第3話 初外出

いい策だと思ったが、あのアッシュという教師。

かなりの手練れのようだ。

速攻を決めようと焦ったら逆に速攻で返されてしまった。

自分はどうも勝負を急ぐ癖があるらしい。

この前の時もそうだ。

確か…


この前?





「やぁ、起きたかい?」


目を覚ますと知らない天井、横には知った白衣の美女。

リアナがベッドの横の椅子に座り、グレイを見下ろしていた。

窓から吹く風がリアナの髪を揺らしなんとも絵になる光景である。


「なんか今日は顔色がいいな」


「む、それは女性に対していささか失礼じゃないかい?」


「あっ、す、すまん」


「ふふ、冗談だとも。君はものを知らないからついからかいたくなってしまうな」


コロコロと笑うリアナ。

グレイより彼女は何枚も上手のようだ。


「昨日は徹夜明けだったんだ、少々立て込んでいてね」


「徹夜?もうそっちの用事は大丈夫なのか?」


徹夜するほどの要件があったとは。

無知とはいえ最初に声を掛けたのが申し訳なくなってくる。


「ああ、だからこうして君の元に来ているわけだが。もう起きれるだろう?」


「少し頭が痛むけど多分問題ない。どこかに行くのか?」


「ここは学園都市だ。もちろん学園を中心として都市が広がっているわけだ」


人差し指を立てて得意げに言うリアナ。


「町に出るのか?」


「ああ、デートと洒落こもうじゃないか」


やはり彼女のほうが何枚も上手のようだ。





昼下がりの町は人通りが多い。

市民はもちろん、学園は一日一授業なため午前に授業を済ませた生徒が多くいる。

グレイとリアナは少し遅めの昼食を摂ってから街を歩いていた。

彼女と歩くと少し視線が痛い。

もちろん彼女の顔面が要因なのは言うまでもないが、もう一つ服装に問題があった。

初めに見た時グレイは違和感を覚えなかったのだが、リアナはノウル寮の制服の上に常に白衣を着ているのだ。昼食の際も脱ぐことはなく街中でも構わず着用している。


「どうしたんだい?私をそんなに見て」


「えっと…」


デリカシーについてからかわれたばかりだ。流石のグレイも服装がおかしいとは言えない。


「もしかしてこの白衣かい?」


「あっ」


当てられてしまった、女性は鋭い。


「いいかい?白衣とは実験の際などに衣服を汚さないようにするものだ。つまり私は衣服に気を遣っていると言える」


「ほう…」


「つまりそこらに歩いてる人より一段服装に気を配っているのさ。お洒落とも言えるね、分かるかな?」


なるほど、自分の持つ一般常識とは認識が違うが自分は記憶を持たない。

そこらはグレイより余程気が配れるのか。

グレイはリアナがお洒落と脳内の隅に書き込んだ。

もちろん違う。彼女は白衣を脱ぐのが面倒なだけだ。またもグレイは彼女の掌を転がっている。


「それで、まだ街に出てきた理由を聞いてないぞ」


「もちろん教えるとも。目的地に向かいながらで構わないかな」


「あぁ」


「よろしい」


グレイと横並びになり話し始めるリアナは生徒と言うより教師といったところだろう。

どうやら説明をする際に立てる人差し指は癖のようだ。


「君の記憶に関しておさらいしておこう。

この世界の大まかな国は把握しており、魔術と戦闘、通貨や常識も知っている。ここまではいいかな?」


グレイは同意を示す。


「しかし魔術学園のルールや細部までは知らず、魔術に関しても初級魔術しか把握していない。ここに少々違和感を感じる。」


「違和感?」


「うむ、君は三年だ。三年生で初級魔術までしか把握してないというのは無理がある、最低でも一属性は中級魔術を覚えていないと単位取得は不可能だとも。

加えて三年間も在籍した場所のルールや細部を覚えてないのは何か感じるものがないかい?」


リアナが言うことについてグレイは考える。

生きてきたこの世界の地理や常識を知ってるのなら、在籍してきた学園のことを知らない道理はないと、そう言いたいのか。


「少し無理矢理な結論にも感じるけどな」


「それは私も自覚している。しかし君が目覚めた際外傷は見当たらなかったのだろう?魔術的な要因による記憶喪失と仮定すると、この違和感が意思があるものに思えてくる」


「意思…」


「つまり君の知識や記憶には明確な線引きがあるんだ。誰かが意図的に制限を掛けていてもおかしくはない」


意図的に、というのは穏やかではない。しかしグレイにも若干の自覚はある。

一部の記憶は先を思い出そうとすると存在は感じるが霞がかってしまうのだ。

ただそうなるとなぜそうなったよりも、

誰がやったか、が問題か。

グレイに敵意を持つもの、もしくはグレイ自身?


「ということでまずは君という人間の軌跡を地道に辿っていこうじゃないか。」


「どうやって?」


「やれる手はいくつかあるが、ほら着いたぞ」


リアナが指差したのは二階建ての巨大な建物。

話しているうちに目的地に着いていたようだ。


「ここは…?」


「一つ目の目的地、冒険者ギルドだ」

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