったが、逆に昔履いていたズボンのウエストは余裕がなくなっていった。


「俺だって分かるかな」


 楽しみでもあるが、怖くもある。

 昔とは違う自分の姿を見られたくない。

 そんな気持ちがあるからだ。


 フロアの入口にある掲示板を見ると、同窓会は四階の大広間が会場らしい。


 ホテルのピカピカのガラスの前で身だしなみを整える。


「ふぅ……」


 息を整え、エレベーターに乗り込む。

 再度、エレベーター内にあるガラスで前髪のチェックをする。


 “ピンポン”


 到着音とともにドアが開いた。


「よし……!」


 新雪を踏むかのように慎重にエレベーターから出る。

 

 装飾された扉の前には、昔懐かしの同級生たちが――。


「ん?」


 おかしい。誰も知っている顔がいない。

 見慣れない親父どもが、何かをけん制するようにただうろちょろしているだけだ。


「すみません、関根なんですが……」


 受付をやっている女性に恐る恐る声をかける。


「ここは第三中学校の同窓会の会場で間違いないですか?」

「はい、間違いありません。どうぞ会場のほうへ」

「は、はい……」


 若い女性にネームプレートを渡され、大広間に案内される。

 

 なんだろうこのアウェー感……。

 まるでこれからお見合いでもするみたいだ。


 昔、懐かしの顔に会えると思っていたのに知っている顔がいないとは……。


「ま、まさか関根か!?」


 ネームプレートを胸につけて会場を彷徨っていると、ある老けた男性に声をかけられた。前髪が完全に後退しており、側頭部にほんの少し残る髪が物悲しさを語っている。


「そうですが……」

「お、俺だよ! 中学のときに同じ部活だった田中だよ!」

「田中ぁ!?」


 まさかの名前に変な声が出てしまった。


「せ、関根、お前!」

「田中、お前!」


「「ハゲとるやんけっ!!!」」


 お互いにそんなことを言ってしまった。






「どうしたんだよ田中、その髪は」

「はぁ? お前こそなんだよそのすだれ頭は」

「うるせぇ! 今、育毛中だっての。お前は完全に砂漠化しとるやんけ」


 四十代の男同士で醜い争いが始まってしまった。


「おぉ~! その声は関根と田中か?」


 俺たちがそんなやり取りをしていると、また別の同級生がやってきた。


「その声は佐藤か!?」

「関根……で、いいんだよな?」

「お、おう!」


 昔は小さくて細身だった佐藤がこちらにやってきた。

 今はたぷんたぷんと大きなお腹を揺らしている。


「そ、その腹はどうした? ただのデブじゃん」

「お前みたいな中途半端な中年太りに言われたくねーわ」


 見た目が変わり過ぎて、お互いをお互いだと認識するのに時間がかかってしまった。


「くくっ……」

「ぷっ、それになんだよお前のその頭」


 つい笑い声が漏れてしまった。


 ――何歳になっても旧友とのハゲとデブいじりは楽しいものだ。


 定番のクリスマンソングと同じように、これだけは間違いないと思った。

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砂漠とたぷんたぷんの同窓会 丸焦ししゃも @sisyamoA

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