砂漠とたぷんたぷんの同窓会
丸焦ししゃも
砂漠とたぷんたぷんの同窓会
定番のクリスマスソングが町中に響き渡る。
子供のときからずっと聞いているあの曲だ。
いつまで経っても君は来ないし、恋人はずっとサンタクロースだ。
「はぁ」
昔を思い出し、ふと息を吐いてみる。
白い息が出るのを期待したのだが、ただ顔の前を生暖かい空気が通過しただけだった。
「ここらへんは変わったなぁ」
今、歩いている駅前は昔と随分変わってしまっていた。
よく行っていた駄菓子屋は跡形もなく消え去り、代わりに燦燦と輝くコンビニがその場所に立っている。
黒ずんでいて汚いイメージがあった駅舎は、今やシックで綺麗な外観になっている。
「ここらへんかな」
その駅前にある新しいホテルに、今年四十歳になったばかりの俺は到着した。
――今日は中学の同窓会があるからだ。
◇
二十代のときの同窓会は安い居酒屋だった。
だが今日は昔とは違い、少し良さそうなホテルだ。
「しばらく会ってなかったもんなぁ……」
そのホテルのロビーに足を踏み入れた俺は少しばかり緊張していた。
薄くなる頭頂部と同じように、旧友との付き合いは次第に薄くなっていった。
出世して財布に余裕ができるようになったが、逆に昔履いていたズボンのウエストは余裕がなくなっていった。
「俺だって分かるかな」
楽しみでもあるが、怖くもある。
昔とは違う自分の姿を見られたくない。
そんな気持ちがあるからだ。
フロアの入口にある掲示板を見ると、同窓会は四階の大広間が会場らしい。
ホテルのピカピカのガラスの前で身だしなみを整える。
「ふぅ……」
息を整え、エレベーターに乗り込む。
再度、エレベーター内にあるガラスで前髪のチェックをする。
“ピンポン”
到着音とともにドアが開いた。
「よし……!」
新雪を踏むかのように慎重にエレベーターから出る。
装飾された扉の前には、昔懐かしの同級生たちが――。
「ん?」
おかしい。誰も知っている顔がいない。
見慣れない親父どもが、何かをけん制するようにただうろちょろしているだけだ。
「すみません、関根なんですが……」
受付をやっている女性に恐る恐る声をかける。
「ここは第三中学校の同窓会の会場で間違いないですか?」
「はい、間違いありません。どうぞ会場のほうへ」
「は、はい……」
若い女性にネームプレートを渡され、大広間に案内される。
なんだろうこのアウェー感……。
まるでこれからお見合いでもするみたいだ。
昔、懐かしの顔に会えると思っていたのに知っている顔がいないとは……。
「ま、まさか関根か!?」
ネームプレートを胸につけて会場を彷徨っていると、ある老けた男性に声をかけられた。前髪が完全に後退しており、側頭部にほんの少し残る髪が物悲しさを語っている。
「そうですが……」
「お、俺だよ! 中学のときに同じ部活だった田中だよ!」
「田中ぁ!?」
まさかの名前に変な声が出てしまった。
「せ、関根、お前!」
「田中、お前!」
「「ハゲとるやんけっ!!!」」
お互いにそんなことを言ってしまった。
◇
「どうしたんだよ田中、その髪は」
「はぁ? お前こそなんだよそのすだれ頭は」
「うるせぇ! 今、育毛中だっての。お前は完全に砂漠化しとるやんけ」
四十代の男同士で醜い争いが始まってしまった。
「おぉ~! その声は関根と田中か?」
俺たちがそんなやり取りをしていると、また別の同級生がやってきた。
「その声は佐藤か!?」
「関根……で、いいんだよな?」
「お、おう!」
昔は小さくて細身だった佐藤がこちらにやってきた。
今はたぷんたぷんと大きなお腹を揺らしている。
「そ、その腹はどうした? ただのデブじゃん」
「お前みたいな中途半端な中年太りに言われたくねーわ」
見た目が変わり過ぎて、お互いをお互いだと認識するのに時間がかかってしまった。
「くくっ……」
「ぷっ、それになんだよお前のその頭」
つい笑い声が漏れてしまった。
――何歳になっても旧友とのハゲとデブいじりは楽しいものだ。
定番のクリスマンソングと同じように、これだけは間違いないと思った。
砂漠とたぷんたぷんの同窓会 丸焦ししゃも @sisyamoA
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