第25話 暗黒騎士の襲撃

 暗黒騎士、アーマドは浮遊城最上階に向かっていた。

 暗黒皇帝が復活したなら、最奥の部屋に居る。

 皇帝がいる限り、戦争は避けることが出来ないだろう。


 手塩にかけて育てた部下達が居る。彼らに騎士団を任せれば大丈夫だ。

 アーマドは刺し違える覚悟で、皇帝の部屋に向かう。

 正面では勝てない。なら不意を突くしかない……。


 決死の覚悟でアーマドは、大扉の前へ。

 背後に気配を感じる。振り返らずとも、誰だか分かっている。


「シンズ。やはり邪魔しに来たか……」


 暗殺ギルド族長の名前を口にする。

 血と殺戮を好むシンズが、アーマドを妨害しないはずがない。

 恐らくここで一戦交えることになるだろう。剣に手を伸ばす。


「おいおい。俺は邪魔する気はないぜ。必要もないからな」


 シンズから殺気を感じない。ここで争う気はない。

 ならば説得に来たのか? 自分が応じないのは分かっているだろう。

 アーマドは不気味な気配を感じる。本心が見えないのはいつもの事だが。


「さあ、入れ。そこで真実を見るが良い」


 シンズはアーマドに、大扉を開けるよう促した。

 邪魔をする気がないなら。アーマドは警戒しながら扉を開く。

 暗黒皇帝。アーマドは初めて見ることになる。


「皇帝陛下の姿を見るが良い。もう1度施術を受けるんだな」


 大扉が完全に開いた。レッドカーペットの引かれた広間。

 その最奥に黒い玉座。そこに座る1つの影があった。

 漆黒の鎧に身を包み、大柄な姿。赤く光る瞳。


 アーマドはまずその姿に、驚愕した。

 その次に異様に発される威圧に、圧倒される。

 スキーボードに乗って、慌ててシンズのもとへ。


「大変だ! 玉ねぎが! 玉ねぎが玉座に座っていた!」

「皇帝は95%玉ねぎで、5%が人だ」

「それ殆ど玉ねぎじゃん!」

「いいから、さっさと行け」


 シンズはアーマドを蹴り飛ばした。無理矢理玉座の間に入れられる。

 先ほどは取り乱したが。改めて見ると、皇帝の威圧は相当のものだ。

 玉ねぎだが、真正面から戦っても、やはり勝ち目は薄い。


 騎士として卑怯なやり方は気にいらないが。

 ここは不意打ちで倒すしかないだろう。


「貴様の考えなど、手に取る様に分かるぞ」


 皇帝は冷たい口調を発した。言葉だけで、アーマドは心臓を凍らされた気分だ。

 目の前の皇帝を出し抜くことなどできない。

 だが正面から戦っても無意味だ。どこかで隙を見つけるしかない。


「食らうが良い。玉ねぎ切った後に飛び散る細胞!」

「うぎゃあ! 目から涙が……。涙がぁ!」


 目を刺激されて、アーマドは視界を封じられた。

 皇帝がゆっくりと近づくのを、気配で感じる。

 頭を掴まれて、持ち上げられた。


「貴様の最も大事な記憶を頂くぞ」


 アーマドは一瞬だけ、激しい頭痛に襲われた。

 次の瞬間、何かが頭の中で崩れるのを感じ取る。


「施術してやろう。我が駒として働いてもらうためにな」


──────────────────────────────


 光夜達は東の渓谷防衛線を、強化していた。

 暗黒魔術師族が加わった。戦力は増強される。

 だが闇の軍勢と戦うには、戦力不足が否めない。


 魔界の勢力は一斉に、人界進行を始めた。

 被害は小さな村では済まないだろう。

 そこで光夜は人界からも、改めて衛兵の支援を要請。


 村長に政治的な面を、期待していた。

 村長宅で彼を説得を試みる。


「それは無理だな」


 村長の返事は冷たい一言だ。人界守護隊は、絶対に動かない。

 そのためこれ以上の戦力増強は、望めないと語る。


「この村が滅びるくらいでなければ、信用せんでしょう」

「聖騎士団とやらは? アイツら、闇の軍勢と戦う事が目的だろ?」

「現在、ゴタゴタ中。それが片付くまで、動けんでしょう」


 光夜は状況の悪さに、溜息を吐く。

 この村が滅びない限り、他の衛兵は動かない。

 そもそもこの村の衛兵事態、村を守る気がなかった。


 本当に自分達だけで、何とかするしかないだろう。

 戦争が始まる前に、魔界の戦力を削ぐ。

 そのために邪魔になるであろう、十将軍を倒す。


 光夜は村長を蹴っ飛ばした後、家から出た。

 外で待っていたアリスが、不機嫌そうにしている。


「分かったでしょ? 試さず最初から諦める。それがあの人です」

「随分と父親の事が嫌いのようだな」

「ええ。あの人は自分の利益しか、頭にないんです」


 村長が開拓を指揮しているのも、利益目当て。

 アリスは今まで村長から、愛情を感じたことがない。

 舐めた態度と相まって、気に入らない。


 故郷の村が滅びるのは、嫌な事だ。

 だが村長は一度痛い思いをしたほうが良い。

 だったらいっそ、ここを見捨てるというのも手だ。


「仕方ねえよ。一旦教会に戻って、今後の対策を……」


 光夜は寝泊りしている、教会に帰ろうとする。

 教会の方角を振り向く。すると炎が上がっていた。


「燃えてるぅ!?」


 教会は火事にになっていた。光夜達は火元へ向かう。

 炎は建物を完全に包み込んでいた。

 今から消防隊を呼んでも間に合わない。


「もう大雨でも降らないと、消せませんよ……」

「なら俺に任せろ!」


 光夜はビシッと決めた。教会の前に立ち、メガホンを持つ。


「雨よ降れ!」

「降るかぁ!」


 アリスはツッコミを入れる。同時に黒雲が、教会の真上に出現する。

 

「え? え?」


 黒雲は教会に向かって、サンマを降らした。

 サンマは焼き魚になりながら、消火開始。

 教会の炎を消すことに成功した。


「なんでぇ!?」


 外部の炎は消えた。内部にはまだ、炎が残っている。

 光夜は消火活動を続けるため、内部に突入。

 サンマを被りながら、窓を突き破った。


 アリスも同じように、突入。

 火元を確認するため、内部を探った。


「辛口か? やっぱり辛口が引火したのか?」


 光夜達はシスターの姿を探した。

 探すまでもなかった。シスターは教会の最奥で見つかる。

 血を流した死体として……。


 シスターのすぐ近くに、血の付いた細剣を持つ者がいる。

 光夜達は警戒しながら、その人物を観察。

 

 青いロングの髪の毛。黒い鎧でで包み込んだ服装。

 小柄な体系ながら、腕は鍛えられている。

 返り血を浴びた顔には、仮面が装備されている。


 女性だ。それも光夜に見覚えのある髪型をしている。

 女性騎士は光夜達に気づき、振り返った。


「お前……。シスターを……」

「こいつは結社の人間だ。結社は皇帝にとって、邪魔な存在」

「はあ? 結社?」


 光夜達には騎士の言葉が、理解できない。

 

「私は暗黒騎士族長、アーマド。皇帝の命により、邪魔者を排除する」

「へえ。いきなり族長が来ていくれるとは、好都合だね」

「バラードを倒した者に、雑兵では意味がないのでな」


 アーマドは細剣の血を拭きながら、構える。


「俺の命は高いぜ。お前に払えるかな?」


 光夜も拳を握り、構えた。アリスは息を飲み込む。

 暗黒騎士の威圧は本物だ。かなりの強敵だろう。

 だがこの構え、どこかで見たことがあるような気がした。


 祖父から教えてもらった、小春流だ。

 光夜も似たような構えをしている。


「誉ある騎士よ。我が名は光夜」


 光夜の名を聞いた瞬間。アーマドの顔が歪んだ気がした。

 アリスがそう見えただけなのか。彼の名前に反応したのか。

 彼女は直ぐに表情を戻す。仮面の下に冷たい表情が広がっている。


「名誉ある騎士に準じて、剣による一騎打ちを申し出る」

「私と一対一で戦うつもりか。良いだろう。その勝負。受けて……」

「隙ありぃ!」


 光夜は女性騎士が喋っている最中に攻撃。

 拳を握って、彼女の顔面を殴った。

 不意を突かれたアーマドは、壁に吹き飛ばされる。


「早くも名誉を捨て去ったぁ!? しかも剣じゃねぇ!」


 光夜は唾を吐いた。


「名誉? 騎士道? 反吐が出るぜ」

「最低だ! 人の形をした悪魔だよ!」


 土煙から、立ち上がる人影。

 更に無数の影が、煙の向こう側に出現する。

 

「暗黒剣術奥義! 投げ剣!」


 黒い剣が煙の向こう側から、出現した。

 光夜達に狙いを定めている。光夜は剣を構えた。

 剣を素振りして、風圧を発生させる。飛んできた剣を、全て落とした。


「不意を突いてこの程度か?」


 アーマドは煙から現れた。剣を地面に突き刺す。

 剣から黒い光が地面に伝わる。光は光夜の影に入り込んだ。

 影から黒い人影が出現する。光夜そっくりの、剣士だった。


 剣士は光夜の不意を突いた。背後で剣を振る。

 光夜は背中を切られて、血を吹き出した。


「グハァ!」

「暗黒剣術奥義。シャドウソード」

「やってくれたな。ならこっちは!」


 光夜は拳を素振りした。何もない空間を、殴り続ける。

 ワンツーとたまにアッパ―を繰り返す。


「シャドウボクシング」

「それに何の意味が!?」


 光夜はシュッシュと言いながら、拳を振るう。

 するとアーマドが吐血した。そのまま背後に吹き飛ばされる。


「ガバァ!」

「なんで!? 何が起きたの!?」


 アーマドは細剣を地面に突き刺した。

 摩擦を利用して、体勢を直す。


「からの、車道レーシング!」


 光夜は青く光る馬に乗った。

 馬を走らせて、アーマドに突進。

 彼女は馬に蹴られて、壁に叩きつけられる。


「更に! 邪道フェイシング!」


 光夜はフェンシング用の剣を召喚した。

 5本の剣が、アーマド目掛けて飛んでいく。

 彼女の体に当たる直前。剣は反転。光夜に向かって飛ぶ。

 光夜は串刺しになり、吐血した。


「グボッホ!」

「残念だったな。私の術で、ヨーヨー式にした!」

「どんな術!?」


 光夜は剣を抜いた。紐のついた剣を、背後に投げ飛ばす。

 

「ならその術! 逆利用させてもらおう!」


 光夜は剣を引きながら、アーマドに突進。

 アーマドの頭上を飛び越え、彼女の背後に。


「秘儀! 死んだ犬の散歩!」

「ウボォッホ!」

「って! こんな技あるかぁ!」


 光夜に引っ張られた剣が、アーマドに刺さる。

 そのまま急停止。紐を引っ張って、アーマドを近寄せた。


「このまま追撃のパンチじゃ! ぎゃああ!」


 串刺しになったアーマドが、光夜に飛んできた。

 光夜も同様に串刺しになる。2人で仲良く、壁に張り付いた。


「バカなんです! その人、バカなんですぅ!」


 アリスは涙目になりながら、弁明した。

 貼り付けになった二人は、身動きを封じられる。


「暗黒剣術奥義……」

「そうはいくか! 秘儀! さっきから、奥義奥義うるさい!」

「それは技なの!?」


 光夜は背後から、アーマドに頭突き。

 彼女は剣を構える前に、怯んだ。

 光夜は串刺しにした剣を消滅させる。


 2人とも体に穴をあけながら、息を切らす。

 頬についた血を、腕で拭った。


「なんだ、こいつ? 私の暗黒剣術が、まるで通用していない……」


 アーマドは膝を着きながら、回復術式を唱える。

 光夜は穴の開いた体を引きずった。ニヤリと笑い、彼女を見る。


「この程度か? それじゃあ、余裕で勝っちゃうな」

「いやいや! 見た目的に負けてますけどぉ!」


 傷は深い。だが光夜が倒れる様子はない。

 やせ我慢しているのか。それともこの程度、造作もないのか。

 アリスは考えないのことにした。

 

「ならば! 暗黒剣術秘奥義! 暗黒剣!」


 アーマドは剣を掲げた。黒い光が剣に集まる。

 漆黒のオーラをまとい始める剣。彼女は肘を引いた。

 黒く光る細剣を、突き出した。次の瞬間。剣から花束が発射された。


「あんこくれ! あんこくれ!」


 花束はうねうね動きながら、叫んだ。


「あんこ食う剣術だぁ!」

「なんだこの奥義は!? 私はこんな奥義会得した覚えはないぞ!」


 花束はあんこが貰えなくてキレた。

 アーマドに棘を発射して、見事に枯れる。


「ゴボォウヌキ!」


 棘が体中に刺さり、アーマドは吐血した。


「ブルーヒートの光を浴びたものは、興奮状態になる」

「くっ! どういう事だ?」

「興奮すれば人は、素の自分を隠せない。よって、今の技がお前の本質だ」


 アーマドは激しい頭痛に襲われた。

 ショックと魂が訴えるような感覚に陥る。


「わ、私がこんなふざけた、素だと……。そんな馬鹿な!?」

「理性が否定しても、本能には逆らえない。それがブルーヒートだ」


 アーマドは自分の腕を眺めた。震えている。

 光夜の言葉を否定できない。今の自分が自分でない気がしていた。

 そう。皇帝と出会ったその時から、記憶が曖昧になっている。


 何故自分が皇帝に忠誠を誓うのか、思い出せない。

 確かなことは、皇帝に逆らってはいけないという事だ。


「これからお前には、魂を解放してもらうぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る