第24話 ま、まさか、私が居ない間にこっそり3Pをっ……!!

 狭い部屋の中に置かれた座卓の前に、四人の人物が正座していた。


 一人は僕、その左隣にクマ、右隣に祈里さん、そして座卓を隔てて正面に僕のお母さん。


 ……多分、今のこの状況を世間では「修羅場」と言うのだろう。

 実際に今、僕の額からは滝のように冷や汗が流れている。あぁ、この部屋暑いな……


 いや、現実逃避すんなよ。マジでどうすんのこの状況? 考えうる限り災悪の事態に陥ってしまっているのだが?


「………ユウ君」

「は、はひっ!」


 それまで黙り込んでいたお母さんが突然僕の名を呼んで、思わず素っ頓狂な声を返してしまう。


「私、ユウ君がまだ小さな時からずっと心配していたの。ユウ君が将来大人になったら、素敵な女の子と出会えるのかしら? ユウ君のことを大事にしてくれるお嫁さんをもらえるのかしら? って。」

「……は、はい?」

「でも、そんな心配は杞憂だったみたいね。だって、もう……私の居ないところで、こっそり3Pしちゃうくらいだもの!」

「なっ!//////……」


 僕の隣に座っていた祈里さんが、ボッと顔を赤くして固まった。


「祈里ちゃんはユウ君の幼馴染だったから、そんな関係になるのも分からなくないわ。でも、こんな髪色の綺麗な外人さんとも付き合っちゃうなんて、ちょっと予想外だったわね……」


 そう言ってチラとクマの方を見てくるお母さん。どうやらお母さんは、白髪青目なクマを外国人と勘違いしているらしい。


「でも、二人してそこまでの関係になっちゃったのなら……もうお母さんは止めないわ! 二人とも幸せにして見せなさい!」


 涙目になりながら声を上げるお母さん。


 ……いや、なんか盛大な勘違いをしたまま、お母さんの中だけで話が進んじゃっているんだけど……


「あ、あの、お母さん……誤解しているみたいだから訂正させてほしいのだけれど――」


 そう言いかけた時、クマが突然ぺこりと頭を下げて、


「お母さん、いつもお世話になってます。私、ユキトのクマです」


 いやいやちょっと!? 何勝手に自己紹介してんの? ただでさえ複雑な状況なのに、そんなこと突然言い出したら余計にややこしくなっちゃうじゃん!


 一方のお母さんは、クマからいきなりそんなことを言われてキョトンとした顔をしている。


「クマ?……外人さんにしては珍しいお名前ね」

「いやお母さん、そうじゃなくて――」


 僕は頭を抱えながら会話に割り込む。

 ええい、もうこうなったら秘密も何もない。全部まとめて打ち明けてやれ。


 僕は覚悟を決めてお母さんにこう切り出した。


「……あの、驚かないで聞いてほしいんだけれど、実はこの子、僕の持ってたクマなんだ」

「へっ?」

「ほ、ほら、僕が生まれた時からずっと持ってたクマ。お母さんがよく直してくれた、あのクマだよ」


 クマもお母さんの方を見てこくりと頷く。


「この子が……?」

「うん、信じられないかもしれないけど」


 「私も最初は半信半疑だったけれど、ユッキーの言ってることは嘘じゃないです」と祈里さんもフォローを入れてくれる。


「…………」


 お母さんは暫くの間、黙ったままクマの方をじっと見つめていた。

 そうしてやがて、その表情は鋭く険しいものと変化してゆく。


(やっぱり、信じてくれないかな……)


 僕や祈里さんは、内心ドキドキしながら母親の第一声を待った。


「………息子の言葉を疑いたくなんかないのだけれど、仕方ないわね――」

「えっ?」


 お母さんの言葉に首を傾げた次の瞬間、お母さんはバン!と机を打って立ち上がると、ビシッとクマを指差しながら声を上げた。


「もし、あなたが本当にクマだと言うのなら、今から私の出すクイズに全て正解して見せなさい!」

「……はい?」

「へ?」


 突然そんなことを言われて、訳が分からず固まってしまう僕と祈里さん。

 一方のクマは、スッと立ち上がって、お母さんと向き合いながら答える。


「……分かった。受けて立つ」

「ふふ、お母さんの目は誤魔化せないわよ」


 向き合う二人の間でバチバチと火花が散る。


 ……いや、なんかいきなりバトルが始まる流れになっているのだが、どうしてこうなった?


 目の前で白熱する二人を前に、僕と祈里さんは完全に置いてけぼりを食らい、向き合う二人をポカーンと眺めていることしかできなかった。

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生まれた時から大事にしていたクマの縫いぐるみが、ある日突然美少女になりました クマネコ @kumaneko114

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