第21話
「トアニア国の王はおるか!?」
諸国の王や大臣達が集まっている部屋にアナスタシアが入って来て開口一番叫んだ。
「はい、ここにおります」
黒い顎髭の六十代の王が集団から抜け出た。
「先程何か大きな音がしましたが何かあったのですか?」
アナスタシアは用意された椅子に座り、杖を近くの兵士に預けた。後ろにジイが付いている。
「何を呑気な話をしておる。貴様の大臣が魔物を城に潜入させた事、もちろん存じておろうな?」
周囲がざわめき、トアニア国の王は目を丸くした。
「ば、馬鹿な! 何の話ですか!? そんな事あり得ません!」
王は周囲を見渡して大臣を探したが見当たらない。
「だ、大臣はどこだ? おい! ラギ大臣はどこだ!」
王は連れてきた兵士に尋ねた。
「そ、それがパレードの後に用があるとの事でお帰りになりました」
「な、なんだと……!」
王は愕然としてアナスタシアに向き直った。
「本当なのですか?」
「どうやら知らぬようだな。メイ! おるか!?」
「ハッここに!」
王達に色々売り付けていた商人のメイが人混みからスッと出て来た。
「トアニア国の大臣が街の酒場で変装してある男と接触していたとの報告がありました。その後その男は城の宝物庫に潜入。我が国の魔力プラントの設計図を持ち出した所をジイと将軍に発見され交戦状態に。やがて魔物の正体を現し、逃げようとした所をバックに討ち取られました」
「な、なんという事だ……」
「やはり恐れていた事が起こったようだの」
アナスタシアの後ろにいるジイが顎に手をやって続いた。
「魔王討伐後、追いやられた魔物の多くは新大陸の山や森に帰りました。しかしこちらの大陸にいる魔物はそうは行きません。そこで知能が高く交渉に応じる魔物達を引き込み、武力の増強を図る者達が現れたようですな。そのせいで盗賊や山賊が凶悪化しております。おそらく今回の話もその一つでしょう。最も設計図を盗み、プラントを作った所でハーシャ様レベルの魔力が無ければ起動しませんが」
アナスタシアが凍るような瞳でトアニア国の王を見据えた。
「まさかこんなに早く国単位で行う者が出るとはの」
トアニア国の王は震えて叫んだ。
「ち、違います! 私はそんな事が起きていた事など知りませんでした!」
「お主が考えた事かどうかはどうでもよい。問題は実際に大臣クラスの者が魔物と手を組んだという事じゃ。そこでじゃ」
部屋の扉を開けると勇者バックと僧侶のミンテアが入って来た。
「トアニア国に我が国の兵士を一万人派遣する。一年程かけ大臣を調査し、今回の事件について詳細を聞いてその根を断つ。魔物は見つけ次第殲滅する。バックとミンテアも同行させればどんな強力な魔物でもイチコロじゃ」
トアニア国の王の顔が引きつった。
「わ、我が国に侵攻なさるおつもりですか?」
「そうではない。お主の為に魔物と手を組んだ連中を追い払ってやろうと言っておるのじゃ」
「それは私の軍で対処すればよいのでは?」
アナスタシアは首を横に振った。
「信用できぬ。お主の軍もどれ程の規模侵食されてるか分からぬしな。芽は早いうちに摘まねばならぬ」
「し、しかし……」
「お主まだ事の重要性が分かっておらぬようじゃな。ハーシャがいなければ魔物の爆発に巻き込まれワシら全員が消し飛んでいたのじゃぞ。これは立派な宣戦布告じゃ。この大陸の国全てを敵に回しているのじゃぞ。本来ならば一ヶ月後にはお主の国が地図から消えてもらうレベルの事態なのじゃ」
トアニア国の王はごくりと唾を飲んだ。
「それを人類の平和が大好きなワシが穏便に済ませてやろうと言っておる。別にワシはどっちでも構わぬぞ。どのみち我が国の兵士を駐留させなければ今回の事をきっかけにお主の国は侵攻されるじゃろうて」
王が周囲を見渡すと、トアニア国よりも強大な国の王達がジロジロと無遠慮に見ている。
「国内に魔物がいたら困るじゃろう?」
「凄く困りますね! どうかよろしくお願いいたします! セレスタミア王国の兵士達の住居もすぐに確保いたします!」
トアニア国の王は完全に折れた。
勇者バックと僧侶ミンテア、盗賊レインの三人が旅立つ日がやってきた。中心広場には多くの民衆が見送りに詰め掛け、アナスタシアとハーシャがその先頭に立っていた。
「頼むぞ三人共。魔王がいない以上倒すべき目標がいつ達成されるか分からぬ。以前とは違った意味で難しい任務となろう。兵士もすぐに送るが気を付けるのじゃぞ」
「はっ。お任せください」
ミンテアは微笑みながらため息をついた。
「は〜、嫁入りはまた遅れちゃうのかな」
「向こうにだっていい男はおるかもしれんぞ」
「フフ、冗談ですよ。全力でバックをサポートします」
ハーシャも話し掛けた。
「私はプラントの仕事があるから行けないの……寂しくなっちゃうね」
「悪い男に引っ掛からないように気を付けなよ」
「お互い様でしょー」
「アナスタシア様を頼むわね」
「うん。バックも気を付けて」
「ああ。心配するな、すぐ帰って来るさ」
アナスタシアがレインにこそりと話し掛けた。
「分かっておるな、ラギ大臣じゃぞ」
レインはニヤリと笑った。
「分かってますよ。しっかり探ります。それに大臣様となればたんまり持ってそうだ」
「あんまりやりすぎて追い詰めるでないぞ」
「ええ。逃げ場所を用意してやるのがお互いのためですからね」
バックがマントを翻して叫んだ。
「では行って参ります!」
「勇者様のご出陣!」
宮廷音楽家のフォン・アルフレッドの指揮の下、勇ましい曲が演奏され三人は再び旅立った。民衆は南の門まで街道の横に立ち手を振って三人を見送り、アナスタシアとハーシャは噴水の前からしばらく三人の後ろ姿を見送っていたが、ついにアナスタシアが口を開いた。
「さて、帰りにフリッツの店でケーキ買おうかの」
「あ、いいですね。私モンブランにしよっと」
アナスタシアと愉快なその他たち げど☆はぐ @RokkouMasamune
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