一方その頃……――⑦
……ここはどこだ?
辺りを見回しても真っ暗闇で何も見えない……。
というか、俺は今どうなっている? 確か俺はモンスターに喰われて……ああ、そうか、死んだのか。
…………クソがっ! アイツに……アイツに何も出来てねぇのにぃ……! 死んじまうなんて……!
右腕を勢いよく振り下ろすが、虚空を切り、何の音も残さなかった。
クソッたれが!
「……まあ落ち着けよ。ヴァルト」
!? 誰だ!?
振り向いた先には、俺と全く同じ姿をした人が立っていた。
何だアイツ!? くそっ! 体動かしてんのに移動出来ない!
「だから落ち着けってんだ」
こいつ……俺の心が読めるのか……?
「ご名答。まあ俺とお前はまさに一心同体。お前の心の中や考えてる事は俺には筒抜けだ。それにここはまず、お前が声を出せない空間だしな」
試しに喋ろうとするが、確かに声が出ない。
何者なんだ、あいつは……!
「俺か? 俺は【
…………は……?
何を言っているんだ?
「だから言っただろう。俺とお前は一心同体だと」
違うそうじゃない! 【剣聖】 って何だ!
「あぁ、お前のスキルだよ。スキル」
俺にそんなスキルは無いぞ!
「ならば新しく増えたという訳だ。おめでとう」
増えた……!?
スキルが何の理由も無しに増える訳が……!
「だが現に今俺はここにいる」
お前がいるからなんだ!
「先程ので分からなかったか? 俺は、スキル〝そのもの〟だ」
そ、そのもの……?
「そうだ。そのものだ。【剣聖】というスキルのな」
……はっ!?
「いいか、スキルはな、生きているんだ。
訳が……訳が分からないぞ!
「分からなくて良いさ、今はな。だが、そろそろヤバいぞ」
ヤ、ヤバいって……何がだ!?
「少し現実世界を見せてやろう」
直後、真っ暗だった空間が何かの映像に移り変わる。
『ガアァァァァアアアアア!』
うっ、うわぁぁあああっ!
映像には、大量の歪に並んだサメのような歯と、大量の唾液が映っていた。
「今のお前の視界だ」
な、何だよ……何なんだよ……!
「お前は今、ダンジョンの深層にいるモンスターに喰われる0.7秒前の状況下なんだよ」
れっ、0.7秒前!? 死ぬ寸前じゃないか!
「ああ、普通の奴だったら死ぬ。だが安心しろ。この空間から出た瞬間、俺を発動するんだ。そうしたら、力を発揮してやる」
ち、力……?
「俺、【剣聖】の効果は、『如何なる障害をも破壊する』、だ」
如何なる障害をも……破壊……!?
「そうだ、今まさに目の前にいるモンスターや、概念的な障害、更に言えば、このダンジョンすら、破壊出来る。障害だからな」
っ!?
「そうだ、お前はそんな強大な力を手にしたんだよ」
でっ、でも発動する時間がないじゃないか! 0.7秒だろ!?
「いやある。お前が本気でやれば、0.5秒程で俺を発動出来るはずだ」
ほ、本当かよ……。
「どちらにせよ、このままだと俺もお前も死ぬぞ? お前はせっかくアイツをボコボコに出来る力を手に入れたのに、何もアイツにしてやれずに喰われて死ぬのを受け入れるのか?」
俺は……
「どうなんだよ?」
俺は……アイツをボコボコにしたい。元々ここに来てユミルが死んじまったのは、全部アイツのせいだ! 俺がユミルの意思を、恨みを、全部全部受け継いで、アイツを死ぬよりも辛い目に合わせてやる!
「ふっ……それでこそお前だ。んじゃあ今からこの空間から出す。すぐに俺を発動しろよ?」
分かった。
「それじゃあ、また今度な」
すると、周りに映っていた映像が俺の目を覆う様に集まって来て、その映像が集まるにつれて段々と映像が加速していった。
そして――
『アァァァァァァァアアアアアアア!』
俺は、現実世界に戻った。
「【剣聖】っ!」
俺は言われた通りすぐに唱え、ギュッと目を瞑る。
仮に先程の会話が走馬灯の様な妄想上の出来事だったならば、俺は死ぬ。それが怖かったからだ。
だが……その時は来なかった。
「あ……れ……?」
ゆっくりと目を開けると、先程まで俺を喰おうとしていたモンスターがいなくなっていた。
「さ、さっきのモンスターは!?」
辺りを見回しても何もいない。
「まさか……さっきのは本当にあった出来事なのか……!?」
そう思った俺はスクッと立ち上がって、ダンジョンの壁に手を向ける。
そして――
「【剣聖】」
と、たった一言だけそう唱えた。
その瞬間、そこにあった壁が消えた。
跡形もなく、塵も残さず。
「……はは」
何だこれ。
最っっっ高じゃないか!
これがあれば俺は……俺は無敵だ!
「あっはははははは! 待ってろよ
そうして俺はルイドをボコボコにする姿を想像して爆笑しながらも、まずはギリダスを探すためにダンジョン内を歩み始めたのであった。
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