第40話
紅い瞳の男――もとい、大臣の失脚が決定打となった後。サフィラスは、ドゥラン国王から三つの謝礼を受け取っていた。それは、馬車の一式と国王直筆の身分保証書、そして金貨百枚だった。
「これを。心ばかりではあるが、今用意できる最大限の礼だ。受け取って欲しい」
「私は私怨を晴らしただけさ。故に、これらの権利は二人に与えるよ」
「私怨――それは、ルベール国王が行っていたという“人体実験”の事かね?」
「……」
「醜態を晒したが、これでも一国の主だ。他国への探りは日常茶飯事……取り分け、彼の国に対しては入念に情報を収集していてね。その際に目を引かれた単語だった」
するとドゥラン国王は、サフィラスの胸元を指す。
「一目見た時から疑っていたが、その宝石を見て確信した。 ……先程渡した物だが、この国を発った後に確認すると良い。大臣の監視があった手前、権限付与のカードなどと偽ったが――君にとって、有益な情報が記録されている」
「……そうか。では、失礼するよ」
サフィラスは部屋の奥へ進み、窓枠に手を掛ける。
「――
夜空に消えた彼の姿を見送り、ドゥラン国王は机上で小さく鳴る呼び鈴を押す。
「ああ、直ぐに向かう。到着まで、どうにか押さえてえてくれ」
そして再び呼び鈴を押すと、足早に室内を離れた。
リベラを荷台で寝かせたまま、サフィラスとロアは交代で手綱を握る。雲一つない澄んだ夜空には煌々と星達が瞬いており、草原に残された前駆者の跡を照らしていた。彼らはその轍に沿うように、静かに進んでいく。
「ふぁ、あ……目的地まで、あと30km……明日の朝にはどうにか着きそうね」
ロアは道端に立てられた木製の標識を一瞥すると、大きな欠伸を一つする。
「助かったよ。正直なところ、次の行き先を決めかねていたからね」
「こっちこそ。大臣を下ろす手伝いをしてくれて、ありがとね。 ……まさか、陛下が直々に謝礼を下さるとは思ってもみなかったけど」
「一般的なヒトの収入の、ニ年分の金貨。偉業を成し遂げた者しか持ち得ない、国王直筆の身分保証証。そして、貴族でなければ乗ることすら許されない馬車と、それを引く芦毛の馬。いずれも今後、役に立つものばかりだ」
「ええ。気持ちは嬉しいけど……なんだか落ち着かないわ」
「出自により、感性も異なるのだろう。けれど、お陰でリベラを休ませることが出来た」
「そうね。荷物も詰め込めるし、馬もカワイイし。恩返しをしたつもりが、それ以上のモノを貰っちゃったわ。せめて誇らしく、胸を張っていかないとね」
「……ああ、そうだね」
意気込むロアに適当な返事をし、サフィラスは荷台の窓からの景色を眺める。暫く見惚れていると、やがてロアが音を上げる。
「ふあ……御免なさいね。そろそろ、限界……かも……」
「代わるよ。無理をせず休むと良い」
「ん、ありがと……お休みなさい」
サフィラスは手綱を受け取ると、芦毛の首筋を優しく撫でる。そして
「夜間に働かせて済まない。キミも、無理はしないでおくれ」
馬は短く鳴くと、再び脚を動かした。
宝石箱に魂を添えて 〜魔法使いと禁忌の子〜 禄星命 @Rokushyo_Mikoto
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