その花の名は…

乾杯野郎

第1話

「お待たせしました、ジンジャーブレットラテの熱めホイップ少なめ、シナモン多めにニューヨークチーズケーキでございます」

寒いこの時期だが半袖の白いポロシャツで真ん中に店のロゴが入った緑のエプロンを着けた店員がトレーを手渡した


「ありがとうございます」


商品がのったトレーを受け取るとシナモンの香りがツーンと鼻に抜ける


ーこれこれ、いい香りー


シナモンの香りを楽しみながらチーズケーキにも目をやると名城はワクワクを隠せない


ーホテルのスィーツもいいけどこの季節限定の飲み物だけはここじゃないとねー


「いただきまーす」


両手を合わせ小声でそういいまずは吐息で冷ましながら飲み物から口をつけた


「熱ッ!冷ましたけどなぁ」

掛けているメガネが一瞬で曇った



雪が降る12月の空

街は赤と白のマリアージュに包まれ恋人や家族連れ達の幸せが溢れていて皆各々に笑い合いながらコーヒーショップのウィンドウを通り過ぎて行った

通りを眺めながら


ーあぁいう生き方…私にもあったかなー


普通に産まれ親元で育ち学校へ行き成績や流行り物の話で盛り上がり、惚れた腫れたの恋バナをして一喜一憂、大学あたりで本気の失恋をして「もう一生恋なんてしない」と誓うが就職して出会い付き合っていた恋人からのプロポーズを受け両親の涙の結婚式、そして家族になり子を産み、子の成長に頭を悩ませながらパートナーと老いていく…


そんな事を妄想したがすぐにやめた


自分には一生縁のない話、そもそも私は家族を知らない…それに…


半分は蔑みで半分は自己嫌悪の感情を熱い飲み物で押し込むと熱い飲み物のせいなのか強烈な自己嫌悪なのか胸が熱くなった

綺麗な銀髪をひとつに束ね細めの黒縁メガネ、デニムにロングブーツ、白いシャツに首元には青いストールで黒いロングコートを着た女の名前は

「名城 椿」

Peace Cpの護衛兼世話係、通称「ハウンド」


ー松田 啓介に手を出すな、横にいる最強の猟犬に噛みつかれたら失う物は自信、見返りは完膚なき敗北感ー


裏の世界ではこう口を揃える輩もいる程の凄腕メイドだ


ー普通ってそもそも何?分からない、私にとっての…ー


そんな事を思いながら窓にチラつく雪を見て物思いにふけていると端末がなった

画面には


「弟村 史」


Peace Cpの同僚で一応名城は先輩に当たるが同じ苦労をする仲間として名城が信用している数少ない人間


耳にイヤホンをつけ電話に出る


「もしもし、どうしました?」


ーお疲れ様です!お休みの所すみません、会食も終わりホテルに戻るのですがGPSで社長が椿さん見つけたので拾えってー


「大丈夫ですよ、雪を見ながら帰りますから」


ーえ?あぁもう!うるさいな!すみません、スピーカーにー


弟村との会話の後ろで問題児が騒いでいた


ーねー!寒いよ!椿ちゃん!一緒に帰ろう?近くだしさー!ー


ー話に割り込まないでくださいよ!こうなったら名城さん拾うまで帰らないと言いそうなのでとりあえず近いところに車停めます、それではー


…もう…はぁ…だったらテイクアウトにしたのに…まぁいいか待たせれば


気を取り直してチーズケーキにフォークを入れた、ニューヨークチーズケーキなので少々硬めのケーキ

大きめにフォークで切り分け口に頬張ると甘めに作られたのかチーズケーキにしては少し名城には口に合わなかった


ーこれはハズレだったな…まぁこの価格ならー


飲み物もまだ半分程残っていたが少しだけ残したケーキと一生にトレー下げ位置に置き


「ご馳走です」


「はーいありがとうございましたー!」


のやり取りをし店の外へ出てスマホでクルマの位置を確認

渋原の交差点は大賑わいだ

昼前に出かける時は雪予報でなかったので傘は持っていない


ーこれくらいならいいかー


雪に当たったくらいで死ぬわけじゃない


信号のタイミングが悪く人混みで足止めをくらったので傘もささずに信号待ちしていると


「おねーさん、傘無いの?」

いかにも軽薄そうな若い男が傘を差し出して名城に話しかけた

「ちょっと、無視しないでよ、おねーさんが綺麗だから声掛けちゃったよ、もうどこかの店にもういる?稼げてる?良かったら暖かい所でなんか飲みながら仕事の話しない?」

スカウトだった


ーはぁ…早く信号変わってくれないかなー


こんな輩と口をきくのも嫌だった


「ご心配なく、もうお手当ては充分過ぎる程頂ける仕事をしてますので」

「そんな事言わないでさー話だけでもね?ね?」

「結構です!」

「いーじゃんいーじゃん、てかこんな綺麗おねーさんとはもう会えない気がするからこのままご飯行こうよ!」


ーどこまでポジティブなんだ…ー


信号が変わり人混みをかき分け駅に向かって歩いていると男も後をつけてきた


「もうやめてください」

「そんな事いわないでさーお願いよー」


名城の我慢が限界に近づいた瞬間

人混みの中で斜め横から大きめの傘を差し出した男がいた


「ごめんね、1人にさしちゃって。でもだからってどこかに行かないでよ〜」


白いスニーカーに細めのデニム、ワンポイントペイントのグレーのパーカーにダウンジャケットで黒いハット、大きめのミラーレンズグラス、ハイブランド時計をした男がスカウトと名城の間に入った


「んだよ、男連れかよ」

「君にはこの人に相応しくないよ、ほらアッチ行って、シッシッ」

男が手でスカウトをはらうと腹を立てたのか


「なんだお前?ケンカ売ってんのか?」

「万に1つも君が勝てる要素ゼロだよ?そんな相手に喧嘩なんて売るの無駄無駄、ほらさっさと椿ちゃんから離れてよ」

「はぁ?訳分かんねー事言いやがって」

スカウトが傘を持つ男の胸ぐらを掴むと

瞬時にその手を名城が掴み腕を背中に回して拘束

「イテテ!痛てぇよ!なんだよ」

「ほらー君が痛い目にあうから忠告したのに、その辺にしてあげて、椿ちゃん」

男の言葉で名城はスカウトの拘束を解いた

「なんだよ、お前ら…クソ!」

そう言い残しスカウトはまた元の人混みに戻って行った


「もう少し手加減してもよくない?」

「私ああいう男大っ嫌いなので」

「だとしてもさぁ…まぁいいか。寒いからクルマ行こう、ほら」

そう言い男は自分の持っていた傘の面積をほとんど名城の上に、自分の肩には少し雪が着き始めていた

「社長?雪が…」

「いいのいいの、椿ちゃん風邪ひいちゃうよ」


社長と呼ばれた男が雇い主だが悩みの種の問題児「松田 啓介」


「こうやってると付き合ってるみたいだね〜このまま僕とそういう関係になるぅ?」

「女性にモテないからって手近な女に手を出すと火傷じゃすみませんよ?」

「つれないなぁ…」

そんな会話をしながら人混みをかき分けクルマへ向かうと

「そうかーもうクリスマスか…」

「ですね、私には関係ないですがこのクリスマスカラー私は好きです」

「クリスマスってみんな何するのかな?」

「さぁ?私も分かりかねます」

「今年は…3人でパーティーでもしようか」

「はぁ?別にいいじゃないですか」

「しばらくオフだしさいいじゃんいいじゃん、あ!僕から椿ちゃんと弟村君に何か用意しないとなぁ」

「どうせ忘れるんでしょ?社長は」

「あ!バカにして、ちゃんと用意しますよーだ」

他愛もない話をして降り注ぐ雪に当たりながら歩いていると乗ってきたアウディA8を見つけ松田が後部座席のドアを開け名城をエスコート、傘を閉じ松田も続いて乗り込むと運転手が声をかけた

「寒かったでしょう?名城さん」

そう声を掛けたのは運転手兼護衛の「弟村 史」

松田と違いグレーのストライブの入ったスーツにカッチリ身を包み大きめの黒いサングラスをしていた

「大丈夫です、雪なんて久しぶりだから少し魅入ってたくらいですから」

「君ね?運転手なんだからエスコートするのは君の役目じゃない?!」

名城と弟村の会話に問題児が割り込む

「シートヒーターもつけておいたから座席温かいと思いますが…」

「ありがとう、弟村さん温かいわ」

「良かった、ベルトしました?じゃあクルマ出しますね」

シフトをDに入れPボタンを解除、右のミラーを確認しながらウィンカーを出して車の流れに乗る

「2人ともさ?僕の事見えてる?」

「えぇ」「はい」

「なんか無いわけ?僕に?特に君だよ!運転手!」

「は?何かしました?」

「だから!本来は君が…」

「そうだ、名城さん、夕飯食べました?」

「まだです、どうしようかな?と思ってたんですよ、でもおふたりはもう会食済ませたんですよね?」

「ただの懐石料理ですから、俺全然足りないんですよ。社長まだ入るでしょ?3人で食べましょうよ」

「そろそろ本気で怒ろうかな…この!プロテイン男!最近彼女ができたからっていい気になって!」

「ゴホンッ!なんで知ってるんです!」

不意をつかれ弟村はむせた

「バレバレだよねー椿ちゃん」

「フフッ…ですね、最近こまめにスマホをチェックしてる事が増えましたし1人で出かける時やたら気合い入ってましたもん」

名城も笑ながら答えた

「名城さんにもバレてたのか、尾行とかやめてくださいよ!本気で俺も怒りますからね!」

「ねーねーどんな人?てかさ…こんな筋肉マニアの融通効かない気も利かない女心も分からない男で暇さえあれば「俺プロテイン飲むんで」とか言ってたまに目の周り汚い男のどこを好きになったのかなー?」

「はいはい、自分がモテない独身だからって僻まないでくだちゃいねー」

「はぁぁぁ?何コイツ!生意気だなー!」

「ごめんなさいねぇ…独身貴族に何言われても悔しくないでちゅー」

弟村も負けずに煽りかえすと名城が大きなため息をついた

「はぁーーーーー…2人ともいい加減にそのへんで…騒がしいのは好きじゃのでお2人共降りて外でやってください」

「はい、すみません…」

「フン!僕は謝らないからね!」

そう松田が不貞腐れて窓側に寄りかかり眠る体勢になった

「弟村さんは何を食べたいです?」

「そうですね〜これだけ寒いと…鍋なんていいですね」

弟村の返答に松田が小声で

「…ふん!鍋だって!鍋なんてどうやって食うんだろうねぇ、あ!プロテインで顎鍛えてるからかな…」

ミラー越に弟村が松田に目をやり

「聞こえてますよ〜独身非モテ社長様」

「聞こえるように言ってるよ〜脳筋無神経」

「はいはいはい、でも今からじゃ無理ですよね…お店も予約が…」

「いやいや名城さん、俺の思いつきだから気にしないでください」

松田が何やらスマホで調べだしてその画面を名城に見せた

「ご自分でお伝えすればよいでしょう?」

「2人で食べてきな、なんか今日この筋トレマニア感じ悪くてムカつくから嫌、一緒の卓とかに座るのもイラッとする」

名城はやれやれと言った感じで後部座席から身を乗り出し車のナビを操作した

弟村も言い返したかったのだがこれ以上は自重しよう思い場が悪そうに運転を続け

「ここ浅松町のガード下かな?」

「社長?ここ何なんです?」

「…グゥースピー…」

「もう寝たフリなんてしなくても…」

「ウーン…むにゃ…行けば…分かるよぅ…グゥ〜店のオッサンに…スピー…何を聞かれても「意味は「完璧な美しさ」「至上の愛らしさ」「申し分のない魅力」て言えばいいから…むにゃむにゃ…ぐぅ…」

「ですって」

「相変わらず意味不明な…とりあえず向かいますわ」

渋原から六松原に向かう車線に変え大学を過ぎると雪のせいか少し道は混んでいた

「今日の会食はどうでした?」

「至って普通にしてましたよ、ふざけた態度もしてなかったです」

「良かった…警察関係の方々との会食ですし心配だったのですが…」

「まぁ…次期警察採用拳銃のデータ、押収品拳銃の処理の請負の話以外は日常会話程度でしたし。しかし意外ですね、押収品の廃棄までウチがやるとは…登記もして全うに商売している会社名義とはいえ本業の事も知っててウチに投げるとは」

「以前警察内部で押収品を売り渡してる人間がいてその人を社長がリークした見返りらしいですよ、その事を駆け引きにしてたみたいです。それに国防省にも顔がきく社長とツテを作っておけば後々…って事もあるんじゃないかと」

「警察と国防省は水と油ですからね」

そう言い終わると弟村はルームミラー越しに松田の顔を見てまた正面に目をやった

「しかしまぁ…不思議な人ですね、俺も入社して結構経ちますが行動に整合性が無いのでついて行くのに…ね」

「ですよね、私ももう長いですがコロコロ変わりますから未だに戸惑いますもん、でもこの方は決して悪い方ではありません、むしろ…」

「分かってますよ、か…社長は皮肉屋で天邪鬼ですが良い方です、それは俺も保証します、あ!この辺りですね」

弟村の一言に名城が窓の外を見るとガード下に今は珍しい屋台が出ていた

「ここの…事ですかね…?」

「…えぇ…屋台?社長〜着きましたよ、ここですか?」

「グゥ…グゥ…むにゃ…」

「本当に寝てる、とりあえずそこのパーキングに車停めましょう」

弟村がすぐ近くのコインパーキングに入り出入口近くにクルマを停めた

「雪まだ降ってますね、傘いります?」

「大丈夫ですよ、ありがとうございます」

「社長?俺たち行っちゃいますよ?」

松田からは相変わらず寝息しか聞こえない

「屋台からクルマが見えますし人通りも無いので寒いからエンジンだけかけときましょ、あ、弟村さんトランク開けてもらって良いですか?」

「今開けますね」

弟村がトランクを開けると名城がクルマから降りトランクから薄手のブランケットを用意し後部座席の松田の身体にかけた

「やっぱり名城さんは優しいですね」

「そんな事ないです、風邪でもひいたりしたら面倒なだけですから、さ、行ってみましょう」

そういい2人は屋台に歩いて向かい暖簾を弟村がくぐると仏頂面のオヤジがタバコを吸っていた

「すみません…2人なんですが…」

名城が尋ねると

「うちは一見さんはお断りなんだ、今日は…」

「意味は「完璧な美しさ」「至上の愛らしさ」「申し分のない魅力」です」

弟村がそう伝えると

「なんだ、あのくそ生意気野郎の連れかい、いいよ。座んな」

何やら松田のことを知っている様子でどこかに電話をしだした

「おう、俺だ。誰も近づけさせるなよ」

そう言い電話を切った、すると暗がりからホームレスと思わしき人物か数名でてきて屋台の周りを監視する動きをした

「あの…ここのお店は…」

名城が店主に尋ねると

「見ての通り行き場のない連中を面倒みてるだけだ、これで誰も寄り付かん。これで誰にも気兼ねなくできるだろう」

「仮にアンタの言う通りだとしてもアンタを信用する理由にならないな」

弟村が反論すると

「なら帰れ、あのクソ生意気野郎の紹介でもそんな口を効くヤツに俺は遠慮せん」

そう言うと同時に店のオヤジは机の下に隠してあった大口径のリボルバーを弟村に構えるとそれに応じるように弟村は腰のG17名城は黒い刃のクナイを構え戦闘態勢に入る

すると周りにいたホームレス風の男達も弟村、名城に銃を向けた

「…なんだこの屋台…」

弟村が難色を示した時、名城はクナイをホームレス風の男に投げ命中させ足元にあった丸い小型の椅子を蹴り上げそのまま力まかせに椅子を蹴りもう1人の顔面に当てた、驚いてる屋台の店主に弟村が手を伸ばしアタマを机に叩きつけて拳銃を頭に突きつけた

「強いんだな…」

「俺の同僚は強ぇんだ、名城さんこっちは抑えた」

「銃の向ける相手を選ぶのね、これからは、さぁ、貴方達が手を出すとこの男の頭に穴が開くわ」

ホームレス風の男たちがたじろいでいると屋台の店主の携帯が鳴った

「出ていいか」

「状況考えろよ、てめぇ!」

弟村が頭に銃を突きつけたまま店主の携帯を抜き表示を見ると


「松田」


と表示されていた

「名城さん、社長からですよ」

弟村が名城に携帯を投げ名城が電話に出た


ーあんまりいじめないであげてよー


「もぅ!どういう関係なんです?この方と」


ーんーまぁいいか、そこの人はざっくり言うと派遣会社の元締めみたいな人なんだ、例えば…どこにでも潜れる奴とか…ハッカーの紹介とかね、僕も稀に依頼を受けるんだけど頭が硬いおっさんでね顔を見て取り引きするタイプでその屋台はそのやり取りをする所なの、でもね?そこのおでんめちゃくちゃ美味いんだ。絶品だよ、じゃあ僕はまた寝るから、おやすみ〜


「もう、一方的なんだから…弟村さん離しても大丈夫そうですよ。社長の知り合いみたい」

「社長の?!」

「分かっただろ?離してくれ、悪かったよ…あのクソ生意気松田の知り合いって事で少し試しただけだ」

弟村が名城に目で合図すると名城が黙って頷き弟村が拘束を解いた

「しかし…ハウンドと呼ばれるだけあるな、お嬢さん、そっちの運転手さんの噂も耳にしてる、2人ともあんな小生意気な野郎の所辞めてウチで働かないか?」

「…お断りします」

「仏頂面の上司なんてごめんだね」

店主は場が悪そうに後頭部を書きながら支度をしだした

「こっちが先に手を出したからさっきの奴の事は気にせんでくれ、無礼を謝る。さ!好きなもん言ってくれ、さぁ座った座った」

店主が先程とは打って変わって2人を席に案内した

「…じゃあお邪魔しますか、名城さんそっち雪大丈夫です?」

「大丈夫ですよ、あり…」

名城の端末にまた松田から着信が入った

「もぅ!そんなに気にされるなら社長も来れば…」


ーだから!そこのプロテイン馬鹿が嫌な感じだからヤダ!あとその脳筋無神経に伝えておいて!ー


「はぁ…もう面倒臭いな、なんです?」


ー「ト・ク・ベ・ツに、特別に!帰りは僕が運転するから好きに酒飲んでいいよ」って伝えておいてね!ついでにアルコールで頭ん中も消毒してこい!っー


「はいはい、わかりました。お伝えしますね」


ーあ!椿ちゃんもなんか…ー


名城は松田が言い終わる前に端末を切った

「社長なんと言ってました?」

「弟村さんに帰りは僕が運転するから好きにお酒どうぞって」

「え?流石にマズイですよ…運転が俺の仕事だし…俺が電話しても出ないから名城さん…」

「もぅ、2人してめんどくさい!私はメッセンジャーじゃ無いんです、ご自分で電話してください!」

「…すみません」

弟村は謝りスマホを出して松田に電話をしたが呼び出し音が数回鳴り切られた

「あ!切りやがった!ホント!ガキみてぇ…」

弟村がスマホをしまおうとした時短い通知が入りメッセージを見ると


ーいちいちうるさい!脳筋無神経男!僕がいいって言ってんだ!これは命令!アルコールで色々洗ってこい!ー


「あぁぁもう!なんで素直に言えないかな!もう知らねぇからな!」

弟村は憤慨しながら座りそれを見ながらヤレヤレと言った感じで名城も

「もう飲んでやる!とりあえず熱燗ください!名城さんは?」

「私は…弟村さんと同じのでお願いします」

そう言うと店主がおでん鍋の区切ってある所から酒を出し徳利に移してお猪口と一緒に渡してきた

「はいよ、好き嫌いないなら適当に見繕うか?」

「俺は…それで大丈夫です」

「私は…玉子があまり好きではないのでそれ以外なら」

「あいよ」

店主は手早く大根、はんぺん、こんにゃくを取り分け弟村の皿には玉子、名城にはトマトを入れて2枚の皿に辛子をつけて渡した

「わぁ、いい香り、いただきます」

「美味そうっすね!いただききます」

弟村は玉子から名城ははんぺんから箸をつけて少し辛子をつけて吐息で冷まし口に入れた

熱かったのか2人して口をハフハフしながら飲み込んだ

「うんま!てか出汁が凄い!」

「ホント!このお出汁が美味しい」

店主はしてやったりの顔をして

「美味いだろう、あのバカがレシピ教えろって言うけど教えないからな」

「聞きませんて、ホント美味しい」

「まぁ名城さん、1杯」

「ありがとう弟村さん」

弟村が名城のお猪口に酒を注ぐと名城も徳利を掴もうとするが

「いいっすいいっす、俺後輩ですしそれに手酌が好きなんですよ」

そういい自身のお猪口に酒を注ぐと

「じゃあ乾杯」

「弟村さんお疲れ様」

そう言い2人で酒を飲んだ

「うわ!なにこれ!美味しい」

「くぅ〜これ出汁に合いますねぇ、屋台で飲むなんて久しぶりです。そういえば名城さんと社長が初めて会ったのも屋台ですよね?」

「えぇ台湾で焼きそば作ってました」

「アハハ!なんで焼きそばなんでしょう、いつ聞いても笑える!」

「でしょ?しかも結構繁盛してたのか「もう今日分終わったからごめんねー」とか言ってましまよ」

「何その人気店オーラ」

弟村はこんにゃくを名城はトマトに箸をつけてまた酒を口に入れる

「そういえば…名城さんは遺言だったんですよね?社長に仕える理由は。先代の方ってどんな方だったんです?」

「……」

「あ、いいんすよ!なんかすみません!こういうところ治さないと…」

名城はお猪口を空にして手酌で注ぎ一気に飲み干した

「熱くないです?大丈夫です?」

名城は目を瞑り口を開いた


「この話は…社長にもした事ないです、でも…いつかはお2人にはお話すべきだと思ってました」

「えぇ?社長も知らないんですか?」

「人の昔話に興味があるように見えます?私が話そうとするといつものらりくらり聞かないようにしてましたよ」

「まぁそうですよね〜」

弟村も酒ををあけ徳利から注いだ

「夜は長いんです、俺で良ければ聞きますよ」

「…初めて先代にお会いしたのは…土砂降りの雨の日でした…」


名城はそう言いながら屋台の外を見ると先程までの雪はみぞれに変わり時折雨粒も混じるようになっていた…



























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る