16話 カラフル

 怜央れおは安心した。と同時に、この帰り道ですら遠く見えた。まっすぐな商店街の道に、今では「古き良き」と言えそうなや電器店などが並ぶ。しかし、その中には美容室など、新しい店もいくつか見えた。

 このまま『フォレスタ』にもどるのも気が引けるので、目に付いたよう店に入る。ファミレスでは、デザートを人前でたのむのが落ち着かなかったが、『ここなら大丈夫』……と思いたかったが。

りがまぶしい……」

 キラキラしていたり、カラフルだったり。マカロンやカヌレ……気になっているのに、周りの目が気になって買えなかったスイーツたち。特にピンク色は、女友達からもらいにくい色だった。そういうときはそっとだまって、空色のマカロンをありがたく受け取る。

 色でさえも、づかいを受けたり、たびたびかくにんが入ったりする。それに慣れてしまったら、今みたいにあっとうされることもある。

「ピンク色、たまには……」

 そうしたら、自分が食べる姿よりも、ようすけのことを思い出してしまう。あんなにももいろが似合うから、とだれにも届かない言い訳をして。


「……色々買っちゃった」

 2箱にめてもらうほど、あれこれと買ってしまった。『ようすけたのめば良いのに』と、心のどこかで思う自分もいる。

「それが出来たら、こんな迷ってないよ」

 日がかたむくまでにはもう少しかかるが、ずかしさで足が速くなってしまう。駅の改札に入るまでに知り合いに出会わずに済み、あんした。

 2階のホームに上がって、電車を待つ。

ようすけのメニュー、次は何だろう」

 ようすけが『フォレスタ』で提供しているスイーツは、主に季節ごとに不定期に変わっている。きょうからの話ではくすのきの中で試食をしていると聞いて、思わず『いいなあ』とつぶやいてしまった。きょうには聞かれてしまったが、『あの子ならだまっててくれるよね』と、思い出しながらまた赤くなる。

 色々なスイーツの話を聞いて、あの店やもりみや神社の面々の顔がおもかぶ。あの人はあれが好きそう、試食に参加していそう。そうやって勝手に考えてしまっている。


 ――2番線、電車が参ります。白線の内側に――


 アナウンスで我に返った怜央れおの前を、風を連れた電車が通り過ぎていく。

 電車から降りる人も多種多様だ。この時間帯は高校生や大学生が多い。視界に大きな縦長のバッグとげのケースをかかえた2人組が見え、正面を開けた。

「きっと、『その中のひとり』なんだろうな」

 当たり前のことだけれども、しかし特別になりきれていない自分が、ざっとうと電車から鳴る音のなかにまぎれていった。

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看板娘(♂)は恋をする うらひと @Urahito_Soluton

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