第20話 思っていたよりも敏感な浪漫

 悠久はふにふにと、浪漫のない胸を寄せて集めるように指で握る。


 胸を堪能すると、その先の苺粒を軽く摘まんで浪漫の反応を楽しんでいた。


 感じているのがわかると、その力を強めたり弱めたりと、様々な反応を見て楽しんでいた。


「これ以上はおあずけ~。」


 と言った後の、「え?もう終わり?」という浪漫の切なそうな表情を見て悠久は微笑んだ。


「……なのは可哀想だから。ちゅっ。」


 摘まんでない方の苺粒を悠久は唇に含んで唇の圧で摘まんでいた。


「ぎゅっとされるの好き?」

 

 一度口を外した悠久が訊ねると、脱力しかけている浪漫が悠久に身体を預けた。


「びくびく跳ねちゃって、可愛い!」


 肯定の意思と受け取った悠久は、もう一度苺粒を口に含むと今度は歯で軽く押しつぶした。


 すると、浪漫の身体は激しくビクっと跳ね上がり、その反動で悠久の噛みつきが激しくなってしまう。


 そしてそのまま仰け反ってしまったため、浪漫の甘食はフリーとなった。


(あぁっそんな。痺れるみたいに気持ち良いのが流れ込んできて、あれだけで……)


 お湯の中で良かったと思う浪漫である。


「この続きはベッドでしようか。」


 





「あ、寝ちゃってた?」


 ベッドで散々弄られた浪漫は、絶頂の余波で脱力して軽く意識を手放していた。


 浪漫は悠久の顔に跨り、散々下半身を責められ続けた。


 浪漫が仰向けに寝かされると、今度は未挿入のためあまり広くない中を、入口だけとはいえ指で散々弄られ続けていた。


 体力の続く限り責められ続けた浪漫が意識を手放すのも仕方がないのである。


 

 そして覚醒した浪漫は、自分が寝てしまったと思ったのである。


 

「大丈夫だよ、まだ時間はあるから。」


 

「最後にマロンちゃんのような子と会えてよかった。」


 横向きになった悠久は微笑みながら浪漫に漏らした。



「このお仕事は好きだけど、ずっとそばに居られるわけじゃないから……」


 悠久は過去を思い出しているのか、遠くを見つめるように視線がぼやけていく。


 

「辞めちゃうんですか?」


 浪漫は残念そうに問いかける。やはり人が仕事を辞めようとしているところを見るのは、あまり気がよくないのか。


 断ち切ろうとしているところに立ち会うのが心に来るのか。


 浪漫の表情は残念さと寂しさとが入り混じっているようだった。

 

「引き留めてくれるの?」


 悠久は一瞬で引き返って来る。その視線は浪漫を真っ直ぐに捉えていた。


「その……すごく良かったから……勿体ないなって。」


 浪漫は照れと羞恥に悶えながら、先程までの事を思い出しながら、顔を赤くして答えた。


「そう?本当に?私とのえっちよかった?」


 口元を手で隠して赤い顔のまま浪漫は頷いた。


「じゃぁ、私達。付き合っちゃう?」


 漫画であれば、てへぺろとかやっていそうなノリで悠久が漏らす。


「いやいやいや。そんな簡単に決めちゃだめですよ。そ、それに私……」


 浪漫がフィールを利用した理由は抑が親友である小串がこの店にいると思い、その小串に会って話をするためである。


「あぁ、そっか。会いたい人がいるんだっけ。残念だなぁ……」



「じゃぁ、マロンちゃんがオッケーくれるまで辞めるのをやめようかな。」


「ってえぇ!?」


「あはは~。冗談だよ。でもまだ続けようかなというのは本当かな。」


 辞めるのをやめるというところには、浪漫もホッとした様子で聞いていた。


「少なくともこの時間だけは特別な関係になれるしね。」


 堕ちてしまいそうな一言だった。


「やっぱりこういう業界ってすぐ辞めちゃう人って多いんですか?」


 風俗なんてものは、所詮は旬な職業だ。


 ある意味春を売るだけに旬とはよくいったものだ。


 プレイ後の入浴を済ませ、悠久はドライヤーで浪漫の髪を乾かしていく。


「最近は少ないけどね。長期休みの子とかは結構いるけど。飛んじゃってたら私達にはわからないし。」



「そういえば、一人いたっけ。誰に対してもタメ口で結構おちゃらけた感じの子だったなぁ。やっぱりは合わないっていっていたっけ。」



「あ~、そういう人私の近くにもいます。」


 浪漫は同じメイド喫茶で働く一人の先輩の姿を瞬時に想像していた。





 同時刻、浪漫のバイト先であるメイド喫茶では……


「っくしゅん。」


 キッチンで首を逸らせながら横向きになったエリスがくしゃみをした。


 その様子を見て、近くにいたメイド達が一斉にエリスの方向を向いた。

 

「あれ?エリスさん、風邪ですか?」



「ウイルスも逃げ出すと言われてるあのエリスさんが?」


「お前ら、私をなんだと思ってるんだ。どうせ誰かが噂でもしてるんだろ。」


 頭の上に疑問符を浮かべながら、メイド達は業務に戻っていった。



「っくしゅん。」


 再びエリスがくしゃみをしたが、メイド達は振り返る事無く業務に勤しんでいた。







「あ、悠久さん。スケジュールが更新されてる。本当に辞めるのをやめたんだ……」


 先日浪漫が指名をしたキャスト、指名した中で唯一の巨乳である悠久が、先日見た日と同じように昼間だけであるが、スケジュールに〇印がある事を発見した。



「へぇ。まだ在籍してたんだ。」


 休憩時間で控室のテーブルを向かい合わせで座っている浪漫とエリス。


 テーブルの上には怪しい色をした飲み物の入った容器と、珈琲の入った黒色のカップが置かれていた。


 前者が浪漫で後者がエリスの飲み物である。


 

「おー、悠久まだ在籍してたんだ。それとマロン、全ミックスはやめろよ。」 



「あれ?エリスさん。悠久さんの事知ってるんですか?それと、ドリンクバーはミックスするのはチャレンジャーの当たり前です。」


「ん?あぁ。ちょびっとな。」


「そういや悠久さん、エリスさんみたいに誰に対してもタメ口でおちゃらけた人がいたって言ってましたっけ。」



「あ。それ多分私。」


「へー。」


 浪漫は何気ない会話の中に爆弾発言がされていた事に気付かない。


「って、エリスさん。あそこで働いていたんですか?」


「ん、まぁすぐ辞めたけど。私にはあっち側より客で行く方が性に合ってるし。」


 エリスの知られざる過去の一面を聞いて驚いたとともに、「あ、なるほどな。それならなんとなくあの性癖も頷けるな。」と思った浪漫である。


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男に襲われ男嫌いになったら、女の子を好きになった 琉水 魅希 @mikirun14

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