第5話

名城は天井のシミを数えていた

目を下げると男がニヤニヤしながら破られた服の下の下着も取らず名城に覆いかぶさり胸を鷲掴みにして乱暴をしていたからだ

拘束された両手はワイヤーに繋がれ大きな棚に括られて両足を開かれて片足づつ拘束

口には開口具を嵌められ身動きが取れない状態で男達に輪姦されていた

男達は果てたら交代の繰り返しもう局部は擦り切れ男達が果てた残骸と血が混じり垂れていた

「ハァッ…ハァッ!ヴッ!」

「お前何回目だよ」

「この女いい体してんのに傷が多いからな〜逆にそれが興奮するんだ、ハァ…ハァ…ちょっとタンマ」

どうせ刺されるなら刃が良かった、身体を痛めつけられた方が救われる

開口具のせいで舌すら噛みきれない…ただ好きに玩具にされ性奴隷扱い、自分の中で男達の果てる感覚は口の中に河底のヘドロを突っ込まれる感じだ

オモチャにするだけでは飽き足らず排泄する方にまで滑りをよくするモノを塗られ突っ込まれる


ー殺してやる!みんな!みんな!全員殺してやる!ー


途中まではそう思っていたが怒る事に諦めを覚え今はただこの世から消えたかった


男達がバカみたく喋っていた事を聞くとどうやら私の持っている権利関係と金が欲しかったようだ

受け継いだ物は松田と共同で署名捺印しないと動かせない、と言うより引き継いだ松田が自分と名城の網膜、指紋、声紋を登録し2人揃わないと金や権利関係を移動できないようにした為、私を攫い脅迫したらしい


あんな何もできない口だけの男が私何かのために何もするはずが無い、何が仲間だ…結局口だけ、何も変わらない

この絶望も私に与えられ報いなのかもしれない

考える事を放棄し、ただ言われるがまま人を殺し続けた

男も女も老人も子供も殺してきた

「それしかできない」を理由に


ー人を殺すなー


恩人との約束を破ったんだ…当然だ

私は死ぬことすら許されない事をしてきたんだ

そう思いながらただただ時が流れるのを待っていた


「おい名城、聞こえてるか?お前は名前通り罪な女だな」


ー罪な女?ー


咥えタバコで下着を履きながら身支度を整えていた男がそう口にした

「意味わかってねぇのか?お前は殺し意外てんで学がねぇなぁ、花にはそれぞれ花言葉ってのがあるんだ。バラには愛や美しいとかな、ツバキってのは罪を犯した女って意味だ。誰がつけたか知らねぇがぴったしだなぁ、散々殺してきんだからな、アッハッハッハッハッ」


罪を犯す女か

言い得て的を得てるな

あの偽物の漆原はそういう意味でつけたのか


この報いは人を散々殺したから?


大切な人を守れなかったから?


違う


私の罪は約束を守らなかった事だ


あの軽薄男の言う通りだな


考える事をせず楽な方へ楽な方へ


人から言われた事を疑わず命じられるまま実行し他人に己を価値を見出そうとした


自分で自分が分からない人間に誰が手を差し伸べるというのか

こんな状況で考える事がどれだけ大切な事かに気づきくといかに漆原の甘い言葉に中身がなかったか思い出す

分かっていたが1人になるのが嫌だった

仮初の言葉でも私を労り褒めてくれた

嘘偽りで満足していた自分がとても可笑しく思え惨めだが笑えた


「おい!この女泣きながら笑ってるぞ!ゾクゾクしてきた…おい、変われ!もう1発イクぞ」

「お前も好きだなぁ〜大概にしとけよ」

そう言い残し3人の男達が服を着て出ていった


「あのボンクラがきたらお前ら2人は用済みだ、2人まとめて殺してやるからな。お前の目の前であのクソボンクラの喉元を掻っ切ってやる、そしてお前だ、まぁその前にもう1回楽しませてもらうがなぁ〜」


そんな事期待してるのか…バカな連中だ

あの人が来るわけがない

松田さんと私の認証が終わったら殺される

それに私なんかを助けるメリットなんて皆無。それが普通だ

私の事なんてどうとも思ってない


でも万が一…に


私のせいで死んで欲しくない


だからここには来ないで


見捨てていいから


お願いします、私は報いを受けます…だから…


だから…


こんな死に際にあんなボンクラ男に期待するとはとうとう私もこれまでだなと腹を括ると




「おい下の連中と連絡が途絶えた!あのボンクラだけの仕業じゃねぇぞ!さっさと服着てこい!」

そう言い出ていった男が血相かえて慌てて部屋に戻ってきた

「マジかよ!」

「大マジだ!このビルの出入口、エントランス、非常階段…見張りから連絡がねぇ!」

「…すぐ行く!待ってろ!」


なんてことだ

意味が分からない

私を助ける理由なんてない

大バカも大バカ、そこまでお人好しなのか

やめて!来ないで!お願い!今からでも引き返して


男は開口具を外し名城の足の固定具を片方づつ解き足枷をつけ直して手錠を固定していたワイヤーを外した

「オラ!いつまでよがってるんだ!さっさと立て!妙な真似すんじゃねぇぞ!」

瞬間名城は男の耳に噛み付いた

「痛てぇー!何すんだ!この…離せ!このクソがぁ!」


バチチチチチチチチ!


男はしまっていた高圧スタンガンを名城に押し当てると名城が痙攣し倒れると口から齧りとった耳の1部が落ちた

男は耳を抑えながら

「いてぇな!この!クソクソ!」


バチン!バチン!バチン!

スタンガンを数回押し当て名城を痛めつけた

「勘違いすんなよ!死なずに済んでるのは理由があるからだ!交渉が終わりゃ殺してやるから待ってろ!オラ!立て!」

スタンガンで思うように身体が起こせなかった、それを見てイラついた男が手近かにあった工具で名城を叩きつけ

「足で歩けねぇなら犬らしく歩けこら!」

男は尊厳をことごとく潰していく

しかし名城にはそんな事は関係なかった

頭にあるのは


ー誰が…?どうして…ー


だった


松田は頭がそこそこ回るが銃もまともに撃てない、以前「身を守るためだ」と言い聞かせてナイフと拳銃を渡し訓練させたが真面目にやる気が感じられず

「僕がこんなもん使う状況になる前に椿ちゃんが何とかしてくれるからへーきへーき」

と逃げ回っていた人間が1人でやれるとは思えない


逃げるチャンスを…

川田を救った時は本能で動いたが今は違う、考えてこなかった女が今思考をしている


手足どちらかが外せれば…


しかしどうにもならない


身体が上手く動かせないので四つん這いで男につれられ大きな窓がいくつもある部屋に連れてこられた

ソファや棚、カウンターにシーツがかけられていたので察するに閉店した会員制のラウンジか何かだろう

部屋には名城をいたぶった男4人の他に数名銃火器を持って待ち構えていた

「その女をさっさとそこに座らせろ!」

名城は引っ張られ乱雑に座らされ腹を蹴られた

「耳の返しだ、てめぇは楽に殺さねぇからな…おい!誰かタオルねぇか?」

「だらしねぇな!それどころじゃねぇ!誰か来る…」


バァン!


両開きの大きな扉が開き音が反響


名城が見たのはボディバックを背負い軽装だが最低限の弾倉を装備しP90を構えた松田啓介が扉開けたのだ


「やぁ!遅くなってごめんね!帰りが遅いから迎えに来たよ!」


「コノヤロウ!」

武器を構えた男達のうちの1人が銃も構えた瞬間


パァン!


松田が的確に武器を持っていた利き手を撃ち抜いた


「はーい、みんな動かない、まぁ怪我したかったら止めないよ〜」

持っていたP90で狙いをつけながら警戒を続けた

「クソボンクラのクセに1人でやったのか?下の見張りとかどうした?」

名城の近くに居た男が銃に手をかけながら問いかけた

「ん?あぁみんな話をしたら分かってくれたよ、何人かには眠ってもらったけどね」

「思ったよりやるんだな…しかし生命知らずだな」

もう1人の男も話に入ってきた

「とりあえずさ、椿ちゃんを返してくれない?そうしないと君たちに移せるもんも移せないんだよね」

松田は銃を構えたまま答えた

「相変わらず馬鹿なのか無鉄砲なのか…お前状況わかってんのか!コルァ!」

名城を蹴りつけた男が拳銃を抜き名城に向けた

「驚いたなぁ〜」

「何がだよ?」

「その程度の頭しかないのに悪い事してきて五体満足で無事でいられたのがびっくりだよ」

「なんだコノヤロウ!バカにしてんのか!」

その怒号に続き他の男達も銃も構え松田や名城に向けた

「おおかた話し合いだけして上前をはねる、面倒は部下にやらせて指示出してただけって感じか…それに自分より弱い人間にしか勝ててこれなかったんだろうね、その程度のプライドって…頭が悪すぎ、アハ」

「てめぇぶっ殺されてぇのか!」

「いいの?僕も名城君も殺すと何も手に入れられないよ?そんな事も分からないとか頭悪過ぎ!ウケる〜!」

交渉は完全に松田サイドに移った

人数差はさておき取引が終わるまで松田は相手をどうにでもできる立場で相手はこちらを絶対に殺せない立場だからだ

男達はそれに気づいたようでお互い顔を見合わせ松田に

「クソ!さっさとやれ!」

「ねぇ知ってるよね?必要なのは僕と名城君の網膜、声紋、指紋だ。その状態じゃ…」

「解くわけねぇだろ!まずはてめぇが銃を置け!」

男の1人が近づき松田の顔に銃を構えた

「ですよね〜そうなりますよねぇ〜、ここに置くね」

持っていた銃を床に置きボディバックに手を伸ばすと

「妙な真似してんな!両手を上げとけ!」

「バカも休み休みいいなよ、どうやって端末操作するんだい?ちなみに端末の解除番号は2回ミスるとぶっ壊れる、それも12桁の番号を3秒以内だ、パスワードが分かっても無理でしょ?頭使いないよ、頭がを」

松田が最後まで言い終わる前に銃床で顔を殴られた

「減らず口ばかり!さっさとやれ!」

「…イッタ!バイオレンスなのやめようよ!痛いの嫌いなんだから!もぅ!」

そういい小型端末を開きロックを解除、あっという間に認証ページまで開き画面を男達に見せた

「もう終わるよ、名城君の所に行っていいかい?ダメなら帰るけど…」


ガン!


また銃床で殴られた


「さっさとやれ!」

「はーい」

松田が名城に近づき話しかけた

「ありゃー、だいぶ酷くやられちゃったねぇ」

「…なんで…なんで…生きて帰れる訳…」

「うーん…なんでかな?君を放っておけなかったし、仲間を助けるのに理由なんていらないでしょ?」

「馬鹿なの?アンタ!私何かのために!死にに来るような…」

「なんで僕が怒られるのよ?」


ガン!


松田は後から蹴られ床に這いつくばった

「やめろって!高いんだよ!このパソコン!さてまずは名城君の指紋からだやりづらいけどパットに載せて」

名城は手を後ろにされているので手探りで指を当てた後に

「名城椿」とマイクにいいウェブカメラに目をかざすと


ーナシロ ツバキ カクニン ー


「これが済んだら…殺されますよ!」

小声で名城が耳打ちをすると

「大丈夫、僕を信じて」

松田はサングラス越しにウィンクをした

そして松田らサングラスを外し網膜、指紋、声紋の照合を終えると

ーマツダ ケイスケ カクニン、ジョウトテツヅキヲジッコウシマスカ?ー

と音声が流れた


「君らの口座は教えてもらったからね、エンターキーを押せば終わるよ、大金だ、自分でやるかい?」

男の1人が端末を奪い

「確認は俺がやる、何もするなよ!そのまま大人しくしておけ!」

そういい男がエンターキーを強く押すとディスプレイ表示が何かのデータを移動している画面にきりかわり瞬く間金が移動された

「やったぞ!これで俺達も…」

男達がニヤついた瞬間端末から艶っぽい女の声で音声が流れた


「ざんね〜ん!いけない子達はお仕置よ!(*˘ ³˘)♥ちゅっ」


ボンッ!


パソコンが爆発、松田が名城を抱きしめるように庇うと部屋の照明が消えたと同時に窓から特殊装備やNV、サーマルレンズををつけた兵隊がラペリングで窓ガラスを蹴り破りMP5を構え男達に発射

室内は叫び声や銃声が響き名城は何が起こったか理解をしてなかったが松田が強く抱きしめていたのは自覚していた

「名城君!頭下げて!大丈夫!大丈夫だから!」

ひたすら松田は大きな声で名城に語りかけていた

少し経つと部屋の明かりが戻りラペリングで突入してきた傭兵に男達は制圧されて床に押し付けられていた


「松田さん…これ…」

「あぁ!君を助けるために助っ人を呼んだんだよ、高かったんだよ、大丈夫?流れ弾とか…」

松田が名城の身体を触ると男達に輪姦されたからか無下に手で払ってしまった

「…大丈夫です…ありがとうご」

言い終わる前に松田は

「今これ外すから、痛かったらごめんね」

と言いあっという間に名城の手足の拘束を解き自身が着ていたパーカーを脱いで名城に羽織らせた

「こんなんでごめんね」


その仕草はあの人にそっくりだった


「ちょっとまってて」

這いつくばって松田を睨む男に近づき

「残念だったねぇ〜君達の口座に金を移したと同時に君たちがやってきた事を全て警察、マスコミ、ネットにばら撒かせてもらった。これで君達は終わりだよ」

「なんてことしやがる!てめぇも金が無くなるじゃ…」

「うーん、別にまた稼ぐからいいよ、それよか君達みたいなのを一掃したかったから僕も利用させてもらった、でさ?君達に聞きたい事をあるんだけどいい?」

「…クソがよ!なんだ!何が聞きてぇ」

「君達知ってるかな?この傭兵の方々は「WCS」って言って世界で1番強い傭兵でね、まぁぁぁぁ高い!僕ちんお金払えないからさ?君達払って貰おうと思ってるんだ」

いつの間にか拘束されて手足をジタバタさせながら男が

「てめぇの話がホントなら俺らは警察に捕まって金も動かせねぇ、残念だったなぁ〜」

「ん?誰がどこに君達を引き渡すって?」

「…はぁ?何言ってんだクソボンクラ」

「いや〜君達手や足撃たれたくらいで身体が無事なのに何も感じないの?頭が悪いからわかんないか、アハアハアハ」

「何笑ってやがる!」

「知ってるかい?共産国って金はあるけど健康な人が少ないのよ?だから偉い人やお金持ちの人って健康で美味しい物を食べて肥えた日本人の臓器が好きみたいでね」

そう言うと松田は胸元から赤いマジックを出して男を仰向けにして服を破り体にマーキングをした

「な…な…冗談だろ…?」

「…ここが…心臓…肺、胃、肝臓は…ここか…あ!角膜もだねぇ…大丈夫!君ら全員分でペイできる!やったね!」

「さっき警察にデータをって!」

「…虫が良すぎるよね…」

「は?」

「僕の大切な仲間を…こんなことして…」

松田は耳元で

「先方さんには好きにしていいって伝えてある…楽になれると思うなよ…クズが、はーい!みんな連れてっちゃって!」

その号令に撃たれた男達が立たされ連れていかせる時だった

「アァァァァァァ!」

「ダメだ!椿ちゃん!」

名城が近くに落ちていた安物のナイフを名城が構え叫びながらスタンガンを当てた男に走っていった

「死ねぇぇぇぇ!」


クチュ…


名城の手に何かを刺した手応えがあった

しかし男と名城の間には松田が手から出血させ立っていたのだ


「椿ちゃん、もう終わったんだ…だからやめよう…?手を離して…」

「松田さん!どうして!こんな奴を!」

「こんなゴミを庇ったんじゃない、守りたかったのは君だよ」

「…私…?」

「僕と一緒にいる限り君を人殺しになんてさせない、呼ばせない。だから手を離して」

「どうして…私なんかの…為に…」

「「私なんか」じゃない、君だから、仲間だからね、言ったろ?君は1人じゃないから」

名城はもう感情が入り乱れて泣いていた

「1人でよく頑張った、諦めないで心を折らずに凄いね…しかしこれどうしたもんかね、傷見るの怖いんだけど」

光景を見ていた傭兵が

「衛生兵!7階にこい!松田さん傷を見せて、そちらの方に毛布を!」

傭兵が無線で連絡を手が空いてる者達が松田、名城の手当をし他の者達は拘束した男達を連れて建物を後にした


直ぐに病院に運ばれ2人とも傷の手当を施された

名城は検査をされるのを極端に嫌がったのだが傷の具合や頭にも打撲痕があったため経過観察処置で入院し松田は両手の傷が思いのほか深かったので同じ病院に入院した


名城は比較的早く病棟内を歩き回れるようになったので松田の病室に見舞いに向かい個室のドアを開けると


「君おっパイ大きいね!僕とデートしよ!デート!ご飯行こ!ね?」

「はいはいそのうちね、終わったらナースコール押してくださいね、おもちゃに使ったら麻酔なしで尿カテいれますから、それでは〜」

のやり取りが聞こえ名城は呆れ果てた


「こんな時にまでナンパですか?お盛んですね」

「おー椿ちゃん!もう平気なの?」

名城は見舞い客からもらったのかベット横にある果物を手に取り

「果物ナイフとかありません?」

「引き出しの2番目にあるよ」

そう聞き引き出しを開け果物ナイフでりんごを剥いていった

「上手いねぇ〜」

「皮肉ですか?」

「ちょっとだけね」

「…あの時は申し…」

「君が謝ることないよ、僕が勝手にしただけ」

「でも…」

「いーからいーから」

「来てくれると思ってませんでした」

「酷いなぁ…人の事なんだと思ってるわけ」

「だらしないし便座を下げないいい加減男、ハイ口開けてください」

皮を剥き切り分けたりんごを名城が松田の口元に運んだ

「あーん…美味しぃ〜剥くのが上手いとこんに変わるもんだねぇ!」

「変わりませんよ」

「いやいやいや、皮と一緒に繊維も潰さないように…」

「そういうのいいです、めんどくさい」

「はい…すみません…あのさ…?」

「なんです?」

「僕も言い過ぎた…ごめんなさい」

名城の手が止まる

「もう…いいです…」

「よくない、よく知らない相手に言いすぎた、選べない事もあるのにね…」

「いいですよ、本当に」

「これはね?僕の知り合いの話なんだけど…そいつも普通な生き方をできなくてね、周りを恨み何も考えず生きて全てを失ったんだ、君にはそうなって欲しくないんだよ」

「ご自身の事ですか?」

「全然!知り合いって言ったじゃん、僕と君は仲間じゃん、だからさ…寂しかったら寂しい、悲しいなら悲しいって僕にはぶつけなよ。君が泣くような事は僕も悲し…フガ!フガ」

松田が喋り終わる前に口にりんごを押し込んだ

「もうしつこいです、わかりましたから。それにカッコつけるなら尿瓶外してから言ってください!だからいまいち信用できないんです!」

「ありゃ、あちゃー!ちょっと!見ないでよ〜!」

「見てません!」

「見てたから指摘したんでしょうよ!」

名城は果物ナイフを軽く洗い引き出しにしまいながら

「…また来ていいですか?」

「もちろん、同じ病院なんだから!なんなら一緒に夜を共に…」

名城がドアを開ける直前

「ご存知ですか?果物ナイフってよく切れるんですよ?」

「…遠慮しておきます、あ!渡すの忘れてた!引き出しの1番上に君のIDがあるの受け取っといて」

「ID?」

「これからまた稼ぐ為に会社つくるからさ、君はうちの社員ね」

「勝手に決めるな!」

「もう決めましたー!」

不貞腐れながら名城が引き出しを開けるとそこには名城の写真が貼ってあるカードがあった


「ピースカンパニー ID0001 名城 椿」


「椿…いい名前だね」

「…どこがです?」

「椿の花言葉は「申し分ない魅力」って意味もあるんだ、椿ちゃんは名前の通りとても魅力的だよ」


名前を褒められその名前が入ったIDなんて初めてだ

IDカードを手に取り部屋を出る時に


「…今後ともよろしくお願いします……助けてくれてありがとうございました」


「え?なに?なんて…」

松田の返答を聞き終わる前に扉がしめ

その足で名城は中庭に向かった


「太陽ってこんなに気持ちいいんだなぁ〜」


名城は伸びをしてベンチに座り色々な事を思い出していた

全然似てないけど背中と温かさはあの人そっくりなのは不思議だ

私に全力でぶつかってきてくれた

あの人に似た人

少しだけ信じてみようかな

分からなかったら考える


考えてダメならあの人に聞いて一緒に考えよう


もう私は1人じゃない


心から実感できたから


この日は名城 椿のもう1つのスタートとなった日だった


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ってな事が…」


「グゥ〜…スピー〜…グゥ〜…」

名城が喋り終わり横をみると弟村は俯き寝ていた

「もぅ!寝るとか!…どうしよう…」

屋台の外をみると雨も止んでいた

抱えて行けるか…そう決めた時


「ちょっと〜もう帰ろ…あ!こいつ寝てやがる!椿ちゃんペンある?ペン!」

「眉ペンしかないですよ」

「眉ペンかぁ…落書きしてもつまんねぇな…ここのおでん美味かったでしょ?」

「えぇとても」

「僕がこの筋肉バカ担ぐからさ椿ちゃん車の鍵開けて」

「かしこまりました」

「さて…オヤジー金は僕の口座から抜いといてー。ほら!プロテイン!行くぞ」


ガァン!


「いてぇぇぇ!なんだぁ!」


松田が抱えた時屋台の日差しき弟村の頭をぶつけてしまった

「あ、ごめんごめん」

「今わざとだろ!」

「ちがうよ」

「絶対わざとだ!」

「違うって!」

「ハイハイもう行きますよ!弟村さん歩けます?」

酔っていたのか少し千鳥足の弟村を名城が心配した

「あぁ大丈夫っす大丈夫っす、ちゃんと歩けます」

そういい車で歩いて行こうとしたらつまずいていた

「2人で何話してたの?」

「ナイショです」

「どうせ僕の悪口でしょ」

「どうでしょうねぇ〜」

パチン!

名城は松田の尻を軽く叩いた

「痛!なにすんのさ!」

「別に〜」

名城はスキップしながら車に向かった

「珍しく酔ってるね〜」

「酔ってませんよーだ」

「どうだか、ほら車乗って」

「はーい」「社長ー早くー」

「はいはい、ほら乗った乗った」

精算機で松田が金を払い

弟村が後部座席に座り名城が助手席

松田が運転席に座りエンジンをかけた

少し走り出すと後から寝息が聞こえた

「ホント!いい身分だよね!雇い主に運転させてるんだから!」

「ありがとうございます、松田さん」

「お、久しぶりその名前で呼ばれたよ、昔の話でもした?」

「えぇ」

「辛いことなんていちいち口にする事ないのに」

「確かに辛いこともありました…でもいい事もありましたから」

「へぇ〜どんなこと?」

「内緒で〜す」

「プッ!2人して…まぁいいか!アハハ!」


少しだけ2人の会話をしながらホテルへ帰った


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


12/24

ホテルはクリスマス1色だった


「限定品のフィギュアを買いに行く」


と言い松田は1人で出かけホテルで名城と弟村が松田の帰りを待っていた

「そういえば名城さん」

「はい?どうされました」

「あの日寝ちゃってすみません…」

「気にしてませんよ」

「俺今度警察時代の笑える話しますからまた飲みに行きましょうよ」

「えぇもちろん、期待して…」

2人が喋っていると1638号室のドアが開いた

「ただいまぁー!さむーい!」

「おかえりなさい社長、フィギュアは買えたんですか?」

「買えなかったんだよ!クソ!転売ヤーめ!」

アウターを脱ぎながら松田は答えた

「社長はお金あるんだからほんとに欲しいなら意地でも買えばいい…」

「あ!やっぱりプロテインしか飲んでないから短絡的に!いいかい転売ヤーから買うっての…」

「あーもぅうるせぇうるせぇ」

「なんか生意気だなぁ!お前にはもうあげなーい、はい椿ちゃん」

そういい松田が名城に封筒を渡した

「なんです?」

「新しい身分証やらパスポート、あ!パスポートは外務省に頼んで作ってもらったよ」

「…あ、ありがとうございます」

名城が封筒を開けるとナンバーカードやらパスポート、IDが入っていた

「もう!鈍いな!生年月日の日付見なよ」

名城は不思議に思い日付をみると

全ての生年月日が

「19XX 12/24」

となっていた

「これって…」

「前言ってたでしょ?クリスマスカラーが好きって、椿ちゃん経歴消えてるから生年月日分がないからこの日にした、この日ならみんながみんな祝い合う日で1年で1番明るい幸せ溢れる日で君が産まれた日、無理くりだけどねHappyBirthday&Merry Christmas椿ちゃん」

「…ありがとうございます!社長」

身を乗り出した弟村が

「すげー!クリスマスに誕生日かぁ〜粋なことしますねぇ〜で?俺には何もないんでしょ?」

「やるもんか!この脳筋バカ!って言いたいけど…はい開けてみなよ」

弟村にも封筒を渡し受け取った弟村が中身をみると

「…ん宿泊券?え?これリューカールトンのスィートルーム?!」

「彼女と使いな、もちろん払いは僕がするから飲み食いした分は全部持つ、その代わり!」

「その代わり…?」

「君センスないから彼女さんの要望を全部聞くこと!君の彼女から不満が出たら全額君の給料からひくからね!」

はしゃいだ弟村は何かに気がついた

「うぉーーめっちゃ嬉しい!ありがとうございます!あ、社長になんも用意…」

それに名城も気がついた

「あ、私も…」

「いいんだよ、僕はもう充分くらい君達に貰ってる」

名城、弟村がキョトンと見合い2人して松田を見た

「2人が僕の友達でもあり仲間…家族みたいになってくれた事が僕にとって1番嬉しいからさ、実は鉄板焼きの店予約してるから3人で乾杯しよう!」

「こんどは私にもプレゼント用意させてくださいね」「あ!俺もなんかプレゼントします」

2人が同時に喋ったので松田はらよく聞き取れなかった

「期待しないで待ってるよ〜」

そういい名城の前に松田が立った

「これでもう二度と自分なんかって思わないでね、君と出逢えた事は奇跡だ、こんな僕についてきてくれて本当にありがとう、だからって訳じゃないけどこれからもおめでとうを僕に1番に言わせてね」

名城は少し涙を流したが袖口で拭き

「はい…こんなに嬉しいことありませんから」

「さぁて!行くよ〜レストラン」

「なんか俺邪魔っぽい気が…」

「バーカ、余計な気なんか使うなよ、椿ちゃん行くよー」

松田が肩を組み弟村と部屋を出ようとし時

松田の背中を名城はみた


この背中


凄いな…


私なんかより余っ程辛い事があったのに


この人はいつも他人を気にかけ守ってくれる


考えることにきがつかなかったら今の幸せはなかった


本当にありがとうございます


啓介さん


口に出したかったが茶化されると思ったので2人の時に言おうと決め2人の後を追い部屋を後にした


その年のクリスマスイヴは皆が幸せをお互いに祈り合うだけの日では無く1人の女にとって1番好きな日になった瞬間だった










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