第5話 お帰りなさい愛しい娘
朝日が枝葉についた露をキラキラと輝かせる中、キリア伯爵家に可愛い赤ん坊の泣き声が響き渡った。
金色の柔らかい髪に絹布のような白い肌、頬は薄く桃色に染まっている。母親であるシェリーに抱かれ眠る赤ん坊の額には、キリア伯爵家のヒイラギの紋様があった。
「よく頑張ったね。シェリー、ありがとう。可愛い女の子だな」
「ええ、あなた。でも…」
「ああ。光が無いな。だが、我が家の家紋は、ある」
この世界では、額の紋様は家系を表しその紋様が放つ光は、魔力を表している。キリア伯爵家は代々魔力の高い家柄であった。
「ごめんなさい」
「謝ることはない。こんなに可愛い娘を生んでくれたのだ。良い名を付けてやらねばな」
「ええ…あの、名なのですが、」
「何か付けたい名があるのかい」
「はい。テラという名にしたいのですが、」
「テラか、良い名だ。以前皇女様にその名の方がおられたような気がするが、かなり昔のことだ。良いのではないか」
「おかあさま~」と、額の紋様から強い光を放ちながら笑顔で駆け寄ってきたのは、長男であるシリウスだった。
シリウスは母親の腕の中の赤ん坊を嬉しそうに見つめた。
「えっと、僕の妹。何と呼べばよいのですか」六歳のシリウスは、瞳を輝かせながら尋ねた。
「ふふ。シリウス、嬉しいのね」
「ああ。シリウス、テラと呼んでやりなさい。お前の妹の名はテラだよ」と、キリア伯爵が言った。
「テラ、お兄様のシリウスだよ。うわ~長いまつ毛だ。テラ、可愛い。お父様、お母様、テラは、天使みたいだね。テラ、僕がずっと守ってあげるからね。」
シリウスがテラに話しかける様子を見ながら、キリア伯爵がシェリーに聞いた。
「ところで、名をテラにしたいと思ったのは、何か理由があったのかい」
「ええ、あの子を身籠ったころに夢をみたのですが。その夢の中に虹色の光に包まれたあの子がいて、あの子をテラと呼ぶ声がしたのです。その声がとても尊く慈しみに溢れていたので、ずっと気になっておりました」
「夢の中の子が、あの子だと…」
「ええ、母親ですもの。この腕に抱いて確信しましたわ」と、シェリーは、テラを見つめ微笑んだ。
その妻の表情にキリア伯爵は暫し見とれていた。
「美しい」
「えっ、」
「い、いや。」
キリア伯爵は、顔を紅潮させながらも何事もなかったかのように咳払いをして話を続けた。
「テラは、尊い力に守られた存在なのかもしれないな」
「ええ、光を持たなくとも…」
キリア伯爵家の様子にエスプリと精霊王は、深い安堵の息を吐いた。
聖なる泉からこの世界の出来事を覗くのは、異世界を覗くよりも簡単であった。
「良かったな」
「ええ。お父様、ありがとう」
精霊王である父の力も借りて、テラの魂をこちらに何とか引き戻すことが出来た。
そのテラの魂は、キリア伯爵夫妻に託した。
キリア伯爵家ならば温かく清らかな心が育つであろう。安心である。
何より、シェリー夫人は私の欠片でできた宝石、首飾りを受け継いでいるのだから。その宝石は、いずれテラの元へと戻ってくるはず。
それほど遠くないうちに、テラに真実を明かさなければいけない時が来る。
私は、上手に説明することが出来るだろうか。
テラは、その内容を
「愛しいテラ、お帰りなさい」
今日も結界で隠されたイマージュ帝国の旧宮殿は、静かで温かい。
聖なる泉を見つめるエスプリのウエーブのある長い金色の髪は輝き、美しく清らかな精霊の力を放っていた。
精霊王の娘は人間を愛したもので。 真堂 美木 (しんどう みき) @mamiobba7
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