第3話

とてもではないが弟村は食事をする気にはなれなかった

喋りながら名城は酒を口に含んでいたが酒すらも自分は喉を通らない

「弟村さんは飲みませんの?」

「あ、いや…そのなんて言うか」

「気持ちのいい話ではないですよね…すみません」

「そんな!謝ることないですよ、しかし想像していた人とだいぶ違いますね」

「……」

「で、そんな仕事ばかりさせられたんですか?」

「…拷問じみた事、誘拐…汚れ仕事ばかりさせられるようになりました」

名城は鍋から牛スジ串を取りその口に入れた

「他にもいたんです?…その仕事を請負う人間と言うか…」

「さぁ…恐らく何人がは居たと思いますが…私は川田さんと漆原様以外とは基本会わないようにしてましたから…それに…私はもっととんでもない事に気付かされる事になりました…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


娼婦として体を許した後に相手を刻む

漆原の命令だ


愛なんて知らない


こんな事は慣れてる


何回も私の中で果てたくせに甘い言葉をかけると男がその気になったので目隠しをして拘束、快楽の海から絶望する顔見たさに漆原はカメラで撮れというのだ


「これはこれで興奮するなぁ…椿ぃ…早く、早くしてくれ!もう我慢できない!」

名城は手早くスマホのカメラやその他の準備をし横たわる男に耳元で囁いた

「さっきいっぱい出したのに…もうこんなにして…」

男の耳を舐めまわしその気にさせる言葉を吐く、そして首元まで舌を這わせ男のそそり立つモノをまさぐった

「はぁ…はぁ…はぁ…椿!椿!」

だらしなくヨダレを垂らしながら男は舌を突き出していた

「もぅここも舐めて欲しいの…?わがままな子…さっき私を沢山いじめたんだから今度はちゃんとお願いって言って」

名城はまさぐる手をじょじょに早めていくと男の息遣いがドンドン荒くなっていった

「お願いだ椿!もう入れていいだろう?!椿!椿!」

「イケない子…」

そう言うと名城は男の舌を咥えるように舐めまわした後に男のモノを離し上に跨り男と1つになり腰を上下に振った

「はぁぁ椿!気持ちいいよ!椿!」


こんなもん何も感じない


何がいいのかさっぱり分からない


汚らしい


「ハァハァ…ハァ…ダメだ!我慢できない!」


ー頃合かー


名城は動きながらベット横に用意したナイフ右手に構え自身からモノを抜いたと同時に男のモノの先端をナイフで一気に切った


「ギャーーーーーーーーー!」


叫び声と同時に陰茎から血が吹き出る

屹立している分、血の巡りが良くなっているので大量に出血した


「何を!何をしたぁぁぁ!」

男は手足の手錠を外そうと暴れたが本物の手錠はそんな事で外れない

ベットがみるみる赤く染まる

名城は男の目隠しを取ると

「我が主からお話があるそうですよ」

そう言うとインカメにしたスマホを見せた

「てめぇ!なにしや…」


ーよー久しぶりだなぁー


「漆原ぁぁ!てめぇ!」


ー話し合いで片付けなかったからなぁ…あがりのパーセンテージ上げてもてめぇは首を縦に降らなかった、そんなやつは豚のクソ以下だ、名城!やれ!ー


漆原の命令でカバンから充電式の小型ドライバーをだしてローションを塗りたくった


「それで…何する気だ!頼む!やめて!やめて!」


ー男ってぇのは大切な所が切れると女になっちまうらしいなぁ、見せてくれよー


血まみれのベットの上の男の尻を上げると血が滴り落ちていたが名城は力任せにドライバーを尻の穴に突っ込んだ


「アギャァダダァァダダーーーー!」


ドライバーを置くまでま突っ込みスイッチを入れると肛門のなかでグチュグチャと音を立て血が湧いてできた


「やめ、やめ!やめ!アガャうぐぅ!ぎゃーー!」


ーいいぞ名城!もっとだ!もっと!俺に逆らった事を身をもって後悔させろ!そうだ、そいつのタマぶっちぎって口に放り込めー


「今なんて…やめ、やめ…たの…や」


ドライバーを刺したまナイフで男の睾丸を切り裂き口に入れた


「アギャーーー!やめろー!やめてぇ…はグゥ…フガフガ…」


ー美味いか?美味いだろう?あーはっはっは!ー


激痛で悶絶したのか男は口から血とヨダレ、自身の分身を吐き出し気絶した


ーなんだ…根性ねぇな…名城、もうそいつには用は無い、いつも通り終わったら川田に連絡して帰ってこい、じゃあなー


漆原は一方的に電話を切った


さっきまでさんざん私をおもちゃにしていた男が苦痛に歪んでいる顔を見ていたら自分にはもうない身体の臓器が疼いてく感覚があったが気のせいだと軽く頭を振り気絶している男の心臓めがけて大型ナイフを突き刺し捻ると男は痙攣したがしばらくするとそれもなくなる

名城は服も着ずに川田に連絡


「名城です終わりました…お願いします」


ーお疲れ様です、直ぐに迎えをやりますー


「結構です…1人で帰れます…」


ーそうはいかない、一緒に御屋敷に帰りましょ…ー


川田が喋り終わる前に電話を切り軽くシャワーを浴びて返り血を落とし、身体を拭き下着をつけると先程の男の果てた成れの果ての物が垂れてきた

休む事なく私を求めた男は今やただの塊


何をやってるんだ…私は…


こんな事救いでもない…


でも拾ってくれた


認めてくれた


これをしないと意味がない


考えるな…


そう決め下着を着け服を切るとちょうど川田達と掃除屋達が入ってきた


「いきなり電話を切るから何事かと…」

「別に…何も…すみません」

「謝ることなんて無い、早く屋敷に戻って休みましょう」

名城は1人で帰りたかったが恐らく川田は自分の監視なのだろう、絶対に傍から離れないと自覚したので一緒に部屋を出てクルマまで着いて行った

川田が助手席のドアを開け名城が乗り込むと運転席に川田が座りクルマを発進

「何か音楽でもかけましょうか?」

「別に…いいです…」

車内はひたすら無音だった

どれほど走っただろう

気がつくと屋敷の敷地内に着いていた

大玄関に着くと同時に名城は車を降りて漆原の元へ向かったが別の付き人に

「もう寝ているから誰もいれるな」

と言われ自室に戻った

自室は軽いワンルームのような作りになっていてシャワー室、コンロ、トイレまである

名城は服を脱ぎ捨て真っ先にシャワー室に入り全開で体に浴びた

水のままだったが関係ない

自分が酷く汚い存在に感じた

何度も何度も身体をボディソープで洗うがあの時感じた疼きを思い出したとき

「ウェ!」

胃の内容物を吐いた

吐いたと言ってもろくに固形物を食べず補給飲料と栄養ブロック食しか口にしないので胃液しか出なかった

吐き出したモノを目の当たりにすると涙が溢れその場で座り込んでしまった

シャワーがお湯に変わるが何も感じない



ー君がどんな事をしてきたか俺にはわからん、でももう不必要に身体を売る必要なんてないー


この言葉を言われた時嬉しかった


人間らしい扱いをはじめてされたからだ


どうして…どうして私を置いていったの


私もあの時ついていくべきだった


恩人と一緒に戦って死ねばよかった


俯きながら自身の下腹部の手術痕を見た


言葉が喋れない時の方が楽だった気がする


「オェ!オェ!」


吐き気が止まらない


濡れた身体のシャワー室を出てナイフを手に取り手首の動脈めがけて刃を向けた時


コンコンコン


誰が部屋をノックした


答える必要はない


もう放っておいて欲しい


「名城さん、私です川田です、開けてください」


ナイフをテーブルに置きバスタオルを巻いてドアを少し開けると川田がドアの隙間から心配そうに名城を見た

「お疲れの所すみません、何やら名城さんの様子が気になって…」


早く帰って欲しかったが川田は私の監視だ邪険にする事もできないので部屋に招き入れた

置きっぱなしのナイフを川田は見つけたが見ない振りをした

「あまりご自身を追い詰めずに…」

「…もう何が正しいのか分かりません…救いとは何なんでしょうか…人を無意味に傷つける事は必要なのでしょうか?」

「…あの方の考える事は最近私にも分かりません、ここからは私の独り言だと思ってください。あの方の仕事をして自己嫌悪に陥る必要は無いと思います、気持ちのいい物では無いのは重々承知しておりますが割り切って全てその罪悪感はあの方に押し付けなさい、貴方は強い、強いからこそ誰にも理解できない悩みで苦しむ。全部受け入れる必要なんて無いのですよ…もう私が監視している事にお気づきでしょう?だったら私が見ているからとでも思って構いませんから」

「……私なんかに…ありがとうございます」

「とんでもない、少しお休みになられた方がいい、最近は仕事が続き過ぎてますから。私から頃合いを見て漆原様にお伝えしておきますよ」

「…違うんです…」

「は?」

「いたぶる必要なんかない…分かっているのに苦痛に歪む顔を見ると…私も身体の中が疼くのです…どこかで楽しんでいるのかと思うと私も人の事なんて…」

「人間自分より弱い立場の人間を見るとそんな感情だって湧きます、褒められたことではありませんがそういう気持ちも否定しないで認める事も必要です…そんな悩みを抱かせてしまい主に変わって謝罪します、申し訳ございません」

そう言うと川田は深々と頭を下げた

「川田さん、やめて…私なんかに頭を」

名城が川田の身体を起こそうとするが川田はそれを拒否し頭を下げ続けた

「私だって貴方を追い込んでる側の1人です、本当に申し訳ない、少しお休みをいただけるよう私からも進言しておきます」

そう言うと川田は顔を上げ手に持っていた小さな箱を渡した

「これは?」

「紅茶です、香りが良く私も愛飲しております、安眠効果もあるのでこれでもお飲みなって今日は休んでください、長々と失礼致しました、お休みなさい」

箱をテーブルに置き川田は部屋を出ていった


川田に思いを吐くと少し楽になったのを自覚する

正直とても救われた、この仕事を任されるようになり人と関わならなくなってきたから余計に自己嫌悪に陥っていたからだ

ケトルで湯を沸かし身体をタオルで拭き何も着けないまま川田が置いていった紅茶の箱を開け茶葉を取り出しスプーンで2杯ほどティーポットにいれ湯を注ぎ少しくぐらせカップにそそぐと無機質な部屋に紅茶の香りが漂い少しリラックスできた


私なんかを気にかけてくれてありがとう


そう感謝の気持ちを持つとまた涙が溢れてきた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「その人…川田さんって不思議な人ですね」

何も食べないのも気を使わせると思い比較的軽い具材のはんぺんを食べながら弟村は言った

「あの時…川田さんがいなかったら私はもっと頭のネジが外れていたかもしれない」

「そりゃそうですよ…聞いてて…」

「胸糞悪いですよね?」

「そりゃそうですよ、別に名城さんがどうとかのじゃないんです。名城さんにそういう事をやらさて自分は高みの見物とかどんだけだよ!」

お猪口が空だったので徳利から注ごうとしたがめんどくさくなりそのまま直に口つけた

「これ冷も美味いな」

「もぅ、口をつけたら私はどうするんです?」

「あ…」

「いいですよ、私はもうお酒は充分ですから」

場が悪そうに話をはぐらかそうと弟村は

「で?さっき言ってたとんでもない事が分かったってなんなんです?」

「あぁ…その仕事の後から私は比較的御屋敷で身の回りのお世話や漆原様が人と会う時の護衛任務をする事になりました、川田さんのおかげで」

「へぇ〜その人凄いですね、漆原にちゃんと言ったんだ」

「…川田さん達とある護衛任務の時に事件は起きたんです…あれは商談後のことでした…忘れられない事が…」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日漆原は川田、名城を筆頭に数人の護衛をつけて商談に望んだ

話し合い自体はそこまで中身のあるものではなくただ漆原が出張り顔を効かせる為の物で実際のやり取りは川田が取りまとめていた


「毛野さんとは今後ともいい関係でいたいものですなぁ〜」

漆原が大きな声で笑いながら右手を出した

「こちらこそ漆原さんとお近づきになれて良かったです、わざわざ御足労おかけして申し訳…」

毛野と呼ばれた男も右手を差し出し大きく握手をし漆原が

「こういう事は顔を見合ってみないと!長く付き合うわけですしな」

満面の笑みで答えた

「細かい数字の事は川田を通してくれ、おい!」

「初めまして毛野さん、川田と申します」

「川田さん、今後ともよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました、勝手ながら漆原はこの後のフライト時間が押してまして…」

「それはお急ぎになられた方が!出口までお送りしますよ」

そういい毛野の部下達が部屋の扉を開け漆原の護衛2人を先頭に名城、漆原、川田、護衛3人の順番で部屋を後にすると毛野の部下が走ってエレベーターのボタンを押した

「お見送りなんてお気になさらず」

「そうはいかないですよ、会長から仰せつかってますので」

エレベーター到着の音がなり扉が開いき毛野の部下が漆原達を案内した

「狭いエレベーターですみません、会長をお連れしてすぐにお見送りに参りますので下で少々お待ちくださいませ」

そううながされ漆原達がエレベーターに乗った

「名城、飛行機間に合うか?」

「スケジュール的に押してますが間に合います」

「そうか、川田、名城、いつもすまんな。今回の件が全部片付いたらお前らにも休みをやるからな」

「お心遣いありがとうございます」

「ありがとうございます」

「いいっていいって」

1階に到着すると毛野の部下達が数名で待っていた

「お車までご案内します」

見送るといった毛野がいなかったが毛野の部下達を先頭に出口までいくといつの間にか後ろ3人の護衛の後ろにも毛野の部下達がいた

出口までもう少しの所で


「死ねぇ!漆原ぁ!!」


の怒声が響き銃声が響いた


パァン!パァン!パァン!パァン!

複数回の銃声の後に後ろの護衛の叫び声が響く

「ぎゃ!ぎゃ!」「ぐはぁ!」

「貴方達!漆原様を守って!あっちは私が殺す!」

漆原の前にいた護衛にそう指示をし銃声の音と同時に名城は装備していた大型ナイフを両手に構え出入口近くの男達に走って行った


パパァン!パァンパァン!パパァン!パァン!


乾いた音が何度も響くが名城には当たらない

名城にとってはある程度の刃渡りの物であれば銃弾は弾いてしまうからだ


「なんだ!こいつ!弾いてやがる」

「構うな!殺せ殺せ!」

川田も両脇ホルスターの金と銀の45口径2丁を抜き護衛2人の遺体を縦にして2丁スタイルで応戦していた

「名城さん!後ろは私が!主様を車へ!」

「はい!」

名城は瞬く間に男たちに近づきすぐさま2人の頸動脈をナイフで切り裂いた

「ぐぎゃ!」

「へぇ!!」

「ぎゃ!」

銃声が響き続けるが名城に1発もかすらない、とてつもない動体視力と戦闘経験の差でどこに発砲するか?を先読みして集団に飛び込むので相手をする側からすると味方撃ちになりえるので迂闊に発砲できない

その隙を名城は一方的に敵を切り続ける

回転しながらナイフを振る姿はまるでゲームのキャラのようだ


「逃走路確保!急いで!」

名城が先頭の敵を蹴散らしクルマの安全を確保すると2人の生き残った護衛が漆原をクルマに押し込みその後を川田が続いた

「名城さん助かった!あり…」

漆原をクルマに押し込んだ瞬間に川田は後方への警戒を怠った


その時


「死ねぇ…川…」

打ち損じた敵の1人が銃を向けた瞬間


名城は川田の前に体を入れた


パァン!


「ヴッ!」

「名城さん!なんで!」

川田が肩を撃たれた名城を抱えた時、名城は倒れないように気力を振り絞りナイフをの眉間にめがけて投げた


クチャ!


綺麗に眉間にささり絶命

「私は…大丈夫です、早く漆原様を…」

倒れかけた名城を川田は無理やりクルマに押し込み自身は助手席に乗り込みクルマを発進させた


「お前らのらおかげで命拾いをした、毛野の野郎…タダで済むと思うなよ…おい!隠れ家に迎え!おい名城!殺すならちゃんと殺せ!使えねぇな!」

漆原が自宅へ向かわず何故か都内にいくつかある隠れ家に行けと指示

「漆原様?!まずはご自宅に…」

「うるせぇぞ川田!そこにウチのもん集めて返しだ!返し!」

「ならまず負傷した名城さんの治療を」

「バカ言うな!これくらいの事でハウンドが、どうって事ないだろう、名城!」

「はァ…ハァ…ハイ、弾は抜けてるので…」

「そういう問題で…」

「うるせぇぞ!俺の言うことに口答えするな!お前らの変わりなんぞいくらでもいるんだからな!ぶち殺すぞ!」

「……名城さんこれで止血してください、被弾した所に押し当てて」

「…ありがとうございま…」

「フン!仲睦まじいこって」

2人は返事もせず流した

護衛の運転手が急いだ為か都内の隠れ家に着くと漆原は我先にとクルマから降りて護衛も慌てて続く

「名城さん大丈夫ですか?ここには応急処置ができるくらいの物はありますので…」

被弾した肩を抑えながら名城もクルマを後にし川田が案内

隠れ家には漆原が連絡したのか数人の部下達が集まって漆原を迎える

その隠れ家には刀や小型の銃器も揃えてあった

「毛野の野郎!俺を嵌めやがって!返しの準備だ!準備!」

漆原は怒り狂い川田や名城、護衛に八つ当たりをしていた

「フン、護衛の分際でへこたれやがってこれじゃ護衛の意味がわからんな!使えねぇ!死ぬところだったんだぞ!」

バチン!

漆原が川田を殴る

「…ッ!」

殴られた川田が珍しく漆原に反抗的な目をした

「なんだぁ!川田!何見てんだ!」

「…合点がいかないんですよ…」

「何言ってやがる!」

「こちらは圧倒的に人数が少ない状況でした、こう言ってはあれですがどう考えても漆原様を狙うならエレベーターの扉が開いた瞬間我々を殺せば良かった…なのにそれをしなかった…何故だと思います?」

そう言い漆原の近くに合った応急処置パックを取り名城の肩の怪我の具合を確認

「俺を殺そうとした連中が何考えたかなんて俺が知るか!てめぇでもふざけたこと言ってると!」

漆原は川田に銃を向けた

「…そうですか…やはりね…今回のターゲットは私でしたか…一応理由が知りたいですが」

ニタニタと漆原は小馬鹿にする顔になり口を開いた

「いちいち…俺のやる事に口出ししやがって、毎度毎度腹が立ってたんだよ!」

その怒号に呼応する形で部屋で待っていた男たちが銃を抜き川田を狙う

漆原が川田の正面に立ち川田を囲うように男達もならんだ


「名城ぉ!てめぇはどうする?!俺につくかこのバカと一緒に死ぬか!選べ!」



もうどうなってもいい



私はもう後悔したくない



名城は肩を抑えながらゆっくりと歩き川田を通り越して漆原の傍に立った

「名城さん…残念です」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

「ハァッハッハッハ!利口な奴は嫌いじゃないぞ!さぁ、死ねぇ!川田!」


漆原を含めた全員が川田に狙いを定めた瞬間


「動かないで!」


名城が漆原を後ろから拘束し首元にナイフを突きつけた


「クソメイド!この人形がぁ!」

「…もうどうでもいいです…私も疲れました…ここで川田様を見殺しするのは嫌です」

「マリオネットのくせに!人形のクセに拾ってやった恩を…」

「貴方様には何も感じません…もう…さぁ、銃を捨てなさい!」

漆原側の男が名城に手を伸ばすと漆原の拘束が解かれ名城の鳩尾目掛けて肘鉄、川田から狙いが逸れた瞬間、川田は残り少ない自分の45口径を抜き護衛達を撃った


パァンパァンパァンパァン


「ぎゃ!」「グフゥッ」「ヴゥッ!」「グハ」


名城も残りの男たち達の急所をナイフで瞬時に切った


急所目掛けて切るので叫び声すら出ない

あっという間に形勢逆転、今度は漆原が銃を向けられる事になった


「…悪かった!悪かったよ!気の迷…」

「何も知らない連中を言いくるめていい気になって…つくづく愚かだ…貴方は」

シルバーの45口径を

「待っ!待ってくれ!俺は本当は!!」


「…漆原なんかじゃない…ですか?」


漆原は目が飛び出るくらい驚いた顔し名城は事態を掴めてなかった

「?!?!?!何故だ!何故お前が…?!まさか!!お前が…?!」

「指示は全て端末にきているでしょう?最近は返事すらしなくなりましたね、派手好きで口が上手いから替え玉をお願いしたのに…頭が悪いクセに知恵をつけさせてしまったのは私の落ち度だ…名城さん、ナイフを降ろしてください…こんな無能、貴女がやる必要はない」

「川田さん!どういう事なのですか?」

「後できちんと名城さんには御説明します、まずは落ち着いてください」

川田が一瞬漆原から視線を逸らすと漆原は忍ばせていた小型の手榴弾を抜いた

「全員…死ね!」

名城は考えるより身体が反応した

漆原が手榴弾のピンを抜くと他の遺体の上に手榴弾が落ちたので漆原の背後からナイフで首元を力一杯根元まで貫きそのまま手榴弾に覆いかぶせるよう漆原を倒してそのまま川田を庇うように押し倒しそのまま部屋にあった棚の方へ抱き合って転がり川田を自身の下にして川田の両耳を塞ぎ頭を守るように庇った


ドォォォン!


広くはない部屋で爆発がおき棚が名城に倒れてきた



名城は爆発の反響音で鼓膜が破れ盾した壊れた棚の残骸で背中に傷をおった


「……!………!…………!」


川田が名城を抱え何かを叫んでいたが聞こえない


私を見てくれていた人を守れた


もうこれだけで充分だ


背中の感覚が無い


もうこれでいい…もうこれで…

川田の無事を確認すると緊張が解け名城は意識を失った



次に名城が目を覚ますと見知らぬ天井で腕には点滴の針、顔には酸素マスクが

体を起こそうしたが痛みが体を襲う、気合いで無理に起き上がろうとすると丁度医者がはいってきた

「起きてはダメです!」

「ここは…」

「病院です、担ぎ込まれて2日間程貴女は寝ていました、意識が戻ったら川田さんが連絡してくれと仰っていたので連絡します、どうか安静にしていてください」


また助かってしまったのか


もういいのに


自分の体の異質さを恨む


そうだ川田さん…


連絡するって言ってた


まだ鎮痛剤を入れられているのか頭がボーッとする


もう考えるのをやめよう


そう思った時、川田が慌てて部屋に入ってきた


「名城さん!良かった…」

「川田さん…ご無事で…」

「貴方のおかげだ!命懸けで守ってくれてありがとう」

川田が深々と頭を下げた

「そんな…私なんかにそんなこと」

「貴女にはいくらお礼をしても足りない…この礼は必ず…まずは身体を治しましょう」


川田は毎日必ず名城の面会に来た

忙しい時でも数分話だけをして出ていきゆっくりできる時は他愛もない話をした

その日は体もだいぶ回復したとの事で担当医が車椅子であれば病院内移動を許可をしてくれたので看護師の手を借り車椅子に移動していると丁度川田が病室に入ってきた

「そんな事して大丈夫なのですか?」

「外が見たくて」

「なら一緒にまいりましょう。中庭で何かを飲みますか、天気もいいので気持ちがいいですよ」

そういい川田が名城の車椅子を押した

「すみません…ご面倒をお掛けして…」

「何を言ってるんです、貴女は私の恩人だ。こんな事どうと言うことでは無いです」

一通り会話をすると無言が続き中庭ベンチに着くと川田が車椅子のストッパーを掛け

「飲み物を買ってきます、何か飲みたいものありますか?」

「お構いなく、申し訳…」

「次謝ったら怒りますよ、遠慮せずに」

川田が笑って答えた

「では…冷たいお茶を」

「分かりました、少し待っててください」


私の身体…調べられたのかな…


病院だもんね


これが終わったら色々調べられるのかな


嫌だな…


気持ちが沈みかけた時心地の良い風がふいた


でも川田さんは守れた


今まで誰も守れなかった自分が初めて無傷のまま人を守れた


そんな事を思っていると川田が小走りで飲み物を持ってきた

「待たせて申し訳ない、お茶と言っても種類が多くて…」

そう言うとプライベートブランドの無糖紅茶ペットボトルを名城に渡し自身はコーヒーを飲んだ

「あの時の事…覚えています?」

「えぇ…間違えていたら申し訳ございません、川田さんの本当の名前は…」

コーヒーをすすりながら一息つき川田が口を開いた

「察しの通り、私が本物の漆原だよ」

「他に知ってる方って…」

「掃除屋と呼ばれた連中がいただろう?あれは私の正体を知っているよ」

「…そう…ですか…」

「あまり驚いてないね」

「もう何があっても驚きませんよ…で、あの偽者?は…」

「あぁ、アイツか…あの男はとある宗教団体の元教祖でね。もちろんスピリチュアルな物なんてない持ち合わせてない、口が上手くて人を騙す天才でね。体も大きく元教祖だけあって芝居をすると自分を大きく見せる天才だった、だから影武者に最適だったんですよ」

「…?!だからあの人は具体的な話をしなかった…」

「ご名答、細かい話はだから私が精査していたんですよ。あいつバカですし」

「なぜ…そんな事を?」

「私…敵が多いんです、なので囮が必要でした。基本あのバカにはメールで指示をして私の言う通りに動くよう指示していたんですがね、勘違いして本物になろうとしてました、露骨に私に口答えするのうになってきたので頃合かな?と思っていたら今回の事件」

「あの…聞いても良いですか?」

「なんです?」

「漆原さん?…のあの仕事の件…やり方も貴方様が?」

「いやいや、アイツの個人的趣向だ、殺せとは命じたがあんな事しろなんて私は言ってない、誓っていい」

「良かった…」

「ん?」

「川田さ…すみません…なんとお呼びしたら…」

「あぁ…混乱させてしまったね、呼びやすい名前で構いませんよ」

「あれだけ目をかけて頂いた方が残忍な事を命じる方ではなくてホッとしてます、それと私を見つけたのはやはり…?」

「えぇ、私が貴女を見つけました、適任だと思いましてね。正解でした、あの時私を守ろうとした時の判断は貴女にしかできない。…組織も大きくなりました、今後は私が漆原に戻り本格的に組織運営をします、貴女は数少ない私の正体を知っている人間、今後は私付きの専属メイドとして私の護衛をお願いしますが…大変心苦しいのですが名城さんにはまた…」

紅茶を飲み干し何かを決心したように目を瞑り名城は口を開いた

「もう…身体を売ったり…相手をいたぶったりしなくて良いのでしょうか?」

川田…もとい漆原が名城の手を取りめを見つめながら

「当たり前です!体を売らせるなんて!二度とそんなことはさせない!貴女のやり方にお任せします、ただお辛い事を…」

「ありがとう…ありがとうございます…」

「何を…?」

「名城 椿を漆原様の手足として存分にお使いください」

「まずは体を治しましょう、また面会に来ます、さ、冷えてきたので病室に戻りましょう」

そういい本物の漆原は立ち上がり名城の車椅子を押して病室に向かった


体を売らなくていい


自分にはもうないがこの言葉を言ってくれたのは2人目だった


それがたまらなく嬉しかった


自分を女として扱ってくれたからだ


その人を守れた事を誇りに思えた


その日、名城は心が救われ自然に少しだけ笑えるようになれた日だった

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