第26話 魂の解放

 光夜は剣を地面に突き刺した。体から青いエネルギーを、送り込む。

 剣を伝って、エネルギーは地面を光らせる。

 教会を包むように、光があふれ始めた。


「ザ・ワンダーワールド!」


 光夜の剣が強い光を発した。青い光が全員の体を照らす。

 アリスは高揚状態になり、不思議と自信が湧いてくる。

 以前の"ザ・アンダーワールド"でも似た感覚を味わった。


 だがあの時とは微妙に違う。まるで魂が叫ぶような感覚だ。

 押し殺していた感情が、表に出ようとする。

 それを抑えられない様な。激情に駆られた。


「な、なんだこの空間は? 魂が……。何かを訴えて……」

「この技は、全ての魂を解放する。素の自分を隠せなくなる」


 暗黒騎士、アーマドは頭痛に苦しむ。

 魂の訴えと、自分の理想が頭の中で戦っている。

 抜け落ちた記憶が刺激されるように。彼女の足りない何かを、解放する。


 教会備え付けの十字架が、動き出した。

 高速回転しながら、アーマドに突進。彼女の頬に直撃した。


「ドラキュラはどこだ!? 悪霊退散!」

「十字架が喋ったぁ!?」


 十字架だけではない。ろうそくが歩き。椅子がくねくね動く。

 異様な光景が教会に広がっていた。


「物にも魂はある。それが解放されただけだ」

「魂解放され過ぎ!」

「そして俺達も……」


 教会の窓を割って、何者かが乱入してきた。

 入ってきた2つの影。ユウキとバラードだ。

 彼らは転がって、光夜の隣へ。


「魂解放状態!」

「ややこしいのが、2人も来たぁ!」


 2人が割ったガラスが浮いた。破片がアーマドに向かって突進。

 彼女の鎧を斬り刻む。


「割ったら掃除しろぉ!」

「張本人に怒れよ!」


 アーマドはツッコミを入れながら、立て直す。

 地面へ一筋の閃光が降り注ぐ。ゴロゴロ音が鳴り響く。

 彼女は一瞬だけ、足に刺激を感じた。

 

「雷さんのお怒りだ!」


 降り注いだ閃光は、その場に留まった。

 横方向になりながら、地面を転がる。


「あ~。だりぃ~」

「雷がゴロゴロしてるぅ!?」


 雷は強い光を放つ。全員に電撃を食らわした。

 満足したのか、雷は消滅。感電した全員が地面に倒れる。


「汚れた! 掃除しなきゃ!」


 箒が窓ガラスを追いかける。窓ガラスは逃げ回った。

 光夜を通過。体を切り刻む。更に箒が彼に突き刺さった。

 彼は地面に吐血した。


「むしろ汚してるぅ!?」

「構わねえ! 箒1号! このままいくぜ!」


 光夜は箒が突き刺さったまま、動き始めた。

 アーマドに向かって、真っすぐ飛ぶ。


「ふん。同じ技を食らうかよ」

「必殺……」


 箒は体を回転させ始めた。刺さっている光夜同様に回る。

 彼の頭が地面に擦れていた。


「トルネードマグナム!」

「おい! 刺さってるやつ大丈夫なのか!?」


 回転する箒が炸裂。アーマドは吹き飛んだ。

 その先にユウキが、ハンマーを構えている。


「ファー!」

「ゴブゥ!」


 ユウキはハンマーを振った。アーマドは再び吹き飛ばされる。

 その先でバラードが、台を用意していた。

 6段に別れている台で、アーマドは突き刺さった。


「やってきましたぁ! 暗黒騎士落とし!」

「くっ……。これでは動けない!」


 光夜がハンマーを抱えて、走り出した。

 

「うおおお! 落とすぞ! 全部落とすぞ!」


 光夜は台に近づく。距離が十分詰められた刹那。

 ハンマーから剣に持ち替えた。アーマドの胴体を突き刺す。

 アーマドは血を流しながら、台から落とされた。

 

「グハ! 貴様、ルール知ってんのか!?」

「え? ダルマ落とした奴が勝ちでしょ?」

「はい! その通り! そして勝者には……」


 バラードは指を鳴らした。同時に台が爆発する。

 光夜とアーマドは同時に吹き飛ぶ。


「何もやらないわよ」

「血と痛みだけを与えたぁ!?」


 アーマドはふらつきながら、立ち上がる。

 ダメージが大きい。このままでは確実に負けるだろう。

 更に彼女は魂の叫びに抗っていた。


 抗いたいのではない。頭の中で何かが、魂を拒絶するのだ。

 その痛みと戦いながらも、勝利を目指している。


「こいつらのテンションは異常だ……。ふざけた世界を終わらせる!」


 アーマドは剣を構えた。狙いは光夜達の影。


「暗黒剣術最大奥義! 影斬り!」


 アーマドの剣が黒いオーラを、纏った。


「この奥義は貴様らの影を斬る。影が受けたダメージがそのまま、本体にも通る!」

「だが、俺たちの影は小さいぜ。普通に切った方が早い」


 光夜の言う通り。教会内部は火事の影響で薄暗い。

 影は伸びておらず、一見この奥義は無意味に見える。

 そこでアーマドはニヤリと笑う。術式を唱えて、手を前に出した。


「ルミナスエレメント! フラッシュ!」


 光夜達の背後に強い光を放つ、玉が発生した。

 球体に照らされて、光夜達の影が一気に伸びる。

 

「これでリーチの問題は解決した!」

「舐めるな! こっちも必殺だ!」


 光夜達は縦一列に並んだ。それぞれ違う方向に、手を伸ばす。

 1つの人影に、6つの手がある状態になった。


「影絵! 阿修羅!」

「……。何を斬れば良いか、分かんねぇ!」


 吐血しながら、アーマドは倒れた。

 剣から黒いオーラがなくなる。


「まさか最大奥義が破られるとは……」

「破れたの!? 今ので!?」


 アーマドは劣勢を覆せない。このままでは負ける。

 皇帝への忠義心が、負けることを許さない。

 そこで彼女は疑問に思う。何故ここまで皇帝に忠誠を誓うのだと?


 その疑問が光夜の技で、膨れ上がった。魂の解放が、彼女の記憶を刺激。

 徐々に薄っすらと。彼女の記憶が蘇る。


「ぐあああ!」


 アーマドは頭を抱えてもがく。首を振った衝撃で、仮面が割れた。

 そこから青い瞳の女性が、姿を現す。


「え……」


 アリスはその女性の顔を見て。強い衝撃が走った。

 見間違えるはずがない。その人物の顔を。憧れの騎士の表情を。


「お母さん……?」

「さっきの構え。やっぱり、お前だったのか。巫女」

「え?」


 アリスは2度目の衝撃が走った。光夜が母親の名前を口にした。

 光夜と彼女と面識があると、アリスは聞いたことがない。

 何故彼が、母の名前を当てられたのか。


「洗脳。あるいは記憶改変が、されているようだな」

「そうか……。だから光夜さんは、魂を解放させようと……」


 素の自分が表に出れば、必ず記憶が刺激される。

 その記憶で本来の彼女を取り戻そうとしてのだろう。

 何故母親が、暗黒騎士になっているのかは不明だが。


 そんなことより、今は彼女を救う事が先決だ。

 アリスはどうにか、巫女の記憶を呼び覚まそうとした。


「俺に考えがある。巫女、全て思い出すんだ!」


 光夜はシンバルを取り出した。

 アーマド。巫女に向かって、走り出す。

 そのまま彼女の前で、シンバルを鳴らした。


「目を覚ませ! 巫女!」

「そんなんで、目を覚ますかぁ!」


 巫女は頭を抱えながら、頭痛が激しくなる。

 

「痛てぇな、コラ! シンバルだって、生きてんだよ!」


 シンバルの反撃が始まる。回転しながら、光夜の手元から離れた。

 左右に分かれて、光夜と巫女を斬り刻む。


「ぎゃああああ!」


 光夜達は血を流しながら、膝をついた。

 巫女の頭痛は更に激しくなる。そして……。

 彼女の額から、赤い何かが飛び出した。


「人参だぁ! 人参が飛び出して来たぁ!」

「人参だ! あの人参が彼女を操っているんだ!」

「嘘でしょ! どういう状況なの!?」


 戸惑うアリスを余所に、光夜は人参を掴んだ。

 地面から引っこ抜くように、腕に力を込める。


「間違いない。これはヤドリ人参。玉ねぎ星人の奴と同じだ!」


 光夜は人参を巫女から取り出した。

 引き抜かれた人参には、手足ついている。


「人参が出た~。人参が出た~。あ、でっていぅ~、でっていぅ~!」


 光夜は無言で、歌う人参を握りつぶした。

 ヤドリ人参を抜かれた巫女は、頭痛から解放された。

 

「光夜さん! さっきのは? それに何故……」

「ヤドリ人参は、記憶を改変する。更に玉ねぎ星人への忠誠を共用されるものだ」


 光夜は元の世界で同じものを、何度も見ていた。

 人類はこの人参によって、人参派に帰られたのだ。

 肉の自由が奪われて、地球は侵略されていた。


「なんでこんなものが、この世界に……」


 頭痛から解放されたアーマドは、意識を失ったようだ。

 光夜はザ・ワンダーワールドを、消滅させた。

 気絶した巫女に、そっと近寄る。


「どうして君が、この世界に居るんだ……?」


 光夜は優しく巫女の体を抱えた。

 その様子だけで。光夜にとって彼女が何者なのか。アリスには理解できた。

 同時に。彼女は衝撃の事実を知った。


「光夜さん……。もしかして貴方は……」

「アリス姉! 積もる話は後だ! 炎がさっきより、勢い増している!」


 ユウキに言われて、アリスはハッとした。

 内部を燃やしていた炎が、勢いを増している。

 戦いの影響ではない。何者かが再び火をつけたのだ。


 教会は再び火事になった。この場に残れば、全員焼死する。

 光夜達は巫女を抱えて、教会から脱出する。

 そこで彼らは。とんでもないものを目撃することになる。


 アルクカナ村の全員が、武器を持って教会を囲っていた。

 先頭に立つのは、村長だ。灰色のローブを着て、雰囲気を変えている。


「おい、村長。これはどういう事だ?」

「おっと、見てわからない? 君達を始末しに来たんだよ」


 光夜は全員の表情を見た。殺気を持っている。

 村長の言葉は冗談などではない。本気で自分達を殺すつもりだ。


「なんで俺らが、テメェらに始末されなきゃいけないんだ?」

「アリスとバラードには、こうすれば理解してもらえるかな?」


 村長はフードを被った。深い闇で顔が隠れる。

 唯一赤い瞳の光だけが、フードから見えていた。

 アリスはあまりの恐ろしさに、背筋が凍った。


「お、お前はまさか……。暗殺ギルド族長、シンズ!」


 凍ったアリスの代わりに、バラードが答える。

 彼女もシンズの素顔を見たことはない。

 だがフードを被り、赤い目だけで出す雰囲気で理解できた。


「何故だ? 何故貴様がこの村の村長をしている?」

「だって、力で土地を奪うなんて古臭いだろ? もっと効率的なやり方があるよ」


 まるでゲームを楽しむかの様に。シンズは無邪気に笑った。


「人界人に紛れて、こっそり権力を得ればいい。幸い僕らは彼らと大差ない見た目をしているからね」


 暗殺ギルドは人界人と、殆ど同じ見た目だ。

 瞳の色さえ誤魔化せば、見分けがつかない。


「まずは開拓中のこの村を奪って、侵略の足がかりにするつもりだったんだ」

「じゃあ、衛兵をさぼらせて、ゴブリン襲撃を企んだのは……」

「僕って訳さ! どうだい! まさかのどんでん返し!」


 光夜の推測は当たっていた。ゴブリンはシンズが、手引きしたのだ。

 恐らくほかの部族にバレぬ様に、いくつも細工をしたはずだ。

 

「でも結社まで誤魔化せない。だから他の部族を焚きつけて、中央教会の戦力を削ぎたいんだよ」

「くっそ! 知らねぇ単語ばかりだ!」

「君らの頑張りは目障りなのさ。分かる? だから消えてもらうよ!」


 光夜は剣を構えた。ゴブリン襲撃から考えて、村人は洗脳されているだろう。

 出来るだけ傷つけたくない。手加減してこの場を切り抜ける。

 最小限の犠牲で抑える方法。この場の指揮官を、真っ先に倒すことだ。


「おっと。この数でも負ける可能性はあるからね。僕は戦わないよ」


 シンズは高く飛びあがった。そこに一匹の飛竜が現れる。

 シンズは飛竜に跨り、光夜達を見下ろす。


「冬木光夜。恋人の記憶を戻したければ、魔界の東端。浮遊城まで来い」


 シンズは高笑いをしながら、飛竜でこの場を去る。

 光夜は歯ぎしりをしながら、拳を握った。


「まずはこの場を切り抜けることが、優先だな……」

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ハチャメチャ異能力者転生!銃撃、爆破、なんでもありの異世界バトル!~チート異能力者は転生しても強いままなので追放された美少女魔術師と最強のギルドを作ります!~ @kurekyurio

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