第2話

「おぅ、俺はその辺でタバコ吸ったりしてるから鍋のモン適当に食っていいぞ」

そう言い店主は立ち上がった

「ちょっと!そんな言われ…」

弟村が店主を引き留めようとすると

「お前らが飲み食いした分はクソ生意気野郎にでも請求するさ、だから心配しなさんな」

店主が屋台の奥の路地にひっこもうとする直前に名城が呼び止め

「これ、お怪我をさせてしまったので治療費に使ってください」

と名城はコートから財布をだし現金を渡そうしたが店主は受け取らなかった

「こういう世界だ、やられた方が悪い、それにハウンドに銃を向けたんだ。この程度で済んで良かったと思ってるだろうよ、だから気にするな。盗聴の心配もしなくていいし店の周りの連中がここには誰も近づけさせないから大丈夫だ、じゃあごゆっくり」

そう言い残し店主は裏路地に入っていった

「…なんか不思議な人ですね」

「社長のお知り合いですから」

「じゃあまぁ遠慮なく…」

弟村は皿に残ったおでんを平らげ酒をのみ鍋の菜箸で具を選んだ

「出汁美味!で?名城さん先代と会ったのは雨の日だったんですか?」

「…えぇあの時は線状降水帯の警報も出る大雨でした、もうご存知だと思いますが私は以前とある組織にいました。その組織が壊滅し私は何とか生き延びた…いや…逃がしてもらったんです。私その組織にいた頃喋れなくて」

さつま揚げに辛子を塗りツーンとしたのか弟村は鼻を抑えなが飲み込んだ

「喋れない?」

「えぇ…相手が言ってる事は理解しているのですが口を開こうとすると声が出なくて、それに感情が少し欠落していました」

名城は酒を口に含み息を吐く

「今こんなに流暢に喋れるのに?何か原因があったのですか?」

「表質性言語障害と当時は言われました」

「…すみません俺想像力無くて」

「いいんですよ、でもある人と離れ離れになる時に声が出たんです」

弟村は何かに気がついたがそこには触れなかった

「弟村さんは優しいですね」

「へ?何が?」

「誰だか分かってるでしょう?」

「さぁ?なんの事だか、誰かわかんねぇっすよ」

「フフっ社長に似てきましたね、そういう所も」

名城もおでんのトマトを食べまた酒を飲む

「ちょっと!やめ…イカン、話が脱線してる。それで喋れるようになった後にどう出会ったんです?」

「私の特技…はご存知ですよね?」

「……えぇまぁ」

「それしか特技が無いので特技を生かしてフリーで仕事を受けてました」

「えっと…特技の仕事を?」

「えぇ…統一戦争終結後も政治的世界にも裏社会にも誰かを「消してくれ」という仕事は沢山ありました」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「生命だけは…!金なら!好きなだけ…!ほら!」


狭い和室に男の斬殺死体が転がるなかで1人の男が命乞いをしていた


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


誰にも聞こえない小声で黒いコートで身を包んだ銀髪の女がそう言い愛刀の

「鬼神丸国重」

を男の首目掛けて一振し命乞いをしていた男の頭と胴体が別れた

動脈を切ったせいでおびただしい返り血が銀髪の女にふりかかる

己にかかった血液より刀の血脂を直ぐに払い鞘に納める

顔にも返り血を浴びたが頬には一筋の涙が流れたようにも見えた



あの時



ー…普通の幸せをお前に見せてやれなかった俺を恨め…もう二度と人を殺さず…血を見ずに…穏やかな新世界で幸せになー



そう自分に言い残しあの人は死地へ行った


ごめんなさい


ごめんなさい


ごめんなさい


ごめんなさい





私は弱い


弱いから誰も守れない

私を肯定し受け入れ生きる道をくれた恩人も


弱いから1人

何も疑問も抱かず言われるがままに名前をくれた人を殺めた


弱いから自分より弱い奴しか殺せない

人殺ししかできないんじゃない、何も考えずにできるからだ


弱いから


約束1つ


守れない


この気持ちに比べたら返り血なんでどうってこと無かった


軽く顔を拭き返り血を浴びたコートを脱ぎ捨て自身の仕事の証である彼岸花の造花を首が切断された遺体上に置き部屋を後にする

廊下に出るとそこはほぼ血の海で「人間だった」物が転がっていた

首を抑えながら息絶えた者、自身の臓物を抑えながら絶命した者、弾かれた弾が眼球から脳髄を抜けた者、右腕と首が離れた者…

血脂の匂いは嗅ぎなれていた

本当なら自分の痕跡等は残してはいけない

だがその女はそんな事どうでも良かった


「人を殺すな」


魚を捌いたあとに出た液体を吸った雑巾を放置し絞った汁のような吐き気をもよおす自己嫌悪感はその想いを破った己への呪いだと早いうちに割り切った


いつだったか自分の首動脈を切ろうとしたが刃に力を込めると涙が溢れて体が震えた

人は殺せるのに己が死ぬのは怖いのだ


何がハウンドだ


聞いて呆れる


死体に置いた造花は自分の痕跡を残し自分を恨む人間に己をグチャグチャして欲しい為のヒントだ

自死する勇気すらない自分の体を磔にされ幾人の人間から罵声を浴びせられながら体中を串刺しされ臓物を乱雑に引き抜かれ焼かれる、眼球はカラスにつばまれ脳髄はミキサーにかけられ脱けがらの首を切り落とした人々に唾を吐かれながら足蹴にされて下水に落とされる


それが当然の報いだといつも心に決めていた



女は遺体には目もやらず一直線に建物裏口へ

裏口から出ると外は大雨だった



予報では線状降水帯と言っていたがこれ程とは…



仕事はフリーだが見届け人兼運転手が待つクルマまで走りクルマのドアを開けると嗅ぎなれた匂いがした


血の匂い


大口径の銃で頭を撃ち抜かれたのか助手席に脳の欠片が落ちていた


雨と相まっていきなりの事態に警戒を解くと後ろに人の気配が


「妙な真似はしないで欲しい君と話がしたい方がいる。こちらのクルマに来てくれないか?おっと、刀に手をかけるなよ?君を殺したくない」

傘を持ったスーツの男が銃を構えていた


「…別に私は話すことなんてない、早く殺して…早く」


「生きるのを諦めた人間を殺すのは個人的に好きじゃない…死にたいのなら話を聞いてからにしてくれ、主の提案が気に入らないのならこのままフリーで仕事をするなり自殺をするなり何でもすればいい」

そう男が言うと女は振り返り黙って頷いた


男は傘を差し出し女をクルマへ案内するとそこには黒のベントレーミュルザンヌが停まっていた

男が後部座席のドアを開け中へ誘う

「主様が貴方とお話がしたいと、さ、中へ」

「私と2人きりにしていいの?」

「貴女は仕事をしているのであって私利私欲で殺しをしている訳ではない、意にそぐわない相手でも貴女は殺しませんよ、そういう方です。ここで感情に任せ殺しをしたら貴女の評判は地に落ちます。「ハウンドは見境のない狂犬」とね、それに万が一ここで貴女が主を殺した場合私が君をどんな手を使っても貴女の身体も心も壊します…例え私がここで殺されても私の下の者が他の生き残りの元お仲間も探して家族親戚友人全員塊も残さず…」

女が男のコートの襟を乱暴に掴んだ

「…!!やめて…それだけは…やめて…」

「とりあえず主と話してください、気に入らないなら帰って結構ですから」

男の胸ぐらを離し車に乗り込むと歳のいった恰幅のいい丸メガネで黒のスーツの男が座っていた

女が後部座席に座ると先程の男も運転席へ

「初めまして、探したよ「ハウンド」さん」

「…私に…何をさせたいの?」

「若い女性はことを急かし過ぎる…まぁいいか、俺の名前は漆原 泰輔、単刀直入に言う、俺の下で働いてくれ」

「…私を専属にして殺しをやれと?」

「あぁそうだ、もちろん殺しだけではなく俺の護衛等もしてもらうがな。君の仕事を調べさせてもらった、実にいい、完璧だ」

「完…璧?」

「躊躇いが一切感じられない、殺した相手に敬意すら感じられる…たが迷いもあるな」

漆原と名乗る男は女の目を真っ直ぐ見つめ喋り続けた

「…迷い?」

「あぁ人を殺す事に躊躇は全く無いのに自身を雑にしている、まさに今の君がそうだ。返り血くらいもう少し綺麗にしろ、プロならな」

そう指摘され目を逸らした

「それは自身に対する戒めか何かか?殺しに戒めなんかいらない、むしろ救いだ」

「生きる権利を奪う事が救いだなんて…」

「殺しを依頼される人間なんてロクなもんじゃない、人に恨まれるような遺恨を残すんだ、そんな罪人を君は救っているんだ」

「なら貴方はどうなの?私からしたら同じ穴の狢よ」

「そうかも知れん、自分が正しいとは言わんが俺は君がターゲットにしてきたような弱者を食い物にするような事は誓ってしていない」

女は車の窓を見ながら黙って聞いていた

「悪行と蛮行は違う、もし君が俺の下で働いて俺が蛮行を行ったと判断するなら俺を殺して構わん、戦争が終わりまだまだ世の中は荒れるんだ。君の力…俺に貸して欲しい」

男が頭を下げ頼み込むと女は小さく深呼吸をした


ー私のは蛮行だな…違う、それ以下だ…



「この新しい世界はまたまだだ…誰かが汚れ役をやらなきゃならないなら俺がその役目を買う!そして君の罪も私が背負おう、君の殺しに抱く嫌悪感は全部俺をに押し付けていい!その先に新しい物があるなら全部押しつけろ!」

「新しい…世界…?」

「そうだ!君が罪人を救いへ誘い万人が平和に暮らせるような世の中を作ろう!そのために誰も君を否定させない!俺がさせない!」

そう男が女はの両手を掴みまっすぐ目を見つめた



私が人を救う?



殺す事は救い?



私は私はのままでいいの?



新しい世界…



見られる?



「…うん…やる」

「やってくれるか?!ありがとう!本当にありがとう!さぁまずはその返り血を綺麗にしなきゃな、俺の屋敷に来てくれ…おい、クルマを出してくれ!」

漆原の命令でクルマが発進

しばらく車内は無音状態で名城が口を開いた

「私の経歴…なんで知ってるの?」


ーあの時…経歴は消えたハズ…ー


女は不思議で仕方なかった



「消去法だよ、君みたいな優秀な人間の記録が無いのは必ず理由がある、バラバラに散った点を線で結べば自ずと答えは…それに…」

「もういいです、私以外にも誰かを…?」

「欲しかったのは君だけ、君が来てくれた事で俺は満足だ、部下が失礼な事を言ったのかい?それなら申し訳ない、俺の為に言ったことだ…えっと…君の事はなんと呼べばいいかな?」

「名前なんてない…番号でもなんでも好きに呼べばいい」

「名前がない?あぁ経歴もないか…名無しじゃ不便だろう?…名前が無し…そうだ、今日から君は「名城 椿」だ」

女は怪訝そうに漆原を見た

「名城…椿?」

「名前がないんじゃ呼びづらい、名無しを変えて苗字、椿は花の名前だ。ほら車の外を見てみるといい、ちょうど咲いているだろう?この寒さに負けずに」

女がクルマの窓を開け見るとこの大雨にも寒さにも負けずに咲いていた

「君は腐らずに己の心を折らずにいられた強い立派な証だ、だから椿、君にピッタリだ」


また名前を貰った

殺すことが救いと言うなら

私は…



「漆原様、この名城 椿を自由にお使いください」

その言葉を吐くと今までの自己否定感が少し薄れた気がした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


熱燗はとっくに冷えて冷や酒になっていた

弟村は何も言えずただ黙って聞くしかできなったのだ

名城が所属していたという組織の事は松田は知っているようだが聞いてもはぐらかされ、調べようにも記録が抹消されている

名城の「仕事」改めて聞くと常人には理解ができない内容だ

以前名城が我を失った事件で弟村はその凄さを体で感じた時脂汗が止まらなかった


ー人を殺める事に何も躊躇がない人間は頭がイカれてるー


と思っていたがそんな事はない、そうするしか生きる道を見いだせない人間の葛藤を自分の小さな物差しで図っていた事が恥ずかしくもあり小さくも感じていた



「強い人間は常に孤独…か」

弟村は鍋の酒をお代わりしながら口を開いた

「?」

名城はキョトンとした目で弟村を見た

「俺みたいな凡人の凡夫にはそういう葛藤は分からないっす、でも1人は辛いっすよ。状況は違えど俺も警察時代そういうことありました、まぁ俺の場合は「悪い奴は悪い」って思った結果でしたけどね」

「弟村さんはやっぱり優しいですね」

名城は鍋の菜箸でタコ串を取り弟村の取り皿に

「俺が?」

「えぇ、社長に話をしたらおそらく「どんな状況でも君が出した答えだ」とか言いますもん」

「あー言いそうですね、あの人って綺麗事は言わない、真実しか言いませんから。あ、タコありがとうございます」

「慰めて欲しいわけでもない、綺麗事でもいいから肯定して欲しい…かと言って安っぽい人間は持論を持ち出し話を挟む。弟村さんは黙って聞いてくれるので話をしていて少しスーっとしてますよ」

名城は弟村が徳利に注いだ酒をお猪口に注ぎ口に含んだ

「なら何よりです、で漆原さんはどういう方だったんですか?」

「……どういう人……とても優しかったです、衣食住を用意してくださり名前まで…メイドとしての教育も漆原様から直接教わり、その時も時々ですが仕事はさせられました。漆原様の言葉を何も疑わずに…あの頃の私は考える事をしていなかった、仕事を終え報告すると漆原様は大層褒めてくれました、少しいい気になっていた自分もいました…」

「褒められた事でないけど…ちゃんと評価はしてくれてたんですね…?」

弟村のその問いに名城は肩を抑え少し震えていた

「え?え?!俺なんかやばい事…」

「あの方の本質を知るのはもう少しあとでした…あれはメイドの教育過程が終わり少し変わった仕事を任せられた時でした」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「名城、今回は標的はこの男だ」

漆原が名城に封筒を渡した

「はい、拝見します」

名城が封筒から書類を出し目を通していると

「名城、この男は拘束してこの屋敷に連れてこい」

「それはどういう…」

「伝えた通りだ、内通者からその男が今どこに居るか分かっている、愛人に経営させているクラブだ、川田には場所を教えてある、自分が行く時は少数の護衛をつけているだけ…他は殺して構わんがその男だけはここに連れてこい!わかったな!さっさと行ってこい!」

漆原が急に語尾を荒らげ名城に命令した

「承知しました、ではすぐに…」

「川田!」

「はい、ここに」

川田と呼ばれた男はあの雨の日名城に銃を向けた男だ

「名城を連れてさっさと済ませてこい!」

それだけ言い残し漆原は書斎の椅子に座り葉巻をくぐらせた

「名城さん、行きましょう、ご案内しますので大玄関に車を回しておきます」

名城は急いで自室に戻り仕事道具の入ったカバンを持ち大玄関へ

大きな扉を開けると川田が車で待っていた

その車に乗り込むと車は発進し玄関前を大回りして門へ車を走らせると門が自動に開き車が止まることはなかった

「名城さん、標的は鐘崎のクラブ「蝶舞」護衛2人だけを連れて今飲んでいます」

「標的はどういう方なんです?」

「それは貴方が気にする必要はありません、標的を無力化したら私に連絡を」



失敗は許されない


いつもと違うのは殺さないで無力化する


目的地に着くまでそう自分に言い聞かせた



「名城さん着きました、ここのビル4階のです、連絡お待ちしております」

狭い空間だ、長い刀はいらない

カバンからナイフ2本、弛緩剤を仕込んだ指輪式の毒針、投げる用にクナイ2本、絞め落とす用にピアノ線を装備し名城は川田に一礼して車を降りた


さて…どう行くか…


正面から行けばいい

外見はお世辞にも綺麗と言えないビルのエントランスに入りエレベーターのボタンを押した

幸いにも人に見られることはなくすんなり4階まで到着しエレベーターを降りて右を見ると「蝶舞」の看板のドアに護衛と思われる男が2人立っていた

名城は弱々しいオーラを出して男達に近づくと

「おい、今日は貸切だ、ママだけでいい!帰れ!」

と護衛が言い放つと

「ママからお使いを頼まれまして…なにか…薬?を持ってこいと…確認だけして貰えませんか?」

と頼みこんだ

「はぁ?薬?」

護衛のもう1人が口を開いた

「ったく…2人とも好きだなぁ…いい歳して…でもよぅ」

「入れねぇよな…クソ!ちょっと確認するから待ってろ!」

護衛の1人がドアをノックしゆっくり開けて中に入っていく

護衛2人がクラブに入るのを戸惑った理由はすぐに名城は理解、ドアが開いた時ここまで聞こえる程の男女の情事の声が聞こえてきたのだ

男が入った時もう1人が名城に一瞬背を向けた時、名城は腕に仕込んだピアノ線で男の首を一気に締め上げた

「グゥ!カッカッカカ!離…離せ…」

動脈に入ったのか男は顔を真っ赤にしすぐに動かなくなり体から力が抜けたのを確認しドアノブ側に体を移動させナイフを準備した

ドアに耳を澄ますと

「…薬ぃ?頼んでねぇよ!邪魔すんな!」

「ハァハァ…ちょっと…やめないで…アァァァァァ」

足音の気配を感じドアから離れて待ち伏せし護衛の1人がドアを開けた瞬間首の喉仏目掛けてナイフを一刺し

「フギャ!」

男は首に手をやろうとするが名城は一気に動脈の方まで刃を引くと血を吹き出しながら男は倒れた

それと同時に名城がクラブに踏み込むと標的の男はワイシャツ姿で下半身には何もつけず女の方は和服が乱れ豊満な胸が露わにされソファに仰向けの状態で乱れていた

男が気がついたのか

「なんだてめぇは!末次!小島ァ!何やって…」

標的の男が騒ぐ前に鳩尾に右掌底を食らわし左手で首動脈を力いっぱい握り意識を飛ばしとあられもない姿で床に大の字になった

女の方が

「何?何?!何よアンタ…!!」

言い終わる前に正中線の眉間にナイフを力いっぱい突き刺した

女は何も言わずに眉間から血を流し体が痙攣していたので念のためにこめかみからもナイフを刺して刃を捻る

返り血は少なかったので軽く顔を拭き川田に連絡をした


「もしもし、名城です、終わりました」


ーお疲れ様です、今そちらに向かいます、あ!女の方も殺してしまいましたか?ー


「えぇ、標的以外はという話でしたので…」


ー漆原様から今連絡がありまして、女の方も生かせと…ー


もう少し早く言ってくれれば…


「すみません…もう」


ーですよね、私から上手くお伝えします、それではー


川田が来るまでに男を拘束しておこうと思い両手足首にタイラップを巻き口にはガムテーム、女の方には乱れた和服をかけた

そうこうしていると川田がスーツケースを持ちクラブに入ってきて男をスーツケースに入れると

「さ、戻りましょう、さすがハウンドだ」

川田とクラブを出ると黒スーツの男数名が入れ違いで入ってきた

「あの人達は?」

名城が尋ねると

「掃除屋です、死体は明日の今頃には原型崩して一斗缶に入れて海に棄てられます、名城さんが気にすることじゃないですよ」

川田の口調や先程の漆原の伝言やらが気になったが自分は自分の仕事をしたと言い聞かせ車に戻り屋敷へ帰った

屋敷に帰ると川田が

「名城さん、私と一緒に地下の部屋まで行きましょう」


地下室?あるのは知っていたが入ったことは無かった

川田の案内で地下室まで行きドアを開けるとその部屋には出入口の他に2つのドア、数名の人間がいて拘束具のついた椅子が置いてあり椅子の下には排水溝、そして向かい合うように漆原が食事をしながら待っていた

「名城!女も殺しやがって、次からは俺からの連絡を待ってろ。川田!それが例のか?」

「はい」

川田がスーツケースを開けると意識を取り戻していたのか男が唸っていた

「よう、真下ぁ〜久しぶりだなぁ〜」

漆原がニタニタしながら話しかけた

「ウー!ウウー!ウー!ウー!」

「何言ってんだがわからんな、てめぇ俺の金くすねて…バレねぇとでも思ったか!このクソ野郎!川田ぁ!」

川田が男を引き上げると数名の男が真下と呼ばれた男の拘束を解きつつ椅子の拘束具に体を固定させ漆原に一礼してその場を離れた

「名城と川田以外出ていけ、見たきゃ勝手にしろ。名城、そいつのガムテームを剥がせ」

名城が口に貼られていたガムテームを剥がすと男は必死に

「漆原さん!誤解です!本当です!だから…」

「誤解ねぇ…もう裏は取れてんだ、お前いくら俺からつまんだんだ?」

「つまんでなんかないですよ!」

漆原は用意してあった食事に手をつけながら続けた

「お前つまんだだけじゃねぇよな?俺の事を売ったろ?サツの連中に。おい連れてこい」

漆原がそう言うと他のドアから漆原の部下が遺体引きずり乱雑に真下と呼ばれる男の足元に置いた

「…!!和田さん!」

「組織犯罪対策のネズミだろう、こいつから全部聞いてるよ、さて」

漆原が食事をやめ名城に近づいた

「名城?この男に自分が犯した罪の重さを解らせてやれ」


言ってる意味がわからなかった


ー罪の重さ?ー


「申し訳ございません、仰ってる意味が…」

「そうか、わからんか…じゃあ考えるな、俺の言う通りに体を動かせ、いいな?まずはそのナイフで胸当たりから切れ、内蔵は傷つけるなよ」

「漆原さん!すみません!すみません!本当に」

「うるせぇなー!もう遅いわ!」

名城はたじろぐと漆原から催促の怒号が響く

「早くやれ!」

殺す時は一気にやる

今までそんな事した事はないが主の命令だ

仕えると決めた以上実行せねばならない

そう割り切りナイフを右手に持ち男の左手胸部にナイフの刃をあて皮膚下だけを切るようにナイフを入れた

「やめろ!やめ…ギャ!」

肋骨に添いながら刃を入れ右胸部まで達すると肺や心臓を傷つけないよう今度は右胸部から左胸部へ

「やめてくれ、やめてくれ!」


こんな事に意味があるのか


苦しませながら殺す事に何の意味が


考えるな


私は弱い


漆原様に従えばいい


仕事をこなせば褒めてもらえる


自分の存在を認めてもらえる


肋骨ら辺に刃をいれたので今度は腹部だ、男の叫び声を聞かないように左腹部にナイフを入れると男は叫び出した

「ぎゃーーー!」

「名城、いいぞ!そのまま腹や腸を傷つけずに切り裂いてやれ!」

漆原の声がした方向を見ると漆原は笑いながら食事を続けていた


この異様な空間で何が正しいのかもう判断がつかない名城は言われるがまま刃を体に入れた


「ギャ!ウギャ!ギ、ギ、ウーウー!」


内蔵を傷つけず筋膜を切るイメージで刃そわせると血がドクドクと湧いてくる


動脈や静脈、内臓を切る訳ではないので血が吹き出す事はない


また血脂の匂いだ…


一通り切り裂くと漆原が

「そいつの内蔵を引きずりだしてやれ!」

「アガガガ!ヒィーヒィー!やめて!やめてくれ!許して!ゆる」

名城は切り裂いた腹に右手を入れた


気持ち悪い感触だった

麻酔も無し切開の痛みで筋肉が硬直し生暖かい臓物が引き締まりなかなか引っ張れない


ーごめんなさいー


そう心を決め


一気に引き抜いた


「ギャーーーーーーーーー!」


男の叫び声が響くと腸が引き摺りだされ椅子の下は流れ出た血液で血の海になった


「これで腹を割って俺と話せるだろう?真下ぁ?」

ニタニタしながら肉を頬張る姿は異様だった

「てめぇの腹ちゃんと見られねぇか?そうかそうか…名城ちゃんと見えるように目ん玉くり抜いて近づけてやれ」


ーは?ー


ー何を言ってるからさっぱりわからないー


「何ぼさっとしてんだ!さっさとやれ!」


太ももに装着していたクナイに持ち替え左眼球に刃を近づけると男はみを瞑り必死で抵抗した

「お前らイカれてる!やめ、やめて!や…」

瞑った左まぶたを抑え眼球にクナイを刺すと叫び声が1層大きくなった

眼球は常人が思う程柔らかくないがクナイの刃だと損傷すると感覚でわかったので指を入れてそのままくり抜くと視神経は繋がったままなので眼球が垂れ下がった

「これでよく見えるだろぅ?真下ぁ?」


「フギャ、ウグァ、ハァハァ、クゥ…」

「何言ってるかわかんねぇよ、ちゃんと喋ってくれねぇとなぁ!」


パァン!


漆原がいつも持ち歩いてる旧式の拳銃を構え男の切り裂かれた腹部を撃った

着弾と同時に男の体が少し跳ねたがもう叫ぶ気力すら残ってなかったのだろう


ーこんな事に意味があるの?ー


男は名城を懇願するように見つめた


ーもう殺してくれ、楽にしてくれー


そう聞こえた気がしたので首動脈めがけてクナイを差し込み力任せに掻っ切った


おびただしい返り血が吹き出したがすぐに止まると男は臓物を引きずり出された肉塊変わり果てた

すると物凄い剣幕で漆原が名城に近づき右平手が名城をとらえる

バチン!

「誰が殺せと言った!」

名城が睨み返すと川田が拳銃を名城に向けドアから掃除屋と思わしき人間たちが銃を構えながら入ってきた

「いいか?名城?こいつは悪さをしたんだ、悪さをした人間は相応の報いを受けにゃならん、救いはその先だ。簡単に罪を受け入れ救いを求めもなんの意味もないんだ、お前は何も間違えてない、いいな?これからは俺の言う通りにやるんだぞ?お前は優秀な俺の自慢のメイドだ。わかったな?」


思考力も停止し呆然としていたせいかその言葉を何も疑わず黙って受け入れ頷くと漆原は安堵の表情を浮かべ

「今日の事を忘れずに今後もよろしく頼むぞ」

名城は呆然と立ち上がりフラフラしながら地下室を出ていこうした時よろけて転びそうになると川田が名城に肩を貸し小声で耳打ちをした

「あそこで逆らわなかったのは懸命です、よく耐えられました。さっ、シャワー室に行きましょう、足元気をつけて」


川田に肩を組まれ名城は呆然しながら部屋を後にした



















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