翳った月を照らす太陽
ナナシリア
翳った月を照らす太陽
月は、太陽に照らしてもらって初めて輝ける。
私がそんな当然のことに気づけたのは、彼と出会ったからだった。
「月渚は何か激しく後悔しているみたいだ」
「でもそれも、月渚の人生の、大事な一部分だ」
「俺たちは神様じゃないんだから、挑戦して試して、失敗も成功もなんでも、享受する以外にない」
「俺たちはまだ子供で、成長途中で、人生だってあと何十年あるのかも分からないほど長い道のりだ」
「あの日々を超える"最高"がどこかにあると思うと、心が躍るような感じがするんだよ。いつか絶対見つけ出す、ってね」
彼が紡いだ言葉の数々が、彼が心の奥底で探した感情の数々が、彼が私に向けた行動の数々が、私を再び輝かせた。
どうしても輝けなかった私を輝かせてくれたのは、彼だった。
そんな彼に、私は精一杯の嫌な感情を乗せた言葉をぶつけてしまった。
「でも陽太、私じゃない好きな人がいるんだよね」
「……ああ。ごめん」
「もっと早く陽太と出会ってたら、私のことを好きになってくれてたのかな……」
後悔であり、負け惜しみであり、願望だ。
「どうだろう。わからない」
彼はどこまでも正直で、私を裏切ることはないと分かっていて、でも彼はどこまでも正直だからこそ、彼の好きな人にも正直だ。
「悔しいな……」
それほどまでに彼を魅了したのは、いったい誰なのだろう。
気にはなったものの、不思議とそこまで強い嫉妬を抱いたりはしなかった。
彼が心から申し訳なさそうな表情で告げる。
「俺が、過去から離れられていないだけなんだ。あんな偉そうなことを言っているのに俺は、"最高"が上書きされるのが怖いんだろうな」
「私に、"最高"を上書きできるのかな」
「出来るから、怖い」
それは今の彼にできる、彼なりの精一杯の誠意だったのだろう。
彼の言葉の真意を感じ取った私は、少なくともしばらくの間は彼のことを見守ろうと決めた。
彼が過去と決別して、私のことを好きになってくれるその日まで、私は彼に追い付こうとするんだ。
翳った月を照らす太陽 ナナシリア @nanasi20090127
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