1分ちょっとで読める小説シリーズ

@cola_221

 とある日の駅構内。生涯独身の私は、いつも通り会社に向かうためにホームで電車を待っていた。平日の朝のため、ホームはまだ閑散としている。人はいるが、私と同じように電車を待っているサラリーマンが十数人いるだけだった。女性もちらほらと見えた。

 それは突然で、一瞬の出来事だった。一人の若い女性が、線路に飛び降りのだ。あまりにも急で、周りの人たちは対応できなかった。メガネをかけた一人の男性が左右を確認してから線路の下を覗き込み、その女性の姿を確認した。大丈夫ですか、と声をかけて手を差し伸べるものの、女性からは反応がなかった。ようやく状況を飲み込むことができた私は、メガネの男性と共に女性を助けるべく手を出した。だが、線路に落ちた女性は助けを求めようともせずに、ただ呆然と佇んでいるだけだった。なんなら、少し笑っていた。と言っても、純粋な笑顔なのではなく引き攣ったような顔だった。そして、何やらボソボソと呟きはじめた。よく聞き取ることはできなかったが、まとまったことは言っていなかった。「gさまらたかまtgDdさまらなたppd」のように、携帯電話の誤送信のようなことを、ただひたすらに呟いてた。

 とうとう、電車がきてしまった。駅の左から、猛スピードで突進してくる。私とメガネの男性は身の危険を感じ、急いで黄色い線の内側へと戻った。

 案の定、女性は電車に轢かれてしまった。周りからは、別の女性の甲高い悲鳴や、「嘘だろ…」と声を漏らし、ざわざわとなっていた。人の乗り降りがされたあと、電車は去っていった。あまり言いたくはないが、人が轢かれたなら、線路には死体が残るはずだ。だが、死体は見つからなかった。

 あの女性はなぜ線路に落ちたのか、また、あの言葉は一体なんだったのか。これ以降は、あなたの考えに委ねる。ただ、私にはこれ以上わからない。ほんとうに、謎である。

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