第23話 全員集合! からの気まずい沈黙……
シン―――と静まり返った部屋。
床には僕とお母さん、二人折り重なるようにして寝転がっている。
そして、お母さんの手には女性用の下着。
世にも奇妙なこの状況。気まずい沈黙。
(あぁ……詰んだ………)
僕の頭は真っ白になる。
祈里さん、押入れに隠れる際、クマに貸した自分の下着をうっかりしまい忘れていたらしい。よりによって一番母親に見られてはいけないものが、座卓の下に残されてしまっていた。
恐々とお母さんの方に顔を向けると……
お母さんの顔は真っ青。手はわなわなと震えていて。
「………ねぇユウ君……これって……」
「あ、あの、お母さん……これには色々と深い訳があってですね――」
言い訳すらまともに考えられない中で、僕は震えるお母さんに声を掛ける。
「……ユウ君、まさか―――女ものの下着を履く趣味があったの?」
「いやそっちぃ⁉︎」
まさかの想像の遥か斜め上を超えてくる答えに度肝を抜かれた。てか、そっちの方がよっぽど変態じゃないか! 主に僕が!
「ま、まぁでもユウ君も高校生だし、そんな事に興味を持つ年頃でもあるわよね……うん、そうよね」
何が「うん、そうよね」なの⁉︎
……ひょっとして僕、女性の下着を履くような癖のある変態だと母親に認知されちゃった感じ? 納得しちゃったの? 息子がそんな変態であることをそんな簡単に認めちゃっていいのお母さん⁉︎
「でも、それなら……わざわざこんなの買わなくても、言ってくれたら私のを何枚か貸してあげるのに!」
「いいえ結構ですからっ‼︎」
僕が変態であるていで勝手に話を進めないでくれるかな! てか、何で息子に貸すのは満更でもないみたいな顔しちゃってんの⁉︎
ヤバい。このままじゃお母さんから見た僕のイメージが酷く歪んだものになってしまう。何とかして矯正しないと!
でも、どうやって? 僕の部屋にアレがあった事実を、どう誤魔化せばいい?
悩んだけれど良い言い訳が見つからない。
……でも、今更事実を述べたところで、これ以上状況が悪化することなんてないと思うし、変に言い訳して誤解されるより、ここは正直になった方がーー
「あの、お母さん……落ち着いて聞いてほしんだけど……」
僕は事実を話そうと、覚悟を決めてお母さんと向き合い、言葉を切り出そうとした。
その時――
ガラララッ!
「もう駄目! 無理っ‼︎」
「あっ、祈里ちゃん待って………」
いきなり隣の押入れがガラリと開けられ、中から祈里さんとクマが飛び出してきて。
そのまま、僕とお母さん二人が向かい合っている間に、折り重なるようにして倒れ込んだ。
「あっ………」
「…………」
「…………」
「…………」
――僕はついさっき、これ以上状況が悪化することは無いと言ったな?
あれは嘘だ。
倒れ込んだ二人を見て、お母さんの顔は再び真っ青に、そして僕の頭は真っ白になった。
いや何でこのタイミングで出て来るのぉ⁉︎ 今、意を決して事実を打ち明けようとしてたとこだったのに!
◯
(少し時は戻って、押入れの中―― ※祈里視点)
「とにかく今は隠れるしかないよ! 早く! 急いでこの中にっ!」
「あんっ♥ ユキトったら、乱暴………」
「何で私までぇ!?」
なんか話の流れで無理やりクマと一緒に押入れに押し込められた。
マジで意味分からんのだけど……
ていうか、ユッキーのお母さんは私のことを幼い頃からよく知っているから、わざわざ隠れなくても知り合いが家にお邪魔した程度にしか思わないはずなのに。
なのに、クマが一緒に居たせいで、何で私までこんなことに付き合わされなきゃならないのよ……
「――てか、顔が近いって!」
「しっ! 静かに。気付かれるわ」
「むぐっ!」
クマが私の口に手を押し当て、静かにするように言う。
押入れは二段になっていて、私たちが押し込められたのはその下段。
大きなダンボール箱が二つ入るくらいの大きさしかない空間に、私が仰向けになって、クマがその上に四つん這いになっているような構図。
……いや、ずっとこの体勢で居るの普通に無理なんですけど。背中痛いし、暑っ苦しいし、息もできないし……
何より、クマとピッタリくっ付いているせいで、さっきから心臓のドキドキが治らない。
べっ、別にクマとこんな狭いところに閉じ込められて変な気を起こしたとか、そんなことは全く無くて、ただ触れてくるクマの肌が凄く気持ち良いいとかそんなことは全く――って、何考えてんの私はっ⁉︎
ユッキーのお母さん、どうか私の気が動転してしまう前に早く帰ってください!
私がそう心の中で必死に何度も願掛けしていると……
押入れの戸の隙間から漏れ出る光がゆらりと動き、外からユッキーとお母さんの声が聞こえてくる。
……よ、ようやく帰ってくれるのかしら?
一瞬の希望が過った、次の瞬間――
「あいたっ!」
「きゃっ!」
ドサッ!
いきなり押入れの外から衝撃音がして、心臓が飛び跳ねた。
「キャッ! もう何なの――」
耐えられなくて思わず声を上げてしまいかけた時――
チュッ―――
咄嗟に私の唇を、柔らかい何かが塞いだ。
「ふぐぅううううううっ⁉︎!?」
それがクマの唇だと分かって、私は顔面が噴火しそうになった。
え、ちょっとクマ!? こんなとこでいきなり何やっちゃってんの!? 早く離れろって!
脚をジタバタして必死に抵抗しようとするも、もの凄い力で押さえ付けられてしまう。
何この子、力強っ……
暗闇の中、全身がっちりホールドされ、唇も塞がれて何もかもを奪われた状態で、二人密着状態のままやり過ごそうとするクマ。
気付けば着ている服もはだけて、二人同士でぎゅうぎゅう胸を押し付け合って、クマに高鳴る心臓の鼓動も絶対伝わっちゃってる……心も体も熱くなって、頭が溶けちゃいそう……
(も、もうなっちゃってもいいや………)
何が何だか分からなくなって、このまま思考放棄してクマに全てをゆだねてしまいそうになってしまった時……
間一髪で私の脳が理性を取り戻し、私はハッとして我に返る。
もはや呼吸できなくて、体は既に酸欠状態。頭まで酸素が回らずに意識が飛びかけていた。
(これじゃ苦し過ぎて死ぬっ!)
「ぷはっ、も………もう駄目! 無理っ‼︎」
「あっ、祈里ちゃん待って………」
我慢できずに、ガラッ! と押入れを開けて外に転がり出る。
「あっ………」
「…………」
「…………」
「…………」
クマと抱き合うような恰好で倒れ込んだ私の目に、驚いた顔をしているユッキーとお母さんの顔が映っていた。
私は何を最初に口にすればよいのか分からず、つい反射的にこう答えていた。
「………ど、どうも~。お邪魔してます……」
〜おまけ②〜
祈里「……ちなみに、なんであの時いきなりチューしてきたの?」
クマ「? 祈里ちゃんが声を上げようとしたから、バレないように咄嗟に口を塞ぐにはああするしかなかった」
祈里「いやいや、そこは普通手とかでしょ。 相手の許可なくいきなりキスとか、マジであり得ないから」
クマ「分かった。次はいきなりキスしないように気を付ける」
祈里「とか言いながら、本当の気持ちは?」
クマ「祈里ちゃんとチューできて、嬉しかった」
祈里「駄目だこりゃ……」
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