第55話 絵違い、ゲットだぜ!with絹田狸々

 火曜日。東京の中でもかなりの一等地である区に俺と五反田マネージャーは来ていた。今日のコラボは他の会社の仔鹿ショームさん。そのお相手のスタジオでオフコラボをするために買い物や劇の公演でも来たことのない高級ビジネス街に来ていた。


 売っている物もテナント料もめちゃくちゃに高いために縁がなかった場所だ。そんな場所をスタジオとはいえ借りているレインボードロップスの売り上げはかなり良いのだろう。Vtuber事務所の中で一番のライバー数を誇る業界最大手は伊達じゃない。


 そんな巨大な会社とコラボをするのだからマネージャーも一緒にやってくる。相手への心象もそうだけど、今後のコラボとかを考えたら顔繋ぎは大事だ。今回のオフコラボは珍しいだろうけど、コラボ雑談とかは相手次第では成立しそうだとのこと。


 まだ立ち上げ1年ちょっとの駆け出し事務所としては、粗相のないようにしたい。存外事務所同士の繋がりはどこでもあるようで、ライバー同士が嫌ではなければコラボもしやすいとのこと。


 個人配信者ともコラボして良いかどうかは事務所次第。エクリプスとしても相手次第、らしい。申し出は山ほどあるものの大半は売名行為らしく、エクリプスとしては基本は取り合わないのだとか。一々相手の素性を調べるのも手間がかかりすぎるために精査する時間もなく、そんなことをするくらいなら身元がはっきりしている事務所のライバーというのはマネージャーからしても楽らしい。


 エクリプスが個人とコラボをしたのはネムリア先輩だけ。絵師仲間とコラボお絵描き配信をして、それ以外で個人とのコラボは何があるかわからないからと基本なしの方針。ネムリア先輩の場合は相手の身元がしっかりしていたというのも大きいとのこと。


 そんな話をしていたら目的地のビルに着いた。行く場所を聞いて私服で行くのは憚られると思って冠婚葬祭用に購入したスーツを引っ張り出してきた。そのせいで2人ともスーツだからただのビジネスマンにしか見えないはず。


 一階で受付をしてセキュリティカードを貰い、指定の階へエレベーターに乗って移動。着いた先に相手のスタッフさんがいたので挨拶をすると、スーツで来たことについては特に笑われず案内をされた。


「立地とかで他の事務所の方は結構かっちりとした服装で来られるんですよ。歌ったり踊ったりすることもない初めての人は男性だとスーツなことが多いです。ウチの子でも気が引けるってスーツで来て更衣室で着替えたりしてますし」


「自分だけが変じゃないって知れて良かったです」


 フロア丸々借り上げているようで、他の会社の人はいないようだ。他のスタジオでは収録がされているようで、使用中の部屋がいくつかあった。今回案内されるスタジオは小さめの場所のようだ。パック剥きだけだからダンスとかができるスタジオに案内されても困ったから、スタジオの広さを見て安心したほどだ。


 スタジオに入ると結構な数のスタッフさんがいたので挨拶をする。カメラマン、パックを剥いてくれるスタッフ、相手のディレクターさんなどに挨拶をした後、部屋の奥にいた人がこちらに近付いてきた。


 黄色いブラウスを着て、薄いベージュ色のスカートを履いた人。髪は肩にかかっていて首元にチョーカーをしている。そんなパッと見では小柄の女性の人だったが、その人の態度を見てなんとなく正体を察してしまった。


 だからこちらで先手を打つ。


「こんにちは、仔鹿ショームさん。初めまして、エクリプスの絹田リリです。本日はよろしくお願いします」


「え?リリ君、この人が仔鹿さんなのかい?」


「チェ〜!せっかく騙そうと思ったのに!どこで気付いたの?」


「ディレクターさんの後に挨拶をしてくるスタッフさんっているのかなと思いまして。それに結構挑発的な顔をしていらしたので、何かしようって考えを隠せていませんでしたよ?」


「8割は騙せるんだけどな〜。次は話す順番を考えよっと」


 男性にしてはだいぶ高い声。低い女性の声と言われても納得しそうだ。チョーカーで喉仏を隠しているし、眼に映る肌はしっかりとお手入れをしているようで髭とか腕毛は見えない。本当に男性に産まれてしまっただけで心は女性なんだな。


 彼の言うように大半は騙せる見た目だ。声も地声じゃなくてあえて高い声で話しかければ素でも割と女性と言えるかも知れない。


 配信の前に軽く打ち合わせをした際に重要なことを聞いておいた。


「俺はあなたをどちらで扱えば良いですか?男性として?それとも女性として?」


「女の子!リリ君のホストっぷりを期待してるよ?そのスーツに見合った仕事をしてちょうだい?」


「ホストはやったことがありませんが……。それにこれはあくまでビジネススーツですけど、できるだけエスコートしましょう」


「ネクタイ外してボタン何個か外さない?そっちの方がホストっぽい」


 性自認が違う人だ。ここは間違えちゃいけない。ホストのように促してくるのは如何なものかと思うけど。


 配信のテストもして問題なくショームとリリの姿を映せると確認して、時間通りに配信を始めた。コラボは何度もしたことがあっても、よその事務所の方と、よそのスタッフさんに囲まれてオフコラボでしかも相手を女性扱いしないといけないということでいつもより緊張しながらスタートを切った。


「みんなー、こん!レインボードロップスの仔鹿ショームだよ。今回は待望のウィザーズ&モンスターズのパック剥きということでスペシャルゲストを呼んじゃった!じゃあ自己紹介どうぞ!」


「皆さん、こんばんは。エクリプス所属の絹田狸々です。以前ウィザーズ&モンスターズのアプリ、バトルクロスで仔鹿さんが僕の配信に凸してきたことで今回コラボをさせていただくことになりました。本日はよろしくお願いします」


『パック剥きキチャー!』

『サムネでも思ったけど、本当にタヌキやん』

『何この低音ヴォイス。心の奥の乙女がキュンキュンしちゃう』

『ワタクシこの方に惚れましたわー!チャンネル登録してきましたわー!』

『おい、ショームのメンバーども。いきなりフルスロットルにするな』

『え?ショームちゃんのメンバーなのにリリに惚れるの?何で?』

『ショームのメンバーはコラボ相手の男に惚れる性自認男のおっさんばっかだから……』

『コメントでロールプレイしてるってこと?レベルたっか』


 テストの時にも聞いたけど、ボイスチェンジャーって凄いんだな。今ではちゃんとした可愛い女の子の声だ。女性と比べても高い声だろう。


 それとコメント欄の名前表示が凄い。メンバーシップに入っているからか緑色の名前の人ばかりだ。これ、俺のリスナーは肩身が狭いんじゃないだろうか。


 そんなことを思いながら仔鹿さんが企画説明をしてくれる。お互い2箱ずつ買ってきて、その箱をシャッフル。どっちが買ったものなのかわからないようにして改めて2箱を選んで剥いていく。事前にパックの上部はハサミで開けてスタッフさんはカードを取り出すだけになっている。


 まずは仔鹿さんの1箱目から。


 早速見えたカードが懐かしいものだったから2人して声を出してしまった。


「あー、『闇に誘うエルフの戦士』!絵違いだ。これ初代主人公の初期デッキに入ってたよねえ」


「懐かしい。昔のカードだと持っている斧がほとんど見えてなくて、漫画で初めてそんな形だったんだってわかるんですよね」


「さすがに今だとテーマもない通常モンスターだから使い道が……。コレクションカードだね」


『昔なんてそんなテーマとかなくて、あくまで種族とか属性とかばっかりだったし』

『テーマカード(5枚)とかそんな時代の産物だからな。今だと活かせないのは、それはそう』

『主人公のカードだし、リメイクとかで大強化ワンチャン……!』

『エルフサポート?エルフって昔のカードばかりだから数枚きたところで何の解決にもならないだろ』


 昔は左手で闇へ誘惑するような不敵な笑みを浮かべたイケメン戦士だったが、今回は斧を構えている全身絵だった。


 主人公とか昔のキャラが使っていたカードはリメイクされたりサポートカードが追加されたりして今の環境でも戦えるようになったりするけど、全部のカードが救済されるわけじゃない。


 昔はカードがあまりなかったから、とにかく色々なカードが出た。ネタカードとかでもないと昔のカードはあまり強くされない。主人公が使っていたカードは割と強化とかされがちだけど、この『闇に誘うエルフの戦士』は特に強化が来ていない。


 イケメンカードだから人気はある。


 続いて2枚目。アニメの2作目の主人公のモンスターカード。融合素材になるようなカードで、ヒーローとしてカテゴリができているカードだ。今だと入れるか微妙なカード。


 これ以外に強いヒーローカードが増えすぎたのが悪い。ヒーローは種類が多すぎてアニメ初期の頃のカードは確実にパワー不足だったりする。


 だけどこのカードを見て仔鹿さんが大きく反応した。


「うわ、うわーーー!『WHERO・ウィングマン』だ!女の子と融合して両性になるからえっちすぎて当時ずっと使ってたなあ!」


「え?そういう理由で?主人公のカードだからとか、カッコイイからとかではなく?」


「そう!男でも女でもない主人公のエースカードっていうのがもうたまらなくて!この両性のカードが伏線だなんて気付かなくて昔のデッキを今でも持ってるよ!初代はオリヒロとの恋愛、2作品目は男女どっちでもない存在と添い遂げる。ホビーアニメとして色々と爪痕残したよねえ」


『恋多き乙女、ショーム』

『大丈夫だ。当時の俺もそういう目で見ていた』

『語尾とかギャグのぶっ飛び方とかよく言われていますけど、好きですわよ。2作目』

『あのギャグとシリアスさがイイんだろが!』


 エッチとか言われてもフォローできない。カードをそういう目で見たことがないからな。あくまでカッコイイとか可愛いとかは思うけど、エッチかどうかは。


 そういう意味で凄く話題になったカードもあったけどね。そのカードのおかげでそのカードが出た時は原作のアンケートがぶっちぎりで1位だったとかで当時かなり話題になったらしい。


 そのカードの世界に数枚しかないカード、今だと億の値段が付いてるんだよな。英語版の世界に3枚しかないバージョンの奴はアメリカでオークションにかけられて日本円で5億とかで落札されて話題になった気がする。


 それからもカードを剥いていき、今回の絵違いではなく通常バージョンの絵のカードだったためにそのカードの説明をしただけだった。


 今回のパックはアニメの1~3作品目の人気カードが再録されていて、絵違いカードも全部ではないが結構な数が収録されている。4~6作目のカードは来月発売のパックで収録されている。


「さっきの両性だから好きって奴、ルトゥナも同じ理由で好きなんだよね。CP厨ってだけじゃなくてそこにも惹かれてデッキ組んだんだよ。ほら、ボクが凸した時に使ってたのってフレストオーダーのデッキだったでしょ?」


「ああ、はい。あの事故らなければ負けない理論値デッキ。主人公のナクスとヒロインのミナのカップリングが好きだと聞きましたけど、ルトゥナの在り方も好きだったんですか?」


「そうそう。ルトゥナは両性っていうより男性の中に女性の核が入り込んでいる形だけど。そういうのアリなんだって思ったら余計に好きになってね。しかもルトゥナは元の緑豊かな世界に戻したいだけでしょう?それが未来の世界だと悪って扱われるのは酷いなって。うん、だからやっぱり好き」


『コンマイはなぜ鬱ストーリーを作るのが好きなの?』

『第3期の主人公たちも一応現状の世界を維持する目的でルトゥナたちと敵対するんだけどね……』

『おらあ嫌だよ。あんな腐敗し切った世界。アレがフィロたちの守った世界の末路って考えると終わってるよな』

『ナクスたちの世界は極少数のとある血族が一生守り人として全てを犠牲にして!新世界では一般人たちが大量に犠牲になる!(犠牲が出るという点では)何も変わらないじゃないか!』

『↑覚悟とか数とか世界の在り方とか、色々違うのだ!』


 霜月さんも仔鹿さんも使っているフレストオーダーというテーマ。


 元はアニメ5作目のラスボスキャラが使っていた王道勇者パーティー、というようなカード群だった。ラスボスのデッキだけあってカードの効果もめちゃくちゃ強くて、主人公のデッキかラスボスのデッキばかりが公式大会で使われたくらいだ。


 カードの裏設定の初出はアニメの設定資料集。そこにフレストオーダーの世界観が出て、その後割とすぐ同じフレストオーダーの新規カードのフィロたち2期組がカード化。フィロのイラストが茶髪になったナクスの幼い姿だったというのもあってかなり話題になった。


 それからも関連カードが出て、設定が発表されて世界再生と別離の物語からファンが一気に増えて、3期組で明らかにナクスのようなルトゥナが出て敵対しているっぽくてドカンと火が点いた。


 その頃は珍しくカードの他にカード背景を語るような白い紙が入っていた。アニメの裏設定だったり、カードの設定が書かれていたのでそれを目当てにパックを買っている人もいたくらいだ。


 しかも最初なんて3期ということをしっかりと告知せず、ただルトゥナだけ出してファンを混乱の谷に落とすというもの。ルトゥナがモンスターカードになったのはだいぶ後で、マジックや罠カードでその存在が示されるだけ。


 お預けを食らったファンは新弾をまだかまだかと待ち続けたわけだ。


「あの頃辺りから転売が本格化し始めてパックを買うのも大変になりましたね。僕もあの設定が書かれたTipsの紙を保管していますけど、あれを単品で売ってる人とか見ましたよ」


「あー、いたいた。あの紙もランダムだからおまけにしては値段がついたせいで転売とか凄くてね。結局パックにおまけを入れるのはコストもかかるし転売屋が儲かるだけだからって1年ちょっとくらいで廃れたんだよ」


「情報が欲しい人は設定資料集を買いますからね。実際そういうのとか、コンセプトアートブックとか買っちゃうんですよ。だってそれを求めているんですから」


『5~6年前かな。あの頃は本当に酷かった』

『何で中身のカードよりおまけの紙切れの方が転売価格高いんですかね……』

『今もプレ値付いてるぞ』

『一応同じ内容の設定は公式が販売したシナリオ集とかに入ってたんだけどなあ』

『当時のものってことに価値があるんだよ。あの頃の未開封BOXも割高だし』


 転売とか本当に勘弁して欲しい。ファンが欲しいから買うのであって、転売目的の人が買い占めたら本当に欲しい人の元にカードが届かないじゃないか。


 あと、偽情報で詐欺する人とかもかなりいるらしい。ネットショッピングが信用できない理由だ。信頼できる会社から新品で買う以外にネットで買い物はしないようにしている。中古品とか、どんなものが届くかわかったものじゃない。


 そんな雑談も挟みつつ5枚目。レアカードで絵違いではなかったものの、コレクター的には嬉しいカードだった。


「『廃棄暴走竜サイコ・クラッシャー・ドラゴン』だ!ライバルキャラの闇落ちってどうしてああも心に来るんだろう……。闇落ちが楽しみになったのは間違いなくキッズアニメとウィザーズのアニメのせい」


「あ、楽しんでますね?僕としては悲しい感情の方が強かったんですが……。ライバルにはライバルとして健全に敵対してほしいというか」


「女の子が敵に洗脳されても別にって感じだったなあ。それよりは端正な顔立ちの男の子が闇落ちした方が主人公に助けてほしくて頑張れーって応援してた」


「感じ方は人それぞれですね。このサイコ・クラッシャー・ドラゴンは再録されてもだいたいスーパーレア以上だったのでむしろレアなのは珍しい気がします」


 カードのレアリティとしてはノーマル、字だけ銀色のレア、絵柄だけ光加工が入ったスーパーレア、絵が光っていて名前が金色のウルトラレア、ラメ加工のようなものが入ったシークレットレア。あとは特殊加工が入った特別仕様のレアなんかがある。


 コレクターとしては違うレアリティなら全部集めたいほどだけど、そんな財力はない。精々レアリティ違いをちゃんと保存しておくだけだ。


 解説できるカードは説明しながら剥いていくと1箱開けるのに1時間くらいかかった。絵違いのレアリティの高いカードはいくつかあったが、25周年レアはなし。


 ここからは被りも多くなってくるから説明の時間は減るはず。


 続いて俺の番。2箱程度では初めて見るカードが結構あったのでまた解説をしながら剥いていったが、そこで初めてカード全体が加工されているカードを見付けた。


「え、あ⁉︎ちょっとリリ君!これ、『ダーク・マジシャン・レディ』の絵違い25周年レアじゃ⁉︎」


「やったぁ!佐々木先生描き下ろしの『ダーク・マジシャン・レディ』だあ!この箱のトップ2を引き当てたのでは⁉︎」


『こーれ、リリやってます』

『500枚しかないカードじゃないからそこそこのお値段ではあるけど、これも20万超えてるんだよなあ』

『元取ったってレベルじゃねえぞ』

『原作者のサインがないだけの界隈さいかわカードを当てただけじゃん。買い取り額も2番目だし、大したことないね』

『お前の説明に高額な理由が全部出てるんだよなあ』

『さすが週刊誌アンケートぶっちぎり1位を獲得したヒロインカードだぜ!設定的にもヒロインよりヒロインしてる魂のカード!』

『ふーん、スカートのラインとか胸元のデザインとか、エッチじゃん』

『原作者のやばすぎる画力からお出しされる最新絵……。これは青少年には毒すぎて週刊誌には載せられませんわ』

『昔のアニメはこれが動き回ってた事実』


 『ダーク・マジシャン』を除くかなりのレアを引き当てたんじゃないだろうか。俺自身の運はクリティカルマンと呼ばれるくらい乱高下するのに他人が絡むとこれだ。


 今度から誰かのためにとか、一緒に買い物に行ってカードパックを買うべきかな?そうしたら俺も自分の運にあやかれそうだ。


 その後のパックでは新規があったものの25周年レアは出なかった。過去の作品の話を存分にできたし、かなり満足したところで最後のおまけがある。


 1BOXに1パック付いているおまけパックだ。ここにスーパーレア以上が入っているので可能性の話としては25周年レアが入っていてもおかしくない。


 俺の立ち絵と仔鹿さんの立ち絵が描かれた小さい紙の下にそれぞれ2パックずつ置いてある。これもパックの上部は開けてある。これは同時に開けると決めていたのでスタッフさん2人体制で同時に取り出してもらう。


「リリ君、ボクが決めていい?」


「もちろんどうぞ」


「じゃあ左側から!お願いします!」


 仔鹿さんの方からはドラゴンの中では一番人気の『ブルーホーン・ドラゴン』の絵違いウルトラレアが、俺の方からは『金色こんじきのデーモン』という初代主人公が使っていたカードの絵違いが出た。どっちも人気カードの新規描き下ろしなので当たりだろう。


 次に右側。


 仔鹿さんは『混沌終焉龍イド』という3作目のボスキャラが使っていたエースカードの絵違いを。


 そして俺は、なんと『ダーク・マジシャン・レディ』の25周年レアの2枚目を当てていた。


 そのせいで白目を剥く仔鹿さん。


「わ、あ……」


「仔鹿さん、トレードしましょう?ダブっていた絵違いの『星砕きのセントレイア』が欲しいなあって。僕としてもコレクションとして1枚あれば充分ですし」


「ほ、ホント⁉︎後から返してって言ってもダメだからね⁉︎」


「言いませんよ。今日の配信に呼んでくれたお礼です」


「わーい!リリ君大好きー!」


『てえてえ』

『20万をさらっと手放せるの、すげえな』

『この人たち、2万円分で40万プラスアルファ出してるんですよ?やりましたね?』

『やっぱりリリを呼んで何かした方が良いって。この当たり幅はエグいって』


 というわけでトレード。最後にそれぞれスーパーレア以上のカードを並べて感想を言って、また機会があればカード剥きでもバトルクロスでも、他のゲームでも雑談でもコラボしましょうと話して配信が終わった。


 終わった後はせっせとカードをスリーブに入れていく。特に『ダーク・マジシャン・レディ』は傷が付かないように丁寧に入れていった。


 撤収作業も終わった後に仔鹿さんが改めて聞いてきた。


「あの、本当に『ダーク・マジシャン・レディ』良いの?」


「良いですよ。売るつもりもないので、だったら愛好家の仔鹿さんに渡った方が良いでしょうから。それに独占はさすがに外聞が悪いですし。仔鹿さんが買ったBOXから出た可能性が高いんですから」


「……エクリプスが人気な理由がわかったよ。君たちみたいな子が多いからファンは見ていて安心するんだね。うん、次も何かあればコラボしよ!」


「はい、ぜひ」


 握手をして別れる。遅い時間だったので俺は五反田マネージャーと近くの駅で別れた。3時間以上配信をしていたので終電に近く、家に着いたのは日付が変わるちょっと前だった。


 帰りにSNSで吹上先輩が告知を出していたので俺ものっかかって告知する。


「吹上:バトルクロス大会参加者勢揃い!新弾パックをスタジオで剥きますわ!」


 何と2日連続で同じカードBOXを引くのであった。司会も含めて総勢10名で開封をするという大規模コラボだ。今日が発売日だからできたら今日が良かったんだろうけど、今日はドロッセル先輩に案件が入っていたために大会の日から22日で指定されていた。


 必要なBOXを購入する様子を事務所で見ていたけど、あんな大人買いは初めて見た。というか、オンラインショッピングのあのアカウントを見た時の衝撃は忘れられない。


 明日の朝の雑談で話す内容について話題集めをして寝ようとした時に、SNSで話題になっていたその呟きを見付けてしまう。


「福圓(宮下)梨沙子:出産、無事に終わりました!元気な男の子です!智紀君も病院に駆けつけてくれて、その上誕生日ホームランボールも。オリンピックは母子で観戦予定です。お仕事も同じ時期くらいから再開予定なので、ファンの皆様には大変お待たせしてしまっていますが、もうしばらくお待ちください」


 結構前に妊娠報告もあったけど、出産終わったのか。しかも男の子ってことは野球をすることを期待されるんだろうな。


 世界的に関心のある出来事だったからか、トレンドが関連する言葉で全部埋め尽くされている。メジャーリーガーとして日本人で知らない人がいない選手の子供だ。「親子対決」までトレンド入りしているのは気が早すぎではないだろうか。


 宮下さん関連のことだけで雑談配信を潰せそうだ。話題が尽きない人だな、この人も。

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