第39話

 一つの革命が為される瞬間を、一億の瞳が海馬に焼き付けていた。小さな画面の向こう側で起こった、圧制者への大きな一手。それは鬱積していたイルミス国民に、脳を揺るがす程の衝撃を与えた。

 映像が途切れた直後、電子の海では狂喜の声が絶えず飛び交った。それを明かすべく、公開元であるロアのホテルには多くの野次馬が押し寄せたが、既に其処はもぬけの殻だった。



 翌日の謁見の間。記者達がこぞって小型の機械を向ける中、玉座に座るドゥラン国王は、静かに語り始める。


「早朝にも拘わらず、よく集まってくれた。そして、陳謝しよう。此度の騒動は、全て僕の心の弱さに起因するものだ」


 すると一人の記者が、刺すような声でドゥラン国王を牽制する。


「失礼ながら、陛下。国民は謝罪より、詳細な説明を求めています。行方不明者への対処と、大臣への処罰についてを。特に……未だ発見されていない子供達に関しては、早急な対応が求められると思いますが。その件に関しては、どうお考えでしょうか?」

「ああ、順に語らせてもらう。先ずは、行方不明者について。これに関しては、既に審問官に用命し、大臣から被害者の居場所を聞き出している。尚、捜索には警邏隊を派遣しており、先程も新たに一名、腕に切り傷を伴う軽症で保護された」


 すると今度は、別の記者が手を挙げる。


「具体的には、どこを捜索しているのでしょうか? また、その子供の居住地は?」

「双方共に、黙秘とさせてもらう」

「……では、別の質問を。例の映像では、大臣は共犯者の存在を仄めかしていました。それについて、何か聞かせて頂けますか?」

「生憎と、大臣は頑として閉口している。従って、現時点で国民に報告できるモノは無い。次いで、大臣の処罰についてだが――彼の立場上、慎重に対処せねばならない」

「ルベール国への配慮ですか?」

「……彼が秘密裏に実行していた悪行の数々を立証すべく、検察官と警邏隊が連携し、捜査を行っている。容疑が固まり次第、正式にルベール国に申し立てる所存だ」


 次いで、三人目の記者が挙手をする。


「もう一つ、質問よろしいですか?」

「何だね?」

「あの勇者は、どなただったのでしょう? 中継役を受け持っていたのは、著名人であるロアさんでした。しかし大臣と対峙した人物に関しては、一切情報が残っておりません。国民も、彼の正体が明かされるのを今か今かと心待ちにしております。ですから、是非とも公表して頂けませんか?」

「……それには答えかねる」

「何故ですか? ロアさんが姿を消したのも、陛下の手引きでしょう? 一体貴方は、どれだけ国民を巻き添えにすれば気が済むのですか?」

「……繰り返しになってしまうが、此度の件については陳謝する。一刻も早く解決できるよう、寸暇を惜しみ動いていこう。そして思い違いをしているようだが、彼らは正体を明かされる事を望んでいない。故に、僕には秘匿する義務がある」


 しかし記者は、納得がいかないと顔をしかめる。


「ですが、国民は知りたがっている! 透明性こそ、今後のイルミス国に必要なのではありませんか!?」

「それは最もだ。しかし君は、一つ失念している事がある。 ……そう、潮時だ」

「――」

「君達の役目は、公明正大に世の有り様を伝える事であり、職権を乱用したゴシップ記事で、社会や個人の生涯を掻き乱す事ではない。これ以上深追いするのであれば、君には退室してもらおう」

「っ……!」

「付け加えておこう。彼らに関する情報を嗅ぎ回る行為は、一切諌止かんしする。君達も、自身の腹の内を弄られたくないだろう?」

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