第33話 戯れ
グレイをおぶさり、右腕にはフロル、左腕ではクレアを抱えながらニレイルは寮に戻っていた。3人ともまっすぐ歩くことはできず、かろうじてニレイルに抱きつくことが出来たのでこの状態になっていた。
ニレイルはというと気を使い、酔わないようにしていたため、今も平常時と何ら変わらない。変わるとしたら、思っている以上にこの3人が自分のことを思ってくれていて嬉しいくらいだった。
そんな中、歩いているとひとつの人影が現れる。仮面を着け、ローブに身を包んでいるため、正体が分からない。
「一体何の用ですか?」
「…」
ニレイルが問いかけても何も反応がない。人影はおもむろに右手をニレイルに向けると風の刃がニレイルを襲う。ニレイルはしゃがんで風の刃を避けると地面にそっと3人を置いた。
相手の正体は分からないが見当はついている。外部の人間の場合、サリアが敵の侵入を察知しているはずだ。それは前回の侵入者達が来た時の対応を見れば分かる。
ただ人間には2つ以上のスキルを持つものもいない訳では無い。索敵をすり抜け、風のスキルをもっている場合だって考えられるのだが、顔を隠す必要が薄い。
それに外部の人間だった場合、ニレイルを狙う理由がない。殺害が目的ならば他種族を無差別に殺していくべきだし、情報収集なら襲う必要がない。
そして教師である可能性、これも低い。まずニレイルの正体を知っている時点で1人で挑むようなものはいないだろう。まあ最もそれは狙いがニレイルであればの話だが。
「教師ではないけど...特別授業だ。かかって来い。」
手で煽りながらニレイルは相手が生徒だと思いながら言葉をかけた。人影はやはり何も言わない。また同じように人影から風の刃を放たれる。今度は1つではなく3つだった。
ニレイルは人影に近づきながら風の刃を避ける。人影の前に立つとニレイルは右足の回し蹴りを放つ。人影は少し下がることで難なく攻撃を避けた。
(ん?これは??)
ニレイルは違和感に気づく。ニレイルは気を巡らせ、一定の範囲内は手に取るように把握出来ている。だから攻撃が来るのであれば例え避けれなくても覚悟はできていた。
ただ長年死線にずっといたニレイルはなんとなくで攻撃が来るかどうかも少しだけわかる。
そんなことを考えていた次の瞬間、右の頬に冷たいものが当たる感覚がある。突如ニレイルの右頬にナイフが現れたのだ。ニレイルは首を回してナイフを受け流した。ただ完全に避けれた訳ではなく、右の頬から血が流れる。
(触れた瞬間に具現化するナイフって感じか...少し動きにくくなるけど...)
ニレイルはスキルを発動する。体全体を守るように鎧が生成された。動きは多少鈍くなるが、あのナイフくらいなら通さない。
「さてと...こっからはどうする?」
完全に防ぎきったわけではないがそれでも即席の対応としては大きい。すると人影の周りに巨大な剣が無数に作られた。
不可視のナイフはやめ、大剣で鎧ごと貫くつもりだろう。
「そうだ、それでいい。」
おそらく、不可視にできるものの大きさが限られているのだろう。ナイフでは攻撃できないと踏んで大剣にシフトチェンジしたのだ。ニレイルは生徒に接するように笑いながら言い放つ。彼らにとっては本番はここからだった。
死刑囚、異種族学校の職員になる カマキリキリ @kakaki0820
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