二十五日目 つの

 オークレーがそれを拾ったのは春先のこと。いつものように師匠と森に薬草を採りに出かけて、森の中で見つけたのだ。

 それは、鹿の角だった。オークレーの肘から手の先ほどあった。何気なく拾うと、師匠に面白がられた。

「鹿の角はお守りになるからな、悪くない拾い物だろう」

 それでオークレーの部屋には、鹿の角が置かれることになったのだった。

 そこから毎日、何気なく鹿の角を眺めて暮らしていた。そして春が終わりかけて夏が近づいたある日、ふと、加工することを思いついた。それは全くの気まぐれだった。

 お遣いで行った街先で、鹿の角を握り手に使ったナイフが売られていたのを見たからだった。それを見て、そうか自分も同じようにやってみよう、とオークレーは思ったのだった。

 それで時間がある時、師匠にノコギリを借りて角の先を切り落とした。それだけで一日終わってしまった。それでも、手のひらに収まるほどになった鹿の角はなんだか良い感じに見えた。

 満足感を胸に角の先を眺める。磨いたらきっと綺麗になるだろう。

 そう思ったら、ふと、リリアのことを思い出した。よく薬草を届けにいく魔女の家、そこで見習いをやっているリリア。

 もし鹿の角がお守りになるというなら、綺麗に磨けたら彼女に贈るのも良いかもしれない。そう思って、磨くことを考えた。

 そんなわけで、オークレーの部屋にある鹿の角には先っぽがない。オークレーは毎日それを眺めて、切り取った角の先を磨くことを考えた。

 お遣いで街に行ったときにやすりを買って、時間があれば角を磨いた。それは根気のいる作業だったけれど、オークレーはそういった作業が好きだった。

 磨きながら時折ふとリリアのことを思い出して手を止める。磨き途中の角の先っぽを眺めて、彼女に似合うだろうかと考えたりもした。

 そうやって何日かかけて磨きあげた。お遣いで街に出たときに、革紐を買ってきた。それを結びつけてペンダントにした。

 出来上がったそれを眺めて、オークレーはリリアのことを思い出す。オークレーの中で、それはすっかりリリアのものになっていた。

 けれど、オークレーはどうやってそれをリリアに渡せば良いのかわからなかった。何事もないのに突然押し付けるのも違う気がして、渡しそびれたまま、それは部屋の鹿の角にかかったままになっていた。

 結局、彼女に渡すきっかけは冬まで待つことになった。

 クリスマス。

 いつものように魔女の家に薬草を届けに行ったら、お茶をご馳走になった。お茶菓子にシュトーレンが出てきて、そうかクリスマス、と気づいた。クリスマスならプレゼントをするのはとても自然なことに思える。

 それでオークレーは早速、リリアにクリスマスプレゼントを贈ることを伝えたのだった。

 オークレーは浮かれていた。ペンダントは半年もそのままになっていた。せっかくリリアのことを考えて用意したのだ。リリアに渡せるなら嬉しい。

 クリスマスの日、ペンダントをポケットに突っ込んで師匠に出かけると伝えて外に出る。雪は積もっていたが降っていない。寒くはあったが歩けそうでほっとする。

 そんなとき、向こうから箒に乗ったリリアがやってきた。オークレーを見て手を振ると、オークレーの前に降りてくる。

 リリアはオークレーを見上げると、顔を赤くして俯いた。

「入れ違いに、ならなくて良かった」

 オークレーの言葉に、リリアはこくりと頷いた。それでもリリアは何も言わなかった。オークレーは首を傾ける。

「何か、用事か?」

「あ、えっと……」

 リリアは困ったように視線をうろうろさせた後、またオークレーを見上げる。どうして眉を寄せて困った顔をしているのか、オークレーにはわからなかった。

「何か困り事でもあるのか?」

 オークレーの言葉に、リリアは首を大きく振った。

「違う、そうじゃなくて。その……クリスマスだから」

「そうだな」

 オークレーは頷いて、リリアの言葉を待つ。リリアは決心したように、オークレーに向かって荷物を差し出した。

 綺麗な緑色の布袋に包まれて、赤いリボンでラッピングされている。

「これ、プレゼント、クリスマスの」

 オークレーはしばし黙ってその包みを眺めていた。自分が贈ることは考えていたけど、もらうことは全然考えていなかった。

 しかも、こんなに綺麗にラッピングされている。そうだ、ラッピング。自分は何かに包むなんてこと、何も考えていなかった。

 オークレーが黙っているからか、リリアは不安そうな顔になった。それで慌てて、オークレーは手を伸ばした。

「あの、ありがとう。驚いた」

「うん、メリークリスマス」

 ほっとしたようにリリアは笑った。なんだかそのまま飛んでいきそうな気がして、オークレーは慌てたままポケットから鹿の角のペンダントを取り出した。

「これは俺から。その、お守りで……ラッピングとか、何も考えてなくて……」

 言い訳まで一緒に言葉になってしまった。リリアは目を大きく見開いて、それからふわりと笑った。そして、両手でペンダントを受け取ると、大事そうに握りしめた。

「ううん。ありがとう。嬉しい」

 オークレーはリリアの笑顔をぽかんと見つめる。自分でもどうしてかわからなかった。リリアの笑顔なんていつも見ているはずなのに、今はどうしてかただ見ているしかできなかった。

 その間にリリアは箒を浮かせた。

 はっとして、オークレーはリリアに声をかける。

「メリークリスマス! リリア!」

 リリアは箒からオークレーを見下ろして、笑った。

「うん、メリークリスマス! これからもよろしくね!」

 オークレーはプレゼントの包みを抱えたまま、リリアが飛んでゆくのを見送った。なんだかまだぽかんとしたままだった。

 その理由にオークレー自身が気づくのは、まだもう少し先かもしれない。




   * * *


 二十五日目お題「つの」


 いいの すけこさんからいただきました!

 https://kakuyomu.jp/users/sukeko/works

 https://twitter.com/iinosukeko


 ありがとうございます!


   * * *


 今年のアドベントカレンダー、ここまでです。

 ここまでお付き合いありがとうございました!

 メリークリスマス! 良いお年を!

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アドベントカレンダー2023 お題で書く短編集 くれは @kurehaa

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