第4話 初ギルド

冒険者ギルドとは、主に冒険者にクエストを斡旋する組織だ。

クエストの内容は採取や探索と様々だが、一番多いのは魔獣の討伐であろう。国の依頼から個人の依頼まで多岐に渡る魔獣討伐は一番需要の多いクエスト種である。

つまり冒険者は討伐のスペシャリスト集団というわけだ。

武闘派が多いのも頷ける。


「今君に時間をかけている暇はないんだ、失せたまえ」


「なんだその口のきき方は!」


武闘派揃いということはある程度荒くれものなわけであり。

何かと目立つリアナを連れての冒険者ギルドとなると最早トラブルは必須項目だったか。


「このC級冒険者のドット様がわざわざ誘ってやってるんだぞ!」


「君の名前は記憶にない、覚えるまでもないが」


「貴様ァ!」


ギルドに入るや否やリアナはこのドットなる人物にナンパされてしまったが、リアナが承諾するわけもない。

グレイの前ではあわやリアナが襲われようとしている。


疾風エアス


相手の冒険者がリアナに殴りかかるが、接触前に彼女は魔術を詠唱する。

風属性の初級魔術、疾風エアス

一人のC級冒険者に対しては充分な威力を発揮したそれは、ドットをきりもみ状に吹き飛ばしていった。


「たまにはこういったストレス発散も必要だな。さあ受付にいこうグレイ」


哀れドット。

グレイの気持ちを置いていき彼女はツカツカと受付に向かって行く。


「ちょ、ちょっと待て!受付?」


「おや、ギルドで何をするか言ってなかったかな?」


「聞いてないぞ」


「ふむ」


リアナは未だ冒険者ギルドに来た目的地を明かしていない。

グレイとしてはまず先程のいざこざを消化したいところではあるが、リアナはおろかギルド内の者も誰一人ドットが吹き飛んだことを気にしていない。

こういったことは日常的に起こるということか。


「このギルドは学園支部だ。もちろん学園のものが多く使用する。あとは分かるかな?」


「まさか、過去の俺が登録してるか見るのか?」


「不正解だが及第点ではある」


いつのまにか採点をしていたらしいリアナが、またも人差し指を立てて言う。


「登録しているか見るだけでは足りない。正解は、登録している前提でログを見る、だ」


「おぉ、なるほど…」


グレイの記憶しているところでは、冒険者ギルドに登録した者は受付にて申告するとログを見せてもらえる。

その冒険者のランク、直前に受けたクエスト、その他少量の個人情報を記録したログを残しておくことでクエストを受けたことを保証するわけだ。

これを見れば多少過去のグレイがわかるかもしれない。


冒険者。

未知を開拓し踏破する職業。

知識がある分憧れないわけはない。

グレイの受付へ向かう足取りは軽かった。


「あの、すみません。ログを見たいんですけど」


「でしたらギルドカード、もしくは学生証をお見せください」


学園都市の冒険者ギルドは学園に所属している間は、ギルドカードの代わりとして学生証でクエストを受けることができる。

課外授業としてクエストを受けることのある学園ならではのシステムだ。


「はいこれ、よろしくお願いします」


グレイは笑顔の受付嬢に学生証を見せた。





「A級…?」


グレイとリアナは現在冒険者ギルドを出て喫茶店に入っている。

彼らは頭を抱えていた。


「今A級と言ったかい?グレイ、それは確かか?」


「何度も見直したし間違いない」


「しかもパーティー登録もなしか…」


ログを見た結果、グレイはA級冒険者としてギルドに登録されているようだった。

冒険者は最初D級から始めクエストをこなし、昇格試験を受けることでランクが上がっていく。

しかしA級ともなると全体の約5%程しか存在しない。

それも単独でA級へ上がったとなると、過去のグレイは相当な手練れだったということになる。


「君がA級など学園在学中は聞いたこともなかったねぇ」


「本当か?俺って謙虚だったんだな」


「隠していたのかもしれないが。グレイ=アーカスを暴くというのは意外と骨が折れるかもしれないよ?」


「あぁ、そんな気がするな…」


過去の自分という虚像が、自分の中で膨れ上がっていくのを感じる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拝啓、過去の自分へ 魔術学園より愛を込めずに あたあめ @atame0305

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ