そうだ、コーヒー飲もう

滝川 海老郎

1話本編 コーヒーと幼馴染

 俺はある日の昼休み、高校の二番目の美少女に告白した。


「あの、好きです」

「西野君ね。嫌いじゃないけど、あのね」

「はい」


 かわいい東上エリカさんの笑顔がまぶしい。

 彼女はちょっとバツが悪そうな顔をしたあと再び口を開いた。


「あなたは私に憧れてるだけだわ」

「え、あぁそうかもしれません」

「それで、本当に好きというか彼女としてお互い幸せになれる人は別にいるわ」

「別、ですか」

「うん。私には見えてるもの」

「誰なのかは?」

「それくらい自分でたどり着きなさい。私に告白できる勇気があるなら大丈夫よ」

「そうですか」

「うん。私はお邪魔虫みたいだからね」

「わかりました。ありがとうございます」

「うん。お礼も言える。大丈夫、えらいえらい」

「はい」

「じゃあね」


 こうして俺こと西野蒼は憧れのエリカさんには振られてしまった。

 放課後、とぼとぼと学校内をうろついてみたものの、帰宅部の俺に行く場所はない。


「自動販売機か」

「じゃーん」

「なんだ、サエナじゃんか」

「そーだよ。コーヒーはいかがですか?」

「そうだな。うん、そうだ。コーヒーを飲もう」

「お買い上げありがとうございます」


 ペコリとセーラー服姿で頭を下げる。

 別に彼女は自動販売機メーカーとは関係がないが、なんだかそれらしい。


「じゃあ私も同じやつ。ホットのカフェオレ」

「お、おう」


 現金を投入して下から取り出す。

 しゃがむときに左手でスカートを押さえる仕草に少しどきりとした。


 ふたりでたわいないテレビの話をして、教室に戻った。


 俺の椅子と隣の椅子を借りて、二人で座る。


「それでさ、振られちゃったんでしょ、知ってる」

「まあな、あーあ。本当に憧れだったんだよ。『好きじゃなくて憧れだ』とずばり言われたときはショックでさ」

「そうだよね。エリカちゃんかわいいし」

「だろ。雪原のお姫様みたいで、こう俺の心を刺激してくるんだ」

「まったく。ミーハーなんだから」

「しょうがないだろ。感性の問題だし」

「私も憧れるのは分かるから余計苦しいんじゃん」

「なんでお前が苦しいんだよ」

「え、なんでっかなぁ」

「ったく」


 ずずずと缶をすする。

 うまい。

 甘さとミルクのまろやかさ。コーヒーの苦さとブレンドされていて美味しい。


「甘さとほろ苦さ。まさに青春だね」

「もう調子いいんだから」

「俺にはもっとふさわしい人がいるんだってさ」

「へぇ」

「誰なんだろ、サエナわかるか?」

「わかんないわよ。あんたなんか」

「だよな」

「ちぇっ」

「なんで拗ねてんだよ」

「どんなときでも味方の子」

「お、おう」

「一緒コーヒー飲んでくれる子」

「ああ、いるな、確かに」

「どやぁ」

「そうだな。サエナもかわいいな。お前、学校一の美少女だもんな」

「そうだよ。でも私は別にどうでもいいの。一番好きな人が好きって言ってくれるなら何番目でも」

「そっか。ちなみに俺がお前のこと好きだって言ったら?」

「ひぇっ、えっ、だって、エリカのほうが」

「あぁ、よく考えたら憧れと好きとか付き合うって別なんだなって」

「でででで」

「そうだな。好きだよ。サエナ」

「ちょっ、あっ、ん。まままま、まぁ、そっか。私、も。好きだよアオ」


 結局遠くを眺めていただけだった。

 本当に好きな人はすぐ目の前にいて、コーヒーをすすってる。

 まあ、そういうこともあるのだ。

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