第60話 感じた事の無い、この胸の痛みは!?
きっと彼女は、俺たちが何をしたか……大方は察している。
それでも、『そうだろうな』と『そうだ』では全く違う。
反応に困るが……。
言える限りの言葉で――。
「自分は
そう返した。
俺は自分が抱く
彼女の為など、恩着せがましい事は言わない。
宝を
「ルーカスくんも若者」
「ああ〜、そうでしたな。でも俺は、おっちゃんでもあるのですよ? はははっ!」
今は
もう……距離を取り離れる事は、互いの為にならない。
精神を傷付けるだけなんだと理解したのだから。
友人同士だろうと、打ち明けられない秘密の1つや2つある。
今回の件は――それだけの事だ。
「おっちゃんとして言わせて頂くなら……。陛下の前であっさり自分の罪を認めたのもですがね? エレナさんは大人し過ぎます。もっと自分を押し出して良いのですよ?」
「……大人しい事は、ダメな事? そうして大人にならないと、私は実家で生きて行けなかった」
「大人しいと言うのは――大人らしいと言う意味ではないのです。押し付けられた常識に従う、大人に都合の良い者たちを言うんです」
「……大人の都合の良い者。……そっか。あの時はそれが必要だったけど――今は、親に縛られてない。私は、生き方を変えるべきだったんだ」
「ええ。だから思い切って、自分の
「ルーカスくん。私が自由に生きようとして、生きる道を間違えたら……止めてくれる?」
「
重苦しかった空気が――今は
話せない俺の事情を汲み、胸の内でそうだろうと秘めるのを、彼女が認めてくれたからだ。
そうして過去を振り返るのを止め、笑って未来の話を始めれば――もう、笑顔になるのが良い。
未来の話は、笑ってした方が幸せなのだから。
エレナさんは、ほんわりと柔らかな笑みを浮かべ――。
「――さっきルーカスくんは、若者が国の宝だと言った。……ルーカスくん個人にとって、私は宝?」
そう尋ねて来る。
そんなの、返答を考えるまでもないな。
「ええ。エレナさんも、テレジア殿も。俺の信義に照らし合わせ――護るべき宝ですな」
「……そっか。うん、うん……。もう、私の負け」
エレナさんは――こぼれそうな笑みを浮かべると、
心臓の病かな?
医者にかかった方が良いのでは?
「ルーカスさんは……本当に
何か含みでも持たせているように、テレジア殿はゆっくりとした口調でそう言う。
何処か目線はジトッと、
「俺が、ですか? いやいや、そう言うのはテレジア殿にこそ
「そういう
テレジア殿は胸を押さえながらそう口にする。
修道女らしい言い回しだ。
血に汚れていると気にしている俺を、慰めようとしてくれているのかな?
こんな中身はおっちゃんな俺にまで――2人は本当に深い慈愛を持って接してくれる。
この娘たちが聖女じゃなければ……一体、誰が聖女だと言うのだろうか?
「2人は本当にお優しい。おっさん教でも立ち上げれば、お2人は直ぐさま女神ですね。
「……教徒にルーカスくんがいるなら、それでも良い」
エレナさんは正座する俺に近付いてくると、俺の目の前で床へ両膝を突いた。
そうして顔を近づけてきて――。
「――これは、お礼」
「――え」
今……何が起きた?
「え、エレナさん!? キスはズル――ダメじゃないですか!?」
「早い者勝ち。それに、おでこだから」
キス?
おでこ?
「いや、でも! あうぅ……。兎に角、ダメなものはダメです! それに夜遅くに殿方の部屋へ居るのもダメです!」
「ん。それはそう。だからテレジアは先に部屋へ戻って良い。そのベッドには私が座る」
「な、何を言ってるんですか!? エレナさんも帰るんです! ほら、行きますよ!? もうルークさんが迎えに来てくれてるはずですから! 絶対に、帰るんです!」
「……テレジア、本気になると力が強い。やむを得ない。ルーカスくん。また学園で会えるのを楽しみにしてる。もうじき、
「……あ、ふぁい」
ドタバタと立ち去る2人に、俺は――気の抜けた返事しか出来なかった。
「……とても、とても柔らかかった」
少し湿った柔らかな唇が――俺のおでこに?
「な、なんだこの感覚は! む、胸が!? い、医者にかからねば……。これは、心臓病に違いない!」
バクバクと自分の心臓の鼓動音が耳にまで響く!
こんなのは――体験した事がない異常事態だ!
まだ俺は、この異世界で――武士道も恋の道の探求も、スタートすらしていないんだぞ!?
冒険にだって出ていないんだ!
楽しみな学園にも通えていない!
「こんな所で第2の生を終えては、サムライとしても男としても心残りがぁああ!?」
寮から飛び出した俺は――王都の住民に医者の場所を聞いて回る。
その後、夜でも起きていた医者にかかったが――何事もないと診断された。
発病の経緯を話したら、酷く怒られ蹴り出されてしまった。
何も無い訳がないだろう!?
こんなにも、胸がバクバクとしているんだぞ!?
診療時間外だからと、患者を診る気が無かったに違いない!
明日、ちゃんと業務時間の医者にかかろう!
今夜は大人しく寝て、養生する!
うん、それが良い!
ベッドへ飛び入り、
「――羊が、羊が大量……。はははっ! これには
羊を数えて寝ようとしたが、結局バチバチに覚醒したままの脳で朝を迎えた。
朝になって別の医者にかかり、病状と発病の経緯を丁寧に説明したが……。
昨夜と同じように、蹴り出されてしまった――。
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
これにて、第1部完結となります!
続きを書くかは、まだまず未定です!
カクヨムコン9参加中、他作品もコレクションにまとめてありますので、そちらもどうぞよろしくお願い致します!
楽しかった、続きが気になる!
という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!
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ラストサムライおっちゃん、異世界に転生する~恋の鞘当てが始まったのは、なぜ?~ 長久 @tatuwanagahisa
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