第12話【底辺Vtuber、記念に飲酒】

 日曜日。

 本来休みであるはずの日でも、底辺Vtuberの朝は早い。


 早朝五時。

 私は目を覚ますと、パジャマからランニングウェアに着替えて外に出た。


 快晴。ランニング日和だ。

 快晴に加えて、今日は嬉しいニュースもある。

 気分はさながら最高潮。


 今日は心なしか、いつもより足取りが軽かった。


 三十分ほど走ったらシャワーを浴び、朝ご飯を食べる。

 いつも通りの朝……ではない。


 嬉しいニュース。

 『柳 祢子やなぎ ねこ』チャンネルの収益化。 


 一週間前に歌った『希望』の切り抜きを投稿したことで、収益化の条件を達成。

 夢でも見てるのかと何回確認しても、結果は同じ。


 おかげでここ数日は、ストレスのたまる教師の仕事も、まったく苦にならずに乗り越えられた。


 今日は二十時から、記念配信をする予定だ。

 収益化の条件を達成したことは、配信内で発表する。


 この喜びを、早くみんなと共有したい。

 一緒にお酒を飲むのもいいかな?


 そんなことを考えながら、私はTwitterを開きツイートの文面を考える。


柳祢子:「今日は二十時から! 重大発表があるにゃ! みんなお酒もって配信に集合!!」


 ツイート完了の文字を見ながら、心を躍らせる。

「……お酒買いに行こ」


 十九時五十分。

 ゲーミングチェアに座り、配信の準備中。


 サムネイルもかわいくできたし、諸々の準備も全て済ませた。

 待機している人数もそこそこ。


 あとは配信をつけるだけだ。


「みんな喜んでくれるかな……」


 嬉しさ半分、緊張半分といったところ。

 朝とはまた違う感情が私の中でうごめいている。


 そうこうしているうちに、時刻は二十時。

 私は配信開始のボタンを押した。

「こんにゃ~! ねこはやなぎ、柳祢子だにゃぁ~。みんな来てくれてありがとうにゃ!」


『こんにゃ~』『待ってました!』『重大発表wktk』『こんにゃ~!』


 同時視聴者は1000人超。コメントの流れも前より格段に速くなっている。

 これはもう、早く辞めてやろうとか、冗談でも言えないな……。


「今日はみんなに嬉しいお知らせ! みんなちゃんと、お酒の準備はできてるかにゃ~⁉」


『もちろん!』『買ってきたよ!』『こんな日にはスタゼロ一択!』


「あはは、酒カスがまぎれてるにゃね~。でもみんな、お酒開けるのはちょっとまってにゃぁ~」


『はやくはやく』『もう待ちきれないよ』『重大発表はやく!』


 リスナーの気分も上々。

 もうじゅうぶん焦らしたし、頃合いだろう。


「待ちきれない子もいるみたいだし、もう言っちゃおうかにゃ? みんな、祝杯の用意はいいかにゃ~⁉」


『いつでも!』『OK!』『準備万端!』


「それじゃあ発表のあと、かんぱーいで一緒にお酒開封にゃ! いくにゃよ~!」


 缶のプルタブに手をかける。

 

「柳祢子チャンネル、収益化だにゃ~!!! それじゃあみんな、ねこの収益化を祝ってかんぱーい!!!!」


『うおおおお!』『かんぱーい!』『収益化⁉ おめでとー!』『収益化めでたい!乾杯!』


 カシュッと甲高い音が鳴り、めでたい瞬間を祝うように部屋の中に響いた。


―――

柳祢子やなぎねこ

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Vtuber、はよ辞めてぇ! 不二咲ロップ @Kanzaki_Ayame

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