14話 男装女子の事情

 店員にとなりのテーブルを横付けしてもらい、ゆう怜央れおを通路側の席にうながす。かべ側にはなゆうゆい怜央れおから見てみぎどなりに流海がすわる。おたがいに話したいことは分かっていたが、しばらくのちんもく。それから意を決して、怜央れおが切り出した。

「えっと、その……。やっぱり、あきらめられなくて」

「まあ、そうよね……」

 怜央れおがコーヒーカップに手をえたタイミングで、ゆううなずいた。

 ゆうから見ても、怜央れおの存在はようすけと合わせ鏡に見えた。昔こそ『めずらしいタイプの子』という印象だったが、怜央れおの中にある気持ちを、そうかいして何となくは知っていた。今も、ショートケーキに手を付けられず、ブラックコーヒーをおそおそる飲んでいるように。

「でも今さら、この関係をこわしたくも、なくて」

 この話は、そうには打ち明けにくい。仮にも、女子であるという自覚はある。だからこそ、きんちょうしながらもこの場を受け入れ、そして、となりすわゆいのことを気にしているようにも見えた。

「(『えにしさま』も、難しいことをたのむわね……)」

 家業の神社でまつる、えんむすびの神様。たよりにする人々は後を絶たず、ゆいに関して広まったうわさは、怜央れおにも伝わっているだろう。神様というのは、必要ならめぐわせる。ゆうはそう理解していたし、ゆいは、その意図をよく知っているのだろう。

怜央れおは、どうしたい?」

 怜央れおが視線を落として言葉を選び始めたのを見て、優樹もグラスに手をえる。

「――ゆっくりでいいわよ」

 そう言って、手元のジンジャエールを飲み始める。それをきっかけに、他の面々も飲み物に口をつけ、『余計にきんちょうするわよ』とゆうは苦笑いした。

 怜央れおの気持ちを聞き出して、ゆいから答えてもらうのが、怜央れおにとって一番なっとくしやすいはず。そう考え、次に話を横道にらしてきんちょうを解こうか、と思案する。そういう意味では、はながここに居るのも悪いことではない。ただし、えの早い当人はパフェに夢中である。


 しばらく思考をめぐらせた怜央れおが顔を上げた。

「あの……」

 他の面々に『自分のペースで良いわよ』と伝えながら、ゆうが改めて怜央れおに向き直ると、怜央れおが話を続ける。

「やっぱり、ようすけと居たくて。でも、またフラれるのがこわくて」

「うん」

「……く、いくのかな、って」

 不安な表情をかべる怜央れおから、となりゆいに視線を移す。何か聞いていたらゆいが何か伝えるだろうと思ったが、何か考えているようなので、場をつなぐことにした。

「おみくじは引いた?」

「えっと……『急がば回れ』、でしたね」

「あー……」

 ようすけの性格を考えると、おみくじの結果もなっとくだった。しんが強いということは、その反面、かべを作ることもある。再会した時の2人の様子を想像するのも難しくなかった。

「それって、どうとらえたらいいですか……?」

 ゆうと、ゆいに視線をこうに移しながら怜央れおが聞くと、だれかに相づちを打ったゆいが口を開いた。

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