第4話

「影武者…ですか」

「えぇ」

弟村は鍋から玉子を取り箸で割って辛子をつけて口にいれた

「なんというか…そこは親子ですね」

「ですね、前に和平さ…社長から打ち明けられた時、親子は離れていても似るんだなと感じましたよ」


話しながら名城は鍋の菜箸でごぼう巻きとじゃがいも選び出汁をたっぷり皿にいれた

「しかし…その本物の方にも…その特技を頼まれたんです?」

「えぇ…しかしもう監視もなく命令と報告のみ、難易度が高い相手…でも1ヶ月に1回あるかないかのペースでしたが漆原様は私に「やるかやらないか」の選択肢も与えてくださりました。もちろん断る理由もなくお引き受けしていましたが基本は漆原様付きのメイドとしてとても目をかけていただきました」

「…こう言ってはあれですが良かったですね」

もう弟村は面倒になったのか酒は徳利から直に酒を飲んでいた

「でもそんな生活は長く続かなかった…」

「遺言…でしたっけ?死因は?やはり狙われたとか…?」

弟村の問いかけに名城の表情が少しだけ曇らせ語りはじめた

「……あれは………」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



全ては川田さん、いや漆原様のために


もういい


自分を受け入れ使ってくれる


こんなに嬉しい事はない


あの方が褒めてくれるなら人を殺すなんてなんて事ない


得意な事をしているだけでいい


私の思考は漆原様の為に使う


私は剣であり盾


何も考えるな


お世辞にも広くない一軒家の窓から侵入し息を潜めていると人の気配がした

闇に身を潜めてやり過ごすと男が居間に向かい水を飲もうとしていたので後ろから肋骨の間を通すように心臓目掛けて愛刀を刺す

男は口から血を吐きこちらを振り向こうとするがそのまま刃を捻ると倒れた

男の脈を確認し死亡を確認すると2階に上がり寝室に侵入、男の妻と思われる女が布団にくるまり寝息をたてていた

刀からナイフに持ち替え側頭部目掛けて力一杯差し込み捻る

女は痙攣したが直ぐに収まった

最後は子供だ、子ども部屋らしき部屋のドアを開けると小さな女の子がぬいぐるみを抱きしめ寝ていた

首を締めようと手を伸ばした時

「……ママ……パパ……」

寝言だろう、しかしその寝言を聞いた途端、今まで感じた事のない頭痛と耳鳴りが名城を襲った





…ママ!パパ!ママ!パパ!…


声が出ない子供は思いっきり噛み付いた


カブッ!…



…ッ!クソガキ!噛み付いてんじゃねぇよ!…


バチン!






何今の…



頭が…割れるように…耳も…なに…何?


子供が目を覚まそうしたので力加減が難しかったが動脈に指を食い込ませ締め落とした


…加減はした、ごめんなさい…


任務遂行が不可能と判断し気絶した子供を庭に寝かせ男のPCや日記らしきもの、取材メモ等を1箇所にあつめ火をつけ自ら消防に連絡


今回の依頼は漆原を嗅ぎ回る記者を消す事

漆原様を困らせる人間なんてなんの価値もない

あの方は素晴らしい方だ


「私は貴方達に何の恨みも無いけど…分かってください」


そう小さく囁き現場立ち去った

街の防犯カメラの死角を歩き少し離れた所に停めたバイクにまたがり漆原の待つ邸宅へ急いだ


あの頭痛はなんだったのか…


子供に手をかけるのは初めてではない、腹の中いる胎児にまで手をかけた事もある

でもあの光景は何か違和感を感じた


プロ失格だ…やはり自分は弱い


きちんと報告しないと…今度は流石に叱責を受けるかもしれない


不安で胸が裂けそうだったが邸宅へ急いだ


例の襲撃後、漆原は派手さは無く表向きは「人付き合いが嫌いな経営者、漆原 泰輔」として人里離れた所でひっそりと暮らしていた、偽者を仕立てていた時からやっていた裏稼業はその頃になると漆原に逆らう勢力や対立する組織は無く事実上日本での武器売買や違法薬物の取引を牛耳る存在であった

邸宅には自分を含め数名の護衛しかおらずそれも比較的武装も少ない護衛のみ

人里離れたとはいえ近所に家もあるのでなるべく人の出入りは控えるよう配慮していた

邸宅の門が自動で開きガレージにバイクを停め、遅い時間だったが漆原に報告をしに書斎に向かう

普段は書斎に繋がるリビングの螺旋階段近くに2人の護衛が必ずいるのだが今日に限って近くの椅子で寝ていた

違和感を感じ寝ていた2人に近づくと小さないびきが聞こえ少しだけホッとした

螺旋階段を抜けると手前は名城の部屋で奥が漆原の書斎だった


コンコンコン


「夜分遅くに申し訳ございません。名城椿ただいま帰りました、ご報告したい旨ございますのでよろしいでしょうか?」


書斎のドアをノックし声をかけると中から漆原が答えた

「椿かい?お疲れ様、ゴホッゴホッ」

「どうされました?!」

「いや、少し熱が出て咳も出ててね…ゴホッ」

「お薬をお持ちしますので少々…」

「もう飲んだんだ、私はもうベットに入っていてね、タチの悪い風邪っぽいから椿に伝染したくない。報告は明日にしよう、私の事は気にせず今日はゆっくり休むといい」

「しかし…」

「これは主人としての命令だ」

そう言われた名城も経つ手がない

「承知しました、何かございましたら何なりとお申し付けください。失礼いたします」

ドアの前で一礼して下がり自分の部屋へ向かう

自室のドアを開け中に入りすぐ横の小さな机に仕事道具を置いた瞬間背後に人の気配を感じ小型ナイフを抜き振り向いた瞬間目の前で赤く強い光を発しられ名城の意識はそこで途切れた


名城は薄れゆく意識の中


…すまない…


そう聞こえた気がした


誰?


瞬間頭によぎったがその場に倒れ込んだ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「誰かいたんですよね?部屋に?」

「気配だけしたのは覚えて居るのですが…その時の記憶が曖昧で…」

「で?他の人は?!」

弟村が食い気味に詰め寄った

「私を含め護衛も気絶してました、丁度次の日は朝から漆原様が会議でして。運転手の方が朝来るまで全員気絶しておりました」

名城は首を摩りながら答えた

「…え?漆原さんは?」

「…亡くなっておりました…」

「はぁぁぁ?!」

机を叩きながら弟村は急に立ち上がると名城も驚いた

「急になんです?!びっくりした!」

「すみません…話が見えなくて…」

「私も覚えていないことをどう説明していいか…それに遺書が見つかったんです」

「…それが?例の?」

「えぇ、パソコンに残っていたらしいです。内容は「何もかもが虚しくなりもう疲れた、今後は自分が捨てた唯一の子供、松田 啓介を探し自分の財産を相続、会社の持ち株も松田 啓介に譲る、後見人は名城 椿。もし死んでいたら好きに分配せよ」と」

弟村は冷や酒にハマったのか酒をわざと冷やして飲んでいた

「その遺書が自殺の決め手と?死因は?」

「青酸カリでした」

「しかしまぁ…警察もずさんだなぁ、そんなもん自殺で処理なんて」

「警察も漆原様をどうにかできないか?と探っていましたし表向きは健全な会社でしたが証拠は無くとも裏稼業の人間というのは周知の事実、下手に捜査をするより自殺で処理した方が楽だったんでしょう?下手に調べて火傷したくないですしね、それに…」

「それに?」

「私だけの遺書もありました、「啓介は必ず生きてる、私は息子に何一つしてやれなかった。椿、啓介が生きている事を疎む連中が必ずいるから君が啓介を守ってやってくれ、最後の私のワガママだ。何卒よろしく頼む」とそこには社長が小さい頃の写真やどうやって調べたのか渡航歴等が入っていました」

「それで…台湾にいるって?」

「えぇ…漆原様の自殺を調べようとしていたら他の方から邪魔が入ったり私の後見人に立場や遺言書を奪おうとする輩もいたのですぐに日本を出発し台湾に向かいました、奇しくその遺言状のおかげで今の私が……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


台北近郊の繁華街

中国語や日本語が交わるなかなか異質な場所だった

日本からの観光客が大半で一瞬見間違う感覚に陥る


ーホントにこんな所にいるのか?ー


飲食屋台が並ぶ繁華街で他の屋台は賑わっているのに1つだけ片付けている屋台を発見

アジア人しては珍しい高身長、頭にタオルを巻き緑のアロハシャツでサングラス、黒のカーゴパンツのいかにも怪しい男が鼻歌を歌いながら洗い物をしていた

「すみません…こちらに…」

「ごめんね〜今日の分終わっちゃったんだ〜、今日はもう仕込む気力ないからまた明日来てね〜、それとも僕とデートする?」


振り向いたその男を見た時名城は驚いた


死んだと思った恩人にそっくりだったからだ


しかし喋ってみたら全然似ても似つかない

人を小馬鹿にする感じでヘラヘラしながら喋る男に名城は不快感を感じた

「食事をしに来たのではありません、松田 啓介様でいらっしゃいますか?」

その問いに男は一瞬黙り口を開いた

「ここじゃなんだし向こう行こうか」

男は手招きして路地裏に名城を連れて行った

「あのさ〜人の名前聞く前にまずは自分が名乗ろうよ」

軽薄なクセに頭は回るようだ

「御無礼失礼致します、申し遅れました、私は漆原グループの名城 椿と申します、お父上様の漆原様が急逝され遺言状お届けにあがりました」

男は一瞬何かを考え込むみ何かに気がついたようだ

「あーオヤジの?てかオヤジ死んだんだ…へぇ〜」

「こちらがその遺言状でございます」

男に封筒を渡すと

「見ていいの?」

「はい」

手早く書類に目を通しはじめ

「どれどれ…ふーん…これ僕がもらっていいの?」

「もちろん、諸々の手続き等もございますので日本に…」

名城が言い終わる前に松田は封筒を名城に突き返し

「この話受ける受けないは別、返す」

名城は驚いた

あの漆原の遺産を受けないなんて…

「そんな!困ります!」

男はドヤ顔して名城を見た

「この話を受けるなら条件が2つ」

「条件?!2つも?…条件とは…?」

松田は指を名城の前に出しながら

「まず1つ、この名前は君の物だよね?だと君は会社譲渡手続きまでとはいえ期限は分からないけど僕と共にするなら僕より先に死なない事。んで君…相当な腕だよね?」

「……」

何を伝えたいのかさっぱり分からず答えを言う前に男はそのまま続けた

「あとね?僕と一緒に仕事をする限り人は殺すな!」

「殺…すな…?私護衛ですよ?」

「あーそういう建前いらないの、君からは人殺しの匂いが凄い、何人やりゃそんななんのか…全然隠せてないよ?護衛だとしてもこれは守ってもらう」

「何言っ…」

名城が反論しようとしたら男は耳も貸さずに続けた

「人はね?何をしても死ぬの!何やっても死ぬ時は死ぬの!護衛がいようが死ぬの!だからね?万が一僕が死んでも君が気ににゃむ…ゴホン!気に病む必要ないからね」

何だかめんどくさい感じがしたので名城は早く済まそうと思い承諾した

「承知しました…この名城 椿が松田 啓介様の身の回りのお世話、護衛を努めさせていただきます」

深々と頭を下げると

松田啓介は右手を名城の方に出しながら

「名城 椿…じゃあ椿ちゃんだね!よろしく!」


何だこの馴れ馴れしい男は…本当にあの礼儀正しい漆原様の子供なの?


怪訝そうに松田の手を取り

「随分とお父様ににつかわず馴れ馴れしいんですね!」

「ていうか僕オヤジの顔もよく知らんよ、それに僕が君の主人だけもーーん!」

「まだ認めた訳じゃありません!」

握手をすると松田はニコニコしながら

「まぁまぁ、そんなに怒らない怒らない、改めまして僕は松田 啓介、これで契約成立でーす!遺言内容とか読みたいからどこか移動しない?」

「あちらにタクシーを用意しており…」

「さっすがぁ!優秀!あ、いけね屋台どうすっかな…あ!王さーーん!俺の屋台あげるから好きに使って〜明日から俺社長やるからもういらなーい」

屋台を置いてある方に走りながら誰かに喋っていた

「あ!書類置きっぱなし!もぅ!大丈夫なの…あの人…」

「ほらー!早く早く!タイムイズマネーだよ!そっからダッシュ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「社長は全然かわらないっすね」

弟村は鍋から大根とこんにゃくを取りこんにゃくに辛子をたっぷりつけて口に入れた

「あの方は今も昔も変わらないですよ、あのまんま、正直不安しかなかったです」

ため息をつきながら名城は酒を飲んだ

「名城さん、さっきはもういらないと言ってたのに。結構飲めるんですね」

「私だって人並みには飲みますよ」

「で…相続して…その…」

弟村は言葉を詰まらせた

「えぇ、ご存知の通り漆原グループを社長は崩壊させました。でも漆原様が急逝された後に漆原様と直に繋がっていた人間が数名辞めたり失踪したんです」

「えぇ?本当に?!」

「えぇ、不可思議な事が続きました」

「なんか不気味ですね…ん?あ!」

ガチャン

弟村は急に何かに気づいた様子で勢いで徳利を倒してしまった

「もー!お酒倒さないでくださいよ、どうしました?」

「いや!なんでもないです、なんかそろそろ焼酎に変えたいなぁと」

名城は少しため息をつき持っていた机にあった雑巾のようなもので拭いた

「はぁ〜…本当に社長に似てきましたよ?弟村さん」

「似てませんから!すみません…で」

「あぁ…表向き経営されていた会社は買収先を見つけて買い取ってもらいました格安でね、裏稼業の方はそれに関わっていた方々が居なくなってしまい…おそらくですが遅かれ早かれあの稼業は潰れるか乗っ取られていたと思います、でも乗っ取られると後々それを悪用する人間が出てくると社長は思ったのでしょう、社長は徹底的に道化を演じ自分の不手際で取引現場に踏み込ませたりして残った人間に愛想をつかされるように振舞ってました。私もそれが演技だと気づくのはもう少し時間が経ってからでしたけどね」

「軽くディスってません?」

「だって、バカ丸出しでしたもん」

「ここだけの話…切れ者なのに時々バカですもんね、あの人」

「まともな時の方が少ないですから、」

2人は見合って少し笑った

「アハハ!…で名城さんはよく辞めませんでしたね」

「何度も辞めようと考えましたよ、色々片付けた時にある事が起きました」

「あー…それが例の?名城さんが捕まったっていう?」

「えぇ………私が自分の足で歩いて生きていけるようになったきっかけでした……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


漆原の築いた物を松田はことごとく反故にしていった


「あの2代目はボンクラだ」


「無能が服を着ている」


「単細胞」


「クズ、ゴミ」


「何も知らない、できないボンボン」


そう表でも言われるようになり人はどんどん離れていった



そんな時ある取引に警察の手入れがあり取り仕切っていた男が松田に詰め寄っていた

「ちょっと!啓介さん!秘匿回線も飛ばしも使わずになんで!」

「ん?あぁダメだった?ごめんねぇ〜僕そういうの全然分からないからさ」

強面の男が松田に詰め寄っていた

「あぁもういい!このズブのトーシロが!てめぇの後先考えない振る舞いで俺らはどんどん食い扶持が…」

「何言っちゃってるの?僕がトーシロってなんならそれをサポートするのが君らの役目じゃない、それになんだ?変なクスリまでやり取りしてて、ダメだよ!そういうのは」

「てめぇ黙って聞いてりゃ!」

強面の男か松田の首元を掴もうとした時名城が男の手を掴み関節を決め左手でナイフを構えた

「椿ちゃん!そこまで!約束は守らないとダーメ」

「なんだよ、クソメイドまで!漆原さんに気に入られてたからって…クソ!離せよ!」

「僕に手を出すと後で痛い目を見るって実感してくれた?」

ニヤニヤとしながら男の顔近くで松田は喋り続けた

「こんな仕事を押し付けられて僕はうんざりなの、正直自分の食い扶持ぐらいどうとでもなる、でもね?君達みたいな強欲な人間達は僕は死ぬほど嫌いなの、辞めたきゃ好きに辞めていいよ、ハイ!拘束解いて!」

名城は無言でナイフを構え続けた

「椿ちゃん!離すんだ!」


強い殺意を男に向けた時、松田に制止された

名城が拘束を解くと強面の男は肩を抑えながら

「このクソ野郎ども!今に見てろよ!この返しは必ず…」


「忘れないよーまたねー!ばいばーい!」

松田に煽られたのが余程悔しいかったのかドアを蹴り出ていった


「椿ちゃん、僕の為とはいえやりすぎだよ」

「何故です?相手は松田様に危害を」

「それでも相手は素手だ、殴られるくらいどうって事ないよ」


ー何を言ってるかさっぱり分からないー


「殴られてもいいんですか?」

腑に落ちない名城も食ってかかった

「そりゃ嫌さ、でもさ?僕はどんな形であれオヤジの為に働いてきた人間を僕は無下にしてる、その報いは受けないとね。僕自身の報いのために君が何かをする必要なんてないよ」

「貴方様は何を仰りたいんですか?報いとかどうとか…」

「そうやって君は答えを誰かに求め続けるのかい?名城君」

「は?」

「理解できないなら何故自ら考え知ろうとしない?与えられた物だけを見て決めて…何故すぐに短絡的に答えを出すんだ?」

「私が?短絡的?!私の何を知って!」

「ほら?そうやって怒るのが図星ってことだよね、いいかい?自分で抱いた疑問は自分自身で解決するんだ。答えを求めて教えを乞う、そうしたら答えが返ってくるなんて思わない方がいい。僕はまだ君をよく知らない、でもこの際ハッキリ言う僕は考える事しない人間は嫌いだ、もがき苦しみ答えのない物を追い求めた先に答えがある保証もない、でも考えて生きてなきゃダメなんだ!あのオヤジの事だ、どうせ君に面倒を押し付けていただろう?疑問に思わなかったのかい?思わないよね?なぜなら従った方が楽だから!ろくでもない事をさせておいて「ありがとう」「お前だけだ」「嫌な思いをさせて申し訳ない」とか言われて人に使われてる事実から目を背け続けチンケな自己犠牲を美徳に仕立てた気分は良かったかい?答えなよ!」

名城は両手で松田の胸元を強く握り壁に押し付けた

「お?壁ドン?このままチューとかしちゃう?「自分が我慢すれば」とか「これしかできない」とか言ってオナニーじみた自己陶酔感に浸っていただけだろう?さぞ気持ちよかったたろう?なぜなら不幸を盾に自分を肯定できるからね」

「お前に!お前に私の…私の!何が!」

「わからないよ!でも人に言われたから人を殺していいの?自分にはそれしかできないから無関係の人間を殺めていいのかい?!そんな事絶対にあっちゃいけない!」

名城の手に力が籠り喉仏までめり込んできた

「…分からないなら考えるんだ、分からないなら一緒に考えよう…君は1人じゃない…それに君が嫌がる事を僕は絶対させない…」

名城が力を込めているので松田は上手く喋れない

「そうやってお前も!私を利用するだけだろぅ!!みんな綺麗事しか言わない!」

「やっと本音を出した…な…僕は…綺麗事なんて…言わない…利用もしない…僕が嫌いなら出ていくといい…くっ…そうや…って本音を言うんだ…受け…とめる」

松田の顔が赤くなっていったので名城が手を離すと松田はその場で首を擦りながら座り込んだ

「ゲホッゲホッ!苦しかったァ…強いねぇー」

「…どうして反撃しなかったんです?その気になったら」

「言ったろ?受け止めるって」

「だからって!!」

「なんかさ、初めて君をちゃんとよく見れたよ」


ーまたわけの分からないことを…ー


「嫌だったんだろ?オヤジに無理をやらされるのが、それを押し殺して君はやっていた…違うかい?」

名城は松田に背を向け答えた

「…じゃあどうしたら良かったんです?私にはそれをやるしか価値がない事くらいわかってた…それを断ったらまた1人になってしまう…それは嫌だったの…捨てられるのは…置いていかれるのは…1人はもう嫌なの!!」

そう答えた背中は小刻みに震えていた

「君は何か勘違いしているよ」

「勘違い?」

「君…自分の事弱いから1人だと思ってるだろ?」

「…私は弱いわ…弱いから約束も…」

「君は弱くない、かと言って強くもない…そもそも孤独である事に強い弱いは関係ない、君の因果の結果…他人に自分の価値を見出して貰おうとした結果君は1人なんだ、君がどんな人生を過ごしてきたか僕には分からないけど…自分の価値は自分で決めちゃっていいのに、それに強いか弱いかだけで価値を決めるのは勿体ないと思うよ、いいじゃないかどちらでもなくて。少なくとも君は僕にとって最高のメイドさんで…僕のパートーナーだ」

「パートーナー…?」

「そう、上も下もない君と僕は言うなれば仲間だ、この70億人が住んでる星で僕らは出会えた仲間なんだよ僕はそう思ってる、それじゃ不満かな?」

「会ったばかりのわけも分からない女に殺されかけたのに…貴方は底なしのバカかお人好しかどちらかなのね…」

「どちらでもないね!僕はいい男だよ!俄然ね!天上天我唯我独尊!なんてね」

「いい男はズボンのチャックを開けたままそんなこと言いません…」

名城は立ち上がりいつも肌身離さずもっているカバンを持ちながら

「私には貴方がよくわかりません…こんなやり方して会社をめちゃくちゃにした方を私は信用できない…なので辞めさせていただきます」

「ちょっと!その流れおかしくない?この流れなら「松田さん!ありがとう!好き好き!」とかじゃなくて?!」

「それくらいポジティブならおひとりでなんでもおやりになれるでしょう?権利関係は放棄します、お好きにどうぞ…それでは…」

そう言い残し名城は松田と顔を合わせないで部屋を出ようとした、その時

「いつでも連絡してね!僕のパートーナーは君はだけだから!待ってる!」

最後の言葉を聞かずに名城は部屋を後にした



「さて…と…どうすっかなぁ〜まーた1人だよ…やばいかなぁ〜ヤバいよなぁ〜まぁどうにかなるか」

松田は冷蔵庫から炭酸水を取りだし封を開け飲みながら個人端末を開き何かを調べだした




仲間?パートーナー?受け止める?一緒に考える?何が上も下もないだ!

どうせ綺麗事を並べていいように使うだけだ!

そこそこ優秀だろうが服はちゃんと着られない、だらしない、トイレの便座は下げない…似てるのは顔だけ!尊敬できる所が何も無いクセに…人を小馬鹿にするくせに口だけは一丁前…でも正論だ。だからってお前に何がわかるんだ、偉そうに説教まで、そんな奴にいいのように使われてたまるか


そんな事を考えながら歩いていると道で若い男性がお腹を抑えながら倒れていたので名城は駆け寄り声をかけた


「あの…大丈夫でしょうか?救急車とか…」

「あ…す…みませ…ん、腹が…腹が…」

「今救急車を呼びます!」

「ありがとう…お願い…しま…す!」

倒れていた男は懐から高電流スタンガンを名城に思いっきり食らわせた


ーしまった!両手か塞がってとはいえ…クソ…身体が……ー


身体を動かそうとしたが意識が朦朧として視界がブラックアウトした……

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