【短編】底辺貴族の成り上がり ~いつの間にか有名になってるんですが~

白崎 奏

底辺貴族の成り上がり

この世界には節理というものがある。


その中でも身分の差というものは何があっても埋めれない壁があった。


高身分は維持を望み、だが低身分はそうはいかなかった。




それは貴族内にもあった。


底辺貴族など扱いは平民と同級。




そんな身分社会を勝ち上がっていく一人の少女の物語。






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「ふふーん♪」




寝転がり、本を読む一人の女の子が居た。


彼女はルカリス・セレスニア




黄色の髪が特徴的だ。


貴族ルカリス氏の令嬢であり、


この国、シラメルの都市部近くに位置する貴族だ。




ただ貴族の中では身分が最底辺ともいえる位置にあり、ほぼ扱いは平民と同じだ。




「セレスニア様。学校に行く用意は終わりましたか?」




この声は、彼女の側近メイド、シリスだ。


赤髪が特徴でメイド服を来て、ドアの前に立っていた。






「え、えっと…」




彼女はたじたじしつつ、本を閉じた。


シリスは呆れながら




「そろそろ行ってくださいね」




そう言った。


シリスはその後何か仕事があるのか部屋から出て行った。


私には親が居ない。


だからシリスが実質親みたいなものだった。




セレスニアはなんとなくで用意を進め始める。




「学校だるいなあ」








この国は結局は身分社会だ。


いくら勉強して頭が良くても、どれだけ魔法がうまく扱えても


結局は身分の差で埋め潰されるのだ。




そして彼女セレスニアもそう思うことが多々あった。




「学校行きたくないのになあ」




そう言いつつ、服を着替え始めた。


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彼女、セレスニアは16歳だ。


この国は基本学校というものが存在する。


そして16になると新たに高等学校に入る必要があった。


そして一定の身分が入れないといけない学校もあった。




その一つが彼女が通っているシラメル国立学校




この国一番の中心部に位置しているこの学校は、


有名貴族もたくさん通っている。




だがそうなると身分の差はこの中でも生まれてきて、




彼女も例外ではなかった。








「おいお前、道空けろ」




彼女がいつものように学校に行くと、まず邪魔者扱い。


貴族とは思えない身分、


まさに平民扱いされていたのだった。




「ご、ごめんなさい」




セレスニアはすぐに端っこに寄った。


彼女はすごく怖いと感じつつも頑張って教室までたどり着く。


だがこれで終わるわけではもちろんない。




教室内でもまず独りぼっちだ。


誰もが近寄ろうとしない。


そして先生は何かを察してるのか何も触れないのだ。




まだ学校生活は1か月しか始まっていない。


だがもうすでに差は生まれていたのだ。




こんな身分社会を彼女は常に生き続けていた。






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今日の授業はたまたま、魔法の授業だった。


彼女にとって唯一の楽しみであり、他の授業はあまり真剣に受けてないことが多い。


まだ




「では、魔法の基本をおさらいから」




先生がそう言って、的に向かって手を出す。




「手に自分の持つ魔力を込めて」




そう言って、先生は目をつぶり、




「ファイアーボール」




そうすると先生の手からは炎の玉が作られ、的に向かって撃たれる。


生徒たちは感心し、お~という声が聞こえる。




「こんな感じよ。皆もやってみて」




そう言った。


周りの人たちも手を前に向けて、目をつぶる。


だが成功したものは本当にごくわずかだった。


その中の一人がセレスニアだ。




「ファイアーボール」




手を出すと、先生が出したものよりは遅いが、撃つことは出来るのだった。




「ははは」




それを横で笑うものが居た。




「そんなものに誰が当たるの?」




彼女は有名貴族筆頭のメルシスだった。


王女候補にも名を挙げており、圧倒的なカースト最上位だった。




「こんな感じで撃つんだよ?」




そう言ってメルシスはセレスニアの顔を向けて手を出した。




「や、止めて!」




そう言って、彼女は顔を手でかくしてしゃがみこんだ。




「逃げないでよ?ほら見てなって」




彼女は笑いながら手を下に向け、


そしてその取り巻きもにやにやしながらセレスニアを見ていた。




「やめてよ!」




そう言ってセレスニアは手を振り払った。


特に何かがあったわけでもないが何か風の力が起きたのか、


メルシスは若干の違和感を感じて怒り始めた。




「ちょっと!何かあったらどうするつもりなの?」




周りの取り巻きも口々に何か悪口を吹き込む。




それを見かねた先生がこっちに向かってきた。




「ちょっとやめなさい。何があったの」




「先生~。セレスニアに魔法をかけられました」




先ほどの憎たらしい顔ではなく、甘えるような顔で先生にそう訴えた。


王女候補筆頭ということもあり、先生はそれを信じた。




「セレスニア。人に魔法を撃ってはいけません。分かりましたね?」




先生はそう注意した。


だが注意が少なかったのか、メルシスは少し不満げだった。




先生が他の人を見に行ったら、




「セレスニア。あなたを一生許さない」




そう言って、彼女も別のところに行った。




いつから彼女の反感を買ったのか。




おそらくだが反感を買ったわけではない。


ただ身分の差が巻き起こした状況なのだろう。


セレスニアはこの身分に不満を持ちつつ、魔法授業の練習に励んだ。




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「もはやここまでになると悪い呪いでも付いたのかしら」




メルシスは不満げにセレスニアの方を向いてそう言った。




簡単に説明すると、先生が簡単な模擬戦をやると言い出したのだ。


そしてたまたまくじで当たったのがこのペアだった。


他のペアはもう終わり残りもこの2人となった状況だ。




「よ、よろしくお願いします」




もはやセレスニアを応援している人は居ないくらいに、メルシス側についている人が多い。




「では、用意、はじめ!!」




先生の合図とともに、メルシスは高速でセレスニアの周りを走る。


一方彼女は何もできず、混乱している。




「ふっ。所詮はこの程度か。」




メルシスはバカにしたような笑いを取りながらセレスニアの背後を取った。




「ファイアーボール!」




彼女の手からはまっすぐ、きれいな炎の玉が撃たれた。


そしてそれはそのままセレスニアに当たる。




先生がもしもの時のために防御を張っていたから


助かったものの危なかっただろう。




「あわわわわ」




セレスニアは何もできずに混乱して、一方メルシスは勝ちを確信していた。






「底辺貴族なんて、哀れに散るがいい!ヘルファイアー!」




彼女は少し浮き、周りには炎の玉がいくつも出来ていた。


それが順番にセレスニアに襲い掛かる。




「ひぇ…」




彼女はおびえて思わず頭を抱えてしまった。




そしてそのまま




「ストップ!ウォーターウォール!」




先生は水の壁を作り、彼女の炎の玉を打ち消した。




「メルシス、それは上級魔法です。危険なので使わないでください」




先生はそう注意して、そのまま魔法授業は終わった。






セレスニアがおびえていると、そこにメルシスとその取り巻きが近づいてきた。




「あんたが貴族なんて、私たちの恥だわ。」




そう言って彼女たちも教室に戻って行った。


セレスニアも教室に向かって歩き出した。








「ったく…危険ですわね…」






その様子を校舎の屋根から見ていたひとりの女性が居た。


それはだれが見ようが紛れもなく、セレスニアのメイド シリスだった。










「はあ」




誰もいないところでセレスニアは思わずため息をついた。


せめて私がもっと強かったら…


もっと身分が高かったら…




そう考えることがよくあった。




「お、セレスじゃないか。ちょっとこっちに来い!」




そう言って彼女を呼び止めたの国内最強とも言われる魔法使いの学園長だった。








この国には階級制度があった。


それは魔法使いや剣士などを全員合わせた中でのランク帯のようなものだった。




ランクは7つ


下から順番に




初級駆け出し


銅級ブロンズ


銀級シルバー


金級ゴールド


そして、そこからは強さが別次元に違うと言われる


白金プラチナ


聖人クロノス


そして最高峰と言われる


七天7つの天井、別名seven celling






七天はこの国で7人しかいない言わば、最強の7人だった。






だが名を表で出しているのは一人だけ、それがこの学園長だった。






「久々だなあ!」




この陽気な学園長は30歳前半と言ったところか、


まだまだ若い女性のようにも見える。


赤髪の剣士で、腰に剣を構えている。


ちなみに音天と言われる、音の魔法を扱う最強だ。




「あの~。次授業が…」




セレスニアは言いにくそうにそう言った。




「まあまあそう言わずに、セレス」




「ええ…」




セレスはこの学園長が嫌いだった。


入学初日から絡んできて、彼女からしたらただのやばいやつだ。




「最近はどうだ?」




だがこの人はセレスのことを心配しているようにも見える。


だからこそ断りづらいのだ。




「えっと、ぼちぼちですかね」




「そうか?まあなんかあったらすぐにでも言ってくれよな!」




唯一身分という壁なしに触れてくれる人でもあった。


だからこそ嫌な顔は出来るだけセレスは見せないように気にしている。






「疲れた…」




その場にしゃがみこみ


そう呟いた。




「大丈夫ですか?セレスニア様。お茶を飲みますか?」




思わず聞きなれた声がして、セレスニアは上を向いた。


するとそこには彼女の専属メイドが居た。




「は?」




セレスニアは思わず驚いた。


まさか居ると思わなかった。


確かにこの学校は自分の専属を一緒に連れてきても良い。


だがそれはあってないようなものだった。


現に連れてきてる人は居ない。




「なんでいるのさ…」




あまり一目に着かないように声を下げる。




「セレスニア様の安全が気になって」




シリスは彼女が身分の差で苦しめられていることを知っていた。


だからこそ学園まで来ているのだろうが、




「気にし過ぎだわ!」




思わず少し大きな声が出て、慌てて口を手でふさぐ。




「大丈夫ですよ、私があなたの安全をお守りします。」




そう自信満々に言った。


だが流石に教室にまで連れて行くと、


ただでさえ集まっている視線がさらに集まると分かっていたセレスニアは




「じゃあそこらへんうろうろしてて、教室には来ないで」




そう言って彼女は上に上がっていった。


シリスは了解しましたと言って、学校外に出て行った。




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昼から特に彼女の動きがあるわけでもなく、


ようやく帰れるとなったとき、事件は起きた。






帰るために学園を出ると、そこに居たのはやはりシリスだった。




「お疲れ様です、セレスニア様」




そしてセレスニアが歩くとき、大体後ろにはいつもあいつが居たのだ。




彼女の家は都市部に近いとはいえ、底辺身分なので森の中にあった。


ちょうど森に入った時だろうか、




「ねえ、誰その女」




メルシスだった。




すっかりセレスニアは油断していた。


学校外なら別に目立たないだろうと。


だが常に彼女を監視しているメルシスからすればすぐにばれることだったのだ。






「顔は良いから私のメイドならない?」






メルシスはメイドに似合うシリスの姿を見て、勧誘を始めた。


だがそれに対抗したのはセレスニアだった。




「駄目だよ!唯一の私の家族なのに」






セレスニアには家族が居なかった。


物心がついたときから近くに居たのはシリスだった。




「は?生意気な口を利かないで」




メルシスはセレスニアが割ってきたことに激怒した。


そしてそのまま、手をかざした。




「メラファイア」




手に魔力が集まり、いわば火炎放射のようなものが撃たれた。




だがそれはシリスによって止められる。




「ウォーター」




ただシリスは水を出しただけ。


それでもそのメルシスの魔法は消え去った。




「!」




メルシスは動揺した。


いつもならその時周りの取り巻きが慰めてくれる。


だが今回は一人だった。




「我がセレスニア様に手出しはさせません。」




そう言って、シリスは少し目を赤く光らせた。




「何よ面白いじゃない…」




メルシスは恐怖感が逆に勇気となったのか、もはや戦う気でしかなかった。




「シ、シリス。止めて…」




セレスニアは思わず止めに入るが、それをシリスは同意しなかった。




「駄目です。彼女はいつもセレスニア様をいじめているのです。


ここで反抗しないといけないのです」




「も、もう勝った気で居るのかしら」




メルシスは足が震えていた。


ここまで勝てる見込みがないものを見てこなかったのだ。


いつも格下の人ばかりを見つけてはいじめ、権力を見せつけてきた。




だがこのメイドだけは違うかった。




「ふっ。あなたは私には勝てない」




そう言って、シリスは少しずつ上に浮き上がってきた。




「実力を知れ。水魔之槍いざなみ」




それはどこからやってきたのか、水の魔力で作られた槍がシリスの手に乗った。


もはや今この領域はシリスのものとなっているだろう。




「フ、ファイアーボール!」




恐怖感に耐えつつ撃った、メルシスの攻撃はシリスの一振りで消え去る。




「え…」




彼女は今絶望を知った。


そして死を覚悟した。




「セレスニア様を気安く触るな。」




メルシスがもう反抗してこないだろうと悟り、シリスは槍をしまった。




セレスニアは少しホッとしつつも、




「シリス、やりすぎ」




ちょっぴり怒っていたのだった。




「でもありがと」




「ええ」




シリスはまんざらでもない顔をしていた。


気が付くとメルシスは逃げていたのかその場に居なかった。






「帰ったらご飯を作りましょうか」




「お腹空いた~」




やはり何か身分の差を少し縮めれたんじゃないか




そう思った。




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次の日から態度が変わった……なんてことは無かった。




案外しぶといのだろうか、


メルシスは




「あのメイドさえいなければあなたは弱者なの」




そう言って微笑んでいた。


結局人は変わらないということなのだろうか。




やはり身分の差を埋めるのは厳しかった。










「え?メルシスが消えた?」




事件というのは何ごとも突然にやってくるものだ。




私はシリスからの知らせを聞いて、目が覚めた。




「はい。メルシス嬢は今朝身元が行方不明となったと連絡が届きました。」




シリスは部屋のドアの前でそう淡々と告げた。




今私の頭の中には2つの選択肢があった。


1つはメルシスを自分たちから助けに行く。


もう1つはこのまま関わらないで居る。




このどちらかなのだ。




「シリスならどうする?」




私がそう聞くと、シリスは




「ほっときましょう!」




笑顔でそう言い切った。




彼女の言い分私には分かる。


確かに私はいじめられてきた。


だから助けなくても良いだろという考えだろう。




ただこれはチャンスなのだ。


底辺貴族の私たちがここで救うことで、地位を上げられるかもしれない。




「だから私は助ける!」




この世界は何ごとも利害関係で成り立っている。


今回も、メルシスに認めさせるために私達は助けに行くのだ。






「ちなみに場所は?」






「魔族領という噂です」






聞きたくもなかった。








この国は魔族と対立してきた。


だが数年前に何者かにより魔族領が破壊され、私たちが勝利を手にした。


だがまだ完全に魔族が消滅したわけでもなく、生き残りはたくさんいるのだ。




そういうやつらが人質目当てに人をさらう。




そして何より距離が遠いのだ。


5日間くらいは旅をしそうな予感がする。




「本当に助けに行くのですか?セレスニア様」




シリスは最後に確認を取った。


そして私は静かにうなずいた。


覚悟は決まっている。




どうせ身分は底辺だ。


死んでもあまり変わらない。


勝てば何とかなる。


ならば賭けるしかないだろう。






「とりあえず学園長に許可を取りに行くか。」




旅準備をするにあたって、まずは許可を取る必要がある。




「では今日学園に行くときに頼むんですね」




そう言って、シリスも準備を始めた。


彼女は正直メルシスを助けたくないだろう。




それでも彼女はセレスニアの事ならばと不満一つ言わずにやってくれる。


だからセレスニアはシリスが大好きだ。






「さて、私も行く用意しないとな……」






とりあえず許可が取れなきゃ始まらない。


なのでセレスニアも行く準備を始めた。




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「メルシスを助けに行きます!」




学園長は茫然とした。


だがすぐに




「おお、がんばってくれ!!!」




そう言った。


簡単に許可が取れた。


これが日ごろからの信頼関係というものなんだろうか。


なにはともあれ許可は取れた。




だが学園長はその後にいくつか付け足した。




「魔族は強いから油断はするなよ?セレス」




何か少し引っかかったのか念を押すように言ってきた。






学園長の許可さえ取れたら、今日授業受ければしばらく行かなくて済む




案外メルシスが失踪したのは伝わりきってなかったのか、


周りはてっきり風邪で休んだと思いこまれているらしい。


そしてそのヘイトは次第に私に向いていく。




「ねえ、あんたのせいで」




「絶対許さない」




「メルシスが帰ってきたら覚えてなさいよ」




と八つ当たりをしてくる。


これも行ってしまえば日常だ。






私は1か月しかたっていないがこういうことにはすっかり慣れてしまった。


だから私は何も言い返さない。




今頃シリスが旅支度をしているので、帰ったらすぐ出発するつもりだ。


だから明日から2週間ほどは学校にいけない。




いやもしかしたらこの先の人生も消えてしまうかもしれない。






ただその覚悟はもう決めた。


いくら弱くてもイチかバチかに賭けてみたかったのだ。


それに最悪シリスが助けてくれるだろう。




私はそう思い、教室で座っていた。




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「さて、行きますよ。セレスニア様」




シリスは若干大きな荷物を背負って、私は普通のリュックを背負った。


しばらく帰らないかもしれないが、これも一つの冒険だろう。




「は~い」




私はピクニックに行くかのような声を上げた。


そしてすぐにシリスの後ろを追う。




「ええ、シリス、こっから魔族領までどんくらいなの?」




私は旅初めに気になった。


するとシリスは若干ためらいながら




「3日ほどです。」






「帰りたい」




私はそう言って、引き返そうとしたが、


シリスに首襟をつかまれた。




「だめです」






こうして、メルシスを救う旅が始まった。








目の前に広がっているのは、魔族領だ。


黒い森の中に一つだけ道が開かれている暗い場所。




魔王の生き残りがまだ魔族領には残っている。


その中でも、7人のいわば最高階級の魔族が居る。




そして今回メルシスをさらったというのがそのうちの一人、アレース。


私はよく知らないのだが、シリスが教えてくれた。




「セレスニア様。本当に向かうんですね」




シリスは最後の忠告をした。


それは後戻りは出来ないという合図でもあるのだろう。


私は静かにうなずき、目の前に広がる暗い道の方へ向く。




「するしかないでしょ……。もう底辺貴族は嫌だもん」






ここでメルシスを助けることで、階級を上げられるチャンスだった。


なのでこの決断を選んだ。


ここで戻ってしまえば、また面白くもない学園生活が始まるのだろう。




「分かりました。では行きましょうか」




前提として戦力はシリスが9割と言ったところか、私はどうすることもできず後ろに居るしかない。


なので私はシリスに頼りつつ後ろをついていった。












何時間歩いただろうか。


特に話すこともなくただ暗い道を歩んでいると、1つの大きな建物が見えた。


それはまさに闇の宮殿とでもいうような大きい建物だった。




そしてシリスは振り向いて、




「ここにメルシス嬢が居ると考えられます」




いよいよだった。


私は気を引き締めて、前を向いた。


シリスは何か意思をくみ取ったのか何も言わずただ進んでいった。






「行きますよ?良いですね?」




シリスは宮殿のドアに手をかけてそっと引いた。


中はやはり薄暗く、そして何か不気味な雰囲気でもあった。




「だ、大丈夫かな」




いつも家でごろごろしているときの部屋の暗さにあまり変わらないのだが、


それでも雰囲気に押しつぶされて今にでも逃げ出したい。






「私がお守りします」






シリスはそう自信強く言った。




そしてその時、戦闘は急に始まった。




シリスは手を振りかざしてとっさに何か攻撃を払った。




「水斬ウルス!」




彼女は手を払い、そして払った方向の壁は大きく穴が開いていた。


私は何も状況が読めず、止まっていた。






「ほう。お前はなかなかのやつだなあ」




1つ上の階か姿を現したのは、黒いローブを羽織った黒い角の生えた男だった。


圧倒的オーラで私は思わず足を1歩退いた。


そしてその男は私たちを上から見下ろしていた。




「あなたがアレースですか」




おびえている私の前で盾となるように、シリスは立っていた。




「いかにも、私が魔族の7大叡智の1人 アレースだ。」




「そうですか。率直に聞きましょう。メルシス嬢はどこですか」




シリスは今にでも戦闘を始めようとする顔でアレースと向き合っている。


男もまた何かを起こさんとばかりにこちらを向いている。




「そうだ。俺はあいつが欲しかったのだ」




「なぜですか?」




「あいつを使えば俺らは裏で権力をにぎれるのだ」




仮にもメルシスは有名貴族の1席。


なので権力も増大であった。


そこにアレースは目を付けたのだろう。






「そうですか……」




シリスは勇敢にも1歩前に出た。




「水魔之槍イザナミ」




彼女は左手に魔力を集めて槍を作成した。


そして男はもう戦闘するとわかったのか、




「やるか。ならばお前らは死ぬ運命だが、それでもいいのか?」




男の最後の忠告だ。


私はうなずき、シリスは槍を男の方へ向けた。




「お前が死ぬのだ。セレスニア様の邪魔はするな」






こうして戦闘は始まったのだった。














「闇一閃ダグラス」




男はそう呟いた。


そしてそれとともに私の視界から消えた。


そして、瞬きをしたとき、男は私の前に姿を現していた。




「まずはお前からだ」




男はどこから取り出したのか分からない刀を持っていた。




だが男の攻撃は当たらなかった。


シリスは槍を構えて、私を守った。




「言ったでしょう?セレスニア様には触れさせません」






そして男は私ではなく、シリスが脅威と気が付いたのか




シリスを攻めるようになった。


それを私は傍観することしかできなかった。






だが激しく闇のオーラと水のオーラがぶつかり合っていた。


そして武器同士がぶつかる金属音がただ響いていた。




「メイドさん。やるなあ。だがそれが本気かい?」




男は少し下がって煽り口調でそう言った。


そしてシリスは少し機嫌を悪くしながら




「本気でかかりましょうか」




そう言って槍を横にして両手に抱えて、宙に浮きあがった。




「水刃ノ雨マリキュリー」






シリスの周りには大量の魔力の塊が集まる。


そしてそれがだんだんと水へと形を変えて、そして鋭く研ぎ澄まされていく。




それはまるで刀のよう。




「ほう。面白いな」




男は刀を仕舞い、両腕を彼女の方へ伸ばした。




「闇之海ダーシブ」




男の両手の先には魔力が集まり始める。


それはいつでも爆発しそうなほどに膨れ上がっていた。




そして、彼女と男は同時にその大きくなった魔力の塊を投げつけあった。




その中心部では絶えず爆発音が起こり、戦力は拮抗しているようだった。




「なかなかやるようだな」




煙の中から声が聞こえて、そして男の居る場所が紫色に光始めた。




「だがお前は俺には勝てない」




「何を言う。私はセレスニア様をお守りするまで負けません。」




片方からも水色の光が見える。


もはや魔力弾の争い。


そしてその煙に負けない二人のオーラで宮殿は満ちていた。




そしてその衝撃、風波で宮殿も少しずつ取柄を失いつつあった。




「魔族の7大叡智を一人でも潰さなければいけない、この事実は変わらない」




「だからこそこの戦いは勝つのだ」




青色の光は一層に強くなっていった。




「水上破壊魔弾キメラウォルト」




力強く最後の魔力を振り絞るかのように、周りの魔力弾は共鳴していた。


そしてその威力は10倍以上にも増していった。




「ふっ。7大叡智を舐めすぎだ。」




男は余裕の表情だった。


いや、もう決着はついていたのか。




次の瞬間戦闘は急速に病んだ。


煙が少しずつ立ち除いた。


そしてシリスが壁にもたれていたのが見えた。


そして彼女の胴体は大きく切り刻まれていた。




「所詮は人間だ。一瞬の隙を刀で切るなど簡単すぎる。」




「お、お前……」








私は目の前に広がる絶望を見ることしかできなかった。










「セ、セレス…ニア様……」




壁にもたれたシリスは残る余力で私の名前をそう呼んだ。




そしてそれに男は目をも向けず、




「お前らの探しているのはこれだろ?」




そう言って一つ大きな檻が出現した。


そしてその中にはメルシスが居た。


彼女は何か絶望的なものを感じたのかもう眠っていた。




「まあお前らには無理だ。諦めろ」




男は勝ち誇った様子でこちらに向かってきた。




「わ、私じゃ…勝てない…」




私はおびえながら少しずつ下がる。


そして1歩ずつ悔しさが湧き上がってくる。


何もできない悔しさ。




そしてそれと同時に怒りも込みあがってくるのだ。


メルシスを誘拐し、そしてシリスをあんな目に合わせたからだ。




「水刃ウォレス」




「無駄だ」




シリスの残った魔力で撃った技もすぐに消されてしまう。


本当にどうすればいいのか私には分からなかった。




「あ、先にこのメイドを殺すか」




男は何か思い出したかのように私からシリスへと足向きを変えた。


そして刀を持ってそっちに向かっていく。




「や、やめて」




私のおびえつつ出た声もむなしく彼には届かなかった。




「さて、こいつの絶望を見たいんだ。我慢してくれよな」




男は刀を振り上げた。










セレスニアの怒りは限界に達した。


必要性のなさすぎる専属メイドへのとどめ。


これは彼女の怒りをマックスにするのには十分すぎたのだった。


そして数ある魔族というものそのものに怒りは湧き出る。




何より人間を誘拐するというそのものにまでさえ感情に押しつぶされそうだった。




そして彼女はもはや、セレスニアの原型すらなかった。




「やめろ」






その一言で男の刀を消し飛んだ。








宙へと浮き上がったセレスニアはもはや人格すら別人の眼差しだった。


光のオーラをまとい、そして黄色い目へと変わった。


もはや魔族を敵としかみなしていないかのような軽蔑した目で、男を見ていた。












「ほう。お前もなかなかに強いのか?」




男は何か関心を持ちセレスニアに近づいた。


そして新しく刀を取り出した。




「黙れ」




何か頭にまで入ってくる声そのものだった。


それはまさに魔力を操作していたのか、


いつの間にか彼女の周りには無数の魔力の塊ができていた。




「我を倒すなどいつまでもさせぬ。」




「ふっ。だが所詮は俺の足元にも及ばぬだろう」




男は依然と様子を変えることもなく、セレスニアに向かう。




「闇一閃ダグラス」




歩き出したその勢いで、男は彼女に間合いを刹那のごとく詰めた。


だがそれは彼女にはお見通しのようだった。




「光ノ戦場シャインアクセル」




光は音よりも速い。


それがそこで分かりやすい例となった。




彼女の横から一つ光線が出る。


それはとてつもない速さで向かい、男の刀を潰した。


そしてその勢いに耐えられぬまま、男も壁に吹き飛んで行った。




「こんな技で砕け散るとは。まだまだだな」




「こ、こいつ…」




「俺はここで勝つのだ」




「それは無理です」




壁にもたれていたシリスは少し弱い声でそう言った。


思わず男はそっちを向いた。




「どういうことだ?」




「そのまんまの意味です。」




そしてシリスは少し言葉をためて、






「彼女は魔王を滅ぼした人間ですよ?」








アレースは急激な怒りが目覚めたのだった。




数年前、魔族領は突如姿を消したのだった。


いや消されてたのだ、1人の少女に。




彼女は生まれつき親が居なかったわけではなかった。


だが、セレスニアが幼い時、親は魔族によって殺されたのだった。




それを知った時セレスニアは何か感じたのか、突如姿を消した。




そして今のような、いわゆる覚醒状態となり






1つの魔族領、そして魔王を滅ぼした。








「あいつが!あいつが魔王様を!!」




アレースはもはや例えきれないような怒りをあらわにした。


そしてそれがセレスニアにとって隙だったのだ。






「閃光ノ破壊神ニレルデストロイ」






彼女の横に大量にぶら下がっていた、魔力の刃。


それが一斉に男へと降ってきたのだった。




「これでお前を終わらせる!!!究極闇星ダークプラネット」




男は周りにまとっていたオーラすらも魔力に変えた。


それは怒りの究極魔法だった。


男の周りには大きな黒色の魔力球が無数に出来て、


そして彼女の技に立ち向かった。






激しい光線、そしてそれに対抗する闇の弾。


どんどん規模は破壊力を増して、そして宮殿すらも吹き飛ぶ戦いとなったのだ。




壁にもたれていたシリスはセレスニアの魔法で守られ、メルシスはアレースに守られる。


こんな攻防一体となっているように見えた。




そしてアレースは最後の魔力を撃ち、そして勝ち誇った様子で見上げた。


だがそれは絶望を感じるに他ならなかったのだ。




「その程度か」




まったく魔力の減りを感じなかった。


アレースは所持していた魔力をほぼ使い切ってしまったのに対してだ。




「お、お前は何者だ…」




男は諦め、最後にでもと名を聞いた。




「我が名はルカリス・セレスニア。最強の七天貴族だ」




そして彼女は静かに男に手を振りかざした。




「はは…七天か…まだまだだな。俺も」




そう言って男の声は途絶えた。


もうすでに光の塊が胴体を貫通し、まもなく男は塵になって消えたのだった。








セレスニアはシリスを回復させると、その場で力を失ったかのように眠り始めた。


彼女は覚醒状態に入った時、自我を切り替える。


そのため、元に戻るには一度眠りにつかないといけなかったのだ。




シリスは、彼女に回復され、立ち上がるとセレスニアをお姫様だっこで持ち上げた。




「やれやれ。普段から強くなってほしいものです。」




彼女はそう呟いた。




そしてもう一つ忘れてはならないものがあった。






それは端っこで今にも気絶しそうなほどおびえた令嬢だった。








「大丈夫ですか」




メルシスは戦闘を見ていたのか、すごく恐怖で震えていた。


シリスが声をかけると、すごく小さな声で




「だ、大丈夫です…」




「そうですか」




とくに何か声をかけるわけでもなく、メルシスに回復魔法をかけた。




「あ、あの…」




メルシスは立ち上がりながらシリスに声をかける。




「セレスニアさんって、本当に…」




シリスは小さくうなずいて、前の方へ向いた。




「他言無用でお願いいたします」




そう言って帰り道へ進みだした。








街への帰り道、メルシスとシリスは色々と話した。


この事件の概要、そして見返りだった。




まずメルシスを救助するのはセレスニアの提案。


そしてセレスニア自身、覚醒状態を自覚していない。


なにより叡智の1人を倒したのは2人の手柄だ。




これはセレスニアが学園で飛び級になっても、彼女自身が困惑する。


出来れば覚醒状態はこれからも自覚せずに居てほしい。






「見返りはどうしたらよいですか?」




メルシスはもう、この二人を下に見ることは出来ないと確信して敬語へと変わっていた。




「このことを広めて、身分を上げてください」




シリスはそう提案した。




メルシスも、もう嫌という感情などさらさらなく、ただ感謝でいっぱいだった。








――――――――――――――――――――――――――――――


後日また話そうということで別れた。


シリスが屋敷に着くと、抱えていたセレスニアを寝室に連れて行った。




だが、寝室に寝かそうとしたとき、彼女は目が覚めた。






「痛いいいいいいいいいい」




彼女はおもむろに叫びだした。


いつの間にかの戦闘で彼女は混乱していたのだろう。




覚醒状態時の戦闘で少しは破片などがぶつかって切り傷を負う。


だがその状態だと痛みなど知らずに戦闘を続ける。




そのせいで戻ってきたとき、自分に返ってくるのだ。




「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」




シリスがよく見ると、想像以上にいろいろな場所を切っていた。




彼女は回復魔法をかけつつ、笑いながら




「喋っているならそこまで危なくないか」




そう呟いた。






――――――――――――――――――――――――――――――


結論から言うと、貴族の中でも地位はすごく高いものとなった。


それはやはり魔王の末席を倒したのが大きいのだろう。




だがセレスニアは単純に、




「シリスが倒したのに私まで身分上がっていいの?」




と驚きの発言をしていたが、




まあ自覚がないので仕方がないだろう。






学校内でもカースト最下位から免れた。


というのも、カースト最上位のメルシスはセレスニアとよく話すのがきっかけだった。




その影響が他にも伝わり、いじめというものがなくなった。






そして、メルシス嬢はこのことを世に明言した。


一時は騒然したが、セレスニアが救出したということもあり、地位は向上。


社会でも隔離されることはなくなった。






だが、セレスニアからすれば、シリスの手柄で上がってしまったと思っているようで。


すごく申し訳なくいるらしい。






何はともあれ、これは始まりに過ぎない。


底辺貴族はまだまだこれから成りあがっていくのだ。






これがセレスニアのストーリーの序章だった。


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読んでいただきありがとうございます!

一応短編として出していますが、伸びたりしたら長編に切り替えられるように設定を織り込み済みです。


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【短編】底辺貴族の成り上がり ~いつの間にか有名になってるんですが~ 白崎 奏 @kkmk0930

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