爆発、再度

「ぷっはぁー!」

「アリスさん、もうやめたほうが……」

「な〜にを言ぅ〜! 私はまら飲めるぞぉ〜!」


 酒を飲み始めて約一時間。アリスさんがデロンデロンに出来上がってしまった。


「ひっく、ぅお〜い! ニホーシュ追加だ追加ぁー!」

「キャ、キャンセルで!」

「おーい邪魔するなぁー! わらしはここから沢山飲むんだぁ〜!」

「アリスさんもうぶっ倒れかけじゃないですか! そろそろ行きますよ!」

「嫌だぁ〜! 行かない行かない行かない行かなすぴぃ」

「あ、あれ……?」


 これは……


「すやすや」


 ……寝てしまったようだ。


「エリシア、ラルム、手伝って」

「「はい!」」


 アリスさんの腕を肩に回して、バランスを崩さない様に反対側からエリシア達に支えて貰う。


「これ、お代です! ありがとうございました!」


 そして俺らは逃げる様に酒場から出た。


「ぐがー」


 物凄い眠りっぷりだな……。


「エリシア、ラルム。アリスさんを家まで送ろう。後は執事さんがどうにかしてくれるだろうし」

「かしこまりました」

「分かりました!」


 それにしても……本当に申し訳ないけど、アリスさん重いな……!

 こんな細い身体なのに……一体どこからこの重量が……。


「ルイド様!」

「っ! な、何? エリシア」

「今、何か失礼な事考えてませんでしたか?」


 何で分かるんだよ!?


「ルイド様は表情に出やすいので」


 ナチュラルにエリシアも心読まないで!?


「顔で読んでます」

「毎度の事ながら俺の顔は一体どうなってるんだ……?」


 そんな事がありながらも、アリスさんの家の前に着く。


「やっぱり大きいなぁ……」


 チャイムを鳴らして、執事さんが出てくるのを待つ。

 その間にちょっと前にアリスさんと稽古をした庭などを眺めて、少し懐かしい気分になったりした。

 と言ってもまだ数日しか経ってないんだけど……。


「お待たせいたしましたルイド様方。申し訳ありませんが只今アリス様はお仕事に……おや、なるほど。酔ってしまわれたのですね? しかも寝てしまわれて……」

「ははは、アリスさんニホーシュっていうお酒を十本も飲んでしまったので

「かしこまりました。後は私が館まで連れて行きましょう。ここまで介護して頂きありがとうございました」

「いえいえそんな……よいしょ」


 起こさない様に執事さんにアリスさんを預け、そーっと元いた位置に戻る。


「それじゃあ、俺らは行きますよ」

「はい。良い夜をお過ごしくださいませ」

「ぐがー」


 屋敷にアリスさんと執事さんが帰って行くのを見届けた後、俺らは宿へと帰り始めた……その時だった。



――――ドゴォォォン!



「「「!?」」」


 俺にとっては聞き馴染みしかない音が聞こえた。


「ルイド様! 今のは……!」

「多分エリシアの想像してるので合ってるよ……急いで向かおう!」

「「はい!」」


 先程の音――爆発音がした方向へと走る。


「ああっ!」


 近付くにつれて煙が上がっているのが見えた。


「エリシア! ラルム! 君達は宿へと戻るんだ!」

「ええっ!?」

「な、何故でしょうか!?」

「こっから先は危険だからだ! 俺だけで行く!」

「っ……かしこまりました……!」

「エリシア……!」

「ラルムも!」

「わ……わわ……分かりました……!」


 そう言って俺は鍵を渡し、エリシア達を置いて煙の発生源へと走る。


「マジか……」


 燃えていたのは普通の家で、火が他の家にも燃え移っている。


「すみません!」

「ん? 何だ君は……って、ルイドさん!?」

「中に人はいますか!?」

「まっ、まだ調査中でありま――」


 その時、後ろから涙を流している女性が現れた。


「娘が! 娘がまだ中に!」

「っ!」


(娘さんがいるのか……!)


 その言葉を聞いた瞬間、俺は走り出していた。


「あぁおい!」


 兵士さんの制止を振り切り、炎がまるで生きているかの様に唸る建物へと入る。


「誰かぁー! 誰か居ますかぁー!?」


 俺は炎を避けながら建物内を走り、そう声を上げる。

 もちろん気配を探知して場所は分かってはいるのだが、念の為だ。

 この煙のせいで何かの下敷きなっているのに気絶している人や、単純に俺が見逃してしまう可能性がある。


「おいしょ!」


 瓦礫によって出入り口を塞がれていた部屋の扉を蹴破り、中で倒れていた女の子を抱える。


「息は……してるな、よし!」


 俺はすぐにその部屋にあった窓から飛び出し、着地する。


「う、上から人が!」

「あれこの人って……闘技力祭の!」

「女の子を抱えてるぞ!」

「リオコォ! リオコォォオオオ!」


 先程まで泣いていた母親が彼女を抱き抱える。


「お母さん。今は病院へ運ぶのが先決です」


 そう言って周りの兵士がお母さんから娘を抱き上げ、担架に乗せて運んで行く。


「俺はもう一度行ってきます!」

「え!?」


 気配的にあともう一人あの建物の中にいる!


「大丈夫ですかー!? 今行きます!」


 俺は崩れた建物の残骸などを押し退け、倒れた人の元へと駆け寄る。


「う……うぅ……」

「ともかく急いで出ないと……! 立てますか……!?」

「あんたは……と、闘技力祭の……」

「ははは、そうです」


 やっぱり皆んな知ってるんだなぁ……。


「そうか……ならば……ここで始末するまでだ」

「っ!?」


 そう思ったのも束の間、男の人が隠し持っていたナイフで俺の腹を掻っ捌こうとして来た。


「あっぶな!?」


 ダンジョンで殺気に敏感になっておいて良かった……!


「流石に避けられるか……」

「い、いきなり何するんだ!?」

「何、と言われてもな……分かるだろう? 殺そうとしたんだよ」

「な、何を言って……」


 俺を殺す? 何で?


「最近お前らに嗅ぎ回られて面倒だからな……まずはその調査の警護をしている奴の中でも一番強いお前から始末して行く事になったんだ」


 マジかよ……というか、俺これ相当マズイ事に巻き込まれているんじゃ……。


「だから……抵抗するなよッ!」


 そう言って男が素早い突きを繰り出す。


(速いっ……!?)


 この人、かなりの手だれだ。


「ふぅっ!」


 俺はすぐに短剣を取り出して突きの威力を右側に受け流し、男の背後を取って、脇腹を蹴る――が、素早い動きで避けられる。


「良い動きだ。だが……やはり体術なんかは素人の動きだな」

「ぐっ!」


 実際そうだから何とも言えない……!


「とうっ」


 男が素早くナイフを振るい、俺はそれを受け流して今度は短剣を首に持って行く。


「速いな……だが、速いだけだ」


 そう言うと男は何と俺の短剣を


「!?」

「お前の様な奴が戦桜せんおうを倒すとはな……世界が平和になりすぎている証拠だ……」

「な、何を……」


 何を言っているんだ?


「ふん、ではそろそろしまいに――ん?」


 その時、男が耳に手を当てた。

 戦闘中にあんな隙を……それほどナメられてるってことか。

 だが、今攻撃しても受け流されてしまうのは目に見えているので攻撃出来ない。


「何? 撤退? バカな、何故……なっ!? アイツがっ!?」


 というか誰と話しているんだ? 誰もいないのに……。


「分かった。すぐに行こう」


 そう言うと男はこちらをクルッと向く。


「すまないが予定が入った。この勝負はまた今度にしよう」

「逃がすかっ!」

「ふっ」


 俺はすぐさま前方にかけて短剣を振るったが、それも受け流されて男は窓を割って落下して行った。


「くそっ!」


 すぐに俺も窓を飛び降りたが、男の気配はもう無くなってしまった。


「……くそ……」


 先程、男に短剣を受け流されたシーンが何度も頭をよぎる。



――――速いな……だが、速いだけだ。



「はぁ……」


 速いだけ、か……。

 やっぱり、俺はもっと強くならないとだ。

 闘技力祭で優勝したとはいえ、俺の攻撃を受け流す様な人がいたんだし。

 帰ったらちょっと久々にイメージトレーニングでもしようかな……。


「ルイド様!」

「あっ、兵士さん」

「今の男は……!?」

「わかりません。でも、この爆発の犯人と関わりがある……もしくは犯人そのものだと思います」

「何!? お前ら! 聞いたな! すぐに捜査網を敷け! その男を捕らえるぞ!」

「「「「「はいっ!」」」」」


 そうして兵士さん達は少数を残してどこかへ行ってしまった。


「さて、俺も帰るか」


 そうして俺は、エリシア達が待つ宿屋へと帰るのであった。

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雑魚ゴブリンしか召喚出来なくてパーティーを追放された俺、ダンジョンで召喚士を召喚出来る様になったので最強の冒険者として気ままに生きる〜召喚した召喚士は新たな召喚士と神話級モンスターを召喚出来る様です〜 鬼来 菊 @kikkukiku

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