?話

「ウー!ウー!ウー!」


口にガムテープをされた男が首にロープを巻かれ天井から吊るされて椅子の上に立たされていた

歩き方がぎごちない男が左足を引きずるように部屋の中を移動し何やら偽装工作をしている横で恰幅のいい男がワインを瓶ごと飲みながらニヤニヤしなが喋りかけた

「お前は相変わらずめんどくせぇバラしかたしてんな」

「他人の家の酒飲むなよ…」

「こいつロマネなんて持ってやがったぞ、こりゃ飲まねぇとな」

「帰りの運転はどうするんだよ?」

「ゴクッゴクッ…アァーうめぇ、ってー事はお前が運転」

一気に半分程飲みテーブルにボトルを置いた

「始末も俺、運転も俺なら1人の方が楽なんだがな」

足を引きずる男が皮肉で返す

「ウーウーウー!」

吊るされている男が叫ぶがガムテームで何を言ってるか分からない

「んな事言ったってよー爺様方が行けって言うからよ」

「…俺への監視か?」

「まぁな、お前は相変わらず感情を入れて仕事をしてると見なされてる、知っちゃあいけねぇレベルの事までお前は知っちまってるからなぁ〜いきなり手を返されるのを爺様連中はビビってんだろうよ、無論俺はンな事ねぇって言ってるけどな」

「…どうだか…な!」


ベリッ!


左足を引きずる男が天井から吊り下がった男のガムテームを取りながら答えた

「頼むよ!金ならいくらでもやるから!生命だけは…生…」

男が言い終わる前に引きづっていた左足で思いっきり吊るされていた男の椅子を蹴り飛ばすとみるみる顔が赤くなり呻き声を上げながらしばらくすると動かなくなった

「…あの残党はこれでラストだ」

そういいテーブルに偽造した遺書を置く

「これであの人形の出自を知ってる連中はみんな消えたな、てかなんで毎度こんな芝居がかったバラし方すんだ?アタマ撃ち抜きゃいいだろう?」

ワインボトルを飲みながら恰幅のいい男がパソコンや端末を操作しデータを全て消去し足を引きづる男は吊るされた男だった物を写真に収めた

「人形って呼ぶなよ、面倒でもこれが俺のやり方だ、硝煙反応とか調べられたら面倒だから薬か首吊りが1番いい」

「俺にはさっぱりだわ」

「…用事は済んだ、置いてくぞ」

「あいよ、帰ってお前も飲もうぜ」

そう言い残し部屋を後にするとワインボトルを持ちながらもう1人も後を追うように部屋をあとにした


足が悪い男が運転席に座りエンジンをかけもう1人が助手席に座り車が発進

山道を降り国道にでて高速へ

早速ワインを飲みながらタバコに火をつけた

「お前さ?少しは他人を気にしろ」

「うるせぇ、飲みたい時に飲み吸いたい時に吸うスタイルだ」

「期待した俺が馬鹿だったよ、あんたはそういうタイプだ」

そういい男は一気にアクセルを踏み急加速、飲んでいたワインを口からこぼした

「っ!お前!零れたじゃねぇか!」

「悪いな、俺のスタイルなんだ」

「チッ!」

大きく舌打ちをしてからのボトルを足元に置き新しいタバコを吸い出した

「フー…もう何年前だ?あれは」

「なんの事だよ?」

「初仕事を終えたお前がじぶんで調べてバラした…なんだっけか…思い出せねぇな…」

「漆原の事か?」

「あーそんなような名前だったな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日はちょうど北の某将軍率いる共産国がミサイルを日本に発射しアラートが発令された日だった

屋敷の主、「漆原 泰輔」は統合政府の与党幹事長代理との会食を終え秘書らしき人間と車で談笑していた

「これで次の選挙に漆原様が公認候補、勝ち確定ですね」

「あの使えない政治屋の顔を思い出すだけで面白い…奴らは尻拭いとして私を使ってたつもりだろうがな。所詮統一戦争時の2番3番手の烏合の集だ、脅してやればどうと言うことはない。それに断ったらどうなるか…ウチの猟犬に噛み殺させるだけだからな、アッハッハッ!」

「しかし…よくまぁ…働きますね、あの猟犬は」

「あぁ名城の事か」

「えぇ、あんな女どこで見つけたんです?」

「随分と前に孤児や身寄りの無いガキに薬物投与と洗脳、徹底した戦闘訓練を叩き込んで売り払う連中がいてな、その中でも最高傑作の試験体がいたんだ。たしか…37とか呼ばれていた」

「37?」

「そう、名前などない、しいて言えば数字が名前だ。その37を私は欲しかったんだ…手付金まで払ったのに!その37がどういう訳か粗悪品の烙印を押され破棄された…喋れないというだけで!私は徹底して探し37番がある部隊に所属している事を知ったのだがその部隊は秘匿性が高く超優秀だが愚連隊みたいな連中でな手が出せなかった…」

「何か特徴でもあったんです?」

「元の施設の連中から「居合の使い手で弾丸も捌く銀髪の女」と聞かされていてな…」

「銀髪…?!まさか!」

「そう…全て合致した時震えたよ、そして統一戦争時にその部隊が壊滅しあの女がフリーで殺しを受けていたと言うのを聞きつけスカウトしたんだ、戦闘は超一流でも頭のイカれたガキみたいなもん、手懐けるのは簡単だ。偽物に心を壊させ私がアメを…今じゃ私の為に老若男女問わず殺してくれる、失敗したら捨てれば良いだけだが…最近は知恵を付けてきたからそろそろ…」

「元々漆原様が目をつけていてもう用済み…と」

「あれだけの掃除屋を手放すには惜しいが仕方ないな」

そんな話をしていると運転手が

「御屋敷に着きましたぜ、旦那さん」

と言うと秘書らしき人間が

「お前!誰に向かって言ってる!口の利き方に…ん?お前見ない顔だな?」

「あ、家なしの俺を最近警備の方が拾ってくれたんす、よろしくです」

「よろしくお願いしますだろ!」

秘書が叱責してるところ漆原が口を挟んだ

「まぁいいさ、私も疲れたから早く寝たい、明日の朝8時にまた車を回してくれ」

「わっかりました!おつかれっす!」

運転手の粗暴な口ぶりに秘書が舌打ちを車から降りて漆原も続いた

玄関を抜け数名の護衛が漆原に会釈をしリビング先の階段から2階に上がり自室に入る

「漆原様本日はお疲れ様でした」

「君もお疲れ、また明日も頼むぞ」

そう言い残し秘書が頭を下げるとドアを閉めて疲れて早く寝たかったのだろう、明かりもつけず僅かな月明かりを頼りに寝る前に常用しているサプリメントの蓋を開け飲みスーツを脱いでネクタイを緩めそのままベッドに向かう途中部屋の隅の暗がりから声がした


「忙しくて何よりだな…漆原 泰輔」


声が聞こえた先を見ると暗がりから顔の左側に火傷のような傷跡がある男がサプレッサー付きの銃を構えていた

「…誰だ!」

漆原が問い詰めるとドアの外で


バタン!


と何が倒れた音がし男が部屋に入ってきた

「君は…さっきの運転手じゃないか!」

「いかにも、俺はおまけ、アンタに話があるのはソイツ」

先程の運転手は部屋の椅子に座り漆原に銃を向けた

「君らは一体…外の護衛は…」

「俺達はどこにでも入れる、それに護衛?あんな案山子みたいな連中を頼りにしない方がいい」

「案山子だと…アハ!」

「…一体何者なんだ…?」

「まぁそこの椅子に座れよ、自分の椅子だろう?」

そういい顔の左側に火傷の傷痕がある男が席へ促すと漆原は深く腰をかけた

「お前がいるとたくさん迷惑してる連中がいると噂を聞いたから始末しに来た」

そんな話をしていると表からバイクの音が聞こえエンジンが切られた

「おい、人が増えたぞ?」

「私の番犬だ、君らでも手こずるぞ?さぁどうする?」

漆原は不敵な笑みを浮かべ2人を挑発した

「俺が処理する、こいつの見張り頼んでもいいか?」

「1つ貸しだぞ?」

シルバーのリボルバーを漆原に向けた男が顎で返事をするともう1人が部屋を出て隣の部屋に入った

「1人でいいのかな?…ウチの番犬はそこそこ強いぞ?」

シルバーリボルバーを構えた男はタブレット錠剤をポケットから取り出し口にいれ噛み砕いた

「お前は自分の心配してろ、あいつはべらぼうに強い、誰か来ても妙なマネはするな。適当にあしらって部屋に入れさせるなよ。まぁ叫ぼうが喚こうかお前は殺すさ、なるべく余計な血を流させたくないと言うから俺は尊重しただけだ」

そんな会話をしていると部屋の扉をノックをされ女の声が聞こえてきた


トントントン


「夜分遅くに申し訳ございません。名城椿ただいま帰りました、ご報告したい旨ございますのでよろしいでしょうか?」


「椿かい?お疲れ様、ゴホッゴホッ」

「どうされました?!」

「いや、少し熱が出て咳も出ててね…ゴホッ」

「お薬をお持ちしますので少々…」

「もう飲んだんだ、私はもうベットに入っていてね、タチの悪い風邪っぽいから椿に伝染したくない。報告は明日にしよう、私の事は気にせず今日はゆっくり休むといい」

「しかし…」

「これは主人としての命令だ」

そう言われた名城も経つ手がない

「承知しました、何かございましたら何なりとお申し付けください。失礼いたします」



来訪者はドアから離れ隣の部屋のドアが開く音がすると何やら人が倒れる音がした後に先程の火傷の男が入ってきた

「あの女を…ハウンドだぞ?!」

漆原が驚いていると

「その名前で呼ぶな!」

「相変わらず思い入れが凄いな」

タブレット錠を食べながら茶化してきた

「アンタは黙ってろ」

「へーい」

「そもそも君らはなんなんだ!」

「…大善寺と言えば分かるか?」

漆原は目を丸くして驚いた

「あの…大善寺…?!大善寺が私を殺しに?」

「裏社会だけじゃ飽き足らず表の世界…それも政治家になるなんてだいぶ図々しいな、お前は…今までお前を放っておいたのはお前は基本影武者を使い尻尾を掴ませないからな、この前元教祖が死んだらお前が出てきた、影が陽の当たる事に憧れたか?影のくせに…身の程知らずめ」

「ハハッ!ちげぇねぇ!」

「…あと1歩だった…お前らに何がわかる!俺は…ずっと日陰にいたんだ!糞ダメから這い上がる為に…」

「這い上がる為に親を殺し子供を誘拐し外国や違法組織に売りさばいていたのか?」

「…!!何の話だ!」

「大善寺に調べられない情報はない、ちょうど20年前くらい、幼児が行方不明になる事件が増えた時に発生した世谷川の一家惨殺事件…両親は惨殺、一家の幼い少女だけが行方不明。当時の聞き込みでお前が捜査線上に上がったがどんな手を使ったか知らんが海外に逃げたから足取りは掴めなかった、そして調べを続けるとその一家の少女は口がきけなかったらしい…覚えがあるだろう?」

火傷痕の男の言葉には怒りがこもり出し漆原の顔は脂汗まみれになり胸を抑え倒れ込んだ

「…!ウッ…何を…何をした…ハァ…ハァ…」

「お前がいつも飲んでる薬をすり替えた、そろそろ効いてきたろ?」

「おー怖」

「…お前は簡単に死なせない、あいつの家族を殺しあいつの人生を無茶苦茶にした報いは受けてもらう、ただでさえ不安定なアイツをお前は弄び都合のいい道具として使った!俺はお前を許さない」

「カ…ハ…助…助けて…」

「お前毒の調合上手いな、俺にも教えろよ」

「お前に教えたら乱用するから教えねぇよ…長く苦しみ死ね、今は息苦しだけだがそろそろ胸が張り裂ける痛みがくる、それでもお前は死ねない…その後手足が震え出し強烈な痛みが全身を襲い血を吐いて死ぬ」

そういい男は左足を引き摺りながら漆原のパソコンを操作し何やら文章を打ち込んだ

「ゔッ…ガハっ…ガッ…ハァはぁ」

漆原は痙攣しその場でのたうち回り息絶えた

「死んだか…」

「だな、お前なにやったんだ?ちょっと見せろ」

火傷痕の男が打ち終わったパソコンを自身き向け文章を読んだ

「なになに…何もかもが虚しくなり疲れた………松田 啓介を探し自分の財産を相続?!松田 啓介…聞いた事ある名前だな…あ!例の中東の生き残りだ!そんな奴に渡して大丈夫かよ?」

「この前台湾のフィクサーと呼ばれた大物が捕まったろ?」

「それがなんだよ」

不満そうに詰め寄ると男は続けた

「逮捕までできたのはそいつのリークがキモだったらしい」

「ディープスロート…か…で?」

「前の松田 啓介を知ってる人間と今の奴の行動は一貫性がない…まるで別人だ。それにアイツを1人にしたくない、近くに誰かいてやって欲しいんだ」

そういい火傷痕の男が漆原の死体を椅子に座らせた

「ならお前がいてやれよ」

「こんな因果な世界にアイツを引き込みたくない…」

「相変わらず甘いな、ほら!見張り何とかして帰るぞ」

「あぁ…」

そういう2人は部屋を後にした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お前の言う通りというかあいつは結果別人だったな」

助手席の男はヘビースモーカーなのかタバコを消しちゃ吸っての繰り返しだ

「……」

運転している男何も答えなかった

「黙りかよ」

「漆原の遺物を全部ぶっ壊してくれたことには感謝してるよ、例の俺に似てる奴には」

「まぁあの後漆原の周りにいた連中を俺達で消しまくったからだろ?」

「その気になればそのまま引き継げた、それを潰したんだから狙い通りだ」

「もしだぞ?アイツが牙を隠し何らかの火種を起こしたら…どうする?」

「そうなったら俺が処理するさ…でもあの男はそんな事しない」

「なぜそう言える?」

「アイツは1人じゃない、イ…名城や弟村がいる、仲間がいればヤケにはならんさ」

「会ってやれよ」

「必要ない、今の俺にはアンタ以外の仲間はいらない」

その一言で驚いたのか恰幅のいい男はタバコを拭いた

「ブッ!変なこと真顔で言うなよ!」

運転してる男も小さく笑い、アクセルを踏み込んで高速道路を走り抜けた


ーーーーーーーーーー完ーーーーーーーーー

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その花の名は… 乾杯野郎 @km0629

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