深淵を覗く者。深淵もまたこちらを覗き誘う。

『きさらぎ駅』という都市伝説を知って
いる人も多いかも知れない。馴染みの路線
何の変哲もない帰路の途中で、ある筈の
ない駅へと迷い込む。暗い駅舎、そして
駅前とは思えない程の森閑とした闇の中。
 残り少ない携帯の電池で現状を探ろうと
試みるも、途切れては繋がって、そして又途切れ…何処からか太鼓の音が。

得体の知れない異界に迷い込んで行くその様子を、張込みという貌で更に臨場感を
込めて描く。しかも、トンネルの向こうに
あるのは……想像以上の『異界』が深淵と
なって口を開ける。
『きさらぎ駅』の主人公は、怪しく得体の
知れないモノと関わる…それを更に一つ
距離を置いた視点で見つめる、こちら側の
主人公がいる。『きさらぎ駅』の真相を
確かめようと彼等を追跡して行く。

淡々と語られる状況が、まるで自らの身を
異界との陌間に置くような、深々とした
恐ろしさを齎す。


『きさらぎ駅』とは一体、何だったのか。