15話 手を取るひと

 ゆいに注目が集まり、本人は少しおどろいたあと、預けていた背中をはなして、軽くせきばらいをした。

「――『簡単に言うのなら、歩調を合わせるといいでしょう』……とのことです」

 は想像が付いたのかなっとくしたようだが、怜央れお達はポカンとした。

「まあその……。『急がば回れ』って、えれば『回り道してでも、ゆっくりでも良いから、確実に向かう』ということです。ようすけさん、大変な思いをしていますから。だから、明るく見えても、かなりしんちょうな人ですし」

 その説明で、怜央れおうなずいた。

「『あせりは禁物』ってことよね、ゆい?」

「うん。……ということです、怜央れおさん」

「ありがとう……」

 そう言いながら、一たび視線をゆいに向けて、らす怜央れおゆうから見て、まだ聞きたいことがありそうで、どうしようかと考えてみる。と、またゆいが背筋をばした。

「――だいじょうですよ」

 ふっ、とゆいほほむ。

「私が手を取らなくても、怜央れおさんの手を取る人はちゃんといますから」

 怜央れおの目が、少し光ったように見えた。怜央れおとなりで、それを聞いたが目を細める。

 あの時期の出来事の後から、ゆいのそのふんゆうにとってはとてもたのもしい。こういう相談は、本当に近しい身内のみでなかなか見る機会こそないが、まいおどふんも『何かにかれたよう』で、息をむ光景だと言われることもある。

「うん。……じゃあ、デザートを食べましょう」

 おのおのなっとくした様子であることをかくにんし、優樹はそう声をけた。


 そしてデザートも食べ終わるころはながやけにごげんだった。先ほどまでからまれていたゆうが『何か変なこと考えてるわね』と思ったが、何となく想像はついた。怜央れおしょうしつに向かったのを見計らって、こそこそと聞く。

「(――はな。あんた、あの子のしょう作るつもりじゃないでしょうね)」

「(……バレてます?)」

「(はぁ……どうせ採寸するのなら、ちゃんと本人のOKをもらうこと。いいわね?)」

「(はーい)」

 のんきな返事だったが、『一応だいじょうでしょ』と思うことにした。ようすけさそってくるコスプレさつえいの、女子の採寸と仕立て担当がはなだ。ゆうしょうを作りたいと言ってようすけからんで、見事に意気投合。本音はようすけに察されていたが、『仮にも男子だから、女子の手伝いが増えるのはうれしいんだ』と語っていた。

 そういう所で、ゆうも『ようすけが男である』ということを再かくにんするのだが、そのたびに反省とずかしさを覚えてしまう。

「ん、怜央れおもどってきたわね」

 頭をかかえたい気持ちだったが、怜央れおの姿が見えたので、一同に声をけてたくを始めた。後ろではなは『だいじょうですよぉ』と言っていたが、スルーした。


 ファミレスから森宮神社前の横断歩道で別れることにした。

「今日はありがとうございました。……また、相談させてください」

「はいっ」

 下げていた頭を起こした怜央れおの表情が、少しゆるんでいた。かのじょにはぜんなんかもしれないが、ゆうの内心では『やきもきさせそうね』と感じていたのを、そっと心にしまうことにした。

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